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20:妖蜘蛛



「うおっ!?」


 教室に入るなり吉原は声をあげた。

 今日は日直でHR30分前に登校してきたのだが、まさか自分より先にクラスメイトがいるとは思ってもいなかった。

 しかも先客が神楽坂と長緒だった事で更に驚いた。


 神楽坂は机に置いた鞄を枕代わりにして寝ている。

 隣の長緒は足を組んで椅子に座り瞼を閉じた状態で寝ていた。

 

 二人は吉原の声にも微動だにしない。


「・・・・・直明か。」


 吉原に気付いた長緒はゆっくりと瞼を開けた。


「お、おー随分と早ぇな。」


「・・・・少し夜遊びが過ぎてな。」


 流石の長緒も睡魔には勝てないのか瞼を閉じて会話を続ける。


「どーせ光志の家で朝までゲームでもしてたんだろ?・・・・てか俺も呼べよっ!」


 吉原は黒板消しで消え残った汚れを綺麗にしながら長緒に振り返った。

 同じ日直の女子生徒は自分の席で日誌を書きつつ苦笑いを浮かべる。

 神楽坂は完全に熟睡しているようだ。


 日の出と共に姿を消した妖蜘蛛の巣。

 あれから周囲を調べたが異常はなく妖気すら感じ取る事が出来なかった。

 徹夜となった四人は帰宅せずコンビニで朝食をとり、学校で睡眠を取る事にしていたのだった。



 2時限目が終わった後、神楽坂達を尋ねて天河が5組に訪れた。

 彼女の登場により吉原を始め男子生徒は歓喜に満ち溢れる。


「か、神楽坂君、長緒君。二人にちょっと聞きたい事があるんだけど・・・。」


 自分を取り巻く男子生徒に苦笑いながら二人に話しかけた。


「・・・もしかして委員会の話か?」


 長緒の言葉に天河は軽く頷いた。

 一方の神楽坂は相変わらず机に突っ伏せて寝ているようだ。


「おらぁ!摩琴ちゃんがお前等に用だってよっ!」


 ビシッっと軽く神楽坂の頭にチョップを喰らわす。

 すると目が覚めたのか若干寝惚けつつ体勢はそのままで首だけを回した。


「・・・直明まだ5分あるじゃねぇ~かよ・・・眠ぃんだから起こすんじゃねぇ・・・って」


 視界に天河の姿が映ったのか要約彼女の存在に気が付いた。


「て、天河どうしたんだ?」


 ダルそうに体を起こすと天河と長緒の方へ向き直した。 


「え、えぇっと・・・・や、やっぱりいいわっ、ご、ごめんねっ」


 そそくさとその場を後にする天河の背中を神楽坂達はただ呆然と見送った。



「な、なんだったんだ・・・?」


「・・・・分からん。」


 天河は何しにきたのか、神楽坂と長緒は呆然と見ているだけだった。



 放課後、再び公園に集結した神楽坂、長緒、篠崎、蒼芭の四人。

 今回は星龍も強制拉致し連れてきていた。

 上村は今日は用事があるらしく不参加だ。


「な、なんで自分が・・・別に委員会活動でもないんやろ?」


 篠崎に強制的に連れてこさせられた星龍は集まった面子を見て一体何事なのかと改めて聞いた。


「・・・二日連ちゃんで徹夜はマジ勘弁なんだよ、和がいれば昨日みてーにはならねぇだろ?」


 星龍を軽くスルーし長緒に視線を向けた。


「・・あぁ、これで奴の位置を特定できる。」


 星龍そっちのけで話を進める。

 一向に話が見えないと星龍が喚いていると神楽坂が一発で理解できるように一言いった。


「この周囲を霊視してみりゃあ分かるぜ?」


 霊視?と疑問に思いながら神楽坂に言われた通り周囲を霊視してみると・・・。


「な、なんやコレはっ!?」


 彼の目に映った光景、まるでB級のホラー映画の1シーンでも見ているかのようだ。

 周囲一面に不気味に張られた蜘蛛の糸、霊視している目を閉じると先程までの何事もない風景、星龍は思わず後退った。


「・・・・お前が見た通り、巣を張った妖怪が一昨日から事件を起こしている。」


 星龍は大量の汗を流しながら霊視を解除しベンチに座った。


「星龍、奴の張った糸だが、どのくらいまで達していた?

