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落語【声劇台本書き起こし】

落語声劇「ねずみ」

作者: 霧夜シオン


落語声劇「ねずみ」


台本化:霧夜きりやシオン@吟醸亭喃咄ぎんじょうていなんとつ


所要時間:約30分


必要演者数:最低4名

      (0:0:4)

      (4:0:0)


※当台本は落語を声劇台本として書き起こしたものです。

よって性別は全て不問とさせていただきます。

(創作落語や合作などの落語声劇台本はその限りではありません。)


※当台本は元となった落語を声劇として成立させるために大筋は元の作品

 に沿っていますが、セリフの追加及び改変が随所にあります。

 それでも良い方は演じてみていただければ幸いです。



●登場人物


左甚五郎ひだりじんごろう:京都にて左官ひだりかんを朝廷から頂戴ちょうだいした当代一の大工・彫刻師。

     1600年の20~30年前後に活躍した人物。

     日光東照宮にっこうとうしょうぐうの眠り猫をるなど多くの逸話があるが、

     歌舞伎かぶきや講談など、それらの逸話いつわが独り歩きし、複数の人物像

     が重なって左甚五郎ひだりじんごろうという人物が生まれたのではないかという

     説もある。

     このはなしの他にも「三井みつい大黒だいこく」、「竹の水仙すいせん」、「叩きがに

     にも登場する。


政五郎まさごろう神田竪大工町かんだたてだいくちょう大工だいく棟梁とうりょう。二代目。

    甚五郎じんごろう後見こうけんとなっている。


鼠屋ねずみや鼠屋卯兵衛ねずみやうへえ。本来ははす向かいの虎屋とらや亭主ていしゅ虎屋卯兵衛とらやうへえだったが

   、酔った客が暴れたのに巻き込まれ、腰を打って立てなくなってし

   まう。

   それから番頭ばんとう後妻ごさいのおこんに店は乗っ取られるわ、息子の卯之吉うのきち

   彼らのせいで辛い思いをしていたなど、弱り目にたたり目状態だった

   が、甚五郎じんごろうが泊まったことで潮目しおめが良い方向に変わり始める。


卯之吉うのきち鼠屋卯兵衛ねずみやうへえの息子。

    十二歳ながら、親想いでとてもよく気のく子供。


生駒屋いこまや卯兵衛うへえの家から四、五軒先の生駒屋いこまやあるじ

    卯兵衛うへえとは幼いころからの喧嘩けんか友達。


丑蔵うしぞう虎屋とらや番頭ばんとう卯兵衛うへえの弱り目に付け込んで、虎屋とらやを乗っ取ってし

   まう。けど、悪い事は出来ないものである。


ねずみ甚五郎じんごろう心魂しんこん込めてり上げたねずみ

  動き回るし、話の最後だけだがしゃべる。


茂左衛門もざえもん:仙台の民その1。


吾作ごさく:仙台の民その2。


語り:雰囲気を大事に。




●配役例


甚五郎・吾作:

鼠屋・鼠:

卯之吉・丑蔵・政五郎:

生駒屋・茂左衛門・語り



※枕は誰かが適宜てきぎねてください。



枕:世の中には、後世こうせいに名前を残したという方が数多くいらっしゃるよう

  で。例えば自分で建てた寄席よせを自分でつぶして名前を…これはちょっと

  残し方が違いますけども。

  大工だいくさんの方で、それもり物・細工物さいくものの分野で名を残した方に、

  ご案内の通り、甚五郎利勝じんごろうとしかつと言う方がいらっしゃいます。

  この方はたいそう旅好きだったそうでございます。


卯之吉:おじさん、あの、そこのおじさん!


甚五郎:なんだい坊や。


卯之吉:おじさんは旅の人ですか?


甚五郎:坊や、おじさんのこのなりをごらん。

    手甲脚絆てっこうきゃはん草鞋履わらじばき、肩に小さな振り分け荷物。

    おじさんは旅の者だよ。


卯之吉:そうですよね。

    今晩は仙台にお泊まりですか?


甚五郎:うん、そのつもりだよ。


卯之吉:できたら、あたいのうちに泊まってくれませんか?


甚五郎:坊やは宿の客引きさんかい?


卯之吉:そうじゃないんですけれど、おじさんがうちに泊まってくれると、

    あたいもおとっつぁんも大層たいそう助かるんです。


甚五郎:ふむ、どこへ泊まるのも同じだ。

    まあこれもご縁だ。

    じゃあ今夜一晩、坊やのところに厄介やっかいになろう。


卯之吉:ありがとうございます!

    ただ…おじさん、あの、うちは汚いですよ。


甚五郎:あぁ、うちなんざ汚くったってかまわないよ。

    旅をしてるとな、たまに野宿のじゅくという事もある。

    雨露あめつゆがしのげればそれでいいよ。

 

卯之吉:あの…部屋も狭いんです。


甚五郎:あぁ、部屋なんぞ狭くったってかまわないよ。

    立って半畳はんじょう、寝て一畳いちじょうだ。

    今さっきも言った、雨露あめつゆさえしのげりゃそれでいいよ。


卯之吉:あ!それと…おじさんは夜寝る時、布団ふとんを使いますか?


