序章 戦死
1805年10月21日 トラファルガー岬沖 午前10時40分
旗艦ヴィクトリー艦上
「今回のフランスはイギリス軍を凌駕した大軍らしいぞ!しかも巨艦らしい!」
「でも我らが総指揮官は英雄ネルソン提督!きっと今回も天才的な戦術で勝利するに違いない」
「いくらネルソン提督でもこの兵力差は…」
「勝つ見込みはおありですか?司令官」
「当然だ!誰だと思っている そもそもフランスとスペインの連合艦隊、上手く連携が図れるはずがない、また今回の司令官ヴィルヌーヴ少将は成功より失敗の印象がある提督だ!それにフランスは新兵が多いと聞く」
「ですがスペインのグラビーナ大将は警戒するべきです!そんなことより早く回頭しましょう。」
「そのまま突っ込むつもりだが…」
「ネルソン提督何を言っているのですか!戦列艦は横にしか大砲がついてないんですよ!敵からひたすら打たれながら突っ込むなんて、こんなの飛んで火にいる夏の虫じゃないですか!」
「確かにそうだ。だがもし接近し相手の艦列の中に入れたなら、今度は相手は狙撃兵からの狙撃以外抵抗の手段を一時的に失うのに対し、その間我々は大砲で攻撃ができる。何故左陣と右陣に分けたか分かってくれたか?」
「分かりません」
「左陣は中央部、右陣は後部に突撃をすると、前方と後方を分断することが出きる! しかし、もし1列だとしたら、いくら大砲が使えないといっても、挟撃で兵士に甚大な被害が出るであろう! 要するに役割分担だ!」
「それでコリングウッド副指令はご承認を?」
「あいつは名将だ。すぐに意図を理解してくれたよ」
「そんなことよりハーディー艦長」
「何でしょうか?」
「ブランデーを飲まないか?最後の酒かもしれないしいいやつで頼む」
午前11時00分
リヴァイアサン艦上
「おい、一向に回答しないな」
「遂にネルソン提督も大軍を自分の目で見ておかしくなったか」
「おい、旗艦を見ろ! 信号旗だ!」
英国は…各員がその義務を全うすることを期待する! 接近戦を行え!
「おーーーーーーーー」
「ネルソン提督の激励だぞ」
「いわれなくてもわかってますよ 偉そうにしやがって」
「だが回頭しないで接近戦を行えってことは、このまま突撃するのか!」
「狂ってる…」
ロイヤルソブリン艦上
「コリングウッド提督!あれを!」
「英国は各員がその義務を全うすることを期待するか… 大分尊大な文だな、だが続きが重要だ接近戦を行えと書いている…やはり作戦に変更はないか…」
ヴィクトリー艦上
「なぜヴィクトリーとロイヤルソブリン旗艦が先頭で突入するのですか?」
「敵はほぼ確実に先頭から着実に大砲で撃沈させに来るだろう…」
「だったらなおさら…」
「だが我らが地中海艦隊に連合艦隊の弾幕に耐えられる巨艦が2隻の旗艦だったそれだけの話だ」
「ならネルソン提督だけども別艦にお逃げください!提督が突っ込まれては必ず混乱が生じます」
「そうだな…いやだめだ!ハーディー艦長!私が先頭に立たなくては!」
「何故…?」
「私が海戦に来て注目されないはずがないからだ!」
「…っ あなたとは思えないほど尊大な物言いですね」
「私が先頭に立てば、きっとわが軍はどんな苦しいくても、英雄の背中に希望を見出すだろう!一方連合艦隊は死ぬ気で私を殺そうとヴィクトリーに艦砲射撃を行うはずだ!ほかのわが軍から目をそらすことが出きるだろう!」
「そのために死んでもよろしいのですか」
「当然死にたくわないな…だが司令官というのは兵の精神安定剤でなくてはならない、どんな劣勢であろうと兵に希望を見出す存在でなくてはならない。彼ならどうにかしてくれると」
「だったら尚更…」
「命に優劣をつけるほどの愚行はないが、もしつけるなら司令官が最底辺だ!指揮官は皆の命を預かり皆の命が助かるように努力をする…そんな人間が一番後方でしっぽ巻いて逃げるなんてありえない!」
「分かってくれたか」
「はい」
「お前もやることをやれ海戦は近い!まあ帰ったら超過勤務手当にブランデー一杯奢るさ」
「いいもので頼みます」