 昨日この周囲はまだ屋根程度しか張られていなかったが・・・。」


「・・・も、もう屋根どころか地面ちこうまで糸に覆われとったわ。一体相手はなんやねん・・・。」


 星龍の言葉に長緒は考える。

 一つだけ言える事は確実に一般人に被害が出ると言うことだ。

 それも1人2人の話ではない。


「俺らが無駄に時間食ってる中、巣を広げやがったな。」


「・・・もう夜を待っている余裕はない、ということか・・。」


 蒼芭の言葉を星龍を除いた全員が頷いた。

 日没まで数時間、それまでに倒さなければならない。

 篠崎は星龍に鞭打つかのように周囲を霊視させた。


「ひ、人使い荒すぎや・・・。」


 泣き言を言いつつも覚悟を決め霊視する。


 星龍の視界に一面繭に覆われた光景が映る。

 この繭と化している糸自体から妖気が発しており、この中に身を隠している可能性が高い。


「・・・先輩、昨日は巣全体から妖気が発生しとって敵の位置が特定できへんかったんやな?」


 何か分かったのか、長緒はその通りだと返事をした。

 すると星龍の口許がニヤリと動いた。


「敵さんの敗因はワイの存在やな!見付けたで!」


 妖怪を見付けたようだ、ある方向を見据え指を指す。


「その方角は・・学園じゃねぇか!」


 全員走って学園に後戻りとなってしまったが、正確には学園を挟んだ先らしい。

 学園を迂回すると時間を食う為、五人は学園を突っ切ってショートカットする。


 そこである人物と遭遇した。

 その人物は私服姿の天河摩琴だった。


「て、天河!?」


「神楽坂君、それに皆!?」


 互いに驚いた。

 まさか妖怪を追ってこんな場所で委員会が揃うとは思ってもいなかった。


「こ、こんな所で何をしてるんだ?」


 神楽坂は天河に尋ねた。

 妖怪を追跡した先に彼女がいた事は偶然とは思えない、ある程度の予想は容易にできた。


「え、えぇ。最近六学周辺でおかしな事件が起こってるでしょ?それを調べてたの。」


 予想通りだった。

 しかし相手の情報が乏しい中単独で調査するあたり、相変わらず度胸と行動力はあるようだ。


 今度は彼女が神楽坂達に質問してきた。


「皆はどうしてここに?・・あ、もしかして・・・。」


 天河も気付いたようで、言い終わる前に神楽坂達は肯定しつつ各々頷いていた。


「放課後は帰宅するように言われていたはずよ?」


「先輩・・・そりゃ説得力ないでぇ、微塵も。」


 苦笑う星龍に突っ込まれ天河も言葉が詰まった。


「・・・まぁ今更仕方ない、それよりも日没まで時間がない事を忘れるなよ?」


 長緒が苦言を呈し本来の目的を思い出す。


「時間が無いって?」


 途中で合流した天河は状況を飲み込めていない。


「話は後でする、星龍やれるな!?」


「了解や、ほな行くで!」


 精神を集中させると前方の空間が揺らぎ始める。

 これが異界への出入口のようだ。

 星龍の力は異界への扉を開くと言った事も可能なのである。


「さぁて敵陣に殴り込むぜ佐由里!」


「臨む所!」


 血気盛んな篠崎と蒼芭はいの一番に異界へと突撃していく。


「やーれやれ、突撃は俺の十八番なんだがな。」


「・・・この機会に少しは落ち着く事を覚えろ、という事だろう。」


「先輩等はよ行って貰えんやろか、維持すんのえろぉ疲れんのやけど・・・・。」


 苦笑う星龍に詫びを入れつつ残りの三人は篠崎達の後に続くように異界へと侵入していった。






「・・・こ、これは。」


 異界に入るなり天河は驚きの声をあげた。

 風景は先程いた場所と同じだが、異界の中は夜になっているようだ。


「・・・相変わらず異界は気味悪ぃぜ。」


 篠崎は周囲を見回す。

 闇に包まれているにもかかわらず一軒も光が灯っていない。

