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10:篠崎vs蒼芭

「!?」


 天河はビクっと体の動きを止めた。

 良く見ると周囲に舞う木の葉が無残にも見えない刃で次々と切裂かれ、天河のスカートは鋭利な刃物で数cm程切裂かれていたのだ。


「アイツの霊質と刀は風をはじめ気体を自在に操る力がある。それ以上前に出ないほうがいいぜ、先輩。」


「・・・・・・・・そうゆう事だ。私としても女性の体に傷を付けたくは無い、下がっておいたほうがいい。」


「う・・・・。」


 天河は引き下がるしかない。

 最早二人の間に割って入れる状況ではなく、神楽坂達もただ見守る事しかできなかった。


「さて、これで気兼ねなくやれる・・・・全力でこいよ?」


 篠崎は左親指で鍔を押し上げていた柄を握り抜刀する。

 構えは直立の半身で刀を下ろした下段の構えだ。


「貴様こそ本気を出さないと・・・死ぬぞ?」


 蒼芭の放つ霊気の出力が更に上がった。

 周りには異変に気付いた生徒や教師達が集まり始める。


 篠崎と蒼芭はお互い構えたまま動かない。

 相手の隙と間合いを計っているのだ。


「・・・・・・・・・。」


 篠崎は構えを保ちつつ擦り足で後ろへ下がり転校生との間合いを広げる。


 一見逃げているように見えるがそれは彼女を知り尽くしている篠崎の考えなのだ。

 篠崎の行動に彼女も気付いた。


「・・・なるほど?私の技を考慮してその丘から下がったか、だがその程度の小丘など諸共貫くだけだ・・・・!」


「そうかい?んならやってみろよ?」


 篠崎は再度彼女を挑発する。

 既に桜の木が立つ小丘を降り、彼女からは篠崎の腰から上しか見えてない。


「では望み通り往かせてもらう!!龍虎双神流奥義「猛虎襲突破」!」


 先に動いたのは彼女だった。

 気合と共に力強く大地を蹴り刀の切っ先を篠崎に向け突進する。

 その速度はとても人間の走る速度には見えず瞬く間に桜の木がある丘に到達、それを見計らっていたかのように篠崎も彼女の背後に回り込む為に右へ移動した。


 敵が小丘をえぐり突破したその瞬間に背後から攻撃する作戦だ。

 丘に接近した一瞬彼女の視界は遮られ篠崎の位置を見失う、そこを背後から奇襲するといったものだった、・・・・が。



「甘いぞ・・・!」


「!!?」


 彼女の剣が丘に接触しようとした瞬間地面を蹴り飛び上がる。

 そして桜の木の幹を足場代わりにし三角飛びで上空から篠崎へ向かい飛び込んできた。


「ちっ!!」


 全くの虚を付かれ体勢を整える時間も無く不安定な体勢のまま彼女の強烈な突きを自らの刀で受け止めた。

 その際篠崎の体に負担がかかり激痛が走る。

 痛みが表情にでたのか彼女の力が何故か一瞬抜け、それを篠崎は見逃さず気合と共に彼女の刀ごと押し返した。


 龍虎双神流奥義「猛虎襲突破」とは蒼芭佐由里が最も得意とする奥義である。

 刀と自分周囲に霊気を発生させ、それを纏った状態で敵に向かい強烈な突きを繰り出す技だ。


「はぁ、はぁ・・・・甘いのはお前の方じゃないのか佐由里・・・?」


 彼女の全力を何とか受けきったとはいえそのダメージは大きく、篠崎は息を上げながらスボンに付いた汚れを叩いた。


「・・・・・・そういう慶こそ本気を出していないな?今の手合いで分かったぞ。

 どうして何時も本気を出さない!二年前の夏休みの時もそうだった・・・!

