確かな証
秋雨の中、静は風邪をひいて寝込んでいた。 玲はバイトを早退して帰宅し、慣れない手つきでおかゆを作る。
玲「……全然うまくないけど、食べて。お願いだから」
熱にうなされながらも、静は微笑んだ。
静「うまいよ。玲が作ってくれたから」
玲はうつむいて、箸を渡した。
玲「……あのとき、私が倒れてたとき、静がしてくれたこと。覚えてたんだ。だから、私もちゃんと、今度は支えたい」
熱のせいでぼんやりした意識の中でも、 静はその言葉が胸にしみるのを感じていた。
静「……ありがとう、玲」
ふたりは、ゆっくりと愛の形を作っていく。 それは決して完璧なものじゃない。 でも、確かに「ふたりでいられる」ことを選び続けた証だった。
第8話 大学にて 静視点
??「君、なんか……寂しそうな目をしてるよね」
そう声をかけてきたのは、ゼミの先輩・篠原だった。 スラリとした長身に整った顔立ち。人懐っこいけどどこか冷たい目。 初めて会ったとき、静は胸の奥がざわつくのを感じた。
静(――玲に、少し似てる)
篠原は何かと理由をつけて静に話しかけてくる。 ノートを見せてくれたり、図書館でたまたま出会ったり。 まるで計算されたような自然さで、静の隙間に入り込んできた。
その優しさは心地よかった。 笑いかけられるたびに、胸が少しだけ高鳴った。
でも――
ある日の帰り道。篠原がぽつりと言った。
篠原「君って、誰かに“飼われたい”願望、あるでしょ?」
足が止まった。 脳裏に、あの頃の玲の声が響いた気がした。
篠原「静はさ、私の“もの”でしょ?」
篠原の言葉は甘く、滑らかで、優しさの皮を被っていた。 けれど、あのときと同じだった。優しさに見せかけた、所有の目。
静は静かに息を吐いて、篠原を見た。
静「……ごめんなさい。私、あなたとは無理です」
篠原「え?」
静「たぶん、私……ずっと前に“誰か”のものになってしまったから」
篠原の顔が曇る。けれど、静は一礼して、そのまま去った。
胸が痛かった。心が少しだけ揺れていたのも事実だった。 でも、振り切れた。迷わずに。
静(玲。私はちゃんと、あなたと過ごした記憶を、自分の心に刻めてたよ)
帰宅後、スマホのケースに挟んである、玲との高校時代のツーショット写真を見つめる。
静「……ただいま、玲」
その声は穏やかで、強く、そして少しだけ大人になっていた。