甚五郎:坊やは時々、妙な事を言うな。

    人間、寝る時に布団ふとんを引いたり掛けたりするな。


卯之吉:じゃあ、すいませんけども先に、二十文にじゅうもんだけくれませんか?


甚五郎:うん?二十文にじゅうもんだけ前払いかい?


卯之吉:そうじゃないんです。

    布団ふとん屋さんに借りがあるんです。

    だからおあしを持っていかないと、布団ふとんが借りられないんです。

    おじさん風邪を引きたくなかったら、二十文にじゅうもん出した方が身の為で

    す。


甚五郎:なるほど、これは面白おもしろいな。

    坊やはものをはっきり言う正直者だ。

    二十文にじゅうもんでいいのかい?

    よし、ちょいと待ってな。


    【二拍】


    さ、坊や、二十文にじゅうもん渡すから、これで布団ふとん屋さんへ行ってきておく

    れ。頼んだよ。


卯之吉:どうもすいません。

    それからですね、おじさんをうちへ案内してから布団ふとん屋さんへ行く

    と遅くなってしまって、良い布団ふとんが借りられないんです。

    すいませんけれども、一足先に行っててくれませんか?

    場所はすぐにわかりますから。


甚五郎:そうか、じゃあどう行けばいいかな?


卯之吉:この街道をまっすぐ行きますと、すぐに宿場しゅくばに入ります。

    入ったら右側を見てってください。宿場しゅくばの中ほどで虎屋とらやと言う、

    大きな旅籠はたごがあるんです。


甚五郎:ほう、宿場しゅくばの中ほどで虎屋とらやさんか。

    そこが坊やのうちかい?


卯之吉:…ううん、あたいのうちは、そのはす向かいの鼠屋ねずみやって言うんで

    す。

    もう小さいから、気を付けて見てったって見落とすうちなんです。

    こないだこれだけ教えても松前藩まつまえはんのあたりまで行った人がいるん

    です。

    だからその、虎屋とらやさんを目当めあてに行ってください。


甚五郎:そうか、虎屋とらやさんのはす向かいで鼠屋ねずみやさんか、よしわかった。

    じゃ、おじさんは一足先ひとあしさきに行ってるから、布団ふとん屋さんの方を頼ん

    だよ。


語り:「旅人は 雪呉竹ゆきくれだけの 村雀むらすずめ 止まりてはち 止まりてはち」

   と言う事を申します。

   現代の旅行と違いまして、昔の旅で頼るものと言えばおのれの足一つ、

   苦しい事があった半面、風情ふぜいもあったようでございます。


甚五郎:はぁ~、さすがに伊達だて様の仙台六十二万石せんだいろくじゅうにまんごくのご城下じょうかだ。

    たいそうなご繁盛はんじょうぶりだな。

    たしか、宿場しゅくばの中ほどで右側…あぁこれかい、虎屋とらやさんてのは。

    ほお…立派な建物だ。

    誰が建てたか知らないが、腕のいい大工だいくがいるんだな。

    江戸へ持ってきても、こらぁ決して引けを取らないぞ。

    いや、立派なものだ。

    そうそう、このはす向かいと言ってたな。

    鼠屋ねずみや……これかい…?なるほど小さなうちだ。

    名はたいを表すとはうまい事を言ったもんだよ。

    ねずみねずみでもこれはハツカネズミだろうな。いや面白おもしろい。

    …ごめんくださいよ。


鼠屋:おいでなさいまし!

   おぉ、お客様でいらっしゃいますか!

   ようこそおいでをいただきまして…!

   すぐにおすすぎのお支度したくなぞをしなくてはならないのですが…

   あいにく手前てまえ、腰が抜けてて立てませんでして。

   

甚五郎:なんだい、話の分かる大人は腰が抜けてるのかい。


鼠屋:恐れ入りますが、裏に小さな川が流れております。

   そこでひとつ、お御足みあしなどを洗っていただきとう存じます。

   手桶ておけも、き替えの下駄げたそろえてございますんで。


甚五郎:ご亭主ていしゅき替えの下駄げたってのはこれかい?

    片っぽの鼻緒はなおが切れてんね。


鼠屋:でしたら片っぽでぴょんぴょん飛んでいただいて…


甚五郎:まるでうさぎだね。

    まぁ分かったよ。


    【二拍】


    あぁ実に良い心持こころもちだった。

    いや、ご亭主ていしゅの前だけどね、湯だか水だか分からないようなもの

    で足を洗ったり手を洗ったりするよりも、ああいう冷たくて綺麗きれい

    水で洗った方が、その日の疲れがスーッと抜けていくような気が

    するよ。それにしても綺麗きれいな川だね。

    

鼠屋:ありがとう存じます。

   広瀬ひろせ川に流れが落ち込んでおりまして、

   朝夕の間詰まづどきには、ヤマメの影が走る川でございます。


甚五郎:そうか、道理どうり綺麗きれいだと思ったよ。

    ああいう所の方が、洗うのに気持ちがいい。


卯之吉:あ、おじさん、間違まちがえずに着いてますね。


甚五郎:おぉ坊やか。

    布団ふとん屋へ行ってきてくれたかい、ご苦労様。


卯之吉:…あのですね、おじさん。

    これから夕餉ゆうげ支度したくをすると遅くなりますから、お寿司すしでも買っ

    てきましょうか?


甚五郎:寿司すしか。

    たまにはいいだろう、頼もうか。


卯之吉:五人前も頼みましょうか?


