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夫が王女様と心中してしまったのでユニコーンを密猟します

作者: もそそう雲

実在の宗教などとは全く関係ありません。ファンタジーです。

登場人物が犯罪を行います。

「やりやがったなクソアマ!」


 一見平和で静かな森に男の怒声が響き、どこかで鳥の飛び立つ音がした。

 その男に怒鳴りつけられた若い女――コルネリアは、びくりと肩を跳ねさせ身をすくめる。近くに助けは誰もいない。


 二人の傍らには、横たわる白馬――ではなく一頭のユニコーン。ただし、その特徴である額の角は、根元を少し残して切り取られていた。


 そして切られた螺旋模様の美しい角は、怒る男の手に。もう一方の手には糸鋸が握られている。


「俺が拾ってやらなきゃあそこでつまらねぇ死に方してたくせによぉ! 寝食を恵んでやった恩を仇で返しやがって!」


 気色ばむ男は糸鋸を投げ捨てると、腰に下げていたナイフを抜き放った。無精ひげに小汚い格好からの最後の一押しで、誰がどう見てもならず者だ。


 対する女は、着ている服の質は男と同じくあまり裕福ではない層のものだったが、頭に被ったボンネットから出る前髪の白金の色ツヤや、伸ばした背筋、手の動かし方などの立ち居振る舞いに、どこか気品があった。


「あ、あ……」


 しかし体格のいい男に怒鳴られ凶器を突きつけられては、上品なままではいられない。怯え、震え、動かない足でどうにか後退ろうとしている。

 女――コルネリアの中には後悔があった。


(どうしてこんなことになってしまったの……!)


 走馬灯なのか、コルネリアはここ最近のほぼ崖のような傾斜の下り坂の始点を思い出していた。




「旦那様が……、崖から身を投げて、お亡くなりに……!」


 血相を変えた執事に夫の訃報を聞かされ、コルネリアは愕然とした。


「そんな、どうして……。マ、マティアスは、今日はクリスティアーネ殿下の護衛の、任務中では……」


 夫のマティアスは、第三王女クリスティアーネの護衛騎士である。仕事熱心な夫が、王女の護衛の役目を放棄するなどあり得ない。

 何かの間違いではないか。今朝も、いつもどおりだった。コルネリアに微笑みかけて、仕事に出かけていった。

 だが執事の表情は嘘には思えず、けれどそれを信じるなら夫の自殺が本当だということになってしまう。目を逸らすために、コルネリアは顔を俯けた。足元には、先ほどまで手にしていたティーカップが破片となり、中身と共に散乱している。


「それが……、旦那様は……」


 執事は、マティアスの死以上に言いづらそうに、そこで息を吸い直す。

 続く言葉は、コルネリアが最も聞きたくないものだった。


「旦那様は、王女殿下と手を取り合って、自ら……」


 二人で、手を繋いで、崖から。

 これが、今までの全ての答えだったのだ。


「奥様!」


 訃報まではどうにか耐えていたコルネリアは、そこでついに意識を失った。



 コルネリアは貴族の娘だったが、父の正妻の子ではなかった。父である子爵が使用人に産ませた子で、母はその後すぐ亡くなり、正妻の子として引き取られた。庶子であることは家族しか知らない。

 貴族の庶子など珍しくもないが、父がそれを隠したのには理由がある。父の家系は教会の要職を多く輩出しており、自身が聖職者でなくても対外的には品行方正を求められたのだ。本人にとっては、それが内実を伴っていなくても、形だけ取り繕えたらそれでよかった。

 養母は実子でない娘を疎み家では母とは呼ばせず、他の家人にも軽く扱わせた。結果コルネリアは内向的で、他人に文句を全く言えない気弱な娘に育った。


 ――お前、近頃なんだか嫌な臭いがするわね。……ああ、あの薄汚い溝鼠に似てきたせいかしら。母子揃って本当に忌々しいこと。そうでしょう、コルネリア?

 ――……はい、『奥様』。


 ひたすら叱られないように過ごし、神に祈って不遇な子供時代を終えると、やがて結婚適齢期がやってきた。

 コルネリアは父にとっても邪魔者だったが、あまりおかしな相手へ嫁に出して、「子の中で一人だけああも酷い相手へ嫁に出すとは、もしやあの娘は実子ではないのでは」などと貴族社会で勘繰られるのは避けたかった。

 なので、コルネリアが相場程度の持参金で自然と売れるように、夜会へ何度も送り出した。ところが、父のそういった圧力や、夜会に嫌々付き添う養母の刺すような視線に緊張したコルネリアは、元の性格もあってことごとく失敗した。

 そんな折に、亡き夫のマティアスに声をかけられたのだ。


 ――君、顔色が悪い。少し外の空気を吸ってきた方がいい。ほら、私が付き添うよ。


 マティアス・シュトラウベは、物語の挿絵にでも登場しそうな美しい青年だった。侯爵家の四男で、爵位こそ持たなかったがある程度の財産を譲り受けており、そしてクリスティアーネ殿下付きの護衛騎士として身を立てている有名人だ。

 幾度目かの夜会で、度重なる叱責による胃痛で倒れそうになっていたコルネリアに、彼は優しく手を差し伸べた。

 休む間は気の紛れる話を振り、回復した後は相手のいないコルネリアと踊ってくれた。夜会での、あるいは人生において初めての成功体験だったかもしれない。


 ――見て、マティアス様よ。夜会でお見かけするなんて珍しいこともあるのね。

 ――踊っている令嬢はどなた? マティアス様がクリスティアーネ様以外と踊るとは思わなかったわ。


 通常なら異性との交流に漕ぎつけられてほっとするところであったが、当時コルネリアは周囲の声と同じく怪訝に思っていた。

 なぜなら、美しい騎士と王女様の密かな恋路がまことしやかに囁かれていたからだ。友人のいないコルネリアですら耳にしているほどに。

 さすがに首が飛ぶので、護衛騎士として出すぎたことはしていないと思われるが、未婚の王女がもしかすると身分を超えて本当に彼と結ばれるのではないかと、そう思わせる似合いの美男美女であった。

 そういわけで、あまりに皆がそう言っているので噂をすっかり真に受けていたコルネリアは、マティアスから正式に交際を申し込まれて戸惑った。婚約の前段階だ。しかし断る権利はコルネリアにはない。なにせ父母の目が光っている。


 ――殿下には騎士として信頼していただいてはいるが、それは他の近衛も同じだよ。私も主への忠誠を誓っているだけだ。特別仲が良く見えているとすれば、殿下は護衛の中で私と一番歳が近いからね。恐れ多いことだが、それで兄のように親しげに接して下さっているのだろう。どうも皆噂話が好きなようで、困ったものだよ。


