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41:分岐点


 A校舎玄関に辿り着いた天河と上村。

 この校舎には1階に事務室や学長室、会議室等が集まる学園の玄関に当たる。

 立派な造りの入り口だが、そこに子スライムが3体へばりついていた。

 天河は直ぐに神楽坂から渡された霊銃の銃口を向ける。


「ちょっと待った先輩!」


 引き金を引こうとしていた天河を止める。


「な、なに?」


「そ、そりゃさっさと倒す事に越した事はないと思うけど、スライム諸共校舎ぶっ壊すつもり?」


「・・・・・あ。」


 天河も気づいたのか直ぐに銃口を下ろした。

 子スライムを倒す事は出来るが、威力が有り過ぎてレンガ造りの校舎を壊してしまう可能性が高い。

 校舎を壊しては本末転倒だ。

 上村はここは自分に任せるように言った。


「あの大きさなら俺の攻撃でもいけそうだよ・・・・!」


 子スライムの「核」は静止しているので狙う事は容易だ。

 上村は精神を集中させ霊気を両手両足に集める。


「・・・・・サマーソルトキックってね!」


 柱の上方にいる1体に狙いを付ける。

 右足を勢い良く柱に掛けて左足で子スライムを蹴り弾いた。

 霊気を帯びた左足に蹴り飛ばされた子スライムは空中で水と化して地面へと落下する。

 これで残り2体だ。


「ま、こんなモンかな?」


「上村君凄い・・・この調子で後2体ね!」


「お任せを!」


 上村は右腕で力こぶを作って調子良く応えた。






「な、長緒先輩!あ、あれは一体・・・・・!」


 海羽は片手で雷獣を抱きつつ、震える手で巨大スライムを指差した。


「・・・・ここには居ないようだな。海羽、この周囲は危険だ直ぐに除霊委員棟に避難するんだ。」


 長緒は震える彼女の肩に手を置き落ち着かせる。

 今、居る中央広場から除霊委員会棟までは眼と鼻の先だ。


「せ、先輩は一人なんですか?他の先輩達は・・・・?」


「俺なら大丈夫だ、問題ない。それより早く避難した方がいい。」


「わ、分かりました・・・・!」


 海羽は返事をし、雷獣が雨に濡れないようにしながら除霊委員会棟へ移動する。

 彼女が無事に委員会棟へ入った事を確認し、長緒もB校舎へ急いだ。





「うぉおおらぁ!!」


 校舎C近辺で篠崎の声が響き、子スライムを数体「核」ごと斬り裂いた。


「・・・・・・これで4体目か。」


 フとグラウンドの巨大スライムを見た。

 同時に自分が言った言葉を思い出し思わず頭を掻いた。


「・・・・・・やっぱ習得するべきなんだろなぁ

 けどあれ集中が難しすぎて頭がムズムズすんだよな・・・・。」


 あれとは「龍迅駆」の事だろう。

 篠崎は使えないモンは仕方ないと子スライム討伐に集中する。

 星龍の能力で周囲にいる子スライムの数は把握している。

 校舎の裏に5体、壁面に4体。


 校舎裏は良いとして問題は校舎壁面の4体だ。


「・・・・・校舎ぶっ壊すのは流石にマズイか・・・・ぁあ!!面倒だぜ・・・!」


 地面の敵とは違って壁面の敵を攻撃するには大技を使わずに直接斬るしかない。

 その為には「旋乱陣」を使わなければならないが、問題は着地だ。


 「旋乱刃」の印は自分の体から30cm程でしか組む事ができない。

 しかもこの術は指向性で、印から自分に向かって発動する事はできない。

 逆噴射で落下の速度を和らげるといった事は不可能だ。


 この状況を打開する為には「龍迅駆」しかない。


「・・・・・・チッ、仕方ねぇ!」


 覚悟を決めた篠崎だった。






「・・・・・・・ほら、傘持ってきてやったぜ?」


 神楽坂は蒼芭と星龍に傘を手渡した。

 未だ巨大スライムに動きはなかった。


「あ、すいません。」


 一言礼を言い、蒼芭と星龍は傘を受け取り差した。


「・・・・・・・さっき見た時よりまたデカくなったんじゃねぇか?」