甚五郎:いや、おじさん一人でそんなに食べられない。

    まぁ、一人前というのもなんだからな、二人前取って来てもらお

    うか。


卯之吉:実は…あたいもおとっつぁんも寿司すしは大好きなんです。


甚五郎:…そうか。

    じゃあ坊や、おじさんの紙入れを渡すから、これを持ってって

    好きなだけお寿司すしを買って来るといい。

    それからな、他に坊やの好きなものがあったら、

    買って来てもかまわないぞ。


卯之吉:えっ、い、いいんですか!?


甚五郎:いいから行ってきなさい。

    あ、それから済まないがな、帰りに酒屋さんへ寄って、

    酒を二升にしょう買ってきておくれ。


卯之吉:あの、あたいもおとっつぁんも酒はまないんです。


甚五郎:いや、お前達にませるんじゃない。

    おじさんがむんだ。

    それじゃ、頼んだよ。


卯之吉:はい、行ってきます!


    【二拍】


甚五郎:ご亭主ていしゅ、元気なせがれさんだね。

    いくつだい?


鼠屋:はい、十二才になりましてございます。


甚五郎:まぁ…旅の風来坊ふうらいぼうがこんな事を言うのは失礼かもしれないが、

    ご亭主ていしゅがその身体からだあとを取るせがれさんが十二。

    せめて女中じょちゅうの一人も置いた方が、商売しやすいんじゃないのかい?


鼠屋:おっしゃる通りではございますが、これには深いわけがございまし

   て。

   初めてのお客様にこのような事を話すのは何でございますが、

   支度したくができるまでの年寄りの愚痴ぐちひとごとだと思ってお耳だけでも

   お貸しを願いとう存じます。

   何を隠しましょう。手前てまえ、元は前の虎屋とらやあるじでございました。


甚五郎:えっ、ご亭主ていしゅが、あの、虎屋とらやの?


鼠屋:はい。

   申し遅れました、手前てまえ卯兵衛うへえと申します。

   早くに女房にょうぼうに死に別れまして、後添のちぞえを持ったらどうかと

   人にすすめられました。

   あちらこちらとあたるもおびに短したすきに長し、なかなか良いかた

   お目にかかる事ができませんでした。

   その当時、手前てまえどもの店でおこんと言う女中頭じょちゅうがしらがおりました。

   これを後添のちぞえに迎え、手前てまえはほっとしておりましたが…


   …あれは、三年前の七夕たなばたの晩でございました。

   失礼ですが、お客様は仙台の七夕たなばたをご存じでいらっしゃいますか?

   もう大変なにぎわいでございまして、この時期の前後は旅のお客様に

   土地のお方で、どこもかしこも大入おおいり満員になりますので。

   手前てまえどもも朝から上を下への大騒ぎをしておりましたが、夜に

   二階のお客様同士がお酒の上から喧嘩けんかを始めました。


甚五郎:【つぶやくように】

    酒の喧嘩けんかねえ、だから静かじゃない宿は嫌いなんだ。


鼠屋:どちらにお怪我けががあってもいけませんで、手前てまえが止めに入りました

   。

   一生懸命に止めておりましたがどなたに突かれたか、ダーンと胸を

   突かれて二階からはしご段を下までもんどりうって落ちました。

   腰をしたたかに土間どまに打ち付けてしまい、すぐに帳場ちょうばの脇に布団ふとん

   ひいてもらって手当てをしたのですが、いっこうに良くなりません

   でした。

   動けない手前てまえの代わりにおこんが一生懸命やってくれまして、

   そのかん、あっちの医者にこっちの薬、しまいに加持祈祷かじきとうまで

   いたしましたが、それでも治りませんでした。

   手前てまえうちから四、五軒先に生駒屋いこまやといううちがございます。

   ここのあるじ手前てまえは子供の家からの喧嘩けんか友達でございまして、

   それである日の事、生駒屋いこまや手前てまえどものところへ血相けっそう変えて

   飛び込んで参りました。


生駒屋:おい卯兵衛うへえ、お前が二階から落ちて腰打こしうって、立てなくなったの

    は知っている。

    けどな、目ん玉まで節穴ふしあなになってしまったのか?

    自分の可愛かわいせがれ身体からだをいっぺんでも見てやったことがあるのか

    、このバカ野郎ッ!


鼠屋:そう手前てまえを怒鳴りつけておもてへ飛び出していきました。

   はて、妙な事を言うぞと気になっております所へ、せがれ手習てならいから

   戻って参りましたので、これせがれ、おとっつぁんの前で着物を脱いで

   みろと、そう言いました。

   するともじもじもじもじしておりますので、何をぐずぐずしている

   んだ、早く着物を脱がないかと強く責めたんでございます。

   するとしぶしぶ着物を脱ぎましたが、なんと身体からだじゅう生傷なまきずだらけ

   、手前てまえ仰天ぎょうてんしました。

   わけを聞いたのですが、


卯之吉:近所の子供と喧嘩けんかしてできたんだ。


鼠屋:としか言いません。

   しかしどう見ても子供同士の喧嘩けんかでできる傷ではない。

   バカを言うんじゃない、正直に言わないか!そう責めました。

   するとせがれは、


卯之吉:うっ、うぅっ…うわぁぁぁーーーん!!!


