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9:謎の女剣士

 早朝、除霊委員会室には長緒と篠崎が朝直の為に登校していた。

 室内を見ると前回よりかは片付いた印象を受けるが、まだ散らかっている場所も見受けられる。

 二人が座っている長机にはポットと急須、人数分の湯のみ、パイプ椅子が揃えられていた。


「・・・篠崎、湯が無くなったら水を入れておけよ。」


「へいへい、分かってんよ。」


 長緒はお茶を飲みまくる篠崎を戒める。

 篠崎は椅子に座り窓から外の景色を見ながらチラリと長緒の方を見た。


(椅子に座ってからずっと無言で読書かよ・・・・相変わらずと言うかなんつーか暇すぎて死にそうだぜ)


 長緒はパイプ椅子に座り足を組みながら小さな本を読んでいる。

 ジッとしている事が性に合わない篠崎にとっては凄まじく退屈で仕方がない。


 こういう時こそ復習や予習等に充てるのが有意義な時間の使い方というものだ。

 しかし、篠崎にそんな考えがあるはずもなく、お茶を飲んで時間を潰していたのだった。


 目線を文面に落としていた長緒が篠崎の視線に気づいたのか顔を上げた。


「・・・・・・・見るか?」


「見ねぇえよ!!」


 篠崎は速攻で拒否った。


 長緒は一言そうか、と言うとまた手元の小説へ視線を落とした。

 誰が活字ばかりの本なんぞ見るか、と思いながら湯のみを片手に一口お茶の飲み外を見た。


「!!?」


 その瞬間、篠崎はある気配を感じとった。

 それは妖気等ではなく、ただの霊気とも違うようで後ろで小説を読む長緒は全く気付いている様子が無い。

 直ぐに別の可能性が頭に浮かび自分の荷物を入れているロッカーに視線を向ける、すると薄っすらと光が漏れ出していた。


 ロッカーから漏れていた光は数秒後に消え、気配も消えていった。


「・・・・・・どうかしたのか?」


 篠崎の様子に気付いた長緒は目線を此方に向けている。

 先ほどの気配にはやはり気付いていないようだが、当の本人は地面をみながら顔を青ざめさせ、更には冷や汗までかいていた。


「い、いや・・な、なんでもねぇよ!!?」


 明らかに様子がおかしい篠崎を不振に思いながら、どうせ宿題でも忘れたんだろうと長緒は予想し大して気にはしなかった。

 しかし、篠崎は落ち着きがないようで窓際に立って外の様子を良く見回した。


(お、落ち着け俺!ア、アイツが福岡に来るわけが・・・・!!?)


