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40:分裂



「な・・・・。」


 神楽坂達は校舎よりも巨大になったスライムに戦慄した。

 高さは30mはあるだろうか、幅はグラウンドを飲み込む大きさだ。

 授業中の生徒や教師も巨大なスライムに気付いたのか窓側から見ている。


「・・・・い、いくらなんでもデカすぎだろ・・・・・・。」


 思わず刀を握っていた左手が緩む。


「あ、あんなに大きいんじゃ・・・・とても私達の力では・・・・。」


「何とかするしかねぇ・・・・・・・!」


 神楽坂は力が抜けて座り込みそうになった天河の腕を掴み、しっかりと立たせた。

 その表情は険しい。


「敵さん自分の体グラウンドを覆えるくらい薄うくしてその範囲の雨を取り込みよったっちゅーわけか・・・・・。」


(だから排水路に雨水が流れていなかったのか・・・・・・。)


 長緒はこの状況下でも冷静に分析する。

 星龍の言う通り体を自由に変形させる事が出来るスライムは、その特徴を活かして雨水を吸収していたのである。


 長緒は星龍に霊視をするように指示する。


「任せとき。」


 直ぐに霊視を開始。

 やはりあの巨大な体を構成しているのは「水」つまり雨水で間違いない。

 続いて長緒から指示された「核」を探す。


 この「核」がスライムの本体でゲル状の体を保持している中枢だ。

 校舎よりも巨大な体から「核」を探し出す事は難しい。

 スライムが活動し始める前に特定する必要があった。


「先輩、あれ程の巨体、最悪学園を飲み込む恐れがあるのでは・・・・・・・。」


 あの巨体ならば校舎の一つくらい軽々飲み込めそうだ。

 しかも雨は降り続く一方、最悪、学園全てがスライムに取り込まれる可能性が出てきた。


「野郎の裸は願い下げだねぇ、早い所その「核」ってのを壊そうよ。」


 上村はヤル気十分のようでその場で軽くステップをする。


「そ、そうね。私達がなんとかしないと学園が・・・・・・・。」


「だな、もうデカくなっちまったもんは仕方ねー。

 これ以上デカくなる前にケリつけてやるぜ・・・・!」


 篠崎も力強く抜刀。

 左手で濡れた髪をかき揚げ、鋭い目で巨大なスライムを睨む。


「・・・・・・星龍!まだか!」


「急かさんといてぇな・・・・・・・」


 スライムの分析が続く。

 体の中で一番魔力が強い場所を探る。

 恐らくそれが「核」だ。


(この雨でまた体積が増えとる・・・・・急がな・・・・!)