鼠屋:手前てまえの首にかじりつくといきなり泣き出したんでございます。


卯之吉:おとっつぁん、おっかさんはなぜ死んだんだい!


鼠屋:そう言われました時に、手前てまえはハッと目が覚めたんでございます。

   あぁえらい事をした、こりゃきっとおこん継母ままははいじめだ。

   自分の事ばかり考えていて、可愛かわいせがれの事を

   なに一つ考えてやらなかったと。

   すぐに番頭ばんとう丑蔵うしぞうという者を呼びまして、

   我々親子は前の物置へ移るからと、そう告げたんでございます。

   番頭ばんとうも、


丑蔵:連日連夜れんじつれんやお客様が大入おおいり満員、たとえ一部屋ひとへやでも多く使いたいとこ

   ろでございました。

   旦那だんな様がその気でしたら、さっそく物置を掃除そうじして、中を整えまし

   ょう。


鼠屋:そうして手前てまえせがれは、それまで物置だったここへ

   移ったんでございます。

   三度三度の食事は前の虎屋とらやから運ばせておりましたが、

   三度のものが二度になり、二度のものが一度になり、しまいには

   いっぺんも届かなくなりました。

   せがれを取りに行かせますと、


丑蔵:なに、めし

   客が立て込んで忙しいさなかに、病人の面倒めんどうなぞ見ていられるかッ

   !!


鼠屋:そう言ってせがれの頭を殴ったとか。

   …腹が立ちました。

   腹が立ちましたが、腰が立ちませんでした…。

   我慢をいたしておりますと、生駒屋いこまやがこれを聞いたのでございまし

   ょう。

   我々親子の面倒めんどうを見てくれたんでございます。

   ところがある日の事、また生駒屋いこまや血相けっそう変えてやってきて、


生駒屋:おい卯兵衛うへえ、お前いつの間に虎屋とらや番頭ばんとう丑蔵うしぞうゆずったんだ!?


鼠屋:そう言うんでございます。

   いや、そんなバカな事をした覚えはない!

   そう手前てまえが言いますと、


生駒屋:俺はな、あいつのやり口があんまりひどすぎるんで、

    店に怒鳴り込んでいったんだ。

    そしたらあの野郎、なんて言ったと思う?


丑蔵:【嫌味たっぷり煽るように】

   生駒屋いこまやさん、手前てまえどもと前の虎屋とらやあるじとは、

   もう何の関わり合いもございません。

   どうぞ、これをご覧ください。


生駒屋:そう言って見せられたのが店のゆずり渡しの証文しょうもんだ。

    卯兵衛うへえお前、印形いんぎょうをどうした?


鼠屋:!しまった、おこんに預けっぱなしだった…!!

   ああ、もう後の祭りだ…。


生駒屋:おこん丑蔵うしぞうたくらんでのっとってしまったってことだな。

    それだけじゃねえ。

    こんな話をお前の耳に入れたかねえが、あの二人は最初から

    デキてたんだ。ただお前が見て見ねえふりをしているんだと

    思ってた。

    そしておこん後添のちぞえの白羽しらはの矢が立って、丑蔵うしぞうはあの通りだ、

    おこんの引きそでを引いた。最初はおこんそでにしていたが、

    お前が二階から落っこって腰が抜けてしまったら、

    男と女、やけぼっくいに火がついちまった。

    お前の印形いんぎょうしてある以上、役人に訴え出てもどうにもなら

    ねえ。

    どうする?


鼠屋:……。

   生駒屋いこまやの…すまねえが、卯之吉うのきちを引き取ってくれねえか…?


生駒屋:…お前、良からぬ事を考えてるな?

    バカな事はするな。死んで花実はなみは咲かねえぞ。

    卯兵衛うへえ、この浮世うきよ、悪い事ばかりじゃない。

    必ず良い事があるから、決して短気な真似まねはするなよ。

    お前達の面倒めんどうは俺が見るからな。


鼠屋:それからも生駒屋いこまや恩情おんじょうにすがっておりました。

   ですがせがれが申しますのには、


卯之吉:おとっつぁん、ただこうやって食べ物をめぐんでもらっていたので

    は犬猫同然、狭くて汚いとこだけど、上に二間ふたま、下に二間ふたまの部屋

    がある。

    たとえ一人でもお二人でもお客様が泊まってくれたら、

    おとっつぁんが食うには困らないから。


鼠屋:せがれはそう言ってそれから宿場外しゅくばはずれに出まして、

   お客様方にご迷惑をお掛けしていると、こういったような次第しだい

   ございまして。


甚五郎:うーむ、世の中にはひどい奴があるものだ。

    時にご亭主ていしゅ、この鼠屋ねずみやと言う屋号やごうはどこから付けたんだい?


鼠屋:はい、前の虎屋とらや番頭ばんとう丑蔵うしぞうに乗っ取られました。

   ここは物置でございましたんで、ねずみ沢山たくさん住んでおりました。

   手前てまえせがれがそのねずみから、ここを乗っ取ったような具合ぐあいになりました

   ので、義理を立てまして鼠屋ねずみやという名前にしたのでございます。


甚五郎:…なるほど、こらァ面白おもしろいな。

    そうだ、どうだろう。

    私がたとえ、一人でも二人でも多くのお客が泊まるように、

    店の名前にちなんでねずみを一匹、ろうじゃないか。


鼠屋:えっ、お客様はり物をなさるので?

