大学にて 静視点
??「君、なんか……寂しそうな目をしてるよね」
そう声をかけてきたのは、ゼミの先輩・篠原だった。 スラリとした長身に整った顔立ち。人懐っこいけどどこか冷たい目。 初めて会ったとき、静は胸の奥がざわつくのを感じた。
静(――玲に、少し似てる)
篠原は何かと理由をつけて静に話しかけてくる。 ノートを見せてくれたり、図書館でたまたま出会ったり。 まるで計算されたような自然さで、静の隙間に入り込んできた。
その優しさは心地よかった。 笑いかけられるたびに、胸が少しだけ高鳴った。
でも――
ある日の帰り道。篠原がぽつりと言った。
篠原「君って、誰かに“飼われたい”願望、あるでしょ?」
足が止まった。 脳裏に、あの頃の玲の声が響いた気がした。
篠原「静はさ、私の“もの”でしょ?」
篠原の言葉は甘く、滑らかで、優しさの皮を被っていた。 けれど、あのときと同じだった。優しさに見せかけた、所有の目。
静は静かに息を吐いて、篠原を見た。
静「……ごめんなさい。私、あなたとは無理です」
篠原「え?」
静「たぶん、私……ずっと前に“誰か”のものになってしまったから」
篠原の顔が曇る。けれど、静は一礼して、そのまま去った。
胸が痛かった。心が少しだけ揺れていたのも事実だった。 でも、振り切れた。迷わずに。
静(玲。私はちゃんと、あなたと過ごした記憶を、自分の心に刻めてたよ)
帰宅後、スマホのケースに挟んである、玲との高校時代のツーショット写真を見つめる。
静「……ただいま、玲」
その声は穏やかで、強く、そして少しだけ大人になっていた。