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27:氷のC校舎



中間試験が終わった数日後、今日で全ての試験結果が返ってくる日だ。


「・・・・・・お。」


「あ、神楽坂君おはよう。」


 六学正門前で偶然会った二人は挨拶をする。

 今日は神楽坂と天河の早番の日でもあり、とりあえず委員室まで一緒に行く事にした。


「そういえば中間試験、どう?」


 神楽坂は苦笑った。

 当然結果が悪いからだ。

 とても学年TOPの天河に言える内容ではない。


「ま、まぁ下から数えた方が早い・・・だろうな・・・」


「そ、そう・・・」


 黄昏る神楽坂に苦笑う。

 自分と同位の長緒と仲が良いなら教えて貰う事もできるのでは、と神楽坂に聞いてみたが長緒の教え方は逆に難しくなるだけらしい。


 そんな会話をしつつ委員会棟が並ぶ中央広場に到着した。

 後は除霊委員会棟へ向かうだけだが神楽坂は何かに気がついた。


「どうしたの?・・・・・!?」


 同時に神楽坂が向いている方向から妖気を感じた。


「C校舎の様子がおかしいな・・・・・。」


 二人はC校舎に近づいた。

 そこでようやく異変に気がつく。


 C校舎からは白い靄が上の階から地面にゆっくりと流れ降りていた。

 まるでドライアイスを取り出した時に起こる現象に似ている。

 更に少し気温も下がっているように感じた。


「・・・・・なんか寒くない・・・・?」


 少し肌寒いのか自分の腕をさする。

 どうやら校舎から流れ降りてきている靄は冷気のようだ。

 妖気も感じられる事から深夜の内に妖怪が校舎に入り込んだのだろう。


「まさか朝っぱらから面倒事が起こるとはなぁ・・・・。」


 委員室で一眠りする計画を見事に打ち砕かれた。


「・・・・・とにかく中に入って確認しないと。」


 3箇所ある出入り口の中で中央の下駄箱のドアノブをまわそうとすると予想外の冷たさに手を離した。


「冷っ!!?」


 明らかに気温差がおかしい。

 今度は冷たさを覚悟して神楽坂がドアノブを回し開けた。

 が、直ぐにドアを閉じた。



「・・・・・まるで冷蔵庫の中みたいだぜ」


 一気に熱を奪われた右手を学生ズボンのポケットに突っ込んで暖める。


「委員長、どうする・・・・・?」


 聞くまでもないがとりあえず聞いてみた。


「どうって言われても・・・・とにかく他の人が登校してくる前までには解決させないと。」


 天河は苦笑いながら答える。

 今日は祝日ではなく平日だ。

 早い生徒ならば後一時間くらいで登校してくるだろう。


 二人は自分達より先に校舎に立ち入った生徒がいないか3箇所ある下駄箱の上履きの有無を手分けして確認して回った。




「ど、どうだった?」


 二人は中央出入り口の外で合流する。


 少し下駄箱内にいるだけでかなり体温が奪われてしまう、スカートの天河は特に寒そうだ。


「こっちは大丈夫だ、にしても何なんだこの寒さは、まだ夏前だぞ・・・」


 神楽坂はC校舎を見上げた。

 校舎からは、建物の上から冷気が流れ降りてきている。


「とりあえず中に生徒はいないみたいね、というか居ても中に入ろうとは思わないよね・・・・・。」


「だな・・・・・。」


 二人は無言になり対策を考える。

 この後どうすべきか分かってはいるのだが、なかなか口に出す事ができないでいた。

 しかし時間がないのも事実、気温が下がった校内に入る為に準備が必要だ。

 とは言えできる事といえば厚着をする程度しかできないのだが、夏を控えた今の時期にコートやジャケット類があるわけでもない。


 少しして天河が何かを思い出したかのように自分のバックから何かを取り出した。

 それは体育で使うジャージであった。



「ジャージか、今日体育ないんだよな・・・・」


 いつもならジャージは教室に置きっぱなしなのだが今回は運悪く洗濯中だった。

 悔いていると天河からジャージの上着を渡された。



「はい、ちょっと小さいけど我慢してね。」


 天河はスカートの下にジャージのズボンを履いている。



「い、いやだからって・・・・・いいのか?」


 神楽坂は男子の服ならともかく女子の服を借りていいものか戸惑った。

 