「戦闘準備が終わったら、ヴィクトリーの乗員に飲酒の許可を出せ、一杯だけだがな」
「最後の酒になるかもしれない、ヴィクトリー・ロイヤルソブリンの皆には本当に申し訳ないことをする」
「後1時間後射程圏内に入ります!」
「アルコールのせいでは言い訳のできない高揚感…今までの海戦とは違う高揚感だ…不思議な感触だ…自分の生への渇望が新たな高揚感につながっているのだろう…」
30分後
「どんどん近づいてきたな すごい震える」
「そうだなこんな大軍初めてだ…」
「ネルソン提督なら何とかしてくれる大丈夫だ!」
一方フランス側
ビューサントル艦上
「地中海艦隊二手に分けて垂直にわが軍と接敵するようです」
「接近戦の準備を怠るな」
「だがロイヤルネイビーの英雄も気が狂ったらしい… 接近戦を狙っているのは読めた…しかし何故垂直に攻め込むのだ… まあいい兵力、砲門数すべてが地中海艦隊を凌駕している!どうあがこうとも自ずと勝利はつかめるだろう!英雄に靴をなめて磨かせ、陛下の御手で首を切り落とす瞬間が見えてきたぞ!なんどあいつに苦杯を飲まされたか…許しはせぬ」
「ですが閣下射程圏内ぎりぎりですと、大した火力が出ませぬ…接近戦に持ってかれると面倒ですぞ」
「ならどうしろというのだ艦長!卿は卿の仕事に全うせよ」
「ですが…」
「うるさい!貴様も私を司令官職から降ろそうとしているのか?陛下に今回の勝利で見直していただく必要がある!私の利用価値を!有能さを!」
「はぁ~」
「艦艇の多さ、人員の多さ、砲門の多さ、全てを地中海艦隊より上回っている!セオリー通りにやれば勝利は必ずわが手に!陛下お待ちくだされ、忠臣ヴィルヌーブが完璧な勝利をお見せいたす」
「イギリス軍は何故垂直に攻めてくるんだ?」
「知らね。だが無防備な敵を撃つだけだ死ぬ心配も少なくて安心じゃね」
「そうだね」
30分後
「敵艦射程圏内に入りました」
ヴィルヌーブが叫ぶ
「撃て」
ヴィクトリー艦上
悪魔の流星群がヴィクトリーロイヤルソブリンの周りに降り注ぐ
「流石にすごい弾幕ですね」
ドーン
「危ないですね!いくら遠距離でも破片は飛び散る。私の靴のバックルもやられました」
「そうだな…かなりの激戦だ…長くは続かないだろう…」
ビューサントル艦上
「どうだ順調撃沈できそうか?」
「いえ…それが…あの遠距離でまだ致命傷になるような被害は見受けられません」
「ならもっと射速を上げろ!」
「マッチを使用しているのでこれが限界かと…」
「くそ!」
「全然敵艦減速しないじゃないか!」
「くそ!マッチの火が付きにくい」
「弾が詰まった」
「滅茶苦茶だ!」
「敵艦ロイヤルソブリン艦列に入り込もうとしています!」
「しまった反転だ!何としても並行にもっていかなくては…」
ヴィクトリー艦上
嵐は過激さを増し、一向に病む気配を見せない
「コリングウッドはうまくやってくれたか…我らも中に入り込むぞ!」
「おーーーーー」
ドーン
「どうしたドーア准尉?」(副官)
「そんな前方ではなくもっと安全な場所へ行きましょう」
「そうすれば私の代わりに誰かが凶弾に斃れることになろう!私は部下を盾にはしたくない!」
「提督せめてコートだけでもご着用ください」
「私は沢山の武勲をあげ、この勲章を授かった!隠す必要もない!隠そうが隠すまいが死ぬ時は死ぬ」
「さあ、大砲の準備だヴィクトリーも艦列に入るぞ」
ビューサントル艦上
「敵艦ヴィクトリー戦列に入り込みました」
「何故だ!奴らは少なからず被弾している…なのに何故あんなに素早い射速でかつ正確に撃てるのだ!」
「ぐはっ」
「おい!こっちも厳しいぞ」
「なんでこんな被弾して、俺らの3倍の早さで打てるんだ」
ヴィクトリー艦上
バンッ
「提督!」
「問題ない!頬をかすっただけだ…だが流石に大分厳しいな…確実にヒットさせてるはずなんだが…かれこれもう1時間か」
「敵艦接舷してきます!」
「くっ…来たか。迎撃しろ」
バンッ
「提督!」
「ネルソン提督!」
「くっ ガハッ」
血痰か… バタッ
