第一編
突然、サモアは現れた。サモアの経営する老人ホームには二階と地下一階の2箇所にお風呂が設置されている。
地下一階にある介護福祉さん16人働いている規模の老人ホームは、お風呂に入る時間に決まりがあるようでない感じだ。
地下一階のお風呂に入りにいこうとすると、介護福祉士の中でポニーテールが特徴の鷹島さんが先にお風呂に入ろうと、ヒートテックや下着をのぞいて服を脱ごうとしていた。
肌に衣服をまとっている状態で良かったが、他に設置されているお風呂に行っても仕方がない。この時間帯のお風呂はいつも空いていることが珍しい程に混む時間帯だからだ。今度、スムーズに皆がお風呂に入ることが出来るように施設長に異議申し立てをしようと思う。
しかし困った。私はさっきまで小説を書いていた。小説書くのを斎藤を目の前にして一緒に書いていた。私の職業は俗に言う文筆業であるが、文章を書く速さを人と競争したことがないから標準的な速さを知らない。
おそらく誰よりも遅いであろうことは自分自身と斎藤しか知らないのだ。
なぜならばといっても、なぜだか分かるはずもないが、私は小説を書こうと思って書くのではなく、気分とか気持ちだとかコディションだとか、A4サイズの白地ノートだとかそういうものが全て整った時に条件が揃えば文章を書いて行くスタイルでしか書けないのだ。
だからノートに書いたものをわざわざ原稿用紙に書き写さなければならないのだ。令和の世では絶滅危惧種であろうアナログ作家なのだ。だから執筆している時に無駄な時間をとられるということは、私はこの世に出版される出版物の短編小説の一編を書き逃すことになってしまう危機なのだ。
さて、どうしてくれよう。小説の主人公さやが自転車に乗って昭和町一丁目のT字路で阿波踊の足袋を買いに行く途中、赤い乗用車に跳ねられ、背中から地面に叩きつけられた時の痛み、苦しみ、生死をわける直前でペンを走らせるのをやめざるを得なかった。
最近、カフェインのとりすぎで寝不足続きである。全く困ったものだ。無駄なことはごまんとある。まずは電話だ。だから電話をかけてくる非常識な奴は全てブロックした。
それに食事の時間を決めるというものもどうにかならないものだろうか。食事の時間も自分で決めるものだろう、普通。
おっと、愚痴っぽくなってしまった。さておき、老人ホームは私にとって居心地悪いシステムで構築されている。仕方がないから今日は個室のお風呂に入ろう。
個室のお風呂で私は考えていた。お風呂に入っている時間は、アイデアがわいてくる貴重な時間の一つである。そのアイデアは小説に限ったことではない。
耐水性ノートに続きでも書くとしよう。