   この仙台にも有名なり物の先生がいらっしゃいますが…、

   あ、これは不調法ぶちょうほういたしました。一人でしゃべっておりまして…。

   お役所がやかましゅうございますんで、宿帳やどちょうを付けさしていただ

   きます。

   どうぞ、ご生国しょうごくとお名前だけでもお願いいたします。


甚五郎:お、そうかい。

    じゃ、筆をーー


鼠屋:【↑の語尾に喰い気味に】

   ぃいえいえ、手前てまえ、腰は立ちませんが筆は立ちますので。

   大丈夫でございます。

   では、お聞かせくださいまし。


甚五郎:生まれは飛騨ひだだね。

    

鼠屋:えっ、では飛騨ひだからこの奥州おうしゅうへ?


甚五郎:いや、そうじゃないんだ。

    もうだいぶ前に江戸に出ててね、そこへは江戸は日本橋にほんばし花町はなちょう

    大工だいく政五郎まさごろううち、甚五郎じんごろうと記してくれればいいよ。


鼠屋:さようでございますか。

   うち、甚五郎じんごろう……。


   あの、間違まちがえましたらなにとぞご容赦ようしゃのほどを。

   飛騨ひだ甚五郎じんごろう様と言うと、あの高名な左甚五郎ひだりじんごろう先生で…!?


甚五郎:いや、先生じゃない。普通の人間だ。ほっぽっといておくれよ。

    それからご亭主ていしゅのところに、木端こっぱはあるかい?


鼠屋:河童かっぱでございますか。

   なんでも広瀬川ひろせがわの上流で出たという話がーー


甚五郎:ああいや、河童かっぱじゃない、木端こっぱれはあるかい?


鼠屋:はい、鼻紙はながみでございましたらいくらでも。


甚五郎:いや鼻紙はながみじゃない、れ、柱や板の切れっぱしだ。


鼠屋:ああ、それでしたら元が物置ですので、えんの下にいくらでもござい

   ます。


甚五郎:そうかい、じゃ、二階をお借りするよ。

    私はいま、無性むしょうにこしらえたいものがあるんだ。

    っぴてやるからうるさいかもしれないが、そこは勘弁してくれ

    。寿司すしやなんかはそっちでんで食ってくれてかまわない。

    ただ、誰も上がってこないようにしてくれ。いいかい?


鼠屋:わ、わかりました。


語り:金をいくら積まれても、気が乗らねば引き受けない。

   甚五郎じんごろう先生、コツコツカリカリコツコツカリカリ心魂しんこん傾けて、

   明くる日の朝までに、小さな鼠一匹ねずみいっぴきり上げました。


甚五郎:ご亭主ていしゅ、坊や、起きてるかい?


卯之吉:あ、おはようございます、おじさん。


鼠屋:どうも、おはようございます。

   昨日はお休みにならなかったようでございますが…。


甚五郎:ああ、ちょいと一晩かけてね、こしらえ物をしてたんだ。

    うるさくて眠れなかっただろう?


卯之吉:おじさん、あたい、あんなにお寿司すし食べたの初めてなんです。

    あの、大人おとなの言うこと合ってます。

    お腹の皮が突っ張ったら目の皮がたるんだんです。

    さっきまでずっと寝てました。

    おとっつぁんも、おじさんが泊まってくれたのがうれしかった

    みたいで、普段ふだんまないのに珍しくお酒をんでて、

    さっきまで頭が痛い頭が痛いって言ってました。


甚五郎:ははは、そうかい。

    実はね、こんな物をこしらえてみたんだ。


鼠屋:はぁぁこれは…小さくも可愛かわいらしいねずみでございますな。


卯之吉:一晩かけてこれを作ったの?


甚五郎:このねずみを置き土産みやげにおいて行くよ。


鼠屋:えっ、名人のこしらえ物を、私どもにいただけるので…!?


甚五郎:鼠屋ねずみやだから屋号やごうにちなんでねずみをこしらえてみた。

    それでな、ちょいと趣向しゅこうがあるんだ。

    坊や、そこにあるタライ、使ってるのかい?


卯之吉:いいえ、使ってないですよ。


甚五郎:そうか、だったらそのタライをおもてへ出してな、何か台の上に

    乗せるんだ。

    あとご亭主ていしゅふですずりを貸してくれ。


鼠屋:あの、書き物でしたら手前てまえがーー


甚五郎:いや、私が書かなければならないから、こっちに貸しておくれ。


鼠屋:は、はぁ、わかりました。

   どうぞ。


甚五郎:これこれこう書いて、と……。

    ねずみを入れて、上に竹のあみをかぶせれば…

    できた。

    こっちの木札きふだにはこれこう書いて、ぶる下げて…。

    これでよし。


    ご亭主ていしゅ世話せわになったね。

    ごえんがあったら、また会いましょう。


鼠屋:もうおちですか?

   どうも、ありがとうございました…!

   道中どうちゅう、どうぞお気をつけてお出かけ下さいまし…!


卯之吉:おじさん、ありがとうございました!