 何時も何時も私ばかり・・・慶は全く私に手を出さなかったな・・・・!?」


「そ、そりゃお前・・・・・・。」


 篠崎は言葉が詰まり彼女もそれでは納得しない。と、刀を納刀し篠崎に詰めより始めた。


「お前?・・・なんだ?」


「う、うるせーな!何でもねーよっ!」


「言いたい事があるならハッキリ言え!これだから何時までたっても龍神として認めてもらえないんだ!」


「んだと!それと此れとは関係ねーだろが!」


「大アリだっ!貴様期限は後2年しかないんだぞっ!それまでに龍神として認められなければ・・・・!」


「認められないとどうなんだよ・・・・?」


「う、・・・そ、それを私の口から言わせるつもりか・・・・・!?」


「さぁ後2年で認められなければどうなるってんだ?」


「き、貴様という奴はぁ・・・・!!」


 何時の間にか痴話喧嘩に発展し、もはや決闘という雰囲気ではなくなっていた。

 全くもって人騒がせなと思い苦笑う神楽坂達と周りのギャラリー。


「さて、どうすんの?」


「また喧嘩になったら洒落にならへんで・・・・」


「も、もうこの場を治めるのは無理みたいね。どうせなら悔いのないよう思いっきりやって貰いましょ?その方が後々もめなくていいでしょうし。」


「マジッスか。」


「出合一本勝負。篠崎が勝った場合あの転校生は除霊委員に入れた方がよさそうだな。」


「せ、せやな。あんな力もっとるんやウチに引き込んだほうが逆に安全かもしれへん。」


「んじゃもしシノケが負けたら一日自由とかでいいんじゃね?」


「そんなんで納得するんかいな彼女。」


「俺だったらするねっ!!彼女を一日自由にっ!」


「お前の意見は聞いてねぇよ。・・・よし、痴話喧嘩もそこまでだお前ら!」



 数分後、篠崎と蒼芭、そして神楽坂達はグラウンドに集まった。

 先程まで口喧嘩していた二人は中央に立っている。


「だから貴様は何時までたっても後継者として選ばれないんだっ!!」


「何言ってやがる!選ばれたからこの神刀「龍閃」を持ってるんじゃねーかっ!」


 仕切りなおしの為に移動したグランドでも口喧嘩は続いていた。


「二人共いい加減にしなさいっ!」


「・・・!」


 今度は天河の一喝が二人の耳に響いた。

 彼女の気迫ある声に今まで繰り広げられていた口喧嘩は収まり、二人の視線が此方を向いた。


「・・・まったく、一体何時まで続けるつもりなの?今は授業中だってこと忘れてるようね?」


「あ、いやそれは・・・・・・。」


 天河の言葉に蒼芭はハっとさせられた。

 今まで篠崎と喧嘩をしていたが今は1限目である事を思い出す。

 周りを見ると、険しい表情で腕を組み此方を睨んでいる生活指導の教師もいた。


「先生の事は気にするな、「転校生にとりついた悪霊の退治」という名目にしている。」


 長緒は二振りの木刀を二人に手渡した。

 実はグランドへ移動する際に武道場へ寄り木刀を二本借りてきていた。

 真剣では万が一の危険がであり、今更であるがお互いに本気を出させる為の配慮である。


「何時までたっても終わりそうにないからな。お前等には出会一本勝負をやってさっさと勝負を付けろ。ただし転校生のお前が負けた場合、俺たち除霊委員会に無条件で入って貰う。そして篠崎が負けた場合は・・・・定番の「一週間篠崎を自由にして良い権利」をやる。それでどうだ?」


