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3:教師藍苑の策略

 体育館での事件が解決し、生徒達は自分達のクラスへと戻っていった。

 負傷者は0、山城が右手に名誉ある負傷を負った程度で済んだ事は不幸中の幸いだった。

 しかし、暴走したボールが館内の至る所を破損させてしまい第一体育館は修復の為に暫く使用禁止となる。


 そして昼休みとなった。


「まさか、お前等も霊能者だったとはなぁ?」


 吉原は賭けで負けた神楽坂が死に物狂いで手に入れたカツサンドを一口食べた。

 ここはC校舎屋上で神楽坂達三人は良く此処で昼食を取っている。


「た、大した事じゃねぇさ。ただ少し他の奴より強いだけだ・・・・・・。」


「・・・・・大丈夫か、光志。」


 カツパン争奪戦で力尽きた神楽坂はコンクリートの地面に直接横になっていた。


 「霊能力」

 全ての「魂」を持つ生物が使う事ができる特殊な力の事である。

 が、この力は誰もが使える訳では無く「魂の覚醒」が必要となり、それは先天的であったり精神修行による後天的習得、又は重傷を負った事による覚醒等と霊能に目覚める条件は少ない。


 そして先程体育館に現れた陽炎は一般的に「悪霊」と呼ばれる霊だ。


 この世界は悪霊、妖怪と言った類は有史以来存在し、死しても霊となり現世に害を与える事は珍しくは無い。

 だが、全ての人間が死んだ後に悪霊と化す訳では無く、生前に強い恨みを抱いていたり、不慮の事故などで命を落し自分が死んだ事が分からない又は認めたく無い、と言った理由を持つ者が死霊となり現世に現れる。

 悪霊にも様々な種類が存在し、恨みを持った霊を「怨霊」

 自分が死んだ事が分からなかったり認めたく無い霊を「自縛霊」「浮遊霊」と呼ばれる。

 特に霊は人が沢山集まる所に惹かれて集まる習性があり、学校等で幽霊が出るといった事は良くある事なのである。


「ふーん、霊能力かぁ俺も欲しかったなぁ」


「・・・・あったらあったで結構面倒なんだぜ?」


 ようやく落ち着いた神楽坂は体を起こしてジュースを手に取った。


「そうなのか?」


「考えてみろよ、霊感があるって事は毎日グロいモンを見させられるんだぞ?」


「た、例えば?」


 吉原は生唾を飲んだ。


「駅なんかに行くと電車に轢かれた人間の・・・・。」


「ぶっ!!?

 こ、光志もう十分だ、それ以上喋るなっ!」


 吉原は思わずコーヒー牛乳を噴出し、顔を引きつらせながら神楽坂を止めた。

 神楽坂は怖がらせる為にワザと話を大きくしていた。

 地縛霊になったいうなら別だが、魂の姿である霊が電車に轢かれた姿のまま現れるケースは少なく、又、霊能者自身も力のコントロールをする事ができ、必要外の情報(悪霊等)を意識的に見ないようにする事が可能である。


「と、所でよ光志、お前あの藍苑先生に呼び出されたんだって?」


「あ、ああ。放課後、科学室に来いってよ。」


 体育館から戻った後、神楽坂は教師藍苑に呼び出されていた。

 呼び出された理由は聞かされておらず、また神楽坂自身も身に覚えはない。


「ちくしょ~羨ましいなぁおい!」


 何故か羨ましがる吉原だが、神楽坂は嫌な予感がしていた。




 その頃、3年1組と表示された教室では、ある女子生徒が昼食を取っていた。

 教卓の前の席に座っている彼女は、先程体育館で陽炎と対峙していたあの女子生徒だった。


 彼女は力を落とした様子で学食で購入したパンを口にしていた。


「・・・・・はぁ、やっぱり私戦いは向いてないのかな・・・。」


 事件後、保健室で目を覚ました彼女は気絶していた間の事を聞かされ、悪霊を倒す所か全く歯が立たなかった事に落ち込んでいたのだった。


 彼女の名前は「天河摩琴てんかわまこと

 学園が確認できている数少ない霊能力者で、彼女が実質この学園を守っていた。

 と、いっても霊障自体がここ数年殆どなく、大々的な活動をしていた訳ではなかった。

 容姿や性格等は、先程体育館で吉原が発狂したかのように叫んでいた通りである。



(・・・・・やっぱりお父さん見たいにはなれないのかなぁ・・・・)