 手紙をやりとりし、観劇などの真っ当な娯楽へ出かけ、婚約まで何の支障もなく進んだ。彼は護衛騎士の職務があり多忙だったが、王女との仲をきっぱりと否定し、コルネリアのためにきちんと時間を作ってくれた。

 気遣われ、意思を尊重され、それまで疎まれ続けてきたコルネリアにとって、彼は怖いほど優しくて誠実だった。幸福な未来を考えたことも、それを望める境遇でもなかったはずのコルネリアは、初めて他人を信じることができた。彼が、信じさせてくれた。

 そしてマティアスのもとへ嫁ぎ、何のとりえもないコルネリアを見初めてくれた彼に、精一杯尽くした。子供はおらず二人きりの家族だったが、まともな人生を歩めていると感じた幸せな二年間だった。


 だが、突然全てを失った。

 直前に決まった、クリスティアーネ王女の隣国への輿入れがきっかけだったのだろう。

 王宮から外出した際、他の護衛の隙をついて無謀にも駆け落ちを試みたという。しかしすぐ捕まりそうになり、結ばれないならと二人で崖から身を投げたそうだ。

 あの噂は真実だった。コルネリアの夫は、最初から王女のことだけを愛していたのだ。



 王家の裁定が下るまで何もできず、亡骸も帰ってこず、コルネリアは待つしかできなかった。

 そこへ王家からの使者よりも先に訪ねてきたのは、マティアスの母、すなわち侯爵夫人だった。息子の訃報を知って所領から飛んできたのだ。

 突然の来訪だったが、臥せっていたコルネリアはどうにか起き出し、屋敷の玄関で迎えた。


「お義母さま、十分なお出迎えもできず――」


 つかつかと歩み寄ってきた夫人は、コルネリアの挨拶に応えるでもなく、その頬を張り飛ばした。


「あっ!?」


 弱っていたため、コルネリアは壮年の貴婦人の平手打ちですら倒れ込んでしまう。

 頬を押さえながら見上げると、夫人は怒りに満ちた表情でコルネリアを睨みつけていた。


「なぜマティアスは死んだの」

「お義母様……」

「お前がいながら、どうしてあの子を繋ぎ止められなかったの!」


 息子の身勝手な行いを詫びに来たわけではない。

 見目が良く優秀な四男坊を可愛がっていた夫人は、当初からコルネリアを結婚相手として不満に思っていた。だから息子と釣り合わない愚鈍な妻に今回の原因の一端があると考え、泣きながら責め立ててきた。


「子も産めない役立たずが! お前がしっかり務めを果たしていれば……!」

「それは……」


 夫婦に子供さえいれば、コルネリアがマティアスから愛情を向けられるよう努力していれば、王女との無謀な駆け落ちなどせず、彼はまだこの世にいただろうと。

 けれど、夫人は知らないし、知ったとしても信じないだろうが、コルネリアが何をどうしてもマティアスは王女以外に心を向けなかった。


 ――コルネリア、私は君を心から大事にしたいと思っているんだ。だから、触れ合うのはもっとお互いを知ってからにしよう。

 ――わかったわ。ありがとう、マティアス。


 夫は初夜の寝室で、緊張するコルネリアにそう告げた。

 いくら彼を信用すると決めたといっても、肌を重ねることには恐れがあった。なので猶予を与える彼を寛大だと思ったし、自分を大切にしてくれているのだと嬉しかった。

 実際は、マティアスは愛する王女に操を立てているため、他の女になど触れたくなかっただけだ。

 そうとは知らずにコルネリアは、後から周囲に怪しまれないよう傷を作りシーツに血をつけておくマティアスの偽装に感心し、安心して共寝した。

 同じベッドで横になるだけだったのは初夜だけでなく、二年間ずっとそうだった。


 何もしていないのだから、子供などできるはずがない。そうとは知らない侯爵夫人は、結婚して一年後ぐらいからコルネリアを石女と罵り、社交の場で悪口を広めて回るようになった。

 もう受け入れると決意できたし、何より主に夫人からの心無い言葉に耐え兼ね、コルネリアは何度かマティアスとの関係を進めようとした。

 しかしマティアスはいつもそれとなく躱してしまう。当時は自分がはっきり伝えられないのが悪いと思っていたが、彼は分かった上で伝わっていないふりをしていたのだ。

 マティアスはコルネリアが母から責められていると知っていた。それを一時的に慰めるだけで、母を諫めるといった行動は取らなかった。本当はコルネリアなどどうでもよかったから、その場しのぎの対応で済ませていたのだ。


 コルネリアは本当に愚かだった。幸せが偽りだとも気づかずに溺れ、不審な点を見逃し続けた。

 ただ、マティアスの真意に気づいても、コルネリアには何もできなかったかもしれない。

 死後に知ったが、出会った当時マティアスは王女との仲が噂になり、それを嫌った王家から護衛の任を解かれそうになっていたそうだ。愛する王女の傍にい続けるためには、急いで噂を払拭する必要があった。それで選んだ最も手っ取り早い方法が、他の女――コルネリアとの結婚だ。

 どうしてコルネリアだったのか、それは偶然ではなくきちんと理由がある。マティアスは王女以外の女に触れたくない。しかし結婚すれば当然子供を作らなくてはならないのが貴族社会である。自分が拒み続けていると外部に漏れては、偽装結婚が露見して噂が再燃するかもしれない。

 だからマティアスは、内向的で気弱で、夫への不満や義務を果たさない等の苦情を誰にも訴える心配のない、親にさえ疎まれている女を探し出し、妻に選んだのだ。よく見ていれば、夜会で義母に冷たく睥睨されていることには気がつく。そこから探りを入れれば、コルネリアの実家での扱いはすぐに知れたはずだ。

 コルネリアは目先の幸せにしがみつき、彼が期待したとおりに不安はすべて自分の中にしまいこんでいた。少し優しくして誠実そうにあしらっておけば問題は起きず、コルネリアは彼にとって最適な隠れ蓑だったことだろう。


 ――全部、嘘だったのね。マティアスにとって私は、王女様と一緒にいるための『手段』でしかなかった。やむを得ず結婚した、どうでもいい女だった……。それを、信じて、幸せに感じて、私は……。