 巨大スライムを見て苦笑う。


「雨が振るかぎり成長は止まらへんやろな・・・・・・。」


「もう我々の力ではどうする事もできないのでしょうか・・・・・?」


 傘を差した三人はただ呆然と巨大なスライムを見る事だけしかできない。


「・・・・・分裂しよったスライムは順調に退治しとるけど・・・・・・また分裂せんとも限らへん。」


 不規則に移動する親スライムの「核」を破壊する為にはピンポイントでの攻撃ではなく、全く別の方法で攻撃するしか無さそうだ。


「・・・・・・一体どうすれば・・・・・。」


「・・・・・っとちょい待ち!分裂したスライムの数体が移動し始めよった!」


 マークしていた数体がある場所へ移動し始める。

 その情報は直ぐに全員へ反映された。


「・・・・・・・何処へ行こうってんだ?」


 移動するその先を予測する。

 このまま子スライム達が直進すれば・・・・・・。



「・・・・・・・・・除霊委員会棟!?」


 除霊委員会棟には海羽が避難している。

 彼女は霊能者だが、まだ霊能を行使する力は無い。


「確か委員室には海羽さんが避難しとったはずや!ま、まずいで先輩!」


 直ぐに他のチームメンバーの現在地を確認する。

 四人とも各校舎で活動しており今から中央広場へ戻るまで時間が掛かってしまう。



「俺が行く!皆には除霊を続けるよう伝えておけ!」


 神楽坂は傘を地面に放り投げ除霊委員棟へ走る。

 星龍の能力で委員棟へ移動する子スライムは五体、一体どこから湧いて出てきたのか。

 兎に角急がなければならない。


「星龍、海羽とはリンクしていないのか!?」


「全員とリンクしつつ全ぶの敵表示させんのは結構しんどいんや・・・・・」


 リンクしていれば星龍の能力を使い危険を知らせる事が可能だ。

 しかし、流石の星龍も限界で海羽の分までの力は残っていなかった。


「精神修行が足りん証拠だな、誰かが彼女の携帯番号を知っていれば・・・・・・。」


「・・・・・・・じ、自分結構頑張ってると思うんやけど。」


 苦笑う星龍だった。






「・・・・また大きくなってる気がする・・・・。」


 除霊委員会室の窓から見える巨大スライムを見て、改めてその大きさを実感する。

 自分も何か力に成れればいいのだが、まだ自分が持つ力を理解できていない。


 霊気を発生させまた抑制させる「精神集中」は何とかできるようにはなった。

 しかし、それだけでは手助けをする事はできない、かえって足手まといになる事が関の山だった。


 自分はただここで除霊が終わるまで待っているしかないだろうか。

 海羽は長机に雷獣を寝かせ、パイプ椅子に座った。


 ハンカチを被った雷獣はまだ意識を失っている。

 海羽は優しく頭を撫でると無意識にか耳が反応した。


「・・・・!?」


 突然、背中に寒気が走った。

 海羽は思わず席から立ち周囲を見回した。


 特に変わった様子は無い。

 だが、この寒気は間違いなくあれだ。

 まだ自分の霊力を狙われていた時に感じた嫌な感じ。

 しかもそれは自分に近づいてきている事も感じ取る事ができた。


 ここに居ては危険だ。


 無意識にそう感じた海羽は雷獣をハンカチごと包み、両手で抱きかかえて廊下へ出た。

 何故だろうか、先程よりも通路が薄暗く見える。

 これも悪霊や妖怪の邪悪な気のせいだろうか。


 しかしこの廊下を進まないと下の階へ降りる事ができない。

 雷獣を抱きしめる両手に思わず力が入る。

 海羽は意を決して薄暗い廊下を走り階段を目指した。




「・・・はぁ・・・はぁ・・・・。」


 何とか階段手前まで来る事ができた。

 委員室からこの階段まで50mもないのだが、海羽には数kmにも感じた。


「・・・・・下に降りないと・・・・・。」


 呼吸を整え階段を降りようとした時だった。


「・・・・・!?」


 何かが階段を上がってくる音が聞こえる。

 一体誰だろうか・・・・?長緒が戻ってきたのだろうか・・・・?

