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15:妖蜂の女王

 オリエンテーションも二日目に入り、新入生達も慣れてきたのか昨日程の緊張は見られない。

 悪霊や妖怪も現れる事もなくスケジュールは順調に進んでいた。




「お、見ろよ兎だぜ」


「ホントだ、可愛い~♪」


 結界近くで野兎を見つけた生徒達は都会で見る事ができない光景に笑みを浮かべた。

 野兎は気付いているはずだが逃げようとはせず黙々と青草を食べている。


 これだけで生徒達の心を掴むには十分だった。

 暫くして食事を終えた兎は背中を見せて一足飛び、まるで誘っているかのように此方を振り返る。


「ちょっと追い掛けてみようぜ!」


 生徒が近づくと兎は少し離れてまた此方を振り返る。

 その繰り返しが続き、生徒達は何時の間にか結界を跨いで奥へと入り込んでしまうのだった。




 数時間後、場内を巡回していた神楽坂と長緒の下へ血相を変えた吉原と安堂が走ってきた。


「なに?直明と安堂のグループ3人が朝から戻ってこない?」


「あ、あぁ。野菜を探しに行ったきり戻ってこねーんだよ。」


「な、直明ん所もなの?」


 時刻は既に昼を回っていた。

 食材を探しに行ったにしては確かに遅すぎる。


「・・・・・分かった。直明達は先生に報告を。行方不明の生徒は俺達が探す。」


「何処に行くか言ってなかったか?」


「確か・・・・結界付近に探しに行くって言ってたぜ。」


 結界付近というのが引っかかる。

 若しや面白半分に結界を越えて奥へ行ったのではないだろうか。

 もしそうだとすると早急に彼らを見つけなければならない。


 神楽坂達は急いで結界へと向かった。




 結界。

 面前に樹海が広がるキャンプ場奥には高さ2m程の白木が幾つも埋められ、札の付いた太い締め縄が張り巡らされている。


 この結界はキャンプ場と樹海を二分するように設置されていた。

 しかし、あくまで悪霊や妖怪の侵入を防ぐ事が目的で結界を越えようと思えば容易に越える事ができるので生徒達が奥へ入り込んだ可能性は十分にある。


「・・・・・・・・。」


 長緒は中腰になって右掌を地面につけて精神を集中させた。

 何かしらの手掛かりが掴めるかもしれない。


 後ろから見守る神楽坂は星龍を呼ぶべきか考えていた。

 彼がいれば例えどんなに微弱な霊気でも感知でき、更に増幅して他人と情報を共有する事ができるからである。


 流石の長緒も難航しているようだ。

 やはり星龍を呼ぶべきだとジャージのポケットから携帯を取り出そうとした時、長緒が立ち上がった。


「何か分かったのか?」


「・・・・・・光志、大妖蜂を覚えているか?」


「!?」


 神楽坂の脳裏にあるモノが浮かんだ。

 それは映画に出てきそうな巨大な蜂の化け物。


「・・・・・あぁ、覚えているぜ・・・?」


「今回の件。・・・・奴が絡んでそうだ。」


 手に取った携帯を直し代わりに破砕魂を取り出した。

 二人は無言のまま今まさに結界を越えようとした時、背後から吉原の声が聞こえてきた。


「直明?どうした?」


 吉原は走った疲れで肩で息をしながら行方不明だった三人が無事戻ってきた事を告げた。

 それを聞いた神楽坂は思わず、しおりを開き載せられた地図を確認する。


 この先には硫黄の川を跨ぐ橋があるのだが、架かっている橋は一箇所しかない。

 もし結界を越えたのなら戻る為にもう一度このルートを通り、自分達と鉢合わせしたはずである。


 三人は初めから結界を越えてはいなかった事も考えられる。

 それならそれで良いが少し疑問も残った。


 山には少なからず妖怪は存在する物だが、先程、長緒が感じた妖気が偶然だとは考え難い。

 しかも今回は明らかに覚えのある妖気、そしてその妖気の持ち主も特定できている。

 無関係だとはとても思えなかった。


 神楽坂達は戻ってきたという三人と会う事にした。




 暫くして、三人から話を聞いた神楽坂と長緒はキャンプ場を歩いていた。

 行方不明だった彼らの話では普通に橋を通って戻ったと言うのだ。

 もし、その証言が正しければ自分達と会っていたはず、例え先に橋を渡り此方へ戻ってきていたとしても昼過ぎまで吉原達に顔を見せなかったのか辻褄が合わない所があった。



 日は沈み、キャンプ場中央広場ではキャンプファイヤーが行われていた。

 勿論、除霊委員会は昼間以上に警戒を強める。

 悪霊や妖怪が活発化するのは夜だからだ。