 霊視を続けているとスライムの中をランダムな軌道で動く物体を発見した。

 その物体に注視する。

 星龍はニヤりと笑った。


「見つけたで!」


 直ぐに全員と精神感応しスライムの体内にある「核」を表示させる。


「目標をマークしてしかも感応した人間全ての視界に表示させる・・・・・相変わらず便利だな。」


 神楽坂の視界には星龍がマークした「核」がハッキリと映っている。

 大きさはバレーボール程だろうか、ビーカーから出現した時より「核」も大きくなっている。

 更にはゲル状の体内でも縦横無尽な軌道で絶えず動いている。

 この「核」を破壊しなければスライムを倒す事はできないのだ。


「・・・・そんじゃ往くか!」


 神楽坂の掛け声と共に篠崎、蒼芭、上村の三人が石段を一気に降りて巨大スライムへ走った。


「ちょっと皆っ!」


 ロクに作戦も立てずに突撃する神楽坂達を制止しようとしたが遅かった。


「・・・・・戦いながら策を練るしかなさそうだな。」


「・・・・・・・もう。」


 前衛の支援をする為に星龍、長緒、天河の三人はこの場に留まる事にした。


「なんかあればワイが連絡すればええしな。」


 全員に「核」の位置を表示させ続けるために霊視の状態を保つ。





 神楽坂達はびしょ濡れの地面を走る。


「カミさんやけにやる気じゃねーかよ!」


「さっきも言ったけど野郎の裸は見たくねーの!」


 上村が自分から積極的に戦闘に身を投じるのは珍しい。

 本当にそんな理由なのかと神楽坂と篠崎は苦笑った。

 巨大スライムとの距離が近づくにつれ、足に何か違和感を感じた。



「奴の体の上を走っているようです!」


 蒼芭の言葉に走りながら地面を確認して見ると、彼女の言う通り地面を覆う薄いゲル状の膜の上を走っている。

 まだスライム本体との距離は数100m以上離れているにも関わらず、敵の干渉を受け始めるとは改めてスライムの巨大さを実感する。



「・・・・・・・・足を止めるなよ!」


 足に気味の悪い感触を感じながら突き進む。


「・・・・・俺から仕掛けるぜ!」


 自分の間合いに入った篠崎は刀に霊気を集中させ、帯霊させた状態で鞘に納めその場に止まった。

 それ以外の三人はスライムに接近する。



「・・・・・・・・。」


「・・・・・心配は要りません、私のとは違い龍神の技は精密で無駄がない。

 スライムの体を弾けさせる事は無いでしょう。」



「え?」


「・・・・あの篠崎がか?」


「そ、それは・・・・・・。」


 あの篠崎の性格からして精密な攻撃はできそうにないと蒼芭は苦笑う。

 三人がスライムの本体に到着した頃、背後から一筋の霊刃がスライムの体を切り裂いた。

 篠崎の奥義「龍牙斬」だ。

 

 「龍虎双神流奥義・龍牙斬」は篠崎家、龍神の一族に伝わる奥義だ。

 刀身に霊気を帯霊させた状態からの抜刀術は遠距離の敵に霊気の刃を飛ばす事ができる。


 霊刃を受けたスライムの体は大きく切り裂かれた。

 だが切断までは至っていない、スライムの体が巨大だった事が幸いだった。


「手ごたえありだぜ!」


 篠崎が合流する。

 三人はスライムの様子を見た。

 斬撃に大して効果があればいいのだが。


 大きな傷を見せるスライムだが傷の縁からゆっくりと元の状態に戻っていった。


「・・・・・やっぱ駄目か。」


 ものの数秒でスライムの傷は跡形も無く消えていった。





「・・・・・元が液体のスライムに斬撃等といった物理的攻撃は無意味か・・・・・。」


 後方の長緒は顎に人差し指をかける。

 あの距離ならば「邪念閃昇波」の射程圏内だ。

 スライムの「核」の動きに規則性があればタイミングを計り術を地面から発動させ「核」を呪縛する事ができる。


 しかしこうもランダムに動き回られてはタイミングを計る事も難しい。



「・・・はい、グラウンド側へは行かないようにしてください・・・!」


 天河はパタンと携帯を閉じポケットに直した。

 顧問である藍苑に避難の指示をお願いしていたようだ。





「おっらぁああああ!」


 篠崎は気合と共にスライムの巨大な体を斬りつける。

 だが直ぐに再生されてしまう。


「・・・・・今思ったんだけど素手ってかなり相性悪くない・・・・・?」


 今更だが打撃がゲル状の体に全く効果がない事に気づいた。

 どんなに鋭い突きや蹴りも弾力のある体が攻撃を受け付けない。


「「核」がある場所までは届きそうにないですね・・・・・・・。」


 蒼芭も全力で攻撃するがやはり直ぐに再生する。

 強烈な突き技である猛虎襲突破を使えればいいのだが、それではスライムを細切れにしてしまい逆効果だ。

 それにランダム移動する「核」をピンポイントで狙わなければならない。



(・・・確かにリーチが足りなさすぎるな、迅雷装剣を使うわけにもいかねぇか。)