 コルネリアが夫の死後何日も臥せっていたのは、点と点が繋がりこれらの真実に気がついてしまったからだ。

 他には誰も気づいていないだろう。コルネリアは一見大事にされていたのだから。王女への想いを封じて家庭を持ったが、愛する人の傍にすら居られなくなる時が来てしまい衝動的に死を選んだ。マティアスは周囲からそんな風に見えているはずだ。

 最後の心中以外は冷静に、最初からコルネリアを利用していた冷酷な男だったとは、実母の夫人も知るまい。


 コルネリアは夫人から延々と罵倒されながら、唇を噛みしめた。

 本当に、マティアスの見込んだとおりだ。そんな自分が不甲斐なく思っているのに、息が詰まって何も主張できない。


「――お取込み中失礼するが……」


 玄関先で醜態を晒す夫人を軽蔑した目で見ながら声をかけてきたのは、王家の紋章を携えた男であった。



 古びた木造の礼拝堂の中、コルネリアは祭壇の前に跪いていた。白金色の髪から靴の先までずぶぬれのまま、顔に流れてくる滴を拭いもせず、祭壇の向こう側にある神の使いの像に頭を垂れている。

 司祭の姿はなく、整然と並んだ長椅子にも誰も座っていない。

 外は激しい嵐で、屋根や壁に横殴りの雨の打ちつけられる音が絶え間なく鳴っていた。遠雷も徐々に近づいてきており、そのため他に誰もいないはずが静かな祈りにはほど遠い。


「――ようやく信じてみようと思ったのが、夫でした。彼を、愛していました。ですが結局、彼の心の中にいたのは王女殿下で、私は都合よく利用されただけ……」


 重く沈み悲嘆に満ちた声がずっと紡いでいたのは、祈りの言葉ではなくコルネリアの半生であった。


「何もかも失って……。私には、まだ生きる意味があるのでしょうか」


 一人真実に辿り着いてしまったコルネリアだが、愛に殉じて王女と二人気持ち良くあの世へ旅立ったマティアスと違い、こちらはまだ人生が続いていく。それも、彼が後ろ足でかけた泥を被りながらの人生だ。

 護衛騎士でありながら、主を諫めもせず身分違いの恋に溺れたマティアスは、王家からすれば大罪人だ。隣国との婚姻も決まっていた大事な王女を、本人の同意があったと推測されようとも、死なせたのだ。

 王家の決定で、その亡骸は貴族として弔うことは許されず、衆目に晒された後、灰にして野山に撒かれた。身分違いの美しくも悲しき恋物語に頭を毒された民衆から非難を受けたが、とんでもない不義理を犯した隣国の手前、ぬるい処遇はあり得ない。

 当然、罪人の家人も無事では済まない。マティアスの所領や王都の屋敷を含む財産を没収されただけでなく、家を出た四男であるにもかかわらず侯爵家も多大な贖いを強いられた。

 コルネリア自身は、マティアスに与えられた衣服や装身具、嫁いだ時の持参金も含めて没収されている。温情としてなのか、手持ちの中で一番格下の外出着だけは許され、あとはそのまま屋敷から追い出された。


 コルネリアは連座で首を刎ねられなくて済んだことにはほっとしたが、安心している場合ではない。夫のいなくなった妻は実家に帰されるのだ。

 邪魔者をようやく追い出した両親が、石女を上回る汚名を背負って出戻ってきた娘を温かく迎えるはずはない。

 マティアスは王女と共に自殺したのだ。自殺は、宗教上の禁忌とされている。そしてコルネリアの父は、教会と関わりの深い家系である。夫が自殺して出戻った娘を、文字通り敷地に足を踏み入れさせなかった。

 コルネリアがマティアスとは白い結婚であったことを証明できれば、婚姻は無効として形式的には元夫との関係を清算できたかもしれない。しかし、マティアスが善意のふりをして行った初夜の偽装工作のせいで、そして本人の口が永遠に閉じられたことで、証明する手立てはなくなっていた。コルネリアは一生石女扱いされ、これで再婚も難しくなるだろう。

 唯一着用して出ていくことを許された外出着を売って平民の服を買い直し、そうして路銀を作ってどうにか帰ってきたコルネリアを、父は紋章のない馬車へ押し込むと簡潔に告げた。「二度と顔を見せるな」と。

 走り出した馬車は子爵家の所領を出て、隣町も通り過ぎていく。もしやこのままどこかで殺されるのではないかと最悪の――しかしかなり現実的な――想像をしたコルネリアは、突然遭遇した嵐に乗じて逃げ出した。注意力散漫な御者で助かった。


 そしてずぶぬれになりながら少し道を戻って辿り着いたのが、この町の片隅にある古びた礼拝堂であった。


 不遇を訴え終えたコルネリアは、神の使いの像を見上げる。

 細部にまでこだわって彫られた像の顔は、昼の光の元で見ていた時は思慮深さや優しさを感じさせた。対して、今も昼だが嵐のため礼拝堂の中は薄暗く、照らすのは日光ではなく灯してあった蝋燭の炎である。

 蝋燭の温かな光の揺らぎは、神像の表情の陰影を微かに動かし、それが像がまるで生きていてコルネリアの話をじっと聞き入っているかのような錯覚を引き起こした。

 今なら本当に届くのでは。


「どうか、私をお救いください……!」


 これまでずっと、辛いことは神の与えた試練と思い耐え続けてきた。一度も恨み言を口にしたことはない。だから、このどうしようもなく行き詰まった今こそ救いを強く願った。


 その瞬間、轟音と閃光に五感を支配され硬直した。


「――!」


 気がつけば、どこからか吹き込む雨に打たれ、焦げ臭いにおいが漂っている。

 強い光の余韻はすぐに消え、何が起きたのかがわかってコルネリアは唖然とした。


 祭壇を挟んで向こう側にあった神の使いの像が、頭から胴の半ばまで真っ二つに裂け、焦げて煙を上げている。見上げたその奥、礼拝堂の天井には穴が開き、そこから風雨が注いでいた。