 辛うじて街灯だけは灯っているようだ。


 異界である以上、人が住んではいない。

 当然の事なのだが廃墟と化しているこの光景は不気味さを感じずにはいられなかった。


「そ、それよりもこの一面を覆ってる白い繭は・・・!?」


「奴の巣です先輩。」


 既に見慣れている蒼芭は腰に差した日本刀を抜刀しつつ天河の前に出た。


「俺達の世界が夜になると、異界からこの巣が境界を越えて現れる仕組みだ。

 しかし街灯が点いてて助かったぜ。」


 神楽坂を始め全員が戦闘体制に入った。

 ここは既に敵陣なのだ。


「星龍、奴の位置は分かるか?」


「ちょいまちぃ・・・。」


 神眼で周囲を霊視すると異界の方が妖気の濃度が低い事に気付いた。

 こちらから異界へ侵入してくる事は全くの想定外なのだろう。

 なので妖蜘蛛の発見は容易にできた。


「あそこや!」


 指差す先を全員が注目した。

 右の二階建て一軒家の屋根、街灯の光も屋根までは完全に届かないので薄暗くハッキリと視認できないが6つの赤い眼光が浮かんで見えた。


 間違いない、妖蜘蛛だ。


「でやがったな!」


 篠崎は抜刀する。

 しかし問題はこの張り巡らせられた糸だ。

 これをかい潜り相手に接近しなければこちらの攻撃は通らない。


「奴の巣をどうにかする必要があるな。」


「そんなもん片っ端から叩っ斬れば・・・・。」


「それは非効率的だ。その間に逃げ回られたらどうしようもないぞ。」


「まぁここで時間喰ってる訳にもいかねぇさ、篠崎!突っ込むぜ!」


 長緒達の制止を聞かずに破砕魂を起動させ神楽坂は篠崎と共に突撃する。


 立ちはだかる蜘蛛の糸を次々に薙ぎ払い、篠崎の術で一気に屋根まで飛び上がる。

 その勢いのまま一撃を加えようとした瞬間、妖蜘蛛は素早く跳び二人の攻撃をかわした。


「チッ、流石に喰らってくれねぇか。」


 巨体に似合わずの俊敏さ、闇雲に突っ込んでも無駄のようだ。

 体勢を立て直し追撃しようと足を進めようとした時、神楽坂に異変が起こった。


「あ、足が動かねぇ・・・・・・!?」


 今まで糸の上を歩いても何の異常も無かったのだが、急に両足が糸に覆われた地面から離れない。

 それは後ろにいた篠崎も同じだった。


「な、なんだこりゃ!?」


 上半身を動かし、めい一杯もがくが微動だにしなかった。

 二人の異常に長緒達は直ぐに気付く。


「・・・・・二人の様子がおかしい。」


 攻撃の際妖蜘蛛から何かしらのカウンターを受けたとは見受けられなかった。

 という事は二人は相手が仕掛けた罠に飛び込んだと推測する事が妥当だ。


 長緒は直ぐ星龍に二人の周囲を霊視するよう指示する。


「神楽坂君!篠崎君!」


「・・・・この巣、やはりただの見掛け倒しではないようだな。」



 星龍が霊視している間、三人は臨戦態勢を維持する。

 神楽坂達を助けに向かっても良いのだが、動きを封じた罠の全容が分からないまま二人の救出に向かうのは危険だ。

 ここはまず星龍の調査報告を聞いてから行動に移すべきだ。


「・・・・・・・・・・。」


 星龍は精神を集中させ神楽坂達の周囲を霊視する。

 最初に霊視した時と同じで神楽坂と篠崎の足元には蜘蛛の糸があるが特に害がある物ではない。

 しかし現に本人達が異常を訴えている事実。


「・・・・・まだか星龍?余り二人をそのままにはしておけないぞ?」


「もうちょい待ちぃ・・・・・」


 何かカラクリがあるはずだ。

 星龍はさらに神眼の出力をあげ神楽坂達の足元を調べる。


 そこで初めて神楽坂達の足元に回りに広がる糸とは性質が異なる糸を見つけた。

 直ぐに性質が異なる糸を集中して霊視すると巧妙に隠された明らかに性質が違う糸、これが妖蜘蛛の本当の巣だ。


