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18:新たな事件



 路地裏

 突然、妖怪の断末魔が聞こえた。

 日も暮れ始め路地裏には既に光が消え薄暗くなっている。

 街灯がついた一本の電柱の前に真二つに斬られ、煙を上げながら消滅していく妖怪の姿があった。


「・・・・あぁ、片付いたよ婆っちゃん。・・・うん、今月に入ってもう12匹目だ。」


 街灯の隣の電柱に背持たれながら携帯で話す男の声が聞こえた。

 声からして青年のようだが、彼がいる電柱には街灯がなく顔を見る事ができない。


 辛うじて腰の辺りまでは見る事ができた。

 登山靴に近い焦げ茶の半ブーツ、黒いジーパンに刀の鞘だろうか、黒い棒を腰に差している。


 青年は何度か言葉で相槌を打った後、携帯を切り腰に差した棒を抜く。

 ここで初めて腰に差していた棒の正体が日本刀だと分かった。

 その刀を専用の竹刀袋に納めると上着の裏ポケットから2枚、白く縦長の紙を取り出した。




 六愿学園男子寮

 学園から数キロ離れた場所にある男子寮、ここは県外から通学する生徒の為に建てられた寮だ。

 女子寮とは学園を中心に対角の位置に建てられている。


 その男子寮に篠崎も入っている。

 篠崎は門限ギリギリで帰宅し寮長から注意されながら自室へと入っていった。


 基本的には二、三人で一部屋を使用するものだが篠崎の部屋はまだ彼一人しか入っていない。

 部屋全体には私物が散乱し、隅に追いやられた2段ベットの片割れには無残にも鞄が投げ込まれる。


 篠崎は備え付けの小型冷蔵庫から缶ジュースを取り出して一口飲むと室内を見回した。


「・・・あいつまだ来てねぇのかよ、少し遅くなっから先に入っとけっつったのによぉ・・・」


 仕方ねぇなぁ。

 と頭を掻きながら机に向かい、ふと自分が使っているベットに視線がいった瞬間、篠崎の動きが止まった。


 ベットの上には制服姿の蒼芭が横になって寝ていたのである。

 篠崎は危うく口に含んだジュースを吹き出しそうになり若干むせた。

 結構声を出してむせたが彼女は気付かず寝ている。

 確かに少し遅くなるので先にいって待っておくように言ったが、まさか寝ているとは予想だにしなかった。


 恐らく篠崎の帰りを待っているうちに睡魔に襲われ寝てしまったのだろう。


 因みに彼女はベランダから篠崎の部屋に入っている。

 元々寮は異性立ち入り禁止であるため正面から入る事ができないからだ。


「・・・・やれやれ。」


 とにかく彼女を起こさなければならない。

 篠崎は近づいて肩を揺らそうと手を伸ばした。


「佐由里、起き・・・」


 肩に触れた瞬間、彼女はピクリと反応した。

 何かに気づいたのか篠崎は顔を彼女に近づける。


 お互いの距離が近づくにつれ蒼芭の寝顔に力が入り、顔も赤くなっていた。


 篠崎は微妙な距離で止まり、ゆっくりとした口調で目の前の蒼芭に言った。



「お前・・・起きてるだろ。」


「・・・!?」


 その言葉に体がビクッと動いた。

 やっぱりな、といった表情で篠崎は無言のまま背後の椅子を引っ張り出して背もたれに両手を置けるよう反対に座った。


 狸寝入りだと看破された蒼芭も無表情、無言のまま体を起こし目の前に座る篠崎に一発拳を見舞った。


「何故っ!?」


「うるさいっ!」


 蒼芭は改めてベットに腰を降ろし両手を組んだ。

 自室で暴れられたら困る篠崎は落ち着かせる為に飲みかけだったジュースを彼女に渡す。

 蒼芭もそれを受け取り一口飲んだ。


「・・・・んじゃ本題に入るとするか。」


 机の引き出しから封筒を取り出した。

 何処にでも売っている安物の封筒で表裏には何も書かれていない。


 その中から一枚の白く細長い和紙を取り出した。

 和紙には一文字「晃」と指で書いたような書体で書かれている。


 篠崎は和紙を人指し指と中指で挟み、軽く集中してから宙へ放るとボンッと煙を上げる。

 宙を舞った和紙は小さな龍へと変化した。

 式神の術である。


 この式神は連絡用の物で、小龍は若い男性の声を発した。

 式神は内容を伝えるとまた煙に包まれ元の和紙へと戻り、「晃」と書かれていた文字も消えていた。

 内容の中で蒼芭にも同じ報告を入れたとあり、彼女も上着のポケットから封筒と取り出して篠崎がやった要領で式神を呼び出した。

 

