23:危機
「・・・・う゛っ」
突然頭痛が走り長沢は思わずこめかみを手で押さえた。
その痛みが走った瞬間、長沢の頭に霊に追われる海羽の姿が映りこんでくる。
何時もなら10つ近くのイメージが見えるのだが今回はたったの2つ、彼女の力が衰えてきている事を表していた。
「志穂さん!?」
「大丈夫か?」
「・・・・こ、ここで談笑してる場合じゃないわよ!星龍君!学園内を霊視してみて!」
急に真剣になる長沢に戸惑いながらも星龍は学園内を霊視する。
すると星龍も立ち上がり険しい表情をした。
「ま、まずいで!学園の周囲から悪霊妖怪がぎょーさん入りこんできとる!?」
「なんだと!どーなってんだ!?」
篠崎は刀を持ちながら立ち上がる。
他の委員達も立ち上がるが長沢はまだ状態が戻っていないらしく天河が支えていた。
「・・・・と、とにかく散開して対応しましょう!
配置は星龍君からテレパスで!まだ残っている生徒には下校指示をお願い!」
星龍、天河、長沢以外の委員達は委員会室を飛び出していった。
「・・・・はぁ・・はぁっ!」
化け物から逃げていた海羽は1階玄関前で息が切れ、両手を膝に当てて肩で呼吸をした。
息を整えながらも周囲を警戒する。
あの化け物がどこから襲ってくるか分からない。
頬を伝った汗を手で拭う。
不思議と何時もより感覚が鋭くなっている事に気がついた。
「・・・・っ!」
鋭くなった感覚は玄関を覆う大量の悪霊妖怪を事前に察知し、事前に視線を向ける事ができた。
化け物が現れる前に察知する事ができれば直ぐに逃げる体勢を取ることができる。
海羽は右足に力をいれ走りだした。
C校舎付近では大量の悪霊妖怪が敷地の外から川のように流れ込んできていた。
「こいつぁ・・・・・・・だがなぜ学園に・・・・。」
破砕魂を握り除霊しようとしていた神楽坂だったが、数が多すぎる。
まずは学園内に残っている生徒達に避難指示を出すことが先決だ。
「落ち着いて避難しろ!不用意に後ろを振り向くなよっ!!」
時間的にはまだ校舎内にも大勢の生徒が残っている。
とはいえ今この場を離れる訳にもいかない、完全に人手不足だ。
「奥義、旋乱陣っ!」
B校舎では、蒼芭が刀を空に向け自分の足元から霊気による激しい上昇気流と霊刃で上空の悪霊妖怪を纏めて滅していく。
しかし押し寄せる悪霊妖怪に衰えがない。
「佐由里!どうやらこいつら学園の外から入り込んでやがるぜ!」
篠崎は生徒の避難をさせつつ霊の流れを確認する。
星龍が霊視したとおり学園周辺に展開していた妖気が雪崩れ込んできているようだ。
「くっ・・・・これでは埒があかないぞ!」
自分の間合いに入ってくる敵しか対応できず、大部分が間合い外の空中に存在している。
対空技の旋乱陣といえど消耗が大きく乱発はできない。
上空に注意を払っていると、3階付近の窓に生徒の姿が映った。
「佐由里っ!」
「3階へは私が往く!」
蒼芭は抜刀したまま校内へ走った。
彼女であれば風の力を使い高速移動が可能になる、更には生徒を抱えたまま3階から飛び降りるといった荒業も可能だ。
長緒が受け持ったA校舎も既に悪霊妖怪の群れが入り込んでいた。
ここである事に気づいた。
これほど大量に侵入してきた悪霊妖怪の群れだが、まだ実害が生じていない事だ。
まるで何かを探している、または何かを追いかけている。というふうに感じられる。
「・・・・・・・・・・。」
長緒は悪霊妖怪の動きを注意深く観察する。
理由がない限りこのような異常事態にはならないはずだ。
避難する生徒の頭上を飛び、更に霊能者である自分をも無視しある方向へ向かっていく霊達。
通常なら目の前の人間にすぐさま取り付き、霊能者である自分の霊気を狙って襲い掛かってくるのはずだ。
しかし、この霊群にその傾向がまったく見られず、先ほど同様ある方向へ向かって行くだけだった。
悪霊妖怪の群れは何かを追いかけていると考えるのが自然だ。
長緒は直ぐに星龍に霊視で霊の流れを追うよう携帯で指示した。
委員会室では星龍が長緒からの指示により妖気の流れを掴むべく霊視を行う。
そこである事を発見した。
それは長緒がいるA校舎に全ての妖気が集まりつつある事だった。