 しかしこの音は足音ではなく「何かが這い上がってくる」ような音だ。


 海羽は思わず後ずさり階段から距離を取る。

 その際、踵が躓き尻餅を付いてしまった。


 階段を這い上がってくる音は尚も続き、海羽は足で何とか床を蹴りつつ後ろへ下がる。

 上がってくる物は間違いなく「人」ではない。

 這い上がってくる音が今まで一番大きく聞こえた。


 自分の鼓動が速くなっている事に気づく。

 廊下の縁に何かが見えた。

 人間の足ではない。


 それは除霊委員棟へ向かっていた子スライムの群れだった。

 スライムは次々に海羽の視界に現れる。

 ゆっくりとそして確実に。

 海羽は直感で自分を狙っていると感じた。


「・・・・い、いや・・・・・。」


 必死に足を動かし後方へ下がるが、瞬く間に突き当たりの壁に背中がついた。


 右手を壁に沿わせ、何とか立ち上がる。


 前方には気味の悪い化け物、後方は壁、逃げ道は委員会室しかなかった。

 海羽は迷う事無く委員会室に入り扉を閉めレバーを下げてロックする。


 制服の上着にあるポケットからストラップ付きの携帯を取り出しアドレス帳を表示する。

 この状況で助けに来てくれる人物は・・・・・・・。


「・・・・・・・・。」


 海羽は力なく携帯のOFFボタンを押しポケットに戻した。

 唯一の望みだった春日も留守番電話で繋がらない。


 もうこれ以上逃げ回る事は不可能だ。

 雷獣を抱きしめながら委員室の一番奥に身を隠すしかなかった。





 海羽を助けに除霊委員会棟へ向かう中、長緒から携帯が入り、走りながら電話にでる。


「健ちゃんか!今中央広場だ!何とか間に合いそうだぜ!」


 神楽坂は携帯を耳に当て除霊委員会棟を見る。

 5体のスライムはまだ委員会室がある3階には到達していない、移動の遅さが幸いだった。


 しかし、スライムの動きは海羽がまだ除霊委員会室にいる事を意味する。

 霊能を上手く使えないとはいえ、スライムが発する邪気に気づいてくれている事を祈るしかない。


 だが、長緒は神楽坂が全く予想していない事を言った。



「・・・・なっ!?海羽を助けるな!?」


 神楽坂は思わず足を止めた。


『・・・・・・あぁ、先程、長沢から電話が掛かってきてな・・・・・・・。』


 長沢から?

 なぜ彼女は長緒の携帯番号を知っているのだろうか。


「・・・・よく分からねぇけど、長沢が助けるな。っつたのか?」


 再び除霊委員会室を目指し走り出す。


『・・・・・・彼女の話ではここが「分岐点」らしいんだ。』


 「分岐点」?一体何の話をしているだろうか。

 今の海羽の状況から自力で戦う事は不可能だ。

 助ける事ができる自分が行くしかない。

 長緒もそれは十分分かっていたが、あの長沢の言葉だけに無視も出来ないでいるようだ。


「・・・・・・・長沢といい、朝倉といい何か隠してやがるな・・・・・!」


 足に力をいれ加速する。

 スライム達はもう3階に辿りついている。

 急がなければならない。


『・・・・・・俺達も人の事は言えないがな。兎に角彼女の言葉が引っかかる

 光志。助けに入るのは本当に危ない時にしてくれ。』


「今が一番危ない時だと思うがな・・・・・まぁ何とかやってみるさ、委員棟に着いた切るぞ!」


 携帯をズボンのポケットに突っ込み土足のまま除霊委員棟内に入る。

 床にはスライムが這ったかのような跡が残っていた。

 まるでナメクジだ。


 勢いをつけて階段を駆け上がる為に手すりを握る。

 すると粘性の高い物が神楽坂の手に絡みついた。


「うえぇ・・・・・・マジかよ。」


 手洗い場で洗っている暇はない、そのままの状態で階段を駆け上がった。






「・・・・・・・・?」


 扉を閉めてから数分が経った。

 いくら動きの遅いスライムとはいえ扉の前まで辿り着いているはずだ。

 なのにこの静けさは一体何なのだろうか?

 もしかして諦めて何処かへ行ったのだろうか。


 それにしてはこの嫌な感じが一向に無くならない。

 室内の奥に追いやられ積み上げられている机の隙間に無理な体勢で隠れるのもそろそろキツくなってくる。


「あ、足が痺れ・・・・・・。」


 足の痺れが限界だ。

 海羽はとりあえず積み上げられた机の下から這い出るように出て、足の痺れが治まるのを待つ事にする。

 ふくらはぎを手で揉む度に痺れが彼女を襲いなんとも言葉にならない。

 思わず顔を下げて痺れに耐える。


 数分して要約足の痺れが治まり立ち上がる事ができた。

 海羽は雷獣を抱きかかえながら室内を見回した。

 本当にアノ気持ち悪いスライムは諦めたのだろうか?


 考えが甘かった。

 二枚ある扉の隙間からまるで染み出してくるかのようにスライムがゆっくりと室内へ侵入しようとしていた。


「!!!?」


 思わず後ずさり腰が長机に激突する。

 腰に痛みが走るがそれどころではない。

 やはりスライムは自分を諦めてはいなかったのだ。


 彼女の頬を一筋の汗が流れていった。





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