【第4章:土木の現場へ - ゼロからのやり直し】
すべてを失った後。
僕は、ただ家にいた。
何もする気が起きなかった。
店も消えた。
会社も消えた。
共同経営者も消えた。
残ったのは、借金だけだった。
自己破産の手続きをした。
「もう、これで終わりだ」
そう思った。
でも、人生は終わらなかった。
そして、さらなる不幸が襲ってきた。
椎間板ヘルニアになった。
ある日、突然腰に激痛が走った。
「痛い...」
立てなかった。
病院に運ばれた。
診断は、椎間板ヘルニア。
「手術が必要です」
医者が言った。
そして、手術後。
半身不随になった。
「...動かない」
右半身が、思うように動かなかった。
「これは、一時的なものです」
医者が言った。
「リハビリをすれば、治ります」
リハビリが始まった。
毎日、理学療法士と一緒に体を動かす。
「もう一度、頑張ってください」
「...はい」
最初は、何も考えられなかった。
「何で、俺ばっかり...」
そう思った。
後輩に裏切られた。
共同経営者に裏切られた。
店も会社も消えた。
自己破産した。
そして、半身不随になった。
「もう、終わりだ」
そう思った。
でも、リハビリを続けるうちに。
少しずつ、精神を取り戻していった。
「動くようになってきた」
右手が、少しずつ動くようになった。
右足も、少しずつ動くようになった。
「頑張ってますね」
理学療法士が言った。
「...ありがとうございます」
そして、ある日。
理学療法士が言った。
「あなた、何か目標はありますか?」
「目標?」
「はい。リハビリには、目標が大切なんです」
「...」
考えた。
「もう一度、立ち上がりたいです」
そう答えた。
「立ち上がる?」
「はい。もう一度、仕事がしたいです」
理学療法士は、優しく笑った。
「いいですね。頑張りましょう」
それから、リハビリに真剣に取り組んだ。
約1年半。
ようやく、歩けるようになった。
「退院できますよ」
医者が言った。
「ありがとうございました」
そう言って、病院を出た。
でも、外に出ても。
何をすればいいのか、わからなかった。
「仕事を探さないと...」
そう思った。
そして、専門学校時代の知り合いに連絡を取った。
「久しぶり」
「...久しぶり」
「元気にしてた?」
「...まあ」
詳しいことは話さなかった。
でも、相手は察してくれた。
「仕事、探してるの?」
「...うん」
「土木の仕事、やってみる?」
「土木?」
「うん。俺の知り合いが、人を探してるんだ」
「...お願いします」
そう答えた。
そして、土木の現場監督として働き始めることになった。
最初は、住み込みの寮だった。
古い建物だったが、屋根があるだけで十分だった。
知り合いの伝手もあり、みんなは暖かく迎え入れてくれた。
「よろしくな」
現場の職人たちが、声をかけてくれた。
「...よろしくお願いします」
16歳の頃から土木の現場にいた。
専門学校でも土木を学んだ。
だから、仕事自体は馴染みがあった。
でも、心は空っぽだった。
何も考えることができなかった。
自暴自棄になっていた。
「このまま、生きていても意味があるのか?」
そう思っていた。
でも、同時に。
なんとか立ち直りたいとも思っていた。
「もう一度、やり直したい」
その想いだけが、僕を支えていた。
給料は、手取りで14万あるなし。
少なかった。
でも、生きていくには十分だった。
借金は、自己破産したから関係なかった。
いや、正確には。
忘れることにした。
「もう、過去のことは考えない」
そう決めた。
6ヶ月後、アパートを借りた。
小さな1Kの部屋。
でも、自分の部屋があるというだけで嬉しかった。
そして、仕事に打ち込んだ。
土木の仕事は、地味だった。
道路工事。
舗装工事。
道路維持。
でも、飲食業と同じで。
出来上がっていく成果が表れることに喜びを感じた。
「この道路、俺が作ったんだ」
そう思えることが、誇らしかった。
そして、何より。
施主からの『ありがとう、お疲れさん』が再度心に染みてくるようになった。
「お疲れさん。いい仕事してくれたね」
施主が、そう言ってくれた。
「...ありがとうございます」
その言葉が、心に響いた。
「俺は、まだ誰かの役に立てるんだ」
そう思えた。
そして、少しずつ心が回復していった。
でも、25歳の時。
ある女性と出会った。
彼女は、僕に一目惚れしたらしい。
「付き合ってください」
そう言われた。
「...」
正直、戸惑った。
自分には、過去があった。
逮捕、破産、椎間板ヘルニア。
「俺なんかと、付き合って大丈夫なのか?」
そう思った。
でも、彼女は言った。
「過去は関係ないです。今のあなたが好きです」
その言葉に、救われた。
「...ありがとう」
そう答えた。
そして、そのまま一緒に住むようになった。
数ヶ月後、結婚した。
「これで、新しい人生が始まる」
そう思った。
でも、結婚生活は長くは続かなかった。