「分かったで!神楽坂先輩達の足元に妖蜘蛛の本当の巣が張られとるっ!」


「なんだと?それではこの周りを覆った巣はフェイクか・・・・!?」


「そや、周囲の糸はホンマの巣と自分を隠すカモフラージュと、次元を繋ぐ役割を持ち本巣は昆虫同様獲物を捕らえる為のもんや!」


「そ、それじゃ2人は蜘蛛の巣に捕まった、ってこと・・・?」


「そういう事になるようですね。

 長緒先輩、少々危険ですが二人の近くまで向かった方が良いと思います。」


「・・・・星龍、本巣の手前まで誘導してくれ。」


 救助に向かった自分達まで罠に掛かるわけにはいかない。

 星龍に霊視させながら本巣の手前に移動した。





「くそっ!マジで剥がれねぇ!」


 勢いに乗っていただけに次第にイラ立ちが積もる。


「先輩よ、靴は脱げねぇのか?」


 篠崎は靴を脱ごうとする。

 地面に接しているのは靴なので脱ぐ事ができるはずだ。

 しかし、足は靴から脱げる気配すらない。


 篠崎も気付いたようだ。


「伊達に妖怪じゃねぇってこったな、魂が捕まってやがる・・・・!!」


「マジかよ、俺達まんまと罠にかかっちまったってことか・・・?な、情けねぇ・・・・・・。」


 妖蜘蛛の巣は獲物の肉体だけではなく、その魂を捕らえる事ができるのである。

 体が魂が動かしているに過ぎない、それを捕らえられた獲物は例え巣に接していなくても身動きが取れなくなってまうのだ。


 そこへ神楽坂達がいる民家の直ぐ近くに長緒達が到着した。


「二人共大丈夫!?」


「全く、動く事ができないんだな?」


「ああ、どうやら俺達の魂が捕まってるみてぇだぜ。」


 屋根にいる二人の上半身だけが見えた。


「成るほど、脱出は無理そうだな・・・・・。」


 長緒は顎に指を掛ける。

 魂が捕まっている以上、現状ではどうする事もできない。

 肉体を動かしているのは実質魂だ。


「・・・・魂の解放はあの妖怪を倒すしかないみたいね。

 (私のロザルヘルムであの巣を浄化できればいいんだけど・・・・問題はどう近づくかね。)」


「取り合えずは、妖怪の位置を特定した方がいい、星龍頼む。」


「了解や!」


 星龍は再び精神を集中させる。

 今回は容易に妖怪の位置を発見する事ができた。

 いや、ワザと見つけさせたというのが正しい、その位置は本巣の中心だったからだ。


「巣の真ん中で篭城かよ・・・・・!タチ悪すぎだぜ!」


「奴にしてみれば俺等はもう餌確定も同然、焦る必要はないってことか?」


「ど、どうすんだよ!?俺まだ干からびたくねーぞ!?」


「あの馬鹿・・・・それでも龍虎か・・・・・。」


 とても龍虎双神流、篠崎家次期当主とは思えない言葉に蒼芭は呆れた。


「奴の巣が魂を捕らえる性質を持つ以上、巣の上に乗る事はできない。

 巣に接触せずかつ相手に近づく方法だが・・・・・。」


「私に任せて貰えないかしら。」


 天河は真剣な表情を見せた。


「・・何か策でもあるのか?」


「えぇ、佐由里ちゃん私を連れてあの妖怪の所まで行ける?」


 蒼芭は疑問に思いながらも可能だと返事をした。


「私が妖怪の周囲をコレで巣ごと浄化するから、佐由里ちゃんはその隙に仕留めてちょうだい。」


 そうゆうと胸元から30㎝程の十字架を取り出し握り締めた。


 しかし、他に手が見付からないとはいえ平然と敵の懐に飛び込む作戦を立てるあたり、相変わらず無茶な人だ。と星龍達は思った。

 とはいえ現状ではそれ以外に手立てがない事に変わりはない、危険だが天河と蒼芭に賭けるしかなかった。



「先輩、行きますよ・・・!」


「えぇ!お願い!」