「提督を船底に運べ!」
「ネルソン大丈夫か?」
「ハーディーか…肺を…貫通…して…いる。私…は…帰れ…ない…だろう…」
「攻撃…を…経…続…しろ…」
「私…の…状態…は知らせ…ぬな」
「気に…せず…突撃せよ…」
「ハッ」
「ハーディー…行ってこい…勝利…の土産話を…楽しみに…待っている」
「それまで死ぬなよ」
「フッ」
バーン バーン
「ヴィルヌーブ提督!わが艦被害甚大です!」
「まだだ!ヴィクトリーも大分ボロボロのはずだ!」
「提督!後方の戦列艦の射程圏内に入りました!これ以上は…」
「くそ!何故だ何故だーーー何故ヤハウェ様はネルソンなどと同じ世代に私を生んだのだ!」
「国旗を…国旗を…降ろせ…」
連合艦隊は戦列に入り込んだ地中海艦隊に反撃するために反転を試みましたが、当時は帆船で上手く回頭ができず、その隙を突き地中海艦隊は22隻を大破・鹵獲し15隻撃沈しました
「コリングウッド提督!敵艦撃沈しました!」
「もうそろそろ戦列から抜けられるな…」
「無傷の艦が後はやってくれる…勝った…完勝だ!」
「ネルソン イギリスが勝ったぞ 14から15隻沈めたそうだ…」
「20隻沈める予定だったのだがな…私の落ち度だ…」
「お前のお陰だ…ネルソン」
「お前と出会って11年だ…」
「昔話なんてお前らしくないな」
「色々なことがあったな… お前が捕まった時の人質交換、エマと不倫したときの口喧嘩とか」
「もうしゃべるな体に触る」
「最期くらいそう苦言を呈さなくてもいいじゃないか…徐々に爆発音やお前の声も聞こえなくなっていってしまっている…死が迫ってきているということだ…」
「…っ」
「君は友達としても部下としても優秀だったこれからも頑張れよ…」
「私人としての提言は何一つ聞き入れられた記憶がないがな。」
「ハハッ… もう行くといい艦長としての役目がまだ残っているだろう」
「…」
「最後に私の愛するエマを面倒みてやってくれ…さらばだハーディーありがとう…」
かっかっか
「ネルソン…うっ…うっ…」
「提督!すみません私たちが至らぬせいで…」
「何を言う…私が死ぬのは私が無茶をしたせいだ…私は皆に感謝したい…ありがとう…」
「ヤハウェ様ありがとうございます…私は責務を全うできました」
そしてごめんエマ
ネルソンは知っていた最後のこの言葉を聞いたものがいないことを…
どんどん暗くなっていく…ああーこれが死か…死ぬのか…俺
でもなんか一点の光…ってまぶしっ
「おぎゃあ おぎゃあ おぎゃあ」
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
「あなた、この子の名前何にするの?」
「ホレーショにしようかな」
「それって古来の英雄の名前でしょう。こんな平民がつけていい名前なの?」
「いいに決まってるさ!それが帝国臣民の権利なんだから」
「一人だけでもいいから慕われるような人になってほしい…そういう思いでつけたんだ」
「へーー あなたにしてはまともな考えしてるじゃん」
「してはってなんだよ」
ホレーショ ネルソン 二度目の人生がこの瞬間始まった
人物紹介 ホレーショ・ネルソン
最終階級 中将 地中海艦隊司令官 白色艦隊司令官
隻眼隻腕提督で知られるネルソン中将 ネルソンタッチは彼の有名な戦術ですね!
世界三大提督の一人として名前を挙げられています
また彼はリアルイケメンらしかったです。またかなりの色男で彼は妻帯者だったのにも関わらず堂々と不倫しました。(しかも相手が人妻)港を転々とするたびに愛人を作っていたようです(ナポレオンみたいな肖像画だけイケメンとは武勇伝の時点で格が出るね) そんな彼ですが、誰にでも優しく、部下からも愛されていたみたいです。その事実に当時戦死した提督は水葬するのが当たり前でした。しかし彼の戦死後は最高級ブランデー樽の中に入れられ可能な限り腐敗を止め、イギリス本土に連れ帰り、イギリス史上初めて皇室以外の人間で国葬の行われた人物になりました。 そんな偉大な彼が今回の主人公になります