「そ、そりゃ私だって・・・・・仕方ないでしょ。」


 神楽坂は学ランを脱いで渋々天河のジャージ(上着)をカッターシャツの上から羽織り、また学ランを着直した。

 神楽坂には彼女の上着は小さくサイズが合わない。

 ジャージが伸びてしまいそうで本当に着てもいいのかと思ったがあの寒さを考えると着させてもらうしかなかった。



「(ジャージが伸びなきゃいいが・・・・・)

 とにかく行くとするか。」


 二人は意を決して校内へ入って行くのだった。





 校内は異様に寒い以外、特に異常は見られない。


「・・・・・手早く往こうぜ。」


 寒さに耐えつつ周囲を見回す、どうやら1Fは妖気が薄いようだ。


「1階には居ないみたいね・・・・どちらかと言うと上の階からな気がする。」


 上の階から発せられる妖気はここよりも強い。

 二人はここから一番近い階段へと向かった。




 2階に到着し始めて異常を確認する事ができた。

 まるで何かが通ったかのように氷柱が軌道をかいていて更には1階よりも気温が下がっていた。


「・・・・・マジかよ。」


 氷柱よりも更に気温が下がっている事の方が問題だ。


「さ、寒い・・・ね」


 天河は両腕を抱き体温が逃げないようにする。

 息も何時しか白くなっていた。


「・・・・・・・ん?」


 廊下の奥に宙に浮いている青く光る物体を見つけた。

 神楽坂は直ぐにそれが元凶だと判断する。


「いたぞ!」


 ホルスターから破砕魂の柄を取り出し走り出した。

 天河も同じく神楽坂の後を追い、その物体までの距離200m程を全力で走った。

 距離が近くになるにつれ物体の姿が見えてきた。



「さぁ、とっとと終わらせてもらうぜっ!」


 距離10m、間合い直前だ。

 神楽坂は破砕魂の霊刃を発生させ構える。

 目標に以前反応はない、これなら楽勝だと神楽坂は思った。


 神楽坂の霊刃が目標を捕らえる寸前だった。


「うおぁっ!?」


 目標は突然上昇し、神楽坂の攻撃は空振りに終わる。

 更には廊下が凍りついていたのか豪快にスベりそのまま突き当りまで滑り込み、危うくコンクリートの壁に激突する所で停止した。


「だ、大丈夫・・・・?」


 追いついた天河の手を取って立ち上がる。


「わ、わりぃ・・・・・どこに行った?」


 転倒したせいで目標の姿を見れなかった神楽坂は天河に尋ねた。


「天井を抜けたみたい、多分上の階にいるとおもう。」


「・・・・・いくか。」


 神楽坂は凍った地面に注意して立ち上がり、階段を目指した。




 3階の気温は更に下がっていた。

 廊下や教室の窓ガラスは真っ白になっている。

 恐らく気温は0℃に近いだろう。


「へ、平気か?」


「な、なんとか・・・・で、でも長くは無理・・・かも。」


 天河はその場にしゃがんで体を丸めた。

 神楽坂も流石に限界であまりの寒さに集中できず妖気を感知することができずにいる。


 先ほど走って暖めた体も既に冷え切ってしまっていた。


「3階はさっきみたいな氷柱は走ってないんだな・・・・・・。」


 だが、2階よりも確実に気温は下がっている。

 取りあえず足を進めるしかない。


 廊下の奥にも階段がある、探索を終わらせてそのまま2階へ降りる考えだ。


 しかしその考えは余りにも無謀だった。

 3階の科学室近くで寒さで体が思うように動かなくなってきた。

 やはり無理せず引き返した方がよかったかもしれない。



「こ、こいつはやべぇぞ・・・・・大丈夫か天河?」


「・・・・・・・・・。」


 後ろの天河も会話する事ができないくらい弱っていた。

 これ以上は危険だ。

 早く体を温めなければ命の危険がある。


 目の前には科学室がある。

 横に吹き抜けている廊下よりかは幾らかはマシなはずだ。

 問題は鍵が開いているかどうかだが、そうだとしても神楽坂は破壊してでも中に入るつもりだった。


 「鍵は・・・開いてるみてぇだな、助かったぜ・・・・・。」


 弱った天河の腕を担ぐように科学室に入り扉を閉めた。





「・・・・・・・・ん。」


 僅かに感じられた暖かさに目を開け天河は上半身を起こした。

 目の前には無数のアルコールランプの炎が灯っている。


「大丈夫か?」


 隣にはランプの炎で手を温めている神楽坂がいる。