語り:こうして甚五郎じんごろうは親子に見送られ、鼠屋ねずみやを後にしたのでございます

   。

   それから少ししたある日。

   仙台の民達が世間話をしながら歩いていました。


吾作:おい、茂左衛門もざえもん


茂左衛門:なんだぁ、吾作ごさく


吾作:ちょっくら鼠屋ねずみやさんの前見ろ。

   なんか木札きふだが下がってるな。


茂左衛門:どれ…おぉ、確かに木札きふだがあるな。

     売りに出たのかね?


吾作:いやぁ、若竹わかたけではねえから売りには出ねえだろ。


茂左衛門:なにか書いてあるぞ。

     なになに…甚五郎じんごろう作・福鼠ふくねずみ…?


吾作:甚五郎じんごろうと言えば、あの有名な左甚五郎ひだりじんごろう先生か?


茂左衛門:ここの家と関わりあるのかね?


吾作:ちょっくら聞いてみようか。

   ごめんくださいよ。


鼠屋:おぉ、ごせいが出ますな。

   どうぞお入りください、お茶でも入れましょう。


茂左衛門:いやあ、そうもしていられねえんだ。


吾作:まだ野良仕事のらしごとが残ってるからな。


茂左衛門:それで、おもて甚五郎じんごろう作・福鼠ふくねずみとあるけど、

     なんだいありゃ。


鼠屋:実は、その名人甚五郎めいじんじんごろう先生がお泊まりになって、

   屋号やごうにちなんだねずみってくれたので。


吾作:あの名人がかい!?

   へえぇ、たいしたもんだ!


茂左衛門:おめえがうちの宝だなぁそれは。

     見せてもらうわけにはいかないかい?


鼠屋:えぇいいですよ。

   そこのタライの中に入ってますから。


吾作:そうかい。

   見せてもらおう、名人のり物の出来できの良さを。


茂左衛門:だなぁ、目の保養ほようだ。

     名人がったねずみだからな。


     【二拍】


     ほぉ~、いるよ。

     木でったねずみだからな。鼠色ねずみいろってわけにはいかねえけど、

     ねずみの色の違いが、出来できの良ししの決定的差でないしな。

     ちっけぇねずみがタライの真ん中にちょこんと座ってるよ。

     おもしれえな。


吾作:おお、可愛かわいらしいねずみだな……ぁッ!!?


   お、おぃッ!!


茂左衛門:なんだ吾作ごさく

     どうした?


吾作:【声を落として】

   こ、これ見ろ。

   このねずみ、動くぞ…!


茂左衛門:バカ言うな。

     木でった物が動くわけねえ。

     首が変な向きをするもんだから、動いたように見えるんだろ。

     どいてみろ、木でったねずみがーーー動くぞこいつ…!


吾作:はぁぁ、名人のり物は化け物か!?


茂左衛門:認めたくないもんだな。

     自分自身の、勘違いゆえのあやまちというものを。


吾作:あれ、タライの底にも何か書いてあるぞ。

   なになに、「このねずみをご覧になった方は、旅の者土地の者を問わず

   、この鼠屋ねずみやにお泊まりを願いたい。甚五郎じんごろう


   …茂左衛門もざえもん、俺たち二人、今晩はここへ泊まらねえと駄目だ。


茂左衛門:冗談じゃないぞ。

     泊まらなければ駄目だって言ったって、俺たちのうちはここから

     三町さんちょうと離れてねえんだ。


吾作:いや、三町さんちょうだろうが五町ごちょうだろうが駄目だよ。

   名人が見たら泊まれって、そう書いてあるんだから。

   ご亭主ていしゅ、今晩二人で厄介やっかいになるから!


茂左衛門:はぁ、困ったな…。


鼠屋:ありがとう存じます!

   どうぞ、ごゆっくりお過ごしください。


語り:またたく間にうわさはパーっと広がり、お客がわんさと押し

   掛ける。

   ご案内の通り上が二間ふたま、下が二間ふたましか無いのに、

   ねずみ見たさに寿司詰すしづめで、四十七人も泊まるのもザラです。

   あげくには便所でもいいから泊めてくれ、なんてのが日常茶飯事にちじょうさはんじ

   、それで裏の空き地にどんどん建て増し致しまして、

   日一日ひいちにち鼠屋ねずみやは立派になるばかりでございました。

   さらに悪事千里あくじせんりを走るとはよく言ったもの、虎屋とらや悪評あくひょうも広まり

   、それまで定宿じょうやどにしていたお客もどんどん足が遠のき、

   しまいにはぴたっと途絶とだえてしまう有様ありさま

   三十人からの奉公人を抱えていましたが、一人辞め、五人辞めして

   、ついには丑蔵うしぞうとおこんだけになってしまいました。


丑蔵:くそっ、なんでこんな事に…!

   とにかく、あの動くねずみに負けないものが無いと…。

   そうだ、仙台にも飯田丹下いいだたんげという有名な人がいるじゃないか。

   虎屋とらや屋号やごうにちなんで、でっかい虎をってもらおう!


語り:身から出たさびという言葉がありますが、そういう人間に限って

   腐れるおのれ自身とただよ腐臭ふしゅうに気づかぬものでございます。

   依頼を聞いた飯田丹下いいだたんげ、初めは断わり気味ぎみであったが、相手が以前

   御前ごぜん勝負で敗れた左甚五郎ひだりじんごろうと聞いて、考えを変えます。

   かくして虎屋とらやの二階に、二抱ふたかかえもある立派な虎のり物が出現しま

   した。ちょうど眼下がんか鼠屋ねずみやにらまえている格好かっこうです。

   すると不思議な事に、その虎がえられた日から甚五郎じんごろうった

   ねずみが、ぴたっと動かなくなってしまったのでございます。


卯之吉:おとっつぁん!おとっつぁん!


