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おバカすぎる第六王子と令嬢が社交界から消えた経緯

作者: 七地潮


「アイラ・ミニコフラム!この場に居るのはわかっているのだ!

隠れていないで今すぐここに来い!」


王立学園の冬季休暇前の集会が終わり、皆が講堂から退出しようとしていた時、この国の第六王子がステージに上がり、拡張魔法具で一人の女性との名を叫んだ。


欠席していない生徒は全員いるのだから、そりゃあこの場に居るだろう。


ステージの上にいる第六王子こと、エルバール殿下と、ピンクゴールドの髪に、第六王子の瞳の色の茶色いリボンを付けた、何とも微妙な出立の女子生徒。

二人の顔を見た瞬間、全校生徒は内心で大きなため息をついた。


  ああ、またアホ殿下とピンクか


と。



この第六王子、第一王子が15歳で成人して王太子となった年に、少しばかりの開放感から、

「これまでは国を優先して来たが、これからは国と同じ様に家族にも目を向ける」

との宣言を重臣たちに告げ、言葉通りに王妃や王子、王女たちを構う様になった。

子供達には『今更』と鬱陶しがられ、王妃に慰められているうちに出来た子だ。


所謂歳をとって出来た子、しかも王妃に似た見た目、末っ子、他の子供達からは相手にされない、などなど要因が重なり、溺愛してしまった結果………。



アイラ・ミニコフラムは学園ではとても有名だ。

14歳に入学してからずっと第六王子と登下校は共にし、昼休みは一緒にランチを、パーティーではパートナーとして出席し、休日も毎回王子と城下町をデートしていた。

……そう、していた、のだ。


その関係に変化が現れたのは半年前、リーゼロッテ・リシャルディスが学園に入学してからだ。


パーティーではリーゼロッテを伴い、昼休みどころか、授業の合間の休み時間まで、お互いの教室を行き来している。



色々と事情を知っている周りは、陰でアイラを慰めていた。

表立って行動すると、第六王子が何をしでかすかわからないからだ。



そして今日、前期が終わり、冬休みに入る前の全校集会終了後、騒ぎが起きたのだ。



「アイラ!貴様はか弱い新入生であるリーを虐めていたそうだな!

全てリーゼから聞いているぞ!」


「……………その様な事実はございません」


「嘘をつけ!

貴様は爵位を盾にリーゼに酷い事を言ったり、持ち物を捨てたり、………えっと後なんだっけ?」


本人はひっそり話しているつもりだろうけど、元々の声が大きいので、リーゼロッテに聴いているのはバレバレだ。


「そう!階段から突き落としたのは俺も見てたし、暴漢を雇って襲わせたそうだな!」



「…………………そう言った事実は一切ございません」


「貴様の悪事は全て現場を見ていたリーゼからの告げ口でバレているんだ!」



  あ、告げ口とか言っちゃうんだ

  多分セリフを忘れたんだね



周りの生徒が内心で突っ込んでいる間に、さらにありえない冤罪が積み重なっていく。


「それから、貴様の親は領地の税金を脱税して、違反な奴隷売買までしているそうだな!

さらに違法薬物の栽培、精製、売買していると知っているんだぞ!」

 


  違反? なんか言葉変じゃね?

  ほら、バ……言葉の不自由な方だから

  いや、頭が不自由なのでは?



「(後なんだっけ?)………そうだ、国家の秘密事項を隣国に売った国家転覆罪だ!」



  なんか「言ってやった」ってドヤ顔がウザいんですけど

  秘密事項って何だよ

  ほら、頭が不自由な方ですから



「…………………………」


「ふふふん、何か申し開きがあるのならすれば良かろう」



  なあ、もう帰っちゃあダメなの?

  今帰ると後でウザ絡みされるぞ

  ほら、頭が不自由な方だから



「……ではお聞きしたいのですけど、爵位を、とおっしゃいましたけど、詳しく教えてくださいませんか?」


「なんだ、自分の言った事も覚えていないのか。

貴様の記憶力はミリン粉以下だな」



  ????何だって?

  ミジンコと言いたかったのでは?

  ほら、頭が不自由な奴だから



「貴様はこのリーゼに向かって『公爵令嬢のくせに入学試験最下位なんて信じられませんわ、お家で家庭教師に指示されなかったのですか?』などと言ったそうだな、高々男爵令嬢の分際で!」



  え?ミニコフラム令嬢最下位だったの?