 雷が教会に直撃したのだ。


「そんな……」


 これが神からの答えのように感じた。


 コルネリアを正しくあろうとさせていた楔が砕け、涙となって溢れ出てくる。冷え切った体の中で、唯一そこだけが熱い。


「そうね、救いを求めるなんて愚かなことよね。あなたの救いは気まぐれだもの……!」


 ふらりと立ち上がったコルネリアは、祭壇に置かれた儀式用の短剣を手に取った。


「救ってくれなくて結構よ。あなたに救いは求めない。生かしてほしいとも頼まない。自分の終わりは、自分で決めるわ……!」


 見放されたのなら、最後に残った自由だけは取り戻す。

 コルネリアは短剣を両手でしっかりと握り、自分の首筋にかざした。

 自死は禁忌だが、だからこそ選ぶ。これがコルネリアからの絶縁状だ。


「さようなら……」


 これは亡き母への別れの言葉だ。

 目を閉じ、力を込め、刃を滑らせようとして――、


「――待ちな!」


 突然の男の声に、コルネリアは驚いて短剣を手離した。


 振り向いても誰もいない。礼拝堂の出入り口は閉まったままだ。


「だ、誰……!?」


 幻聴かと戸惑う前に、声の主は並んだ長椅子の一つから体を起こした。


「絶望で楽になりたくて自決するんじゃなく、怒りで当てつけのために死ねるならあんたはまだ幸せな方さ」


 コルネリアはまさか誰かいるとは思っていなかった。だがよく考えれば司祭は不在なのに礼拝堂の扉は施錠されておらず、蝋燭には火が灯されていた。

 祭壇の方へ歩いてくるその男は、上背があり体格もいい。体を使う仕事をしているのだ。服装もどう見たって宗教関係者ではない。コルネリアと同じく部外者だ。

 不法侵入し、おまけに鍵を壊したのであれば無法者なのではないか。コルネリアは身の危険を感じ、とっさに足元の短剣を拾い直す。


 燭台の多い祭壇の近くまで来た男は、そんなコルネリアの警戒を意に介していない様子だった。宥めるように手のひらを向けてくる。


「そんなもん置けよコルネリア」

「どうして私の名前を……!」


 怪しすぎる男は、無精ひげが生えていて小汚いが、思いのほか年は若いようだった。黒い髪に焦げ茶色の瞳。コルネリアより少し上、二十代半ばほどに見える。


「さっき自分でガキの頃から現在までぶつぶつ全部喋ってたろ」


 それはそのとおりだが、気安く名前を呼ばれる筋合いはない。

 男に敵意はなさそうだった。代わりにコルネリアの話を聞く気もない。役者のように大げさに、妙に機嫌よく身振り手振りを加えて話す。こうも雑で不躾な人間は初めてだった。


「あんた、金も住む場所も食い扶持を稼ぐ力もないって言うが、どうして体を売らない? 落ちぶれた貴族の女なら高く売れるぞ」

「そ、それは……っ」


 コルネリアは責められている気がして言い淀んだ。その手段を選べたらまだ生きていけるのかもしれないが、悩み抜いて、それでも選べない人間だっている。

 ただ、無視できなかった時点でコルネリアは男の調子に巻き込まれていた。


「そうだな。わかるよ。俺も仮に両手を失って金を稼げなくなったとしても、変態にケツの穴を売る気にはならねぇ。嫌に決まってる。死んだ方がマシだ。誇りってやつだな」

「へんたい? 売る? え?」


 何も答えていないのに勝手にうんうんと頷く男は、コルネリアの理解の及ばないことをぺらぺらと喋る。口を挟む暇がない。


「だが死ぬ前に、他に切り売りできる部分がある!」


 胸に飛び込んでこいとでも言うように、男はバッと両腕を広げた。


「あんた、俺と組まないか」

「何を――」


 先ほど自主的に国教を捨てたつもりだが、今度は別のおかしな宗教に勧誘されている気分だ。


「ユニコーンを密猟しよう!」


 男の高らかな宣言が、礼拝堂に響き渡る。


 いつの間にか、嵐は止んでいた。



 目を覚ましたコルネリアは、自分はなぜここにいるのだろうと考えた。経緯は勿論覚えているが、ただひたすら場違いな気持ちになるのだ。

 寝ているのは狭い部屋の簡素なベッドで、寝具は硬いし肌触りも悪い。しかし寝覚めは、ここしばらくでは一番良かった。雨に打たれたせいか心労が祟ったのか、昨日は熱が出て一日寝込んでいたのだが、それももうすっかり回復している。


 その爽快さが、夫の死に嘆き悲しんでいた自分とは一枚膜を隔てているようで、どこか現実味がない。まるで、悪い夢を見ていた気分だ。

 体を起こしてぼんやりしていると、扉を叩く音がして廊下から声がかかる。


「おい、起きてるか。飯にしながら作戦会議だ。支度してさっさと下りてこい」


 声の主は、礼拝堂で絡まれたあのおかしな男、ギードである。ギードは返事も聞かずにどたどたと廊下を歩いて去っていった。

 ここは宿屋の二階で、ギードに宿泊費を払ってもらって――本人は貸しだと言っていた――寝床につけている。

 先日、自らがいかにして路頭に迷ったのかを神に訴え、しかし色よい返事をもらえず絶望していたコルネリアは、礼拝堂でギードに絡まれた。あの奇跡的に最悪な瞬間に落ちた雷も、ギードの『ユニコーンを密猟しよう』という勧誘も全て悪夢ではなく現実なのだ。


 ベッドを下りると、肌着の上からワンピースの服を頭から被り、もたもたと着替えを始める。


 ――あんた、ユニコーンの角一本がいくらになるか知ってるか?


 あの日礼拝堂で、ギードはコルネリアから勧誘の返事も聞かずに早口でまくし立てた。商人より役者向きだ。


 ユニコーンとは額に角の生えた、白馬に似た姿の希少な魔物である。

 その角は、粉末状に加工すると万病に効く薬になる。約束された効果と入手の困難性から、一回分の僅かな量にすら金貨が山積みにされるのだ。

 角丸ごととなれば、一生遊んで暮らしても使いきれないほどの金が手に入る。と、ギードは興奮しながら語っていた。

 彼は、これを目当てにコルネリアに密猟を持ち掛けたのだ。


 ユニコーンの角が手に入れば、たしかにギードと分け合ったとしても生活を立て直せるだろう。だが、そう簡単な話ではない。

 まず、ユニコーンは非常に獰猛で、特に人間に対し攻撃的だ。角や蹄で簡単に殺戮を繰り広げる。人里に迷い込んできた個体を、国から派遣された討伐隊が多くの被害を出しながらようやく倒した記録も残っている。一般人が出くわせば、基本的に殺されると考えるべきだ。

 次に、その希少さが問題となる。ユニコーンは遠い昔はそれなりにいたらしいが、ここ数百年ほどは人間と魔物の生息領域がしっかり分離されてきたためか、目撃情報が著しく減っている。探しに行こうと思って見つけられるものではない。