鼠屋:どうしたんだ、卯之吉うのきち


卯之吉:おじさんの、おじさんのねずみが死んじゃった!


鼠屋:えッ、ねずみが死んだ!!?


卯之吉:あぁっ!?

    立った!

    立った立った!おとっつぁんが、おとっつぁんが立った!


語り:実はとっくに腰は治っていた鼠屋卯兵衛ねずみやうへえ

   ところが当人が立てないと思って立たなかったから立てなかったわ

   けで、立とうと思って立ったら立ったという、舌をみそうな

   ややこしい状態だったわけでございます。

   とにかく卯兵衛うへえ親子、急いで事の次第しだいを手紙にしたため、江戸へ

   の飛脚ひきゃくたくします。

   そしてやって参りました神田竪大工町かんだたてだいくちょう二代目政五郎にだいめまさごろう宅。


政五郎:おじさん、仙台から飛脚ひきゃくが来てるぜ。


甚五郎:仙台…てことは、あの旅籠はたごの親子かな?

    …うん、そのようだね…って、なんだいこれは。


鼠屋:ねずみの腰が抜けました。

   私の腰が立ちました。


甚五郎:またおかしな書き出しだな…。

    なになに、飯田丹下いいだたんげがこしらえた虎が、

    虎屋とらやの二階にえられたら、ねずみが動かなくなった…ふむ。


政五郎:どうするんだい、おじさん。


甚五郎:私の作ったものだからね。

    出かける事にするよ。政坊まさぼうも一緒に来るといい。


政五郎:おう、向こうの建物を見るいい機会きかいだな。


語り:ということでさっそく、二人連れだって仙台までやって参りました。

   ご城下じょうかまでやってくると、向こうから誰かが甚五郎じんごろうを呼びます。


卯之吉:おじさーん!おじさーん!


甚五郎:子供が呼んでるな。

    誰だい!?


卯之吉:あたいです、卯之吉うのきちです!


甚五郎:!ああ坊やか!

    しばらく見ないうちに大きくなったなぁ。

    政坊まさぼう、話していた鼠屋ねずみやせがれ卯之吉うのきちだよ。

    おとっつぁんは達者たっしゃかい?


卯之吉:はい、おじさんがいつ来るんだろう、見てこい見てこいって、

    いつもここへ立ってたんです。


甚五郎:そうかそうか、いま行くから先に戻って伝えててくれるかい。


卯之吉:はい!では一足ひとあしお先に!


甚五郎:おぉい、あんまり急いで走るんじゃないよ…!

    ははは、相変あいかわらず元気な事だ。


    それにしてもどうだい政坊まさぼう伊達だて様のご城下じょうかは。

    立派なもんだろ。


政五郎:確かにだいぶ繁盛はんじょうしてるね。

    あ、あれかい鼠屋ねずみやってのは。

    ほぉ、いい塩梅あんばいの建物だ。


甚五郎:ああ。造作ぞうさくをして、離れもこさえてるよ。

    いい繁盛はんじょうぶりだ。

    ご亭主ていしゅ、いるかい?


鼠屋:ああ、こらぁ甚五郎じんごろう先生!

   来て下すって、ありがとう存じます!


甚五郎:久方ひさかたぶりだね…あぁいやいや、積もる話は後にしよう。

    手紙は読んだよ。

    さっそく見せてもらおうか、虎屋とらやの二階の、虎のり物を。


鼠屋:は、はい、こちらへどうぞ。

   …あれです、あの二階の虎です。


甚五郎:ほぉ、あれが飯田丹下いいだたんげの手になる虎か…。

    ……うーん、なるほどな…。

    政坊まさぼう、あの虎、あれをどう見る?


政五郎:え?どう思うってね…おじさんにはよく言われた。

    本物を見とかなきゃいけねえぞって。

    江戸近郊えどきんこうで本物と言われる物はずっと見てきて、

    少ぉしは目がえた気がするんですがね。

    あっしは大工だからこさえてみろってったってできやしねえが、

    見るくらいならできるつもりだ。

    話に聞く虎ってのは、獣の中じゃ一番強いってことになってる。

    だいいち、年を取ってきてだんだん貫禄かんろくがついてくると、

    頭のここんところに王の字の縞模様しまもようが出るって事を聞いてるよ。

    けどあの虎にはそんな模様もようもねえし、何より眼が嫌だね。


甚五郎:眼?


政五郎:どうもうらみを持ってるような目つきをしてやがる。

    あっしは、たいした出来できだと思わないね。


甚五郎:ほお、お前もだいぶしっかりしてきたな。

    私もそう思うんだ。

    おいねずみねずみ


鼠:あっ、どうも、ご無沙汰ぶさたしてます。


甚五郎:私はな、お前をこさえた時、

    心を無にして性根しょうねえ、

    命がけでこさえたつもりだ。

    なのにお前、あんな虎が怖いのか?


鼠:へっ?あれ、虎ですか!?