 星龍の能力で「核」の姿と動きはハッキリと分かるのだが、此方から有効な攻撃ができない。

 スライムの動きが緩慢なので考える余裕はあるが、ここで異変を感じた。


 神楽坂の靴の裏から白い煙が上がり始めた。

 それは他の三人も同じだった。


「な、なんだこれ!?」


 靴の裏を見ると底が少し溶け、爛れていた。


「スライムが自分の体を酸性へと変化させたか・・・。」


 蒼芭は動じる事無く自分の足元を見た後、目の前のスライムに集中する。

 スライムが酸性と変化した事は後方の星龍も気づいていた。





「・・・・・敵さん体を酸に変化させたようやで!」


「み、皆は!?」


「まだそこまで酸度は高くないようやけど・・・・・・あのまま留まるんは危険やで先輩!」


「・・・・・・星龍君、今すぐ皆を後退させて!」


 有効な攻撃ができない以上そこに留まっても仕方がない。

 それに酸度が更に高くなる可能性もあり、このままでは靴の裏が少し溶けるだけでは済まない。


 長緒も天河の指示に同意見だ。

 星龍は直ぐに前衛の四人に後退指示を出した。





「・・・・ちっ、楽勝だと思ってたがこうも厄介だとはな。」


 神楽坂は破砕魂の霊刃を一旦解除し、巨大スライムを見据えた。


「斬っても斬っても直ぐ元に戻りやがる・・・・!」


 篠崎も神刀を地面に突き刺し、濡れた前髪を両手で後ろに流す。


 スライムは依然その場から動かない。

 しかも体が酸性に変化し、此方から近づく事は困難になってしまった。


「兎に角もうこれ以上の接近戦は危険ね・・・・・。」


「けどさ先輩、遠距離からどうやって「核」を破壊するんだい?」


 上村の言う通り今の自分達の能力で遠距離攻撃ができる者はいない。



「・・・・・やっぱ真面目に修行しとくべきだったか・・・・」


「「龍迅駆」・・・・・・今更だな。」


 蒼芭の言葉に篠崎は苦笑った。

 酸と化したスライムになす術が無い中、スライムの異変に星龍が気づいた。


「・・・・・どうした?」


「ス、スライムを見てみっ!」


 星龍に促され一同がスライムを見る。

 この雨で更に大きくなっているようだ。

 彼の能力で自分達の視界には「核」が鮮明に映っているが、その「核」が無数に増殖していた。


「ど、どうなってんの!?」


「そんな事言われても分かる訳がないだろう・・・・!」


 再び臨戦態勢をとる。

 一体スライムは何をするつもりなのか。


 それは直ぐに分かった。

 「核」から増殖した無数の小さい球体はスライムの体の縁へと広がっていく。

 そして親の体を自分の球体に取り込むような形で次々に勢い良く外へ飛び出して行った。


 飛び出した球体を纏うゲル状の破片は学園中に落下していく。


「こ、これは・・・・・!?」


 その中の一つが直ぐ近くに落下する。

 スライムの破片は地面に激突すると大きく変形し、その場にゆっくりと広がった。

 そしてその塊は一個体のスライムとして活動を始める。


「ぞ、増殖しやがった・・・・・!」


 その小さいスライムの体内には「核」がハッキリと映っている。

 スライムが分裂し増殖したのだ。



「おら!ボサっとしてねぇで巨大化する前に倒すぞ!」


 神楽坂は破砕魂を起動させ小スライムの「核」を一刀両断する。

 このサイズならば簡単に倒す事ができる。

 「核」を失ったスライムはその体を維持する事ができずに液体、雨水となって消滅していった。


 今の分裂で多くの小スライムが学園に入り込んでしまった。


「3チームに分かれましょう!」


「・・・・・星龍はここだな。スライムの「核」を全員に表示させてもらわなければ。」


「闇雲に攻撃して敵を増やしていては意味がないからな。」


 素早くチーム分けを行う。


 まずはチームA

 星龍和人。神眼を使い親スライムを初め学園に散らばった全ての子スライムを把握し更にはその「核」を全メンバーに伝える大役を担う。


 次にチームB

 神楽坂光志、蒼芭佐由里。この二人は親スライムの監視と星龍のサポートに廻る。


 そしてチームC

 長緒健一、天河摩琴、上村裕也、篠崎慶斗。四人は学園内に入り込んだ子スライムの殲滅。


 依然降り続く雨の中これ以上スライムを巨大化させる訳にはいかない。

 早急に殲滅する必要があった。





「・・・・・とは言え、あのデカ物もどうにかしねぇとヤバイんだがな・・・・。」


 神楽坂は前方の親スライムを見据える。

 雨で濡れた髪を掻き揚げる事が面倒になってきた。


「雨が止めばいいのですが・・・・・・。」


 蒼芭は薄暗い空を見上げるが雨はまだ止みそうにない。


「・・・・・さっき篠崎が修行がどうとか言ってやがったが。」


「「龍迅駆りゅうじんく」さえ習得していれば、地面に足をつける事無く移動が可能になります。」


「あの馬鹿、めちゃくちゃ使える技じゃねぇか・・・・・。」


 思わず手で顔を覆い、蒼芭も苦笑うのだった。





 天河は走りながら藍苑に携帯を入れる。

 校内に残っている生徒は直ぐに自分の教室に戻るか、近くの教室に避難するようにと指示を送った。

 現在位置は中央広場、子スライムは四方に広がっている。


「皆、散開しましょう!」


「けど天河先輩一人で大丈夫なの・・・!?」


 天河は心配ないと、神楽坂から持たされた霊銃を見せた。



「なら問題ねーな!俺はC校舎に行くぜ?」


 篠崎は刀を一度納刀し、全力でC校舎へと走っていく。


「・・・・・なら俺はB校舎だな。海羽にも避難するように伝えてから向かう。

 それと天河、射撃時の反動には気をつけたほうがいい。」


 天河に一言アドバイスをすると長緒もB校舎へと向かった。



「・・・・・反動・・・分かったわ、私と上村君はA校舎へ!」


「先輩となら何処までも行きますよ!」


 長緒と分かれた二人はそのまま直進しA校舎へと向かうのだった。




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