 ただ、二つ目の懸念事項については、彼がこれを『密猟』としていることから、最悪の想像ではあるがあてがありそうだ。


 こんなことすら確認しないままギードと行動しているのは、礼拝堂で彼がまくし立てるうちにコルネリアの気力体力の限界が来て、倒れてしまったからだ。次に目を覚ますともうこの宿に運び込まれ、彼に借りを作った後だった。自分は礼拝堂で寝泊まりできたのにコルネリアのために宿屋で金を使ったと、かなり強調された。

 得体のしれない男の前で気を失うなど、介抱が目的としても許されない。と以前は考えたかもしれないが、コルネリアは一度死を受け入れたからなのか、長らく信じてきた神を捨てたからなのか、冷静に考えられた。

 ギードにその類の害意があったのなら、会話せず力でねじ伏せてあの場でどうにでもできた。それをせず、わざわざ宿まで運んだのだから、彼の興味や目的は他に向いている。コルネリアが自分の貞操をどうでもよいと思うようになったのではなく、この事例においては、警戒する必要性は低いと判断しただけだ。


 これから先ツヤを失っていくであろう長い白金の髪を、櫛すらないので手で梳き、三つ編みにしてから後頭部で纏め上げる。これでできる範囲の身支度は終わりだ。

 廊下へ出て一階へ下りていく。この建物は食堂兼酒場兼宿屋で、二階が客室になっている。


 階段を下りながら一階の広間を見渡し、ギードの姿を探す。

 繁盛しているようで、並んだ丸テーブルに客がひしめき合っている。客はこれから出かける行商人が多いようで、大荷物を傍らに置いて食事を取っている者もいた。


「こっちだ」


 テーブルの間を見回しながら歩いて探していると、喧噪の中から手を振って呼ぶ姿を見つけた。階段下の奥まった薄暗い場所だ。それで見つからなかったのだ。

 行商人の荷物にぶつからないよう隙間を縫っていき、ようやく目的のテーブルに着席した。

 階段下の陰にいるギードは無精ひげの小汚さも相まって、なんだか盗人の類いに見えた。混雑しているのに相席する商人がいないのは、単に大荷物をこの狭い階段下へ持って入りづらいからだと信じたい。


「……ずいぶん混雑しているのね」

「ああ、昨日から急にな。二日前の嵐で王都へ行く道が塞がれて足止めされちまってるのさ」


 だが客室から荷物を持って下りてきているということは、どこかへ行こうとしているはずだ。


「もう復旧されたの?」

「いや、復旧までこの町で商いをする方向に切り替えたんだよ。これから広場の市へ出かけるそうだ」

「そう……」


 王都とこの町では規模が違いすぎて、見込んでいた売上からは激減するだろう。それでも無いよりはましだと、食事中に近くにいる同業と情報交換をする彼らの表情は明るい。


「宿でのんびりしてられる余裕のある奴ばかりじゃねぇからな。生きるには金がかかる」


 そこへ、給仕係の若い娘がやってきたので、二人して黙り込む。

 娘はコルネリアとギードの前にスープとパンを置き、すぐに戻っていった。パンはクロスもかかっていないテーブルへ直接置かれ、スプーンはスープの器に予め突っ込まれている。でも食欲をそそるいい匂いだ。


 コルネリアはまだ抜けない習慣で、食前に神に祈ろうとしてしまい、すぐにやめて器を引き寄せる。もう神は捨てた。

 落ち着かなさを感じつつ向かいへ目をやると、ギードの方は随分簡略化しているが祈りの言葉を呟いてからスープを口にした。

 彼とは何度か一緒に食事を取っているが、そういえば礼拝堂の鍵を壊してそこで雨を凌ごうとする不信心者のくせに、食前には祈っている。

 何だか意外に思って見つめていると、それを察したようでニヤと口角を上げた。


「まぁ一応な。いざって時に呼ぶのがママじゃあ格好つかねえだろ。神サマのがいくらかましだ」


 あまり納得はできなかったが、コルネリアは特に追及せず食事を始めた。


「もう調子も良いようだし、そろそろ今後の予定と密猟の計画を説明するぞ」

「ちょ、ちょっと……!」


 コルネリアは焦って、しーっと子供を静かにさせるような仕草をしながら、周りを見渡した。

 幸い誰もこちらに気を払っていないのを確かめてから、ギードに顔を近づけて話す。


「このような場所で話すことではないわ」


 ところがギードはどこ吹く風で声を抑える様子はない。


「だぁいじょうぶだって。なんで俺がこんな誰かが階段を上り下りするたび埃が降ってくる席を選んだと思ってる」

「降ってくるのね……」

「ここは大声でも出さない限り、会話が他の奴らにはよく聞こえない席なのさ」


 梁や階段の骨組みなどでうまい具合にそうなっているらしい。

 コルネリアはしぶしぶ座り直した。


「さて、話を戻すが、俺はあんたと組んで、ユニコーンを密猟して角を売り捌いて大儲けしたい。そのために、奴らのいる場所までまず移動するぞ」

「ユニコーンがおそろしくて、とても希少な魔物であることは、いくら私でも知ってるわ。……あなたは専門家なの?」


 男一人で倒せる相手ではないし、そもそもユニコーンは探そうと思って見つかる魔物ではない。

 ギードはふわふわと落ちてきた大きめの埃の塊をふっと吹いて軌道を変えた。それが自分のスープに入りそうになり、コルネリアは慌てて器の上を手で覆って防ぐ。

 コルネリアの性格上真っ向からできない遠回しな反論を、聞いているのか聞いていないのかわからない素振りだ。


「いや全く違う。角を流す伝手はあるが、ユニコーンについて知ってることは多分あんたと同程度だ。だが倒し方に関係する情報は、あんたこそよく分かってるんじゃないのか?」

「どういうことなの?」

「獰猛なユニコーンが唯一骨抜きになる相手がいる」


 ギードはスープの芋を口に運んだあとのスプーンで、コルネリアをびしりと指した。


「それは処女の若い娘だ」

「……っ!」


 自身の性的なことを口にされる辱しめを受け、コルネリアは言葉を失った。


「そんな顔するなよ。あんたが礼拝堂で自分で言ってたんだろ」


 あれはギードにではなく、神の使いの像に向けて語ったのである。この男は盗み聞きしただけだし、その件に関して謝罪はない。

 ククッと喉を鳴らす含み笑いが腹立たしいが、それでもコルネリアは何も言わなかった。こんな時すぐに抗議できる性格であれば、元夫のマティアスに選ばれずに済んだだろう。


「とにかくユニコーンの前に処女を置いておけば、奴らは大人しくなって擦り寄ってくるはずだ。あんたにそれを担当してもらって、俺が隙を突いて獲物をふん縛って、あとはゆっくり角を切り取るって算段だ」


