成長
ふたりが再会して、数ヶ月が経った頃。
放課後、人気のない図書室の一角。 玲は、また静を押し倒していた。
静かな部屋の中で、玲の呼吸だけが熱を帯びている。
玲「ねぇ、いいでしょう? ……私のこと、好きなんでしょ?」
玲はそう言いながら、静の首筋に手を滑らせた。 けれども静の反応はあと時と違った。
静「玲」
静が、やわらかく、でも確かな力でその手を掴んだ。
玲の動きが止まる。 静は穏やかに笑っていた。 だが、その目にはまっすぐな光がある。
静「大丈夫。ちゃんと、好きだよ。……でも、今のは違う。」
玲は、何か言いかけて、口をつぐむ。 静の言葉には、責める響きがない。 ただ、優しさと決意があった。
静「玲のこと、怖くない。嫌いになったわけでもない。……でもね、私が本当に嬉しいのは、そうじゃないんだと思う」
玲は目を伏せた。 唇が小さく震える。
玲「……私、また……同じこと、繰り返そうとしてた?」
静は、そっと玲の手を握った。 まるでその手を責めるどころか、包み込むように。
静「うん。でも……今なら、間に合うよ」
沈黙が降りる。
玲の目に涙が浮かぶ。 けれどそれは、悔しさでも、恥でもない。
初めて「拒まれていない」ことに、 初めて「止められることが、愛だと知った」瞬間の、 痛いほどの救いの涙だった。
玲「……ありがと」
玲がそう呟いたとき、静はただ微笑んだ。
ふたりの影が、図書室の午後に寄り添っていた。