第53話:限界と拡張
王都の空と、街の至る所に配置されたマギフォンから、私の声が響き渡っていた。
「王都の皆、そして僕の実験を邪魔し続けた教団の諸君。少しばかり、耳を貸してほしい」
私はマギフォンの送話口に向かって、淡々と事実を告げた。
先ほど王都を襲った魔物の大群、スタンピードは神の怒りなどではない。異世界の自然界ではあり得ないエネルギーを人工的に操作したことによる避けられない物理的な代償、ただのエントロピーの漏洩に過ぎないこと。
そして、あの巨大なバケモノを消し飛ばしたのは教団の祈りではなく、私たちが放った電磁投射砲という、極めて論理的な物理兵器であること。
「非科学的な奇跡という言葉で民衆の目を塞ぎ、世界を停滞させてきた教団の時代は終わった。僕はこれより、古い常識を物理学で書き換える」
私の揺るぎない論理と、バケモノを消し飛ばしたという絶対的な結果を前に、教団の欺瞞は完全に暴かれた。
空に浮かぶ飛行船は沈黙し、王都中から私に対する熱狂的な歓声が地鳴りのように響いてくるのが地下施設まで伝わってきた。
「よっしゃあっ!情報戦も完全勝利だぜ!」
「レイ様、すごいです!王都中の人が私たちの味方です!」
第4廃校舎の地下施設では、リックとアリスが歓喜の声を上げていた。
メインフレームに接続されたヴォイド・コアは安定してテラワット級の電力を供給し、計器の数値はすべて正常。
いよいよ本番、地球へ重力波の論文を撃ち込むオペレーション・グラビティ・ウェーブの開始かと思われた。
しかし、私はコンソールの数値を睨んだまま、冷酷な事実を口にした。
「いや、まだ実験は始められない。計算上、直径三十メートルのこのリングでは、地球に届くレベルの重力波は作れないんだ」
「えっ……?どういうことだよ、レイ。電源もコイルも完璧に揃ったじゃねぇか」
リックが戸惑ったように聞き返してくる。
私はコンソールのモニターに、リングの軌道計算のシミュレーション結果を表示させた。
「高エネルギーの粒子を、この狭い円周で無理やり曲げようとすれば、遠心力によって発生するシンクロトロン放射で、膨大なエネルギーが光として逃げてしまう。地球の次元の壁を貫通する出力を維持するには、粒子を曲げるための軌道の半径が圧倒的に足りないんだ」
「半径が足りないって……じゃあ、どうするの?」
不安そうに見つめるアリスに、私は一枚の巨大な図面をテーブルに広げて見せた。
「地下のこの施設は、ただの着火剤だ。ここで初期加速させた粒子を、さらに巨大なメインリングへと打ち込んで極限まで加速させる」
私が指差した図面には、ヒルベルト魔導学院の敷地全体をぐるりと囲むように、全周数キロメートルに及ぶ巨大な真円のトンネルが描かれていた。
「学院の敷地全体を使って、巨大なメインの加速リングを建造する。学院全体を、星を繋ぐ大砲にするんだ」
あまりのスケールの大きさに、アリスとリックはポカンと口を開けて固まってしまった。
すぐに我に返ったボブが、青ざめた顔で魔導書を開き、猛烈な勢いで演算を開始する。
「無茶苦茶だよレイ君!全周数キロメートルのトンネルを掘って、冷却パイプラインを敷設するなんて……!教団が討伐の軍を差し向けてくるまでのわずかな時間で、僕たち数人だけで終わる作業量じゃない!」
「ああ、物理的に不可能だ」
私はあっさりとボブの計算結果を肯定した。
「だから、人手が要る。教団の古い常識に縛られない、若くて体力と魔力を持て余した労働力が山のようにね」
私の言葉の意図に気づいたリックが、商人の顔になってニヤリと悪い笑みを浮かべた。
私も同じように不敵な笑みを返し、天井、すなわち地上の学院校舎を見上げた。
「俺たちの学院には、最高の労働力が腐るほどいるな。リック、資材の調達と人員の確保は任せていいか?」
「当たり前だ。世界最大の文化祭の始まりってわけだ。最高に面白おかしく煽って、生徒全員を巻き込んでやるよ」
圧倒的な時間不足の中、私たちは学院の生徒たちを巻き込んだ前代未聞の大工事、要塞学院化計画へと乗り出した。
(続く)