  公爵家って家庭教師雇ってやらなかったの?

  いや、両手で足りないほど雇ったけど、皆匙を投げたらしい。

  よく知ってるな。

  そのうちの一人が俺の叔母だから。

  ああ、王子だけじゃなく令嬢も頭の不自由な方なのか。



「考えてみて下さい、一介の男爵家の私が、高位貴族である公爵家の御令嬢に言葉をかけるなど、マナーに反する事をする筈がありません」


下位の者から話しかけるのはマナー違反である事は、どの家庭でも子供の頃から教えている筈だ。


「いや、学園は皆平等だか、貴様は公爵家のリーゼに暴言を吐けたのだ!」



  いや、もうメチャクチャだな

  アイラ嬢、挫けるな、言うなら今しかないぞ!



周囲の生徒は心の中でアイラを応援する。



「口に出して言った事ありませんけど、心の中で思った事も罪だというならこれについては認めましょう」



  いや、認めなくていいって!

  心の中は自由だよ!



「後何でしたか?

持ち物を捨てたでしたっけ?

それは無理がありますわ、ミニコフラム様の教室まで行く時間がございませんから」


「そんなわけあるか!

我々三年の教室は一階で、一年のリーゼの教室は三階だ、三階までの往復で休憩時間に行き来できないわけなかろう!」



  ん?あれ?コイツ知らないの?

  知らないんじゃない。

  ホラ、コイツアホだから

  ……だんだん容赦無くなって来たね、君。



「そうですね、Aクラスから、殿下のいらっしゃるDクラスまではこちらの校舎に教室がありますね。

ですけど私、今年は特進クラスですの」

「独身クラス?

何当たり前のこと言っておるのだ!

学園の皆独身だ!」

 


  いや、もう帰ろうよ

  時間の無駄だな、だが見逃すのも惜しい

  


「……特進クラスです。

特進クラスの教室は学園内にありません。

将来文官になる方々のうちで成績優秀者五名が選ばれて、王宮で実務の経験を積みながら更なる学びを得る為、王宮に【登校】しております。

ですから、こちらの学園に戻って来て、ミニコフラム様の私物をどうこうする時間は無いのですよ」


性別関係なく、成績が優秀で将来文官希望の数名でなる特進クラスは、行事のある時以外は王宮に【登校】し、学園には居ない。

なので、教室へ行くことすらできないのだ。


「ですから階段から突き落とすこともできません」

「ひ、人を使ってやったんだろ!」

「………現場をご覧になっていたと仰いませんでしたか?」

「気のせいだ!!」



  …………突っ込むのも面倒になってきた

  それな



「暴漢でしたか?

そちらも存じませんし、領地の脱税と言われましても…」


アイラは頰に手を当て小さくため息をついた。


「我が男爵家は領地を拝領しておりませんわ」


ミニコフラム男爵家は領地を持たない宮廷貴族だ。

領地の税金をどうこうできるわけがないし、薬物を育てる土地もない。

下級貴族の男爵家では薬物や人身売買する様な伝もない。

王宮の片隅で書類仕事をしている男爵に、そんな大それたこと出来るわけがない。


完全なる第六王子の言いがかりだ。



「あの、それで殿下は私に何を仰りたいのですか?」


相手にするのも疲れてきたアイラが問うと、第六王子はニャリと歪んだ笑みを浮かべた。


「今日この時を持ってお前との婚約を破棄する!