 明かりが殆ど届かず漆黒に沈む結界周辺。

 そこからシャベルで地面を掘るような音が複数聞こえてきた。

 誰かが作業しているかと思われるが一切の明かりがない。


 しかし暗闇から一対の赤い光が三つ、不気味に動き地面が掘り下げられる音と共に上下していた。



「なぁにやってんのかな?」


<!?>


 突然、神楽坂の声と共にライトの光が差し込んできた。

 光に照らし出されたのは昼間行方不明になっていた三人だった。


 三人はシャベルで結界を支えている白木の一本を掘り下げて破壊しようとしていた。


<・・・・・・。>


 三人は手を止めてゆっくりと此方を振り返る。


「光志、何を言っても無駄だぞ。」


「分かってるよ。

 もうネタは上がってんだ、いい加減正体を見せたらどうなんだ?えぇ?女王様よ?」


 神楽坂は破砕魂の柄先を三人に向ける。

 三人は暫く沈黙した後、同時に口を開いた。


<・・・・フフフ・・まさか気付いていたとはねぇ・・・・流石と言う所かしら・・・・?>


 三人から女性の声が同時に聞こえてきた。

 だが、彼らからは強い妖気は感じられない、どうやら操られているようだ。


 神楽坂と長緒は動じる事はなく寧ろ好都合だと余裕の表情を見せた。


「まさか、あの傷で生きていたとはな。」


<・・・・フフフ、詰めが甘かったわねぇ。

 貴方達が私を仕留め損なったせいで今まで何人の人間が餌になった事か分かるかしら?>


「・・・・確かに、貴様を取り逃がしたのは俺達の責任だ。

 復讐する為に現れたのだろうが今度こそ貴様を消滅させてやろう・・・・!」


 二人は臨戦態勢になる。


「その三人はどうせ囮だろ?さっさと伏兵を出したらどうだ?」


 目の前の三人よりも周囲を警戒する神楽坂達に不気味な笑い声が響いた。


<アハハハハッ!流石に同じ手は食らってくれないのねぇ・・・・・!>


 高笑ったかと思うと樹海の方から2mを越す四匹の雀蜂が猛烈な速度で結界の効果範囲に体当たりを仕掛けた。

 その衝撃により力が弱まっていた結界は高圧電線が断線したような激しいスパークを放った後消えてしまい、三人が掘り下げていた白木は耐え切れずに倒れ締め縄も千切れてしまった。


「さぁ、かかってきやがれっ!」


 破砕魂を構え敵に備える。

 しかし四匹の巨大雀蜂は神楽坂達には目もくれず頭上を通過してしまった。


「な、・・・しまったっ!?」


「落ち着け!・・・・・・あの程度の相手なら篠崎達でも十分だ。」


「だ、だがよっ!?」


 長緒はキャンプ場へ飛び去っていく巨大雀蜂を目で追いながら反転し追いかけようとする神楽坂を制止させる。


「・・・あの巨大雀蜂がたったの四匹なはずがない。ヘタに今戻ればそれこそ奴の思う壺、大群が押し寄せてくるぞ。」


 彼の意見は正しい。

 今の巨大な雀蜂が四匹である可能性はかなり低い。

 若しも百匹を越える大群が控えていたらどうなるか、どう考えても生徒達を守れる数ではなかった。


 神楽坂も頭では分かっているようで渋々向き直る。


<・・・・その通りよ、巣にはまだ五万と私の兵隊が控えてるわ。

 留まって正解、もし戻れば一気に兵を送り込んでいたわねぇ。>


「・・・・それで?俺達は貴様の所へ案内して貰えるんだろうな・・・・・・?」


<勿論、今のは余興よ。

 さぁ進みなさい、早く私を倒さないと他の人間共が餌になるわよ?>


 そう言い放つと操られていた三人は緊張が無くなったのか膝からガクリとその場に倒れ、神楽坂と長緒は直ぐに駆け寄った。



「・・・・やっぱりな。」


 気を失っている生徒の首筋には予想していた通り小さな赤い針が刺さっていた。

 昼間、彼らの話を聞いた際に首筋に注目しこの赤針の存在に気付き、今夜間違いなく行動を起こすと踏んでいた。

 

 赤針は女王が持つ毒針とは別の物で、刺した人間を意のままに操る力がある。

 この針のせいで結果、神楽坂達は女王を取り逃がす事になってしまった。


 三人の首筋に刺さった針を抜く。

 特に外傷はなく気を失っているだけだ、暫くすれば回復するだろう。

 長緒は三人を防御する為に光の柱を発生させ包み込む。


「・・・術の持続時間は1時間で限界だ。それまでに片付けるぞ。」


「ああ。」


(篠崎、皆を頼んだぜ・・・・。)



 神楽坂と長緒は大妖蜂のもとへ急ぐのだった。





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