 さも名案かのような口ぶりだが、ユニコーンが処女に対しては攻撃しないという話が本当かすら怪しい。ユニコーンと処女の話は、事実に基づく信頼できる記録ではなく、一般的に伝承程度の話なのだ。もし嘘だったら二人とも死ぬ。


「あなた、本当に信じているの? あれはおとぎ話よ」

「いや、確度は高い。俺がそう思う根拠を教えてやるよ。……実は俺はな、とある街の裏社会のとある男から、博打の借金のカタにとある古い記録を手に入れたのさ」


 何回とあると言えば気が済むのか。胡乱げな目を向けるコルネリアに対し、ギードは自信満々だ。


「そこには、かつて誰かが処女の娘を連れてユニコーンを狩った方法が記されていたんだ!」

「そう……」

「信じてないな? だがその記録はおまけつきだった。ユニコーンの角薬が小指の爪ほどだけ残してあったんだ。これこそ本当にその記録のとおりにユニコーンを捕まえられた証拠だろ!」


 ギードは決まったと言わんばかりに上機嫌でテーブルを叩いた。何も明らかになっていない。


「偽物じゃないの……」

「いや、その借金を取り立てた時にできたかすり傷にふりかけたら、一瞬で治ったから本物だ」


 なるほど本物なのかもしれないが、取り立てが穏便かつ理性的な方法で行われなかったと察し、コルネリアはなんとも嫌な気分になった。

 なし崩し的にギードの世話になってしまったが、やはり計画には乗らず、早々に彼から離れるべきかもしれない。


「で、獲物のいる場所だが――」


 コルネリアがこの危険な男を刺激せず距離を置く方法を考えていると、耳を疑うような言葉が飛び込んできた。


「――俺たちの目的地はプレイユヒア近郊にある王家の森の飛び地だ」

「そんな! ああ……」


 コルネリアは天を仰いだ。ユニコーンは希少にもかかわらず妙にあてがあるような口ぶりだったことと、なぜギードが魔物の体の一部を採取することを『密猟』と言っているのか、両方の最悪の答えが出てしまった。


「あなた気は確か!?」


 声を荒げたその時、一番近くのテーブルにいる他の客が突然席を立った。

 聞かれたのか、と青ざめたコルネリアだが、向かいにいるギードは横目でちらりと見遣っただけだ。その客も自分の荷物を背負って、普通に外へ出ていった。

 ほっと胸をなでおろしたのも束の間、それを皮きりに、朝食を取っていた客たちが続々と外出していく。何事かと顔を向けていると、ギードが説明してくれた。


「そろそろ市場が開くから、行商人たちが仕事をしに行っただけだ。ほら、商人以外は出ていってないだろ」

「座ったままの商人もいるけれど……」

「んー? ああ」


 行商人か否かは商品による大荷物で見分けているが、それを傍らに置いたまま、まだ食事を続けている客が何名かいる。


「あれは宝石商。それなりに着てるものが良いだろ。裕福だから小間使いや雇った護衛が周りにわんさかいる。王都ぐらいにしか客がいないからここ市場には用はないんだが、商品から目を離したくなくて持ち歩いてるわけだ。あっちはかつら商人――の下請けで髪の毛を買い取ってまわってる行商だな。昨日宿の娘に声をかけて断られてた。多分もう少し人の増える時間になってから獲物を見繕いにいくんだろ」


 貴族は商人の方から出向いてくるため、こんなことは知らなかったし、思いを馳せたこともなかった。

 ギードは今回以外にも、物珍しそうにするコルネリアに色々なことを教えた。宿屋の個室の、初めて見る形状の鍵の仕組みやトイレの使い方に始まり、昨夜は夕食時に酒場へやってくる職人たちの仕事について語った。


「そうなの……、いえ、それより、話を戻しましょう」


 ついつい聞き入ってしまい、既に何度も話や気を逸らされてきたが、今回はそうはいかない。


「王家の所有物に手を出すつもりだなんて、正気じゃないわ」


 ここからほど近いプレイユヒアという街は、王都や王家の直轄領から離れているが、すぐ近くの森が王家の狩猟場として管理されていた。

 そしてこの森に、ユニコーンが生息している。まだ魔物の領域が今より広かった頃、彼らにとって過ごしやすい場所だったここに住み着き、やがて魔物の領域が後退していった結果人間の領域の真っただ中に取り残されたのだ。もちろん彼らはそんなこと知る由もなく、森の主として暮らしているだろうが。

 しかしユニコーンたちがどう思っていようと、王家の狩猟場の生き物は王族の所有物であり、狩ってはならない。手を出せば、小鳥の一匹だろうと重罪だ。ユニコーンほどの価値なら死罪が妥当だろう。


「無理よ……。危険すぎるわ」


 獰猛なユニコーンから角を取り、同時に森の出入り口を監視する憲兵の目も掻い潜らねばならない。コルネリアがいくら世間知らずだとしても、この密猟計画の無謀さは過大評価ではないだろう。


「いいや、お前がいれば成功する。絶対にだ」


 コルネリアは閉口した。処女がユニコーンの制圧に役立つからといって、そこまで期待を寄せられても困る。

 そもそもコルネリアは、何もできない自分に残された道は身売りか死か、という状況に絶望していたところを密猟に誘われただけで、まだ承諾も何もしていない。犯罪に手を染める気にはなっていない。

 当初は、貴族社会以外は全く知らないから、追い出された自分は生計を立てることができず、残る道は悲惨なものに限られると思っていた。

 けれどこの数日でほんの一端でも窺い知り、あくせくと働いている人々を見ると、必死に食らいつけば糊口を凌ぐことがもしかしたら可能なのではないかと、道が開けたような気分になってきていた。


 上手くいかず結局行き倒れるかもしれないが、一度真っ当に働いて生きる道を模索してみよう。決意を胸に、コルネリアはギードに向き直る。

 しかし、口を開く前に、男はニヤァと邪悪な笑い方をした。


「あんた今、どうせ世間知らずでとぉっても前向きなこと考えてるだろ」

「な、なによ」


 随分嫌味な物言いにコルネリアは狼狽えた。


「あんたが思ってるほど簡単じゃないぜ。何の後ろ盾もない女が生活できるだけ稼ぐ方法なんて、相当限られる。だから女たちは仕方なく娼婦になる。でもあんたは仕事を選びたい。何を切り売りするかなんだよ。尊厳を切り売りするか、道徳心を切り売りするか」

