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8:動き出す人体模型

 太陽が昇り始め日の光が学園に差し始めた朝、除霊委員会棟に明かりが灯っていた。

 前回、切り裂き魔の悪霊を退治してから除霊委員会が正式に認められ、本日より早朝警備が開始されたのである。


 委員会室には今日の朝番担当である神楽坂と天河の二人が座っていた。

 早朝警備は二人ずつ交代で、順番はクジ引きで決めていた。


 室内の掃除はしておらず、机や椅子はバラバラに並び埃も大量に積もっている。

 なので二人は室内の前半分に雑巾で拭いた机と椅子を並べて座っていた。


「・・・・早い所、掃除した方が良さそうだな。」


「じ、時間がある時にでも少しずつ片付けましょ・・・・。」


 二人は座ったまま室内を見回し苦笑いを浮かべた。


「だな・・・・。」


 片付けにはかなりの時間が掛かりそうだと思う神楽坂だった。


 特に会話する事も無く無言が続いた。

 気まずい雰囲気が流れる、数日前まで二人は殆ど面識がない状態だったのだ。

 こうなる事は仕方が無いのだが、何か話題は無いものだろうか。


「そ、そうだ。神楽坂君、今年もあるみたいよ?」


 話題を探していたのは彼女も同じだったらしく、鞄から一枚のプリントを取り出して神楽坂に見せた。

 プリントの頭には「一年生歓迎オリエンテーション」と書かれていた。


「・・・・・今年もあるのかよ。」


「ウチの学園ハードだもんね・・・・・。」


 二人はプリントを見るなり苦笑った。


「・・・・去年の悪夢が甦る・・・。」


「そ、そうなの?」


「去年組んだ一年がよりにもよって篠崎と上村でさ、夕食一匹も魚が釣れなくてな・・・・

 ま、まぁ健ちゃんから分けて貰えたから良かったんだが・・・。」


「で、でもご飯とかだけでもあったんじゃ・・・」


「上村が飯盒はんごうこぼしてさ、おじゃんだよ。」


「そ、そうだったので、でも今年は多分大丈夫よきっと!」


「・・・・一昨年も良い思い出がないんだが・・・・。」


 神楽坂は遠い目をしながら外の景色を見た。

 去年は魚が一匹も釣れず、ご飯担当だった上村は他の女子生徒に見惚れ、出来立ての飯盒を溢してしまい長緒から分けて貰わなかったら夕食無しになる所だった。


「そ、そんな遠い目しないでよ。

 今年は私達除霊委員会に所属している訳だから神楽坂君が心配している状況にはならないと思うよ?」


「だといいんだがな・・・・。」


 今日の所は特に異常はなく、時計が8時を指した頃には二人共自分のクラスへと戻っていった。

 そうそう霊障は起らないのだろう、何せ40年は静かで先日の事件も偶然起っただけに過ぎないかもしれないのだ。


 そして昼休み、神楽坂達は掃除も兼ねて委員会室で昼食を取っていた。

 少ない時間で室内全てを掃除する事は無理なので出来る範囲で片付けていた。