 内容は最近、博多区を中心に悪霊妖怪の出現が著しく増加しているので注意するように、との事だった。


「・・・悪霊や妖怪が増えている。・・か。」


 蒼芭は左人差し指を顎に掛けて考える。

 しかし福岡にきて間もない彼女には想像が付かなかった。


 真面目に考える蒼芭とかわって篠崎は余り気にしていないようだ。


「考えても仕方ねぇ、何匹現れようが叩っ斬っちまえばいいだけだろ。

 ふー。てか晃夜さんも相変わらず心配性だぜ。」


 身も蓋もない事を言いながら残っていたジュースを一気に飲み干した。

 蒼芭も“心配性”には同意していた。


 そして要約、本題の本題を切り出した。

 それは前回のオリエンテーション時に見せた神楽坂の特殊な力だ。

 あの時二人は「霊質変化」と言った。


「あの先輩は一体何者だ?

 霊気の性質が変化する現象は特定の血を引いていなければならないはず。」


「確かにな。あの眼鏡、今まで隠してやがったな。」


 神楽坂とは中学からの付き合いだ。

 ある程度、神楽坂の力は把握していたと思っていただけに少し頭にきた。


「只の「霊質変化」なら其ほど問題はない、少しでも血を引いていれば覚醒できるかは個人次第だが可能だからな。問題なのは・・・」


「「雷」だな・・・。」


 蒼芭は静かに頷いた。


「霊質が「電気」だった事が問題だ。

 人間が扱える霊質は私や慶のように「風」「水」「火」「地」の四大霊質のみなはず。

 「雷」に霊質変化させる事ができるとしたら・・・2つしか可能性はない。」


「・・・「神」か「妖怪」・・ってか?