「期間が増えとる・・・・。」


「・・・ってか俺負けたら一週間もかよ!?」


「勝てばいいんだよお前も少しは本気ってヤツを見せてやれ。ヘタに手加減は相手を不快にさせるだけだろ、技量的にも同等なら尚更だ。」


 神楽坂の言葉に篠崎は頭を掻き、受け取った木刀を左腰に差し鍔下を握った。

 蒼芭も木刀を受け取り腰に差していた刀を自分の近くに置くかと思われたが、わざわざ篠崎の刀の直ぐ隣に寄り添うように置いた。

 結局の所2人は仲が良いのか悪いのか分からない関係なようだ。


「・・・・仕方ねぇ、正真正銘の全力でいくぜ佐由里っ!!」


「こいっ!慶斗っ!!」


 お互いの掛け声の後、同時に地面を蹴り木刀を構えながら駆け出した。

 蒼芭は先ほどと同じ木刀を地面に水平に寝かせた中段の構え「龍虎双神流・猛虎襲突破」を放つつもりだ。

 対する篠崎は木刀を腰に戻し抜刀術の構えで対抗する。

 二人の距離が縮まり先に転校生の間合いになったのか木刀から霊気の気流を発生させ自らを包み出す。 相手の反撃を弾き攻撃に集中させる為だ。


 続いて篠崎が自分の間合いになった。

 と、同時に彼も同様に霊気の気流を発生させ自分を包むように体を宙で捻る、遠心力を利用した抜刀術である。

 敵に背中を見せる弱点があるために霊気の気流で防御する。

 また敵の攻撃を流水のように受け流してのカウンターや霊気を纏った体当たりとしても有効である。


「おおおおおっ!!」


「はぁあああああっ!!」


 気合と共に互いの霊気が激突、激しい閃光と衝撃が二人から発生させられる。

 技の性質上相手の霊気の壁を破らなければならない、勝敗はこの激突で決まるのだ。


 特に篠崎の技は宙に浮き遠心力を利用している技の為地面に足が付くとその技の力が大幅に下がりその体勢から逆に不利になってしまう。

 相手の障壁を破る前にでも一撃を加え、障壁諸共彼女に一撃を与えたい篠崎は強引に体を捻り遠心力を加えた一撃を放った。



「奥義、龍殺旋!!」


「奥義、猛虎襲突破!!」


 双方の技が決まり一堂が息を飲む。

 二人も全力を出し切り背中を向け合いながら残心。


 勝ったのはどちらか、または相討ちか様子を見守る。


「・・・・・ぐっ。」


 突然、篠崎が左肩を押さえながら片膝を地面につけ、蒼芭はゆっくりと篠崎に向き直った。


「シ、シノケが負けた・・・・?」


「や、やっぱ強いわあの転校生・・・・。」


「・・・す、凄い。」


「・・・・「点」に「面」で当った結果という所か。」


「だが、あえて同じ技でなく自分の技で挑んだ所は評価できるな。」



「・・・・・大丈夫か慶?」


「また、腕を上げたじゃねぇか。」


 蒼芭は片膝を付く篠崎に右手を差し伸べ、彼も憎まれ口を叩きながら手を取り立ち上がった。

 勝負は蒼芭の勝ちとなり「一週間篠崎を自由にできる権利」を手に入れた。


「シノケを倒すなんてなかなかやるねぇ可愛い子ちゃん?」


「可愛い子ちゃん!?」


「上村、お前は少し黙ってろ、話がややこしくなる。」


「とりあえず、これで気が済んだかしら?」


「・・・・・・あの、除霊委員会の委員長というのは・・・?」


「ん?私だけど?」


 突然、委員長の事聞いてきた蒼芭に天河は微笑みながら答えた。


「篠崎慶斗を一週間自由にする権利とやらはいらないので、私の方から除霊委員会に入れて貰えないだろうか・・・?」


 蒼芭の提案に意外な顔を見せた。

 上村は表情を輝かせ、対象的に星龍と篠崎はショックを受ける、なにせ除霊委員会に入るという事はヘタをすると一週間自由にされる所かこれからずっと彼女の尻に敷かれる可能性があるからで、星龍もその二人の喧嘩に委員会でも巻き添えを食らうのかと激しく肩を落としていた。


「マ、マジでいってんのか!?佐由里!?」


「あぁ、除霊委員会ならば気兼ねなく剣を振るえるしな、それに慶、お前の修行にも付き合うぞ?」


 蒼芭は頭を抱える篠崎に僅かに笑みを見せながらも、その鋭い目は神楽坂と長緒を捉えていた。

 その視線に二人も気付く、別に殺気は感じられない、彼女の剣士としての感性が自然と彼等を捉えていたのである。

 それは自分以上の技量をもつ相手として無意識での事だったのだろう。


「私は大歓迎だけど、皆はどう?」


 委員長である天河は他のメンバーに伺いを立てる。

 神楽坂や長緒は別に異論はないようで問題の篠崎と星龍もここで反対すれば後が怖いと悟り反対はしなかった。


「それじゃ決まりね?貴女の六学除霊委員会への加入を認めます。では改めて自己紹介をお願いできるかしら?」


「では、2年14組、蒼芭佐由里です。よろしくお願いします。」


 蒼芭は一同に向かい一礼した。


 こうしてドタバタの内に新たなメンバーが参入しまた波乱が巻き起こりそうで気が気でない篠崎と星龍であった。




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