  あたしは猫だと思った。




終劇




参考にした落語口演の噺家演者様等(敬称略)


桂歌丸

三遊亭円楽(六代目)



※用語解説


左官ひだりかん:語源は宮中の営繕えいぜんを行う職人に、土木部門を司る木工寮の属

   (四等官の主典)として出入りを許したというものが巷間こうかんに広く

   知られているが諸説ある。


神田竪大工町かんだたてだいくちょう:現在の千代田区内神田三丁目13、17・18、22・23番、

       鍛冶町一丁目を指す。


手甲脚絆てっこうきゃはん:野外での農作業をする時などに、手の甲や足首や甲を怪我から

     守るために着用していた。 また、江戸時代では旅の必需品と

     して使用されていた。


立って半畳はんじょう、寝て一畳いちじょう:人が生活する上で必要なスペースを指す。

      同じ意味の起きて半畳、寝て一畳より丁寧ていねいな表現。

      これだけあれば十分でそれ以上を求めるのは贅沢ぜいたくであるとい

      う、清貧せいひんの精神を表すことわざ。


二十文にじゅうもん:一文=現在の価値で約32.5円。

    なのでだいたい640円くらいであろうか。


宿場しゅくば:江戸時代に五街道に設けられた、旅人を宿泊させたり、

   人馬の継立を行うための設備が整えられた場所。宿駅とも呼ばれ、

   古代から整備されてきた。五街道とは江戸と各地を結ぶ主要な街道

   のことで、(東海道、中山道、奥州街道、甲州街道、日光街道)の

   五つの街道を総称する。


旅籠はたご:日本で昔からある旅人向けの宿泊施設を指す。現代では「旅館」や

   「ホテル」と呼ぶものが一般的だが、「旅篭」は歴史的な文脈で

   使われる言葉。また、旅籠の食事や旅籠の宿泊代などを指す場合も

   ある。


松前藩まつまえはん:蝦夷地(現在の北海道)の松前周辺を領有した江戸時代の外様藩

    。藩主は松前氏で、アイヌとの交易独占権を持つ為、他の藩とは

    異なる財政基盤を持っていた。また領内に米を生産していなかっ

    たため石高がなく、外様大名とざまだいみょうの中でも異色の存在。


間詰まづどき:主に釣りに関する用語で、日の出や日没の前後、明るさが変化

     していく時間帯を指す。特に魚の活性が高まりやすく、釣果が

     期待できる時間帯を意味することが多い。


「旅人は 雪呉竹ゆきくれだけの 村雀むらすずめ 止まりてはち 止まりてはち」:

旅人は雀のようにとまっては飛びたち、とまっては飛びたち…宿に泊まっ

ては発ち、宿に泊まっては発つ。という意味だそうで、蜀山人の作とも

いわれている。


伊達だて様:ちょっと歴史をかじっている方ならすぐに分かる、奥州おうしゅう独眼竜どくがんりゅう

    、伊達政宗だてまさむね…の子孫であろうと時代的に思われる。

    忠宗ただむね綱宗つなむねのあたりではなかろうか。


六十二万石ろくじゅうにまんごく仙台伊達家せんだいだてけ石高こくだか。現在の価値にして約1878億円なり。

      江戸時代の石高ランキング堂々の三位。

      ちなみに一位は加賀百万石でお馴染なじみ、前田家で、二位は

      薩摩藩島津家さつまはんしまづけの約72万石。トップ3のみならず上位は

      ほとんど外様大名とざまだいみょうが占める。


おすすぎ:足を洗う事。


広瀬川ひろせがわ:水源を奥羽山脈の関山峠付近に持ち、名取川と合流したのち

    仙台湾に注ぎ込むまでの全流路が、仙台市域内で完結する都市内

    河川。


紙入れ:財布の事。


二升にしょう:約3,6リットル。


加持祈祷かじきとう:具体的には、印契を結び、真言を唱え、心を集中して

     仏と繋がり、願いを届ける。


印形いんぎょう:ハンコの事。


焼けぼっくいに火が付く:、一度途絶えた関係や縁が、再び繋がりやすい

             ことを表す言葉。特に男女関係において、

             別れた後でもまた元の関係に戻りやすい状況

             を指す。


若竹ではないから売りには出ない:その昔、昭和後期、寄席を作ろうと

                した落語家がいました。その方が作っ

                たのが若竹と言う寄席だったのであり

                ますが、立地の悪さと他の悪条件が

                重なり、数年で閉鎖されてしまう。


三町:一町は約109メートル。なのでだいたい300メートルちょい。


悪事千里を走る:悪い行いや悪い評判は、どれだけ隠そうとしてもすぐに

        世間に知れ渡ってしまうということを意味する。


定宿じょうやど:いつも決まって泊まる宿屋。


飯田丹下:本作品では仙台藩お抱えの彫り師。かつて甚五郎に敗北してい

     る。どうも架空の人物のようである。


身から出たさび:自分の行為の結果として、災いが起こることを表すこと

       わざ。自分のした行いによって、自分自身が苦しむという

       意味合いで使われる。


飛脚ひきゃく:江戸時代に存在した速便の輸送手段であり、信書や貨物を速やかに

   運ぶために使用された。リレー形式で、馬を乗り継いだり、歩いた

   りして、手紙や荷物を目的地まで届けるサービス。




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