「こ、ここは科学室・・・?」


 自分たちが科学室の実習用机の上に居ることを確認する。

 床に座るよりは遥かにマシだ。


「あぁ、運がよかったぜ、ここなら寒さを凌げそうだ。」


 神楽坂の横に置かれた携帯に気づいた。

 天河が意識を失っている間に他のメンバーに連絡を入れていたようだ。



「すぐ向かうってよ、防寒具持ってな。それまではここでアルコールランプに頼るしかねぇ・・・・。」


「ある程度暖まってから2階に戻れないの?」


 天河の言う通り階段は直ぐ近くにある、2階に下りれれば気温は上がる。

 神楽坂もそれは分かっているのだが、彼女に科学室の扉を開けて見るように言った。


 彼女は扉に手を掛けて横に引いてみる。

 しかし扉はビクともせず、戻ってランプに手をかざす。



「あのダイヤの形した物体が廊下の前を通りやがってな・・・・扉や窓を氷りつかせやがった。」


「う、うそ・・・・・・。」


 2階で見た氷柱は目標が通った後だったのだ。


「も、もしかして学園で・・・・遭難?」


 神楽坂はその言葉に頷く事しかできなかった。

 助けがくるまで耐え忍ぶしかなさそうだ。


 アルコールランプを10個程灯している為少しは寒さも和らいでいるが、ストーブのように熱反射をしている訳ではないので効率は良くない。


 自然と二人の距離は近くなっていた。



「そういや聞きたかったんだが、あの朝倉と知り合いなのか?」


 助けを待つ間に神楽坂は朝倉の件を聞いてみる事にした。

 眠気防止の為の話題はなんでもよかったのだが他に洒落た話題を見つける事ができなかった。


「え、うん、1年の頃ね長沢さんと一緒に知り合ったの。」


「そっか、だから長沢も朝倉の事知っているのか。

 もう一つ朝倉の事で聞きたいんだが何故あいつは魔力を持ってるんだ?」


 これが一番神楽坂が聞きたかった事だ。

 天河は躊躇いつつも少しだけ話した。



「元から持ってた力じゃないの、それも私たちが1年の時に・・・・・。」


 天河は悲しげな表情を見せた。

 これ以上は話したくないようで神楽坂もそれ以上は聞くことはなかった。



「私も神楽坂君に聞きたい事があったんだけど、いい?」


 今度は天河が神楽坂に質問してきた。


「あ、あぁ。」


「神楽坂君が持ってるその武器・・・・・・・。」


 破砕魂に興味があるようだ。

 神楽坂は腰のホルスターから取り出し天河に手渡した。


「ありがとう♪・・・・・やっぱり似てる・・・・。」


「・・・・・似てる?それ貰い物なんだが市販もされてるんだよな?」


「市販されているかは分からないけど・・・・お父さんも同じ物使っていたから・・・・・・。」


 天河の表情が和らいでいる。

 事情は分からないがとても懐かしい物だったのだろう。


「親父さんも霊能力者なんだな。」


 神楽坂の言葉に天河は再び悲しそうな表情を見せた。


「え、ええ・・・・・・・。」


 余り詮索すべき事ではない話題だと鈍い神楽坂でも理解し、天河に一言侘びを入れた。


「いいの、お父さんの遺志は私が継ぐって決めたんだから。」


 破砕魂を神楽坂に手渡す。

 この言葉で神楽坂は天河の父が既に他界している事が分かった。


 破砕魂をホルスターに戻していると神楽坂の携帯が鳴った。

 長緒からの電話だった。


 神楽坂は暫く話した後携帯を切った。

 そして机から降りて何かを探しはじめた。


「どうしたの?」


 何事かと神楽坂に尋ねた。


「健ちゃんがビーカー使って湯沸かせってさ・・・・。」


 火と水道がある科学室で湯を沸かさない手はない。

 神楽坂は三脚と綺麗そうなビーカーを何個か見繕い水道で水を入れ机の上に戻った。


「流石長緒君だね・・・・・・私全く思いつかなかった・・・。」


 神楽坂も同意しつつアルコールランプに三脚とビーカーをセットする。

 科学室にはガスバーナーもあるのだがガスの大元は隣の準備室ではなく、別の場所にあるので現在は使うことができない。


 二人は複数設置したビーカーの水が沸騰するのを待った。

 煮沸消毒、これも長緒からの指示だった。


「まさか学園でこんな事になるなんてね・・・・・・」


 水蒸気が上がり始めたビーカーを眺めながら苦笑いを浮かべた。

 同じく神楽坂も苦笑う。


「今こっちに向かってるみたいだが到着までまだ30分以上あるな・・・・・・」