「目的がある以上、悪霊たちは他に危害を加える事はないわ!他のみんなをA校舎へ!」
「りょ、了解や!」
星龍はすぐさまテレパスでA校舎以外に配置についている四人へ指示を送る。
長沢は未だに回復しておらずパイプ席にダランと座り手を顔に当てていた。
(・・・・・・本来先読みする筈の力が今の現状しか見る事ができないなんてね
・・・・・・笑えるわ・・・・。)
長沢の見える2つビジョンの内1つがTVの砂嵐のようにノイズが走りはじめる。
彼女の力が一時的にダウンするのも時間の問題だ。
「摩琴っちゃ・・ん・・・・・ここにいても仕方ないわ・・・。」
まだフラフラの状態で立ち上がろうとした所を天河はすぐに補助についた。
「無茶よ!わざわざ危険な所に行く必要はないわ・・・・・!」
「そ、そや!ここはワイと天河先輩に任せとき!」
長沢は二人の制止も聞こうとしない。
彼女が拘る理由は別にあった。
力がダウン寸前の自分が足手まといに成る事は十二分分かっていたが、以前見たビジョンに映っていた人物。
その人物には自分の姿が必要なのだ。
「お姉さんもわざわざ足手まといに成りに行きたくはないんだけどねぇ・・・・崇を止められるのは私しかいないのは摩琴っちゃんも分かってるっしょ?」
長沢の言葉の意味を思い出した天河は苦笑った。
「・・・・・・・流れが変わった・・・・。」
悪霊妖怪の動きを分析していると妖気の流れが変わった事に長緒は気が付いた。
流れが変わる、ということは対象自体が動いているという事になる。
学園という状況下ではその対象が人間である可能性が高い。
恐らく悪霊妖怪から逃げているのだろう。
と、なればここでジッとしているわけにはいかない。
流れの先頭へ向かおうと走りだした時、一人の女子生徒がA校舎の西出入り口からグランドへ走っていく姿が見えた。
それと同時に彼女の後方から夥しい数の悪霊と妖怪が凄まじい速度で後を追っていた。
「海羽・・・!?」
後ろ姿だけだったが、間違いなくあの生徒は海羽紅葉だ。
長緒は彼女を助ける為に走り出した。
何故また彼女が、と思うが今はそれ所ではない、あの大量の霊と妖怪に襲われれば命の保証はない。
なんとしても接触する前に、間に割って入らなければならなかった。
他の委員達に連絡するべきだが、普段冷静なはずの長緒の頭には海羽に追いつく事だけしか無かった。
全力で走るがスタミナが長続きしない、既に息が上がり次第に走る速度が落ちてくる。
後ろを振り返る余裕はないが間違いなく追いかけて来ている事だけは感じ取れる。
体勢を崩して速度を落とすわけにはいかない。
しかし何故、隠れる場所のないグラウンドに海羽は逃げてきたのか。
それは他人を巻き込みたくないからに他ならず、彼女はもう助かろうとは思っていなかった。
今まで自分の身の回りにだけ怪現象が起こっていたのか、その理由は今となってはどうでも良くなっていた。
「あっ・・・・・・!?」
脚が縺れついに転倒した。
両手で上半身を起こし後方を確認する。
・・・・やはりまだ追いかけてきていた。
既に自分と50m程にまで迫ってきている・・・・。
直ぐに走ればまだ逃げる事はできるだろう、しかし逃げてもどうする事もできない。
除霊委員会がいてもこの広い学園で自分一人を十人満たない人数で探し出すのは容易ではない。
どちらにせよまた他人に迷惑をかけてしまう事に変わりはなかった。
視線を地面に落とし腕から立ち上がる力が抜けた。
下を向いていても確実に迫ってきているのが分かる。
その距離が着実に縮まってくる中、海羽は覚悟を決め瞼を閉じた。
だが、何時になっても自分の体に異常が感じられない。
もう感覚がなくなっていてもおかしくないはずだ、霊達が途中で諦めるはずはない。
瞼を開けるのが怖い、一体どうなっているのか、もしかしたら既に自分はもうこの世にいないのかもしれない。
「・・・・何時までそうしているつもりだ?」
「・・・・・・!?」
突然の言葉に両目を開け、視線を恐る恐る上げてみると・・・・。
そこには特殊な力で二人を囲むように障壁をつくり悪霊妖怪の攻撃を防いでいた長緒の姿が映った。
「・・・・・・まだ諦めるのは早い。」
長緒は正面を見据えたまま、右手を海羽に差し出すのだった。