【第3章:1度目の崩壊 - 裏切りという地獄】
すべてが終わった。
20代前半。
3つのイタリアンレストランを運営していた。
法人化もしていた。
「これから、もっと大きくなる」
そう信じていた。
でも、すべてが崩れ落ちた。
後輩が起こした事件。
そこで、僕の名前が出された。
「○○さんに指示されました」
僕は、何も知らなかった。
ただ、彼をかわいがっていただけだった。
でも、警察は信じてくれなかった。
「話を聞かせてください」
取り調べは、厳しかった。
「本当に、知らないんですか?」
「知りません」
「でも、後輩はあなたの名前を出しています」
「でも、俺は本当に...」
何度も、何度も、同じ質問をされた。
そして、刑を受けることになった。
詳細は語れない。
法的な問題もあるし、思い出したくもない。
ただ、結果として。
僕は、警察に捕まった。
警察署の中で、冷たい椅子に座りながら、僕はずっと考えていた。
「なんで、こんなことになったんだろう」
後輩の顔が浮かんだ。
「先輩、ありがとうございます!」
いつも、そう言って笑っていた。
「あれは、嘘だったのか?」
共同経営者の顔も浮かんだ。
「俺の伝手で、資金を借りられるかもしれない」
そう言ってくれた。
「あの人は、今どうしてるんだろう」
捕まる前に、連絡を取った。
「店のこと、お願いします」
「...わかった」
あの時の声が、今でも耳に残っている。
でも、あれが最後だった。
刑の執行中。
僕は、ずっと考えていた。
「人生、終わったな」
でも、僕は振り返らなかった。
刑の執行後。
外に出た。
まず、共同経営者に連絡を取ろうとした。
電話をかけた。
「この番号は、現在使われておりません」
「...え?」
もう一度かけた。
同じメッセージ。
メールを送った。
返ってこない。
「どういうこと?」
不安が、胸を締め付けた。
そして、店に行った。
1店舗目。
シャッターが下りていた。
2店舗目。
同じく、閉じていた。
3店舗目。
やはり、閉じていた。
「...」
信じられなかった。
会社の登記も確認した。
法務局に行って、調べた。
会社の成りがなかった。
「消えた?」
そう、すべてが消えていた。
店も。
会社も。
共同経営者も。
そして、残ったのは。
借金だけだった。
銀行からの融資。
数百万円。
仕入れ業者への未払い。
数十万円。
家賃の滞納。
数ヶ月分。
すべてが、僕の名前で残っていた。
「なんで、俺だけ...」
そう思った。
共同経営者は、消えた。
連絡も取れない。
店も閉じた。
会社も消えた。
でも、借金は残った。
「...そういうことか」
やっと、理解した。
最初から、そういう計画だったのかもしれない。
いや、わからない。
でも、結果として。
すべてを失ったのは、僕だけだった。
取り立ての電話がかかってきた。
「いつ払えますか?」
「すみません。もう少し待ってください」
「困ります。早く払ってください」
毎日のように、電話がかかってきた。
弁護士に相談した。
「自己破産するしかないですね」
「...」
「他に方法はありますか?」
「ありません。これだけの借金は、払えないでしょう」
自己破産の手続きをした。
書類を揃え、裁判所に行った。
「もう、会社は続けられません」
そう宣言した。
倒産した。
全財産を失った。
店も。
資金も。
信用も。
すべてが消えた。
あの時期の記憶は、今でもぼんやりとしている。
毎日、ただ家にいた。
何もする気が起きなかった。
「もう、何もできない」
そう思っていた。
誰にも連絡できなかった。
家族には、連絡する勇気がなかった。
「俺は、自分の力だけでやる」
そう言って、家を出た。
母親と口を利かなくなった。
弟とも連絡を取らなくなった。
地元は、新幹線や電車を乗り継ぎ半日かかる距離。
遠すぎた。
「今更、帰れない」
そう思った。
友人にも、連絡できなかった。
「あいつ、捕まったらしいよ」
そんな噂が、きっと広まっているだろう。
「恥ずかしい」
そう思った。
誰にも会いたくなかった。
ただ、部屋で横になって、天井を見ていた。
「人生、終わったな」
そう思っていた。
でも、人間は不思議なもので。
どんなに絶望しても、お腹は空く。
どんなに苦しくても、時間は進む。
ある日、ふと思った。
「このままじゃ、ダメだ」
何がきっかけだったか、よく覚えていない。
ただ、このまま終われないと思った。
「もう一度、立ち上がろう」
そう思った。
専門学校で学んだ土木の知識を頼りに、現場監督として働き始めることにした。
土木は、馴染みのある世界だった。
16歳の頃から、ずっと関わっていた。
「ここから、やり直そう」
そう決めた。




