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コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第2部:シュバルツシルトの深淵編

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第45話:兵糧攻め

深夜の研究室に、重苦しい沈黙が降りていた。

床に転がる暗殺者たちの横で、ファイン商会の若い部下がもたらした報告は、私たちにとって物理的な刃よりもはるかに致命的だった。


「クソッ!教団の奴ら、そこまで汚ねぇ真似をしやがるのか!」


リックが苛立ちを隠せず、研究室の壁を拳で強く殴りつけた。

教団は、最強の暗殺部隊である静寂の刃を差し向けるのと同時に、国家権力を使った兵糧攻めを発動していた。


リックの父が率いるファイン商会に対し、異端認定の圧力をかけたのだ。商会の表の口座はすべて凍結され、王都に出入りする物資の流通網も聖騎士団によって完全に封鎖されたという。


「……最悪だ。どれだけ多世界解釈で演算しようとも、資金と物資がゼロなら、物理的に加速器は完成しない」


ボブが絶望的な表情を浮かべ、分厚い魔導書をパタンと閉じた。


「教団は僕たちが干上がるのをただ待てばいい。完璧なチェックメイトだよ」


「そ、そんな……!じゃあ、明日の朝ごはんのパンも買えないってことですか!?」


アリスが頭を抱えてへたり込んだ。彼女にとっては、加速器の完成よりも明日のご飯が食べられないことの方が死活問題らしい。


「焦るな。物理的な物流が止められたのなら、情報流を支配すればいいだけのことだ」


私は一人、落ち着いた足取りで黒板へと向かいながら口を開いた。


「リック。以前、僕たちが魔導IHコンロを開発して販売した時、その売り上げの半分をつぎ込んで買った特級火炎魔石……イフリート・コアはまだあるな」


「ああ、商会の隠し金庫にちゃんとしまってあるぜ。表の口座が凍結されても、あそこなら絶対にバレねぇ」


「よし。それを裏ルートで売り払って資金を作れ。そして、その金で王都内にある通信用魔石を片っ端から買い集めるんだ」


私の突飛な指示に、ボブが眼鏡の奥で訝しげに目を細めた。


「そんなもの手に入れてどうするんだい?通信用魔石は確かに遠距離のやり取りに便利だけど、教団がマナの波長を常に監視し検閲している。会話の内容から居場所まで、すべて筒抜けだよ」


「その筒抜けの通信用魔石こそが、教団の包囲網を打ち破る最大の武器になる」


私は黒板にチョークを走らせ、複雑な数式と回路図を描き始めた。


「教団が検閲できるのは、空間を伝わる古典的なマナの波動通信だけだ。なら、二つの粒子の状態が空間を越えて瞬時にリンクする『量子テレポーテーション』の原理を魔石の内部回路に応用し、暗号通信にチューニングし直せばいい。そうすれば、神様だろうと盗聴は不可能になる」


「なっ……魔石の通信の仕組み、そのものを書き換えるっていうのか!?」


驚愕するボブをよそに、私はリックへ振り返った。


「リック、数日で何百という魔石を改造するためには人手も必要だ。教団のやり方に反発し、僕たちと利害が一致している商会の人たちの協力も仰いでくれ。彼らのネットワークを使えば、安全な流通網を再構築できる」


「へっ、任せとけ!うちの親父をコケにした教団に一泡吹かせてやりたいって連中は、裏に腐るほどいるぜ!」


リックがニヤリと笑い、先ほどの絶望を吹き飛ばすように力強く頷いた。

物理的な兵糧攻めという国家権力の暴力に対し、私たちが仕掛けるのは、王都の監視社会を根底から覆す情報革命だ。


「さあ、徹夜での作業になるぞ。王都の通信網を、僕たちがすべて書き換える」


私は白衣の袖をまくり上げ、チョークの粉を払った。

教団への壮大な反撃の狼煙が、今まさにこの薄暗い研究室から上がろうとしていた。




(続く)

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実験にお付き合い頂きありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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