5年しないうちに、妻が職場の3人と関係を持った。
最初は、気づかなかった。
「最近、帰りが遅いな」
そう思っていた。
でも、ある日。
妻のスマホを見てしまった。
「...え?」
信じられなかった。
3人。
職場の男性3人と、関係を持っていた。
「なんで...」
問い詰めた。
「ごめん」
妻は、そう言った。
「ごめんじゃない!なんで!」
「...わからない」
「わからないって!」
でも、答えは返ってこなかった。
そして、離婚した。
その時、僕の心は完全に壊れた。
もう何も信用できない。
人は怖い。
死にたい。
そう思った。
何も考えることができなかった。
そして、ある日。
車で追突事故を起こしてしまった。
信号が赤だったのに、気づかなかった。
前の車に突っ込んだ。
「大丈夫ですか!?」
相手が駆け寄ってきた。
「...すみません」
怪我人もいた。
でも、そこまでひどい事故ではなかった。
警察が来た。
処理をした。
「今後、気をつけてください」
警察官が言った。
「...はい」
その夜、一人でアパートにいた。
「俺、何やってるんだろう」
そう思った。
後輩に裏切られた。
共同経営者に裏切られた。
妻に裏切られた。
事故も起こした。
「もう、終わりだ」
そう思った。
でも、死ぬ勇気もなかった。
ただ、部屋で横になって、天井を見ていた。
でも、ある日。
ふと思った。
「このままじゃ、ダメだ」
何がきっかけだったか、よく覚えていない。
ただ。
自分の気持ちを支えてくれる人の温かさが恋しくなった。
人のぬくもりが恋しくなった。
「もう一度、誰かを信じてみたい」
そう思った。
そして、離婚から1年後。
婚活パーティに参加した。
正直、不安だった。
「また裏切られるんじゃないか」
そう思った。
でも、それでも。
「もう一度、やり直したい」
その想いが勝った。
そして、婚活パーティで。
今の妻に出会った。
一目惚れだった。
「この人だ」
そう思った。
でも、同時に。
不安は拭えなかった。
「また裏切られるんじゃないか」
そう思った。
でも、勇気を出して話しかけた。
「こんにちは」
「こんにちは」
彼女は、優しく笑った。
そして、何度か会ううちに。
少しだけ、過去の話をした。
「実は...俺、昔、逮捕されたことがあって」
「...」
「それで、破産もして」
「...」
「離婚もしてる」
彼女は、黙って聞いていた。
「...ごめん。こんな話」
「いいよ」
「え?」
「過去は過去だから」
彼女は、受け入れてくれた。
「ありがとう」
そう言った。
それ以降、彼女は過去のことを聞こうとしなかった。
こっちも、全部言うまでもなく、そのままにした。
そして、35歳で結婚した。
「今度こそ、幸せになろう」
そう思った。
36歳の時。
長男が生まれた。
病院で、初めて抱いた時。
小さな命。
その瞬間、誓った。
「絶対幸せにしてやる!」
「裏切られても裏切らない!」
そう心に決めた。
小学4年生の時、父親から母親を守った。
あの時の覚悟が、蘇った。
「今度は、この子を守る番だ」
そう思った。
そして、1年半後。
次男が生まれた。
「2人も、守らないといけない」
責任は重かった。
でも、同時に。
「この子たちのために、もっと頑張りたい」
そう思った。
その頃、僕は全国を渡り歩く生活をしていた。
結婚してから、仕事が増えた。
月曜日、朝4時起き。
新幹線で移動。
現場に到着したら、すぐに作業開始。
月曜から金曜まで、仮設暮らし。
月に何度か週末だけ、家に帰る。帰れないほうが多い。
帰路も、週末も、自宅でも電話がかかってくる。
「現場で問題が起きました」
「道路が陥没しました」
「至急、戻ってきてください」
休みなんて、ほとんどなかった。
体が、どんどん疲れていった。
朝、起きるのが辛い。
腰が痛い。
肩が痛い。
膝が痛い。
「もう、限界だ」
そう思った。
そして、何より辛かったのは。
家族に負担をかけていることだった。
週末しか家にいない。
子どもの成長を、ほとんど見られない。
妻は、何も言わなかった。
でも、寂しそうな顔をしていた。
「ごめんね」
そう言うしかなかった。
そして、ある日。
家に帰った時、妻が言った。
「もう一度、飲食業をやってみないか?」
「え?」
「だって、あなた、本当は飲食業がやりたいんでしょ?」
「全国飛び回って、道路工事で体壊すより、自分の好きなことやった方がいいよ」
妻は、僕の心を見抜いていた。
妻の言葉に、背中を押された。
「ありがとう」
そう言って、僕はもう一度挑戦することを決めた。
飲食業への再挑戦。
今度こそ、家族と一緒にいられる生活を作りたい。
今度こそ、子どもの成長を見守りたい。
今度こそ、幸せな家庭を作りたい。
その想いが、僕を動かした。
土木現場監督として、約15年働いた。
長かった。
でも、この15年があったからこそ。
もう一度、挑戦する覚悟ができた。