 とりあえず外も異常は無いようだが、篠崎は異様に怯えていた。

 その後、朝直が終わり篠崎は落ち着かないまま自分のクラスへ戻っていった。


「・・・・・・・・・そんなに忘れた宿題がマズいのか・・・。哀れだな。」


 篠崎は重要な宿題を忘れたと思っている長緒であった。




-2年14組

 HRが始まっても篠崎は落ち着かない。

 担任から連絡事項が伝えられているが、彼の頭には一切入っていなかった。

 その様子にテレパスを送る星龍だったが、篠崎は自分でブロックしているのか念話する事は出来なかった。

 仕方なく星龍はノートの切れ端にどうしたのか書いて近くの友人に篠崎へ回してもらった。

 切れ端に気付いた篠崎はぎこちない手で文字を書き、紙を丸めて星龍へ投げ返す。

 頭に当たり床に転がった紙を拾い上げて内容を見るとそこには。



「もしもの時は骨を拾ってくれ。」


 と、だけ書かれてあった。


「・・・・何やこれ。」


 勿論、星龍には意味が分からない。

 しかし、冗談にしては篠崎の様子がおかしい事も事実だ。



「今日は皆に転校生を紹介する。」


「!!??」


 担任の連絡事項は全く耳に入れていなかったが、その一言だけは篠崎の頭に響いた。

 その言葉を聞くやいなや、篠崎はいきなり窓を開け飛び降りようとし、一同が視線を向けた。


「な、何しとんのやシノケッ!!!」


 篠崎は飛び降りるというか、兎に角この場から逃げ出したいようだ。

 その時、教室の扉が勢い良く開いた。


 篠崎はその体勢のまま扉に視線を向け、それに釣られるようにクラスメイトも視線を向けた。

 そこにはダークグレイの長髪の女子生徒が立っていた。


 恐らく彼女が転校生だ。

 星龍は再度篠崎を見ると彼の顔は青ざめ汗がダラダラと流れていた。

 突然の転校生と何か関係でもあるのだろうかと星龍は思った。


 教室内は異様な空気に包まれ誰も動こうとしない、篠崎も飛び降りる体制のまま固まっている。

 女子生徒は呆れたように息を吐いて言った。


「やれやれ・・・・・とりあえず自分の席に座ったらどうだ?慶?」


 包帯のような布を巻いた左手を腰に当て、右手は剣道の道具を肩に下げる女子生徒。

 凛としたその目、背も高くクラスの女子の中で一番の長身、あっという間にクラスの男子女子を虜にしてしまうほどの魅力がその女生徒にはあった。


 女子生徒に言われ、篠崎は窓枠から足を下ろして席には着かずその場で立ったまま彼女を見た。


「ひ・・久しぶりだな・・さ、佐由里・・・?」


 篠崎は表情を強張らせ声が震える。

 彼女の名前は「蒼芭佐由里あおばさゆり」以前までは京都の高校に通っていたが篠崎を追ってこの六学へ転校してきた。


「・・・・そうだな。本当に久しぶりだ・・・・。」


 ゆっくりと言いながら蒼芭は荷物を降ろし、竹刀袋を胴着入れから抜くその動作を全員が見守った。

 篠崎は彼女の行動が予想できずにその場に立ち尽くしている。

 何をしているのか分からない生徒と担任は彼女の動作を目で追った。

 彼女は紐で括った竹刀袋の口を広げ擦り下げると・・・・・


 何と日本刀の柄が出てくる。


「か、刀!!?」


 と、星龍を初め全員がそう思っただろう。

 そして彼女の右手は刀と思われる柄をゆっくりとした動作で握り締めた。


「ま、待て!?さ、佐由里・・・っ!?」


「問答無用ーーっ!!」


「!!!??」


 その数秒後、爆発と爆煙が上がりクラス内が吹き飛んだ。




-中央広場

 高等部の丁度中央にある広場である、中央部には大きな桜の木があり昼休みにはこの木の下で昼食を取る生徒も多い。

 あの爆発後篠崎は竹刀袋片手に命からがら逃げおおせていた。


 勿論、現在は1限目中である。


「や、や、や、やべぇ・・!!?マジで佐由里の奴が来やがるとは・・・!?」


 篠崎は桜の木を死角にするかのように木の裏に背中を付け息を荒げていた。

 何故これほど彼女を恐れるのかは不明だが、篠崎のうろたえ様からそれほど恐ろしいのだろう。

 時折木の端から顔を覗かせ様子を見た。

 彼女がこの学園の構造を知らない事が幸いし、自分を発見する事は困難であると思ったのか幹に背もたれ一息ついた。