 消極的な考えがグルグルと彼女の頭を周り、思わず溜息が漏れた。


「おやおや?恋のお悩みですかな?」


 その一部始終を見ていたのか、廊下から赤毛の女子生徒が彼女の元にやってきて教壇に腰を降ろした。


「あ、志穂さん・・・・そ、そんな悩みじゃないですよっ!」


 天河は慌てて否定した。

 彼女の名前は「長沢志穂ながさわしほ

 天河と同じく3年でクラスは2組だ。

 二人は1年からの知り合いで、学生寮も同じルームメイトである。

 性格は軽いが六学の女帝として有名であり、また天河と人気を二分する程だったりする。

 趣味は占いだが、その的中率は趣味の範疇を超えていたりと生徒だけでなく教師達からも一目置かれている存在である。


「お姉さんに言ってごらんなさいよ~・・・ん~?」


 長沢はニヤニヤしながら彼女の方に腕を回して顔を近づけた。

 因みに真相は定かではないが、長沢は何故か中学で留年し実際には天河よりも一つ年上だったりする。


「ちょ、ちょっと志穂さん!?他の人も見てるからっ!?」


「くっくくく。毎度毎度面白いリアクションだねぇ~♪」


 焦りまくる天河を笑いながら解放してやり、また教壇に腰を降ろした。


「・・・・で、悪霊を倒せなかったから落ち込んでるって訳?」


 長沢の言葉に天河は図星を付かれ、ハッとした。

 それを見た長沢はまた笑う。


「お姉さん情報は早いからねぇ~、まぁ気にする事はないんじゃない?」


「気にしますよ!今度こそ一人で・・・・・。」


「ふ~ん、気張るのはいいけど怪我したら元も子もないよ摩琴っちゃん?」


 天河がここまで頑張る理由、それは長沢だけが知っている。

 だからこそ先輩として後輩である彼女を一番心配していた。



「護られるってのも悪くはないもんよ?」


「え?志穂さん今なんて?」


 長沢の声は小さく、天河は聞き取る事ができなかった。

 もう一度と聞き返したが彼女は何の事と知らない振りをする。


「ま、それは置いといて。藍苑センセが摩琴っちゃんに用があるって言ってたわよ?」


「藍苑先生が?」


 天河を元気付ける事もそうだが、長沢が訪れた理由はこの事を伝える為だった。


「体育館での件で何か話しがあるみたいねぇ、まだ昼休み時間あるし行ってみたらどう?」


「う、うん。丁度ご飯も食べ終えたし行ってみるね。」


「行ってらっしゃ~い☆」


 長沢は手をヒラヒラさせて天河を見送った後、近くで昼食を取っている男子生徒を見た。

 彼女の視線に気付いた男子生徒は嫌な予感がした。


「あ~ら、良いミートボールね☆」


「あぁ~最後にとっておいたのが・・・・・。」


 等と言いながら男子生徒の弁当からおかずをつまみ食いする長沢だった。




 そして放課後。


「冗談じゃねぇっ!」


 科学室と表示された特別教室から神楽坂の怒号が聞こえ、廊下を歩いていた生徒は思わず教室を見た。

 続けて女性の声が聞こえてきた。


「あら?冗談じゃないわよ神楽坂君。貴方なんでもあの天河さんが除霊できなかった悪霊をたった一撃で葬ったそうじゃない?」


「そ、それは・・・だからって何で俺が『除霊委員会』に入らないけないんスか藍苑先生っ!」


 神楽坂と会話している女性教師は「藍苑涼子あいぞのりょうこ

 科学担当、露出が高い服の上から白衣を着ており男子生徒に人気が高い教師で、吉原が羨ましがっていた理由もこれである。


 放課後、呼び出された神楽坂は新しく設立する「除霊委員会」に入るように言われていた。

 除霊委員会は文字通り悪霊や妖怪から学園を守る事を主とする組織で、生徒会下に位置するも独自の権限を持つ為「除霊部」とも呼ばれている。


 委員会に入れば学園に拘束されると同意義になり、帰宅部からそうなれば不満が出て当然だ。

 しかし神楽坂は別の理由から反発していた。


「第一、学園に除霊委員会なんて無いじゃないスか!」


「神楽坂君、先生の話ちゃんと聞いてた?これから作るの。」


 藍苑の言う通り、学園は長い間心霊現象等といった現象は起っておらず、除霊組織も存在していなかった。

 なので今回起った事件が実質初めて学園で発生した心霊現象となり、体育館の被害を考えて除霊委員会の設立が急がれたのである。


「それと委員会だけど、一応権限があるから「除霊部」ね。まぁどっちでもいいけど神楽坂君?君には拒否権なんてものは存在しないのよ?」


 反発されると予想していた藍苑は机から5組の単位表を取り出してパラパラとページを捲った。


「神楽坂君、貴方科学の単位相当ヤバイって知ってた?」 


「!?」


 神楽坂は一瞬、体を硬直させた。

 このタイミングで単位の話を切り出してくるという事は・・・・・。

 凄まじく嫌な予感、いや間違いない。


「きょ、脅迫だ・・・・・・。」


「あら、脅迫だなんて随分な言い方ね。いいのかしら?このままいけば追試は確実。結果次第では進級すらできなくなるわ、長緒君と一緒に4年生になれないわよ?」


 最早、神楽坂には選択肢は無かった。

 まだ3年に進級したばかりで現時点で次の進級に影響する事は無いかもしれない、しかし過去2年間の成績を振り返ると神楽坂は何も言い返せなかった。


「・・・・・今年はちゃんと勉強しよう。とか思わないのね。」


 苦笑う藍苑だった。



「はぁ。確かに留年だけは御免だしな・・・・・・分かりましたよ。」


 選択の余地が無い神楽坂は大きな溜息を付いて承知した。


「そう、助かるわ。」


 藍苑はにっこりと笑うが、その目は笑っていない。

 まだ目的があった彼女は科学室を後にしようとしていた神楽坂に畳み掛けるように言った。


「あ、それと長緒君も誘っといてね!」


 神楽坂が反応する前に単位表を見せた。

 

「・・・・・・お、鬼だろ・・・・・。」


 単位を盾にされては神楽坂にはどうする事も出来ず、またこのタイミングで仕掛けて来たという事は、初めから長緒も除霊委員会に入れるつもりだったな、と苦笑いながら科学室を後にするのだった。



 かくして、神楽坂は半ば強引に除霊委員会へと入られてしまった。

 長い沈黙を破り現れた悪霊、そして一瞬感じた「謎の力」神楽坂と長緒は六愿学園を取り巻く巨大な渦に巻き込まれていくのだった。


 


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