表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第1部:王立学院編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/56

第19話 禁書庫への侵入

パンツ一丁のリックを先頭に、私たちは地下倉庫の奥へと進んだ。

青白い火花は、鉄扉の隙間から断続的に漏れ出している。

私たちは金属類を全てその場に捨て、文字通り「身一つ」でその重厚な扉の前に立った。


ジジッ……。

肌がピリピリと痛む。

空間の電位差が極限まで高まっている証拠だ。うかつに指を突き出せば、指先から放電して黒焦げになるだろう。


「……ここが『禁書庫』の入り口か。噂には聞いていたが、まさか本当にあるとはね」


ボブが眼鏡の位置を直そうとして、金属フレームのため捨てたことに気づき、手持ち無沙汰に指を空振りさせた。

彼は視力を補うために、薄くマナを目に纏っている。


「ボブ、この扉のセキュリティレベルは?」


「最高機密だね。生徒会長の権限カードでも、ここは『存在しない区画』になっている。……見てくれ、鍵穴すらないよ」


ボブが絶縁のために布越しに扉の表面を撫でる。

そこには、幾何学的な魔法陣が刻まれているだけだ。物理的な鍵穴はない。

だが、私には見える。

魔法陣の裏で、複雑怪奇な「論理回路」が走っているのが。


「……なるほど。『暗号鍵』か」


私は魔法陣の構造を解析した。

数百の変数が絡み合い、正しい魔力波形のパターンを入力しない限り、扉は開かない。間違えれば、即座に警報と迎撃魔法、おそらく最大出力の雷撃が作動する仕組みだ。


「レイ、どうする?爆破するか?」


寒さで震えるリックが、野蛮な提案をする。


「却下だ。そんなことをすれば、中の『お宝』ごと瓦礫の下だ。……ボブ、アリス。君たちの出番だ」


私は二人に指示を出した。


「このセキュリティは二重構造だ。表層の『魔法暗号』と、内部の『物理的かんぬき』これを同時に突破する」


「同時に、ですか?」


アリスが首を傾げる。


「ああ。ボブ、君の『多世界解釈』で、この暗号の正解パターンを総当たりで解析しろ。君なら一瞬で数万通りのパスワードを試せるはずだ」


「やれやれ。僕の脳を『予言の水晶』か何かだと思っているのかい?……まあ、やってみるよ」


ボブが扉に手を当て、集中する。

彼に重なって、無数の「ボブの幻影」が現れる。

ある世界では「パスワードA」を試し、別の世界では「パスワードB」を試す。

並列処理による超高速演算。


「……解析開始。……エラー。……エラー。……ヒットした。第3層まで解除!」


魔法陣がカチリと音を立てて輝きを変える。

だが、まだ扉は開かない。


「よし。これで魔法的なロックは外れた。だが、物理的な『かんぬき』がまだ内部で閉じている。アリス、君の番だ」


「は、はいっ!」


「この扉の厚さは約20センチ。その向こう側に、鉄製のレバーがあるはずだ。トンネル効果で手をすり抜けさせ、内側からロックを外せ」


「えぇぇっ!?また壁抜けですか!?」


アリスが涙目になる。あの特訓での「壁埋まり」のトラウマが蘇ったらしい。


「安心しろ。ここは電圧が高いが、君は『絶縁体』として振る舞えばいい。電気を通さない結界を維持していれば、感電することはない」


私はアリスの肩を掴み、具体的に指示した。


「いいか、アリス。扉の向こう側に出た『手先』だけを実体化させてレバーを掴め。

ただし、壁の中を通っている『腕』は絶対に実体化させるなよ。コンクリートと融合して一生抜けなくなるぞ」


「ひぃぃ……条件がシビアすぎますぅ……!」


「僕が観測している。君の座標は絶対にズレさせない。行け!」


アリスは覚悟を決め、扉に手を伸ばした。

深呼吸。

彼女の指先がブレ始め、不確定な確率の雲となる。


「……えいっ!」


ニュルッ


彼女の手首が、硬い石の扉に吸い込まれるように消えた。

アリスは目を瞑り、壁の向こう側の感覚を探る。


「……あ、ありました!硬い棒みたいなのが……これ、掴みますね!」


「よし、腕の透過は維持したままだぞ!引け!」


「んんっ……せーのっ!」


ガコンッ!!


重厚な金属音が響き、扉の奥で何かが外れた音がした。

同時に、ボブが叫ぶ。


「セキュリティ・ダウン!全ロック解除!」


ゴゴゴゴゴ……


数百年間、誰も開けることのなかった「禁書庫」の扉が、重々しい音を立てて内側へと開き始めた。

隙間から漏れ出す青白い光が、さらに強烈になる。


そして、鼻をつく刺激臭──オゾン臭だ。

高電圧放電によって酸素が変質した、あのコピー機の裏側のような独特の匂い。


「開いたぞ……!」


リックが歓声を上げようとして、言葉を呑んだ。

開かれた扉の向こう。

そこは「書庫」などではなかった。


剥き出しの配管。

壁一面を這う極太のケーブル。

そして通路の奥に鎮座する、さらに巨大な「第二の扉」。


「……なんだここは。図書館じゃねぇぞ。まるで工場だ」


リックの言う通りだ。

ここは古代の「研究施設」の入り口に過ぎなかったのだ。


「……すごい。壁の素材、見たことがない合金だ」


ボブが壁に触れ、感嘆の声を上げる。


私は足を踏み入れた。

床には埃が積もっているが、空気は循環している。


バチッ。

指先から小さな火花が飛んだ。まだ残留電荷が漂っている。


「……電位が高い。やはり、この奥に『エネルギー源』があったんだな」


私は通路の奥、厳重に閉ざされた「第二の扉」を見据えた。

そこには、先ほどの魔法陣とは比べ物にならないほど複雑で、そしてどこか懐かしい「生体認証パネル」のような装置が設置されていた。


「ここから先が、本当の『立ち入り禁止区域』らしい」


私は振り返り、パンツ一丁のリックと、仕事をやり遂げたアリスとボブに笑いかけた。


「よくやった。第一関門突破だ。……さあ、世紀の発見まであと数メートルだぞ」




(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


実験にお付き合い頂きありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