そしてリーゼロッテと婚約し、リーゼが将来の国母となるのだ!」



  ………………………………

  ………………………………

  ………………………………



皆が疑問に思いながら口に出せない事を察したアイラが、恐る恐る第六王子に問うてみた。


「あの……国母ですか?」

「ああそうだ、将来の国王である俺の妻になるのだから国母であろう」

「いえ……あの……………、次期国王は王太子である第一王子だと思うのですが」


当たり前のことを当たり前に言うけど、通じないのがバ……第六王子だ。


「何を言ってる、兄弟の中で一番可愛がられているのだから、俺が後を継ぐのだ」

「いえ、第一王子は立太子も済ませておりますし、二ヶ月後後には王位を継承されますよね?」


継承式の準備も進んでいるし、近辺諸国に招待状も発送済みだ。

ほとんどの女性のドレスのオーダーも済んでいる。

勿論アイラもドレスをオーダー済みだ。


「何を言ってる!そんな事聞いてないぞ!」


『いや、周りが言った事を本人が聞いていなかったのか、覚えていなかっただけだろ』


皆察しても口には出せない。

腐っても王族なのだから。


「あんな真面目で会議ばかりしている様な兄上が国王になったら、つまらない国になるに違いない。

ここは立派な俺様が王になるべきだと父上に言わなければ!」



  とうとう俺様とか言い出したぞ

  立派…立派……頭の軽さが立派なのかな

  


「殿下………そもそも王位継承権第6位でしたし、王太子殿下に王子がお二人お生まれになった事で、継承権八位だと言う事は……………ご理解されていない様ですね」


アイラは再び小さくため息をついた。


「そもそものお話、私殿下の婚約者ではありませんよ」

「な!!なにを言っておる!

俺がリーゼと出会うまでずっと一緒に居たではないか!」

「(不本意ながら)そうですわね」

「ん?今何か言ったか?

とにかく、婚約者だから一緒に居たのであろう」


第六王子の言葉に、アイラはキッパリと言い切る。


「違います。

一緒に居たのではなく、殿下が付き纏ってきたのです」


学園の入学式で第六王子に見そめられ、何度断っても登下校に迎えに来るし、休憩時間は教室に押しかけ、昼食は無理やり一緒に取らされ、休日に連絡もなしに家に来る。


王族相手だから強くは言えない為、物理的に距離を取るのに特進クラスになったと言っても過言ではない。


リーゼロッテが入学するまで散々振り回された挙句、親まで冤罪をかけられたアイラの堪忍袋の尾が切れた。


顔には出していないが、内心では『ありもしない馬鹿馬鹿しい冤罪をかけられるなら、不敬罪の方がマシだわ』と怒り心頭だ。


「お前が婚約者じゃないのなら、誰が俺の婚約者なのだ?!」


「第六王子に婚約者の方はいらっしゃらなかったかと思いますが」


「なにーー!

俺様は王子様だぞ!

婚約者がいないなどあり得ないだろ!」



  いや、誰もなりたがらなかったんだよ 

  陛下ぎ溺愛してるから、下手こけないってうちの爺様が言ってた

  あーなー

  アイラ嬢がスケープゴート状態だったよな

  俺の彼女が礼を言ってたよ

  あー、ターゲットにならずに済むからね



「と…とにかく!

お前の悪事は全てお見通しなのだ!

大人しく婚約破棄されろ!

国外通報の上に斬首処刑だ!」



  もう本人もなに言ってるのかわかってないんじゃないの?

  めちゃくちゃだな

  どうやって収めれば良いの?と言うか教師は何してんの?

  王族に刃向かう気合いのある教師なんていないよ

  あーねー



「殿下、ここは陛下にご進言されてはいかがですか」


当てにならない教師より、例え不敬罪で罰せられろうと、この場を納めなければとアイラが言うと、第六王子と公爵令嬢はこそこそと耳打ちして頷く。

  

「よし、お父様に言いつけてやるから、足を洗って覚悟しとけよ!

フハハハハ…ゲホ!ゲホゲホ………ハハハハハー!!」

「オホホホホホホ!

皆様ごめんあそばせませ」


高らかに笑いながら、腕を組んだ二人は講堂を出て行った。


扉が閉まった後、会場中からアイラに万雷の拍手が贈られたのであった。






その後、新学期になっても第六王子と公爵令嬢は学園に、どころか、社交界に現れることがなかった。





  その後の話


末っ子を溺愛した王様も、流石に「こりゃダメだ」と、理解した模様。


譲位後、王妃と共に保養地で再教育するも、遅すぎた……かも。

二人が生きている間はどうにかなっても、亡くなった後、兄王達が面倒を見てくれるかは………。


公爵令嬢は、修道院は迷惑がかかるから、他国のハーレムに入れられて、二度と出て来れない……って感じですかね。


第五王子まではほぼ年子状態で、第六王子だけ歳が離れている設定です。


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そもそもこんな馬鹿を野放しにする王家に不敬もなにももはや忠誠みんななさそう……
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