 そりゃあの眼鏡の力は妖怪地味てるけどよ、有り得ねぇよ佐由理。」


 軽く否定した。

 中学から神楽坂の事は知っている。

 たまに長緒と共に変わった行動を取ったりしていたが間違いなく彼は人間だ。

 一度本気で喧嘩をし中学で神楽坂共々停学を受けた事がある篠崎だからこそ、そう言い切れた。


「だが人間は「雷」を受け継ぐ事はできない、と聞いている。

 私たちの一族のように「神から血を受け継ぐ」事でもしないかぎり不可能だ。」


「人間に血を与えたのは四武神だけ、だからな。けどあの眼鏡は妖怪じゃねぇ人間だぜ。」


 神楽坂が何故、人間が使う事ができない霊質を持っているのかは分からない。

 本当に人間ではないのか、謎は深まる。


 結局、結論は出ないまま時計は22時を回っていた。

 そろそろ女子寮に戻らなければならない蒼芭は立ち上がってベランダへ向かう。


「それじゃ私は寮に戻る。」


「おう、眼鏡の件、晃夜さんにも連絡しておくぜ。ハッキリさせときたいからよ。」


「頼んだ。・・・それから慶、もうじき中間テストだ。気を抜くなよ?」


 最後の最後で釘を刺され、篠崎は苦笑いながらベランダより飛び下りる蒼芭を見送った。





 翌日、六学周辺である事件が起った。

 事件の全容は全く分からず、一つだけ分かっている事は被害者は生気を失い重体である事だ。


 生気を失う、奪われたと考えると犯人は人間ではない可能性が高い。

 これにより現場に近い六学は切り裂き魔の件を考えて半日終了となった。


 この不可解な事件は翌日も続いた。

 今回は人ではなく鳥の死骸が大量に発見される。

 それは1、2匹の話ではなく一ヶ所で10数匹の雀が無惨にも地面に横たわっていた。


 死因は前回同様、生気を奪われた事による衰弱死である。

 この事件は一見、心の無い人間による犯行かと当初思われていたが、死因が特定され前回と共通する為何らかの関係があると判断された。

 発見された場所も六学からそう遠くなく安全性から事件が解決するまで授業は昼までとなった。


 当然、部活や委員会活動も中止され放課後少し集まるといった事も禁止。

 HRが終り次第、即下校させられるので徐霊委員会も集まる事ができなかった。



 HRが始まる15分前、神楽坂は突如登場したあの長沢に呼び出され廊下に出ていた。 

 六学の女帝が自分に何用なのか、と思いながら彼女の話を聞いた。


「えっと・・自己紹介は・・・いる?・・・ん?」


 彼女の方から名乗ると言っているので、してもらう事にした。


「HRまで時間がないから手短にするわね。

 私は3-2の長沢志穂、特技は・・・・まぁ占いと勘、って所かしらねぇ」


 勘は特技なのか?しかも何だその間は。と神楽坂は苦笑いつつ自分も自己紹介を簡潔に済ませる。

 自分に用があるという事は彼女は既に自分を知ってはいるだろうが、改めて何用なのか尋ねた。


「神楽坂君、あなたこの事件、どこまで調べたの?」


 神楽坂は内心驚いた。

 何故その事を知っているのか。

 長沢はニヤリ顔で、勘よ勘。と言った。


 どうも会話のペースを向こうに持っていかれている。

 何とも相手にし辛い相手である。


 別に隠す必要はない。

 徐霊委員としての意見を聞きに来たのだろうと神楽坂は考え、答えた。

 今思えば委員だから事件の事を調べていてもおかしくは無かったかもしれない。


「昨日帰りに現場に野次馬しに行ったが、悪霊妖怪の仕業とみて間違いねぇと思ってる。

 現状分かってるのはそれくらいだな、なんせ昨日の今日だしよ?」


「まぁ、まだ二日目だしねぇ・・・・。」


 長沢の“二日目”が気になった。

 まるでこの先も事件が続くような言い草まさか彼女が事件に関与しているのだろうか、神楽坂の脳裏をよぎった。


「ち、ちょっと思考止めようか?言って置くけど私は無関係よっ!?」


 神楽坂の考えを見抜いたのか自分は無関係だと主張する。

 しかし彼女の言い方はまるで相手の考えが読めるのか、さては未来を予知しているのか。

 兎に角不思議な女だ。と神楽坂は思った。


「私の占いと勘は良く当たるって評判なのよ。

 それで1つ、校外活動に勤しむ若者にアドバイスをしようと思ってね。」


「わ、分かった、分かった。

 それで?特技が勘の長沢からどんなアドバイスが貰えるんだ?もったいぶらず早い所頼む。」


 早く用を済ませて貰わないとHRが始まってしまう。

 其どころか時間になって尚、席についてない所を担任の山城に見付かったら只では済まない、さっさとそのアドバイスとやらを聞いて切り上げたかった。


 すると長沢は急に真剣な表情になり、神楽坂も釣られて集中した。


「いい?一度しか言わないからしっかり聞いておきなさい。」


 先程までふざけていた彼女から一変する、その口調と言葉は真剣そのものだ。


「・・・この事件、早くケリをつけないと面倒な事になるわね、早期解決が望ましいわ。

 それと今日と明日、徹夜は覚悟しといたほうがいいわよ?」


 そう言うとさっきまでの長沢に戻った。


 一体今の言葉は予言なのだろうか、胡散臭いと言えばそれまでだが神楽坂は少し考える。

 この手の話は長緒が得意だが今呼ぶにも時間がない、もう少し詳しく聞こうとしたが。


「あー駄目駄目、お客様先程の件についての質疑応答は御遠慮くださ~い。」


 と、軽い口調で左手をヒラヒラさせながら踵を返し背中を見せた。

 詳しい事を聞かない事には信用できるのか、できないのか判断ができない。

 神楽坂は引き留めようとするが長沢は一言だけ言って自分のクラスへと戻って行った。




「・・どの“未来”に進もうが其は運命、けど私は最悪の“先”だけは勘弁なのよ。」


 意味深なその言葉が神楽坂の耳に届くことはなかった。 





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