 昼食中の話題は「オリエンテーション」の話で持ちきりだった。


「あの時はてめぇ等がヘマしやがったからあんなひもじい目に遭ったんだろうがっ!!」


 神楽坂は目の前に座る篠崎と上村に向かって叫んだ。

 近くに座る長緒と天河、星龍は耳を塞いでいた。


「何いってやがるっ!先輩こそ一匹も釣れなかったじゃねーかよ!!」


 篠崎も負けずと応戦。


「まぁまぁ、過去の事持ち出してみっともないよ?二人共。」


「「女に見惚れて飯盒落としたヤロウに言われたくねーよっ!」」


 「一年生歓迎オリエンテーション」は毎年行われている行事で、内容は他の学校等と変わらないのだが、唯一食料は「自給自足」である事が特徴だ。

 自給自足の名の通り食料は山にある物だけのみな為、食糧確保は過酷を極める。

 班は1年生と2、3、4年生混合で一組となり在校生達も今まで交流がなかった同士親交を深める事が目的である。

 同行する委員会、教師達も条件は同じで自分達で食料を調達しなければならない。


 やれやれといった表情で長緒達はゴミを片付ける。

 時計を見ると残り15分を切っていた。

 そろそろ戻らなければならないとしていた時、廊下から数人の声が聞こえてきた。


「こ、ここでいいんだよな!?」


「い、いいんじゃね?除霊委員会って書いてあるしよ。」


 そんなやり取りが聞こえてきた後、勢い良く扉が開き二人の男子生徒が慌しく入ってきた。

 その様子に何か起ったのかと天河は問いかける。


「何かあったんですね?」


「せ、生物室の模型がと、と突然動き出して・・・!?」


 天河の言葉に二人は勢い良く顔を盾に振った。


「こらまたありきたりやな。」


「動く模型かまるで学校の怪談に出てきそうだよね。」


「それじゃ行くか・・・・・!」


 現場に向かうために各自立ち上がる。

 突然動き出したという模型が置かれた生物室は「第二生物室」との事だった。




-第二生物室

 A校舎にある第二生物室。

 生物室を初め特別教室は2教室以上存在する、それだけ生徒数が多いのである。


 神楽坂達が到着すると第二生物室前には大勢の生徒達が群がっていた。

 人ごみを掻き分け前に進むと前方から数名の悲鳴が聞こえ、それと同時に鈍く低い声が聞こえてきた。

 恐らくこの不気味な声が突然動き出したという模型なのだろう。


 何とか生徒達を掻き分け前に出ることができた、そこで神楽坂達が見たものは・・・・。


 <ア゛あ゛~~待てェぇ~・・俺ノ心臓ヲ 見ろォぉ~~>


「やかましいっ! んなキショクわりぃモン見せんじゃねぇぇっ!!」


「いやぁぁぁ! こっちこないでよ~~!!」


 自らの心臓を取り出し、逃げ惑う生徒達を執拗に追い回す人体模型の姿があった。

 只の模型ならば其処まで気持ち悪くないのだが、低級霊か妖怪でも入り込んでいるのかエクトプラズムが模型全体を覆い、あたかも生きているかのような生々しい質感を出していた。