 と、同時に何故今になって六学に転校してきたのかを考える。


「やっぱ、あの事怒ってんだろうなぁ・・・・。」


 地面を見ながら顔に手を当てる仕草をした。

 頭の中である出来事を後悔する、それが何なのかはまだ分からない。

 ただ彼の頭に断片的に浮かぶイメージ、顔を赤くし額には濡れタオル布団に寝込んで咳をする小さな女の子が浮かんでいた。


「何してんの?シノケ?」


「な、なんだ、お前等かよ。」


 それは上村を初め神楽坂達、除霊委員会であった。

 続いて埃だらけになった星龍が篠崎の前に出てくる。

 何を言いたいかは彼の姿を見れば一目瞭然だった。


「な、なんやねん!さっきの転校生は!?」


 星龍の言う事は最もだ、転校初日から篠崎との因縁?でクラスで暴れられては堪らない。


「い、いや・・ただの幼馴染なんだけどな・・・・。」


 篠崎の顔は引きつっていた。


「そんでいきなり暴れられたら堪らんわ!」


「いきなり凄い霊気が発生したから皆集まったんだけど・・・・悪霊や妖怪の類じゃなさそうね。」


 苦笑う天河だが篠崎は彼女の言葉に反論した。


「先輩アイツを甘く見ねぇ方がいいぜ、たった数年で後継者まで上り詰めた程の剣の腕!まるで悪鬼のような形相!!只のデカイ女だと思ったら大間違・・!!?」


「・・・・?」


 篠崎の反論に一同苦笑いながら聞いていたが突然篠崎が固まった。

 目は見開き、前方から視点を逸らす事ができず嫌な汗がこめかみから頬を伝う。

 篠崎が背にしている桜の木越しに伝わる凄まじい殺気に戦慄しているのだ。


 神楽坂達もその殺気に気付いたのかその方向を見据えた。

 桜の木から25m程先に先ほどの転校生が立っている、所持しているのは鞘に収めた日本刀。

 その日本刀から直ぐに篠崎の幼馴染という意味を理解した。

 が、上村だけは彼女が持つ日本刀には目もくれず、彼女の顔とスタイルだけを見ていた。


「凄げぇ可愛い子ちゃんじゃん・・・・シノケ!何処が鬼の形相+デカイ女だよ!!!」


「・・・どこ見てんだコイツは・・・」


「・・・全くだ・・・。」


 苦笑う神楽坂達。


「カミさんはまだ中身を知らねぇからそう言えんだよ・・・・!」


 篠崎は観念したのか左手で刀を拾うように立ち上がり、転校生である彼女に姿を見せた。


「ほう、観念して出てきたか。では本気で往かせて貰おうか・・・・!!」


「・・・・・!!」


 蒼芭は激しい霊気と風を発生させ、上着のポケットから紐を取り出し長い髪を後頭部で結う。

 続いて左手の布を解き勢い良く額に巻き締め、何時でも抜刀できるよう左親指で刀の鍔を押し上げた。


「な、なんちゅー霊気や・・・!!?」


(此れほどとはよ・・・・中坊ん時一度会った時とは比べモンにならねぇな・・・・。)


 一筋の汗が篠崎の頬を伝う。

 彼も彼女に霊気負けしないように精神を集中させる。

 まさに一触即発の状況に天河が意を決して一歩前に出た。


「ふ、二人共!ここで戦う事は許さないわよ・・・・!」


「・・・・・・・・邪魔しないで貰おう、コレは私とヤツとの問題だ。」


 蒼芭は天河の戒めにも動じずに視線は目の前の敵である篠崎から外さない。

 篠崎も激突は避けられないと戦闘態勢になり更には彼女を挑発し始めた。


「抜刀?お前抜刀術は得意じゃねぇだろ、俺を舐めてんのか?・・・・抜けよ。」


 篠崎の挑発に不敵の笑みを見せた蒼芭は抜刀し地面に水平に刀を寝かせる体勢をとる。

 上村と星龍はゴクリと生唾を飲み込んだ、篠崎と蒼芭の拮抗した霊気がそうさせたのだ。

 天河もこんな所で私闘させる訳にはいかないと、再度二人に警告を出そうとする。


「い、いい加減に・・・・!!?」


 更に前に進もうとした時、霊気の荒れで起こった気流に気付いた神楽坂は天河に向かい叫んだ。


「天河!それ以上進むな!」


「!?」


 天河はビクっと体の動きを止めた。

 良く見ると周囲に舞う木の葉が無残にも見えない刃で次々と切裂かれ、天河のスカートは鋭利な刃物で数cm程切裂かれていたのだった。




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