 神楽坂はまた室内の備品を漁りはじめた。

 他のメンバーが到着したとしても敵を即倒すことはできない、さらにズレ込む可能性もある。

 兎に角上に逃げていく熱を此方にくるように反射させないといけない。

 幸い此処にはアルミ箔も大量にある。


 あとはそれを支える高さのある備品を適当に見繕うだけだ。

 それも簡単に見つかった。

 それをもって机にあがる。


 ビーカーを乗せてないアルコールランプを数個密集させその両端と奥に支柱となる備品を置きアルミ箔を巻く、そして天井部もアルミで覆った。


 これで簡易ストーブの完成だ。



「これで何もしてないよりかはマシになった・・・・はずだ。ってか健ちゃんスゲーな。」


 確かに前よりかは断然暖かくなった。

 二人は簡易ストーブの前に並んで座る。


「言葉だけで完成させちゃう神楽坂君も十分すごいよ・・・・。」


 暫くしてお湯が沸騰し始めた。

 長緒の話では煮沸消毒は30秒程で十分らしい。

 とは言え100℃を超えた湯をイキナリは飲めない為、学生服の袖を軍手代わりにビーカーを三脚から降ろし適温になるのを待った。


 適温になった事を確認して神楽坂は天河に勧めた。

 彼女は一言礼を言うとビーカーのお湯を飲んだ。



「い、生き返るぜ・・・・・・・」


 神楽坂も別のお湯を飲む。


「ほ、ほんと・・・お湯がこんなにおいしいなんて思わなかった・・・・。」


 もしも科学室に避難していなかったら命を落としていたかもしれない。

 このお湯のおかげで低体温症だけは回避できそうだ。


 暫くの時間が過ぎていく。

 簡易ストーブと湯のお陰で長時間の体温維持が可能になり後は長緒達の助けがくるのも待つだけだ。


 先ほど長緒から学園から近いメンバーが到着したと連絡があった。



「寒くないか・・・・?」


 天河を気遣う。

 眠気防止の話題もそろそろネタ切れだ。


 天河は大丈夫だと神楽坂に微笑んだ。

 長緒達が自分達を救出する為にはこの極寒を引き起こしている妖怪を倒す必要がある。

 素早く倒すためには敵の情報を伝える必要があった。


 今分かっている事は敵は不規則で移動し、移動後には氷柱を発生させてゆくという事、その二つを携帯で長緒に伝える。





 C校舎には遂に登校者が現れていた。

 長緒は危険なので立ち入らないよう伝え、篠崎と蒼芭に残りの下駄箱前に張り紙をするよう指示する。


 現在現場にいるメンバーは長緒、篠崎、蒼芭の三人だ。

 唯一霊視を使える星龍の到着が遅れているのが悔やまれる。


「先輩、張り紙してきたぜ・・・・!」


 学ランの上に黒のダウンジャケットを羽織った篠崎が走ってきた。

 続いてロングコート姿の蒼芭も戻ってくる。


 二人とも張り紙を終えたようだ。


「けどよぉ何だよこの寒さは・・・・。」


 ダウンジャケットの上からでも寒さを感じる。

 外でこの寒さ、校内は一体どうなっているのか想像すると鳥肌がたちそうだ。


「光志と天河は三階の第二科学室にいる。」


 長緒も男性用のロングコートを着ていた。


「三階・・・あの二人はロクな装備も無しでこの中に・・・・?」


 篠崎と蒼芭は二人の無茶な行動に苦笑うしかない。



「・・・・・今更仕方がない、光志の話では敵は不規則だが移動するようだ。」


「んで、1階ごとに気温が洒落になんねーくらい下がるんだっけ?」


「心頭滅却すれば火もまた涼し、寒さもまた暖かしだ。」


 本来なら作戦をシッカリ立ててから挑む所だが今回は時間がなさ過ぎる。

 こうしている間も神楽坂と天河の体力は削られていくのだ。


 三人は自分の装備を確認して下駄箱のドアノブを回し中へ進入していった。




 1階。

 既に外とはまるで別世界のように気温差が明確化していた。


「寒っ!!?」


 篠崎は慌ててジャケットを首元までシッカリと閉め直し両手をポケットに突っ込んだ。


「この中を先輩方は・・・・・・・。」


 蒼芭と長緒は寒さに強いらしくまだ平気のようだ。


「作戦を立てている暇はない、先に3階に向かうぞ。」


 まずは神楽坂と天河を救助することが先だ。

 三人は階段を駆け上がり3階へ直行した。




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