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コスパの悪い魔法の世界で、僕は地球に論文を送る。 ~異世界転生した天才物理学者は事象の地平線を越えて真理を証明する~  作者: あとりえむ
第1部:王立学院編

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第17話 超伝導体を探せ

ラボの机の上には、完成したばかりの「シリコンウェハー(CPU)」が鎮座している。

だが、これはあくまで「脳」だ。

この世界から地球へ、重力波という名の「声」を届けるためには、光速に近い速度で粒子を打ち出す「巨大な肉体(加速器)」が必要になる。


「……足りない」


私は黒板に描いたサイクロトロンの設計図を睨みつけ、チョークをへし折った。


「何がだよ? 金なら『親衛隊』のおかげで腐るほどあるぞ」


リックが金貨をジャラジャラと弄びながら尋ねる。


「金じゃない。『磁力』だ」


私は設計図のコイル部分を指差した。


「粒子を曲げて円形軌道を走らせるには、数テスラ級の強力な磁場が必要だ。だが、銅線に大電流を流せば、電気抵抗の発熱でコイルが溶け落ちる。冷却にも限界がある」


「じゃあ、どうすんだよ?」


「電気抵抗ゼロの物質……『超伝導体』を使うしかない」


地球では、液体ヘリウムで絶対零度近くまで冷やしてようやく実現できる現象だ。だが、そんな極低温設備をこの世界で維持するのは不可能に近い。

必要なのは、室温……せめてドライアイス程度の冷却で超伝導状態になる「奇跡の金属」だ。


「リック。この世界には『ミスリル』という金属があるな?」


「ああ。魔力をめちゃくちゃ通しやすい、銀色の金属だろ? 武器に混ぜると魔法の威力が増すから、騎士たちの憧れだ。値段も金の十倍はするけどな」


「魔力を通しやすい、か。……その特性、物理的には『電子の移動度が無限大』と翻訳できるかもしれない」


私はリックに手を差し出した。


「サンプルが欲しい。指輪でも硬貨でもいい、純度の高いミスリルを持ってきてくれ」

          


数分後。

リックが渋々差し出したのは、彼が「勝負用」として隠し持っていた、ミスリル製のペンダントトップだった。小指の先ほどの大きさだが、白銀色の美しい光沢を放っている。


「いいかレイ、絶対に壊すなよ! これは俺が将来、貴族の令嬢を口説くために……」


「実験開始だ。アリス、冷却準備」


私はリックの悲鳴を無視し、ミスリル片を断熱容器の上に置いた。

そして、アリスに氷魔法を使わせ、周囲の温度を氷点下まで下げさせる。念のための冷却だ。


「いくぞ。……ボブ、磁石を」


私は、ボブからIHコンロの残骸から作成した強力なネオジム磁石を受け取ると、ピンセットでつまみ、ミスリルの真上へと近づけた。


もし、これがただの銀なら、磁石は反応しない。

もし、鉄が含まれていれば、くっつく。

だが、もしこいつが「超伝導体」ならば──


私は指を離した。


フワッ……


磁石は落ちなかった。

ミスリル片の上、約一センチの空中で、見えないクッションに乗っているかのように「浮遊」したのだ。


「うおっ!? 浮いた! レイ、磁石が浮いてるぞ!」


リックが目を丸くする。アリスも「手品みたいです!」とはしゃぐ。


「……成功だ。『マイスナー効果(完全反磁性)』だ」


私は震える手で、浮いている磁石を指先でつついた。磁石はゴムのような弾力で押し返してくる。

内部の磁束を完全に排除している証拠だ。


「間違いない。この『ミスリル』は、臨界温度が極めて高い高温超伝導体……いや、ほぼ『常温超伝導体』だ。地球の物理学者が喉から手が出るほど欲しがった『聖杯』が、この世界ではアクセサリーになっている」


「つまり、使えるのか?」


「ああ。これがあれば、電気抵抗ゼロの最強の電磁石が作れる。発熱なしで、無限の大電流を流せるんだ。加速器どころか、リニアモーターカーだって作れるぞ」


私は興奮して計算を始めた。

直径2メートルのサイクロトロン・コイルを作るために必要なミスリルの量は……。


「……リック」


「な、なんだよ。その怖い顔は」


「ミスリルの相場は?」


「金貨1枚で、小指の先くらいだな」


「……計算した。この加速器を作るには、ミスリルのインゴットが約200キログラム必要だ」


実験室が凍りついた。

リックが指折り数え、そして青ざめた。


「に、200キロ……? ふざけんな! そんな量、国庫を空にしても買えねぇぞ! ファイン商会が破産するわ!」


「だろうな。市場で買えばそうなる」


私は腕組みをして唸った。

ミスリルがなければ、加速器は作れない。だが、資金力で解決するには量が多すぎる。

となれば、どこかから「調達」するしかないが……。


「……おいリック。この学院の敷地内に、古い『金属の廃棄場』や『封印された倉庫』はないか? これほどの貴重な金属だ、過去の研究者が残している可能性もゼロじゃない」


「廃棄場? ……ああ、そういえば妙な噂ならあるぜ」


リックが声を潜めた。


「学院の北側、地下倉庫のあたりで『光る幽霊』が出るって噂だ。夜な夜な、青白い光が揺らめいて、近づく者を呪い殺すんだとさ」


「光る幽霊?」


私は眉をひそめた。

オカルトだ。科学者として最も忌み嫌う類の話だ。

だが、私の脳裏に一つ、物理学的な可能性が閃いた。


(青白い光……。もしそれが、霊的なものではなく『高エネルギー粒子の発光』だとしたら? 強力な磁場や、未知のエネルギー源が漏れ出している証拠ではないか?)


私はニヤリと笑った。

幽霊などいない。あるのは未解明の物理現象だけだ。

そして、そこには私が求めている「お宝」が眠っているかもしれない。


「リック、その噂の場所へ案内しろ」


「はぁ? お前、呪われたいのか?」


「違う。『現地調査』だ。幽霊の正体がプラズマか、あるいは超伝導体のマイスナー効果による発光か……確かめに行くぞ」


私の目は、すでに新しい実験対象を見つけた狩人の色をしていた。

加速器の素材は、案外近くに転がっているかもしれない。




(続く)

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実験にお付き合い頂きありがとうございます!


あとりえむ 作品紹介

やっぱりせかいはまあるいほうがいい S級清掃員 監査の魔王 至高のミミちゃんを見守る会 君が遺した種子は、森には還らなかった。

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