「……」


 何も言えなくなり、それでも言われっぱなしは嫌で、せめてもの思いでコルネリアはギードを睨みつけるが、彼はどこ吹く風だ。


「ついでに教えておくと、俺の世話になった時点であんたはもうこの話に乗ったも同然だ。やっぱり下りるなんて言おうものなら、俺は貸した宿代をすぐさま回収する。てわけであんたを娼館に売り飛ばす」

「な……!?」


 ずっと軽薄で演技臭かった彼の目が、突然鋭く光った。本気だと感じさせる凄みを感じ、コルネリアは背筋が冷たくなる。


「逃げられると思うなよ。借りは返さなきゃならないのさ。宿代だけだから一晩で十分かな。で、どうする? 当初の予定どおり死ぬか、体を売るか、それとも俺と組んで一山当てるか」


 選ばせるようなことを言っておいて、残ったスープをかき込むとギードは返事を待たずに席を立った。


「後で市場へ一緒に行くぞ。あんた何も持ってないだろ。生活必需品の買い出しだ」


 コルネリアが承諾する前提で話す彼の目は、鋭さを隠して元通りになっている。

 そうしてまだ食べ終わっていないコルネリアを置いて、ギードは二階へ上がっていってしまった。


 少し言い返すなどの反抗はできたが、結局未だに他人の思いどおりに流されるまま。そんな自分に落胆し、コルネリアは項垂れるのであった。



 数日後、二人はプレイユヒアの手前にある、ユニコーンの住む森に向かっていた。


 ギードの調達した二人乗りの簡素な幌馬車は、コルネリアの乗ったことのある貴族の箱馬車とは違い、路面からの衝撃が座面にほとんどそのまま伝わって乗り心地がかなり悪い。常歩で引かれても、座っているだけなのに非常に疲れる。

 彼は平気なのだろうかと、隣り合って座るギードをちらりと盗み見ると、同じようにガタガタと揺られているのに、特段疲労感はなく前を向いて手綱を握っていた。ちなみにその横顔の無精ひげは出会ってから一度も剃られず、日に日に伸びている。

 と、不意にギードの焦げ茶色の瞳がコルネリアを捉えた。


「あんた……」


 目が合ってしまい、コルネリアは隠し事を見抜かれたような気になり焦った。それを知ってか知らずか、ギードはコルネリアをじっと見つめる。


「そんなの被ってたか?」


 やがて指さされたのは、コルネリアの被るボンネットだった。後頭部を包み込む形と前半分の上向きのつばが特徴の、婦人向けの帽子である。


「……あなたに言われてこの服を揃えた日から、ずっとね」


 コルネリアは呆れながら、衣服を示した。元々着ていたものよりも野暮ったいワンピースである。あの日、ギードに連れられて町の古着屋で購入したものだ。彼が必要だと言うから買ったのに、代金はコルネリアへの貸しになっている。


「そうだっけ?」

「本当に必要だったの?」


 少なくともギード自身は女の服にまるで興味がない。今さらコルネリアのボンネットに気がついただけでなく、古着屋でも最初に金だけ渡しておくと、自分は店の前で買い食いをして時間を潰していた。


「当たり前だ。その帽子は知らんが元の服は、あんたは安い服に買い替えたつもりだったんだろうが、俺ら庶民からすればかなりしっかりした余所行きだった。そんな目立つ格好の女を連れ歩きたかない」


 興味がないはずの人間にすら強い違和感を抱かせるのであれば、彼の言うとおりなのだろう。確かにコルネリアは、この服に変えてからちらちらと他人から見られる頻度がかなり減った気がする。


 丘を越えると遠くにあった山の麓が見えてきた。あの重なり合った山間から谷へ入っていくと、奥には低地が広がっており、そこにユニコーンの森があるそうだ。森のある低地は山に囲まれていて、出入りできる谷間はこちら側と、プレイユヒアの街側の二か所だけだという。

 まだ距離があることを確かめてから、ギードはコルネリアに説明を始めた。


「あんたが心配してたとおり、普通の王家の森なら狩った後に捕まる危険性が高い。だがあの森は、他の狩猟場とは違うんだ。王家はあそこで狩りをするつもりがない。実際俺の調べた限りは一度も王族は来ちゃいない。あの森は、ユニコーンがあそこから出ていかないことを利用した、天然の養殖場なのさ」

「つまり、王族がいつでもユニコーンの角の薬を確保できるように、あるいは誰かが狩りつくしてしまわないように、狩猟場として指定して保護したということ?」

「そういうことだ。探しに行くよりずっとそこに居てもらった方が楽だからな」


 ギードは満足げに頷いた。たしかに、普通の動物を狩るのが目的なら、わざわざ危険なユニコーンのいる森を狩猟場にする必要はない。


「角のための森だから、狩猟場といえど管理方法は他と違う。普通、ああして囲われた狩猟場は立ち入り禁止か、出てきた時に荷は検められる。だが、あそこの森は条件付きで通行可能だ。プレイユヒアと山を挟んだ隣町――俺たちがさっき通った町だ――との重要な動線だから利用者も多い」


 こちらからプレイユヒアへ行く道は三つあると、ギードから教わっていた。

 一つ目は、山の中腹を通る山道を使い、森へ続く谷間とは逆から回り込む険しい道。荷車などは使えず、歩きなれた人間でなくては危険だ。代わりに最も早く、朝に出発すれば昼過ぎには着く。

 二つ目は、山々を大きく迂回する平坦な街道。かなり遠回りなので丸一日は余計にかかる。

 そして三つ目が、これから行く、王家の狩猟場である森を抜ける道。山道よりは時間がかかるものの、それでも夕方ぐらいにはプレイユヒアに到着するため十分だ。何より比較的道が良く、馬車も通行可能だ。


「それから出る時じゃなく入る時に点検がある」

「どういうことなの?」


 一般的な狩猟場は、近隣の領民の生活動線のために通行を許可している場合もあるが、それでも動物が無断で獲られていないか見張りを置く。


「ユニコーンの角は、獲ったあと砕くか粉末にすれば、簡単に隠して持ち出せちまう。出てきた時の持ち物検査じゃあ見逃す可能性が高い。代わりに、ユニコーンを捕まえられそうな人間や装備を、入り口で制限しておくんだ」


 ユニコーンを危険にするものは立ち入らせないから、中で密猟は起きず、出口で再度の検査も不要ということだ。だからもし角を入手できた場合、余程目立つ形でそれを持っていなければ、出口で捕まるおそれがない。


