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コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第1部:王立学院編

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第26話 異端審問

「……神の恩恵を否定する、ですか」


私は腕を組み、目の前に立つ灰色の監査官・ジオットを見据えた。

夕闇が迫る廃校舎の前。

ジオットの背後に控える聖騎士たちの手は、すでに剣の柄にかかっている。一触即発の空気だ。


「ええ、そうですとも」


ジオットは爬虫類のような冷たい瞳で、私ではなく、アリスの杖を見下ろした。


「マナとは、神がこの世界に与えたまいし『呼吸』です。それを、あのような無骨な金属で歪め、無理やり収束させるなど……。自然の摂理に対する冒涜であり、神への不敬に他なりません」


「不敬?効率化が罪になるとは初耳だな」


私は鼻で笑った。


「川の流れを水車で汲み上げれば『不敬』か?雷を避雷針で逃がせば『冒涜』か?僕たちがやっているのはそれと同じだ。自然界のエネルギーを、よりロスなく利用するための工夫に過ぎない」


「詭弁ですね」


ジオットが静かに首を横に振る。


「水や雷は現象ですが、魔法は『意思』です。祈りによって神に届けられ、奇跡となって返ってくる。そこに計算式などという、人間の浅知恵を挟む余地はありません」


「……話にならんな」


私はため息をついた。

典型的な原理主義者だ。彼らにとって、魔法のメカニズムを解明しようとする行為そのものが、タブーなのだ。


「レイ君。君の研究室には、即時の『閉鎖命令』が出されています」


ジオットが懐から羊皮紙を取り出した。


「機材は全て没収。君たちは教団本部への出頭を命じます。……抵抗するならば、異端者としてその場で処分することも許可されていますが?」


チャキッ


聖騎士たちが剣を抜いた。

リックが「ひぃッ!」と悲鳴を上げてしゃがみ込む。アリスが杖を構えようとするが、手が震えている。


「ま、待ってください!レイ様は、ただ真理を知りたいだけで……!」


「黙りなさい、汚れた血の娘よ」


ジオットの一瞥で、アリスが言葉を詰まらせる。


「……汚れた血、と言ったか?」


私のこめかみに血管が浮いた。

科学論争ならいくらでも受けて立つが、仲間を侮辱するのは許容範囲外だ。


「取り消せ。そして、その安っぽい羊皮紙をしまえ」


私は一歩前に出た。


「ほう?神の代弁者に逆らうおつもりで?」


「神?ここに神はいないよ、監査官殿。いるのは、好奇心に取り憑かれた物理学者と、思考停止した狂信者だけだ」


私はボブに目配せをした。

ボブが眼鏡を光らせ、小さく頷く。


(計算終了の合図だ)


「証明しようか、ジオットさん。君が信じる『神の奇跡』とやらが、いかに薄っぺらい物理現象であるかを」


「……愚かな。後悔しますよ」


ジオットが自身の胸のペンダントを握りしめた。


ブワッ!


彼の周囲に、黄金色の光のドームが展開される。


「これが神聖魔法『聖域サンクチュアリ』神の加護により、あらゆる物理干渉、あらゆる悪意ある魔法を遮断する絶対防御です。君のような異端の理屈など、この光の前では無力……」


「アリスッ」


私は彼の口上を遮り、短く名を呼んだ。


「は、はいっ!」


「あの結界を解析しろ。波長はいくつか?」


アリスは私の意図を即座に理解し、杖を構えた。

八木・宇田アンテナの導波器が微かに唸る。


「えっと……周波数は一定です!マナの振動数が、毎秒約440ヘルツの倍音で構成されています!」


「よし。Aの音階か。神様にしては随分と単純な波形だな」


私は地面に落ちていた木の枝を拾い、数式を書きなぐった。



「いいかアリス。波には性質がある。山と山がぶつかれば大きくなるが、山と谷がぶつかれば消滅する」


「はい!『逆位相』ですね!」


「その通り。あの偉そうな『聖域』と同じ波長で、位相だけを真逆にしたマナをぶつけろ。出力調整は任せる。君のアンテナならできるはずだ」


「な、何をブツブツと……」


ジオットが眉をひそめる。


「やってみます!……スキャン完了。位相、反転!」


アリスが杖を振るった。

ブゥン……

放たれたのは、攻撃魔法ではない。

目に見えない、ただの「波」だ。


だが、その波がジオットの黄金のドームに接触した瞬間。


フッ……


音もなく。

本当に何の前触れもなく。

絶対防御を謳っていた『聖域』が、シャボン玉のように消失した。


「なっ……!?」


ジオットが目を見開き、自分の手と、消え失せた光を交互に見る。


「ば、馬鹿な!?私の結界が……破壊されたわけでもなく、霧散した!?何をしたのですか!?これは教皇猊下から賜った最高位の神聖魔法だぞ!?」


「破壊じゃない。『相殺』だ」


私は拾った木の枝を捨て、呆然とする監査官に歩み寄った。


「ノイズキャンセリング・ヘッドホンと同じ理屈さ。と言っても通じないか……君の神様の奇跡は、僕らの物理学の計算で『ゼロ』になったんだよ」


私はジオットの目の前まで詰め寄り、彼の胸元のペンダントを指差した。


「分かったか。奇跡なんてない。あるのは、再現可能な物理法則だけだ。……さあ、その閉鎖命令書、持ち帰ってもらおうか」


夕日が沈む。

物理学者と聖職者の対峙。

その勝敗は、誰の目にも明らかだった。




(続く)

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実験にお付き合い頂きありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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