 丁度二人三脚のように蒼芭の肩に腕を回す体制の二人、抜刀した蒼芭の掛け声と同時に神刀白虎から凄まじい気流が発生し二人を空へと吹き上げた。


「天河・・・一体どうするつもりなんだ?」


 下の状況が分かっていない神楽坂と篠崎。

 蒼芭の力で飛び上がって何をするのか、と思った矢先彼女は軌道を変え妖怪がいる巣の中心へ飛び込んでいく。


「む、無茶だ!二人だけで!?」


「・・・先輩よぉ、俺等が人の事言えっとでも思ってのかよ・・・。」


 確かに篠崎の言う通りだった。



「星龍が言っていた方向と距離だとそろそろ見えてくるはずです。

 いや、発見しました!あそこです!」


 刀で差し示すその先には巣の中心でジッと身構えている妖蜘蛛の姿がハッキリと見えた。


「・・・・・・」


 天河は視認した後、両目を閉じ左手に持った聖架に集中し始める。

 その間にも妖蜘蛛との距離は縮まっていき、彼女に肩を貸す蒼芭を初め全員が天河に注目した。


「・・・・貴方のその罪を許し、救いましょう。貴方に神の祝福を・・・・・・・。」


 聖なる詞と共に彼女を中心として光が球状に広がり、その光りに触れた巣もろとも消し去っていく。


 これが彼女の能力の一つだ。

 ‘エクソシズム’エクソシストが使用できる退魔術で悪魔が物体や人に入り込み除霊が困難となった際に使用する唯一の対抗術である。

 今回、妖蜘蛛は魔族ではなく霊的肉体を持った妖怪なのでその効果は低いが、巣や繭を消し去るには十分だった。


「な、なんて暖かい光、これが天河先輩の力・・・・。」


 蒼芭はその暖かい光に自分の役割を忘れかける程心地好い暖かみを感じる光だった。

 だがすぐ役割を思い出す、まだ妖蜘蛛は目の前にいるのだ。


 本巣は民家と民家の間に張られており、天河の力で巣の中心から直径20mの円形に消失し地面に落下している途中だ。

 妖蜘蛛はまだ受け身や糸を出し落下から逃れようといった動きはない。


 その隙を逃す訳にはいかない、左肩は天河に貸しているので大技は使えないため最小限の動きで敵を仕留める事が求められる。


 天河も今の状態では満足に技が使えない事を理解し彼女の腰に両腕を回した。


「助かります!往くぞ、奥義「猛虎襲突破」!」


 空いた左手を前に出し霊気をコントロール。

 水平に寝かせた神刀白虎の力を利用し地面で放った時と大差無い速さで妖蜘蛛に突っ込んだ。


 その一瞬で手応えと同時に違和感も感じる。

 腰に天河の腕の感覚がない、あのスピードに彼女の力が耐えれなかったのだ。


「きゃぁあ~~っ!」


 背後からは天河の悲鳴が聞こえた。

 若干慣性を受けこちらに流されるように落下している。

 蒼芭は切り返すように振り返り間一髪の所で天河を受け止めた。


「だ、大丈夫ですか先輩!?」


「え、えぇ、なんとか・・・・。」


 蒼芭の腕の中で天河は苦笑いを浮かべた。


「・・・二人共無事のようだな。」


 そこへ長緒と星龍が駆け付ける。


「妖怪はどうなってん?」


「心配ない、あそこだ。」


 ゆっくりと天河を地面に降ろし、背後を親指で差し示した。

 そこには真っ二つになった妖蜘蛛が煙を上げながら次第に消滅していく姿があった。



「さ、流石蒼芭はん・・・一撃とは・・・・。」


「いや、天河先輩の力があったからこその戦果だ。あの巣が健在だったら今頃どうなっていたか・・・」


「・・・・・私も役に立てて良かった。」


 少し照れる天河だった。





「・・・なぁ先輩」


「・・・それ以上言うな、虚しくなるだろうが・・・・。」


 妖蜘蛛は倒されたが、巣や繭の効果は持続していた。

 ただ呆然と助けがくるのを待つ事しかできない二人であった。





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