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コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第1部:王立学院編

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第23話 魔導物理学・基礎課程

私は先駆者アイザワの遺したログを一通り記録した後、再び第二の扉のパネルに手をかざした。


『──管理者権限確認。セキュリティ・レベル5

施設を「完全封鎖」します』


無機質な自動音声と共に、重厚な金属扉が音もなくスライドし、冷気と静寂を内側に閉じ込めた。

再び長い眠りにつく巨大な空箱に、私は心の中で別れを告げた。


「……行くぞ。鍵は掛けた」


「お、終わったか……?何も出なかったな?」


保温結界の中で震えるリックが、恐る恐る尋ねてくる。


「ああ。先駆者は理不尽なトラップを残すような性格じゃなかったようだ。……ただ、少し悲しいメッセージを残していっただけさ」


「そっか……。ま、命があってよかったぜ。さっさと帰ろう。風呂に入りてぇ」


私たちは誰もいない地下通路を戻り、地上への階段を上った。

手ぶらでの帰還。だが、その足取りは来る時よりも重く、そして確かな目的意識に満ちていた。



翌日。第4廃校舎のラボにて。

そこには、服を着て元気を取り戻したリックと、真剣な表情のアリス、そしてボブの姿があった。


「さて、諸君。昨日の遠足は楽しかったかな?」


私が黒板の前で尋ねると、リックが机に突っ伏したまま呻いた。


「最悪だったよ。寒いし、暗いし、結局『加速器』ってのは中身空っぽだったしよぉ。骨折り損のくたびれ儲けだ」


「いや、収穫はあった。ターゲットが明確になったからな」


私は黒板に地図を描いた。王都の北、険しい山脈に位置する巨大な「大穴」だ。


「加速器を完成させるには、持ち去られた『ミスリルコイル』と『動力炉』が必要だ。市場にはない。教会に殴り込むのは時期尚早だ。

ならば、資源の宝庫──『奈落・ダンジョン』へ行くしかない」


「ダンジョン……」


アリスが不安げに呟く。


「でもレイ様、あそこは深くなればなるほど、強力な魔物が……」


「ああ、しかも問題は魔物だけじゃない。『環境圧』だ」


私はチョークで深い縦穴の図解を描き、下に行くほど色を濃く塗った。


「ダンジョンの深層は、マナの濃度が極端に高い。深海と同じだ。今の君たちの貧弱な魔力制御では、潜った瞬間にマナ酔いで潰れるか、魔法が霧散して使い物にならなくなる」


「む……貧弱って、酷いです」


アリスが頬を膨らませる。


「事実だ。特にアリス、君の魔法は『無駄』が多すぎる」


「えっ!?」


「君はいつも全力でマナを放出しているが、そのエネルギーの9割以上は、空気に弾かれて反射しているんだ。例えるなら、水中で大声を出しているようなものだ。音は水面で反射して、空気中にはほとんど届かないだろう?」


私は黒板に波形の図を描いた。

出力された波が、壁に当たって跳ね返り、打ち消し合っている図だ。


「これを解決するのが、今日の授業だ。『インピーダンス整合』」


「いんぴーだんす……?」


アリスとリックが同時に首を傾げる。

ボブだけが「なるほど、抵抗値の結合か」と眼鏡を光らせた。


「簡単に言えば、『空気と仲良くする技術』だ」


私はアリスに向き直った。


「いいかアリス。魔法を撃つ時、『強く撃とう』とするな。君の魔力「出力インピーダンス」と、空間の抵抗「入力インピーダンス」がズレているから、力が伝わらない。重い扉を開ける時、体当たりしても痛いだけだろう?扉の動きに合わせて、優しく押すんだ」


「優しく……ですか?」


「やってみろ。いつもの『ウインド・カッター』だ。ただし、出力はいつもの半分でいい。その代わり、空間の『硬さ』を感じ取って、それに波長を合わせるイメージだ」


アリスは半信半疑で杖を構えた。

いつものように力を込めようとして、私の言葉を思い出し、ふっと力を抜く。

空間に満ちるマナの揺らぎ。そのリズムを感じ取る。


「……こんな感じ、でしょうか……?」


彼女が小さく杖を振った。


ヒュッ


放たれたのは、見た目は小さな風の刃だった。

だが。


スパァンッ!!


実験用の厚い木の板が、抵抗なく両断された。

断切面は鏡のように滑らかだ。


「えっ……!?うそ、今のすごく軽かったのに……!?」


アリスが自分の手と、切れた板を交互に見る。


「ロスが消えたからだ」


私は切れた板を指差して解説した。


「さっきまでの君は、『100』の力で殴って、9割が弾かれ、結局『10』しか伝わっていなかった。

だが今は、半分の『50』の力で殴って、ロスなく『50』全てを伝えたんだ」


私はアリスの顔を見た。


「計算してみろ。威力は5倍だ。しかも、疲れは半分で済む。これが物理学による効率化だ」


これが「最大電力供給定理」。無線通信でもオーディオでも使われる、エネルギー伝達の基本だ。


「すげぇな……。これなら俺たちでも深層で戦えるか?」


リックが身を乗り出す。


「まだだ。ソフトが良くても、ハードがポンコツなら意味がない。君たちの装備も物理学的に魔改造する」


私は工具箱を足元に置いた。中には、今までに集めた鉱物サンプルや薬品が詰まっている。


「覚悟しろよ。夏休みが終わる頃には、君たち全員、歩く物理実験室になってもらうからな」




(続く)

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実験にお付き合い頂きありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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