 しかし、やっている事がくだらなさすぎるので神楽坂達はその場で立ったまま呆然としていた。


「く、くだらねぇ・・・・・・。」


 神楽坂達が思っていた事を篠崎が一番に口にした。


「どうせなら女の子の模型がよかったなぁ・・・。」


「女子の模型なんぞあるわけないやろ。」


「・・・・・取り合えず害はそこまでなさそうだが、どうする?」


 神楽坂は苦笑いながら隣の天河に指示を仰いだ。

 依然、二人の男子生徒は人体模型に追われ生物室と廊下を行ったり来たりしている。

 今の所、人体模型は自らの臓器を見せびらかせ相手を怖がらせているだけだ。

 危険性は低そうだが、これ以上被害が広がる前に早期解決が望ましい。


 模型の中の霊を退治するには周囲のギャラリー達が邪魔だ。

 それに生物室や廊下では満足に動く事ができない。


「第一体育館に誘導しましょう!今なら昼休みにいた生徒達も殆ど居ないだろうし、仮に授業があっても前もって報告しておけば良いと思うわ。」


 天河の提案に長緒も相槌を打った。

 作戦も決まり、すぐさま神楽坂が生徒達と模型の間に割り込んだ。


「そんなに見せてぇなら俺に見せてみろよっ!」


 神楽坂は人体模型に向かって叫んだ。

 声に気付いた模型は立ち止まり、ゆっくりと神楽坂の方を向く。

 釣れたと感じA校舎の隣にある第一体育館へ間合いを保ったまま誘導を開始した。




-第一体育館

 第一体育館は渡り廊下でA校舎と接続している。

 体育館も第二まであり、この第一体育館は高等部全生徒を収容できる大きさを誇る。


 神楽坂と人体模型が体育館内に入ると、館内に残っていた生徒達が悲鳴を上げて逃げていった。


 「さぁて、ここなら思う存分動けるぜ。」


 腰から剣の柄を取り出して構えた。

 神楽坂が持つ武器は「破砕魂はさいこん

 通常は柄の状態で、使用時は霊気で構成された霊刃を発生させる。

 正式名は「ディヴァルグヘイム」で破砕魂とは神楽坂が自分で付けた名前である。


 長緒達も模型を逃がさないように放射状に取り囲んだ。

 人体模型は突然広い場所に出た事に困惑したのか周囲を伺っていた。



 「女の子の模型だったらなぁ・・・」


 上村はまだ愚痴を言っていた。


 「ぶった斬るか・・・・!」


 篠崎は親指で刀の鍔を押し上げて臨戦態勢、今にも斬りかかろうとしている。

 確かにこの程度の霊を退治する事は容易だが、一つ問題がある事に天河は気付いていた。


 もし、篠崎が霊刀で模型を一刀両断にしたとする。

 霊を退治する事はできるかもしれないが人体模型そのものを破損させる可能性があった。

 備品を破損させるのは非常にまずい。


「備品を壊すわけにはいかないわね・・・篠崎君、皆、まだ手を出さないでね。」


「手だせないならどうするのさ?」


 模型内部にいる霊を倒す為には模型諸共攻撃しなければならない。

 それ以外に方法がない事は皆分かっていた。


「・・・・無闇に攻撃せず、霊が入り込んでいる箇所のみを攻撃すれば被害は最小限になる。」


「星龍君!模型の中に入り込んでいる霊の位置は分かる!?」


「ちょい待ち!」


 星龍は人体模型を霊視する。

 しかし、何時までもジっとしている訳もなく、模型は次の標的を探すべく周囲を見回した。


「和っ、急げ!ヤロウ動きだしやがったぜ・・・・!」


 叫びと同時に篠崎は模型と目が合ってしまい、嫌な予感がした。

 その予感は的中し模型は自らの内臓をブチマケ篠崎の頭から其れを浴びせた。


「ぎゃああああああ!!」


 模型とはいえ低級霊の霊体により生々しく変化した内臓は篠崎を失神させるには十分だった。

 篠崎はその場で倒れ戦闘不能。

 流石に神楽坂達も同情する。


「む、惨い・・・」


「・・・・・成仏してなシノケ。」


 因みに「シノケ」とは篠崎のあだ名である。


「分かったで!頭や!」


 星龍の報告に神楽坂は霊刃を発生させた。


「必要以上に壊さないでね!?」


「任せろ!」


 破砕魂を構え、人体模型を自分の間合いに入れる。

 模型は危険を察したのか腕を腹部へと入れズルズルと腸を引き出し、頭の上で振り回して神楽坂に向かい投げつけた。

 だが、神楽坂は軽く其れを回避し霊刃の先を突き壊すのではなく模型の額に加減して突きつける。

 そして霊気を模型内に流し込み内部にいる低級霊のみを消滅さた。


 模型は断末魔と水蒸気のような煙を出しながら元の無機質な人体模型へと戻り、篠崎に被っている内臓も煙と共に元に戻った。


 神楽坂は霊刃を解除し、破砕魂を腰のホルスターに戻す。

 機転により人体模型は無傷のまま回収することが出来た。

 天河委員長も安心したようだった。


 人体模型の精神的攻撃をまともに食らった篠崎はまだ気絶していた。


「まだ寝ているのか篠崎は・・・・」


「仕方ないねぇシノケは、ほら愛しの人体模型と添い寝させてやるよ。」 


 上村は元に戻った模型を篠崎の顔の直ぐ近くまで接近させる。



 

 その後、直ぐに目を覚ました篠崎は目の前の模型に悲鳴をあげ手に持っていた日本刀で思わず頭部を破壊してしまい、本末転倒になってしまったのだった。


「ち、ちょっとどうするのよコレ・・・・・」


「な、なんか代用できる奴ねーかな・・・・。」


「天河先輩ごめんよシノケが張り切り過ぎて・・・・。」


「カミさんが悪いんだろうがっ!!」


 神楽坂の手には頭部を縦に真っ二つになった人体模型があった。

 最早修復不能な状態にまで破損していた。


「・・・・やれやれ。」


 苦笑う長緒と星龍だった。




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