「それで、森を通れる条件は何なの? 領民かどうか?」

「いや。例えば弓矢とか、大がかりな罠の設置に使えそうな道具や材料を持ってないこと。……簡単な罠じゃユニコーンは捕まらないから、でかいやつだけ弾けばいい。あとは――」


 前を向いていたギードが、コルネリアを横目で見た。


「若い女以外全員が通れる」

「え? それでは私は……」


 帽子で顔をどうにか隠せないかと、つばを引き下げてみるがまるで足りない。

 焦る様子をギードは面白がっているようだ。ニヤニヤ笑っていないで最初に全部説明してくれればいいものをと、コルネリアは憮然とした。


「まず、なんで若い女だけ通れないかって話だよ。若い女は、もし処女だったらユニコーンを手懐けられちまう。で、処女かどうか外見で判断できないから若い女は立ち入り不可だ」


 逆に男が入れるのは、獰猛なユニコーンに十分な装備のない男たちだけでは手出しできないからだ。魔物と戦うための重装備と集団は目立つので論外である。


「それなら既婚者ぐらいは通ってもいいのではないかしら」

「ははっ。あんた、やんごとない方々が庶民の婚姻を信用すると思うか?」


 信用がないので、既婚で非処女と見込まれていても通行できないということだ。


「まぁ、庶民は貴族みたく初夜の証拠だとかそこまでこだわらないからな。納得できる部分はある」


 そう言われてコルネリアは、死んだ夫のマティアスとの初夜の翌日、血のついたシーツが見せびらかされたことを思い出していた。あれはひどく居心地が悪かったが、そこまでしなければ貴族の婚姻には物言いがつくのだ。まだベッドの横に見張りをつけられないだけましだと思うようにしている。

 ただ、コルネリアの場合は夫と共謀して証拠を偽装した。シーツについた血はマティアスのもので、二人は一度も体を重ねていない。

 そこまで考えてから、コルネリアはもしやと気がついた。


「例外があるの?」


 ギードの口角が上がる。こちらを馬鹿にしたニヤニヤ笑いとは違う。


「そのとおり。若い女でも、貴族の既婚者であれば非処女だと信用できるから、通行が許されることになってる」

「私を誘った理由がやっとわかったわ……!」


 希少なユニコーンが確実にいる場所がある。ただ、通行を許可される程度の装備、人数ではユニコーンは倒せない。安全かつ確実に狩るためには若い処女を連れていかなくてはならない。それを警戒して、若い女は狩猟場に立ち入り禁止になっている。しかし、若い女であっても、貴族の既婚者なら通ることができる。

 ならば、貴族の既婚者でありながら、事情があって処女のままの若い女がいれば、見張りを欺いて堂々と森に入って密猟が可能となる。

 その稀有で、いたとしても他者が容易に知り得ない秘密を持ったコルネリアこそ、ギードの密猟計画に必要不可欠な人材だったのだ。


「ユニコーン狩りの記録を手に入れてご機嫌になったのも束の間、どうやって処女を狩猟地へ連れ込めばいいのかって心底落ち込んだぜ。諦めて王都で適当な相手に売りつけることにして、道中で宿代の節約のためにあの礼拝堂で寝てたら、めそめそ鬱陶しく神に陳情しにきた女がまさかの! 貴族の未亡人の! 処女!」

「それ、あまり大きな声で言わないでちょうだい……」


 プレイユヒアと手前の町を結ぶ道なので度々人とすれ違う。馬の足音と馬車の引かれる音でかき消されるとしても、聞こえていないかと逐一心配したくないし、何より不愉快だ。

 とはいえこれからやろうとしていることに比べれば、下らない問題である。


「はぁ……」

「良心が痛むのか?」

「当たり前でしょう」


 深いため息をついていると、ギードはコルネリアの悩みを察したうえで、全く同情的でない調子で尋ねてきた。


「密猟は犯罪なのよ」

「そうだな。でもあんたは体を売るのは嫌なんだろ。俺はそれとこの計画以外、あんたの返済手段に期待できない。だから道徳心を切り売りしろって言ってるのにぐちぐちと……」


 さも自分が被害者かのように、ギードはコルネリアよりも深く深く溜息をついた。


「じゃあ、あんたの切り売りする道徳心が切れっ端で済むように、俺が一つ昔話をしてやろう」


 突然の真面目な声音に戸惑うコルネリアを無視して、ギードは勝手に語り出した。


「ほんの少し昔々あるところに、えーっと、家族思いのガキがいました」

「真面目に話すつもりはある?」

「一家は幸せに暮らしていましたが、ある時母親が不治の病にかかりました。父親は家中の金をかき集め、借金もして、唯一の希望であるユニコーンの角の薬を求め、領主の館を訪ねます」

「……」


 この物語に、良い結末は待っていない。コルネリアはそう予感して口を閉じた。

 徐々に、ギードの話し方は突き放した、あえてそうやって感情を隠しているようなものに変わっていく。


「しかしいくら必死に積んだつもりでも、はした金だ。平民に譲る薬はないという貴族の心を動かすような額にはならず門前払いされた。その後すぐ母親は病死。父親は酒浸りになって一家離散。ガキは何でもやって、まぁどうにか生き延びたが、他の兄弟はどうなったのか……」


 最後はきちんと締めくくられることなく、後味悪く霧散していく。


「ユニコーンの角薬は恐ろしく貴重だ。平民一家が仮に全員身売りしたとしても手の届くもんじゃない。母親が死んだのは納得してる。だがこうは思った。もし自分たちに、領主に叩きつけられるだけの金があればってな」


 ギードの眼差しは、目的地のある山の方ではなく、それよりも遠いどこかを眺めているように見えた。

 

「だが、金があったとしても、実際は薬は手に入れられなかっただろうな。領主は平民を見下している感じのお貴族様だったから、金を用意しても結局売らず、這いつくばって懇願する父親を足蹴にしただろうよ」


 何も言わなかったが、コルネリアは彼の想像どおりだと思った。ユニコーンの角薬は貴族間でも確実に手に入るものではなく、口に出す時は公然と知られた隠語で呼んだ。『我々のための薬』と。

 そういった選民思想に直面するたびコルネリアは、自分の実の母が本当は平民だと知られたらどうなるのだろうかと、不快感と居心地の悪さを感じていた。


「せめて、市場があって値がついているようなものであれば、父親は無茶な借金をする前に身の程を知って諦められた。あるいは、奇跡的に金が転がり込んできて買えたかもな。でも現状は、貴族同士でやりとりされる相場を庶民は知らない。そもそも、金があっても買えるって選択肢がない」


 最後に、ギードはコルネリアの方を見て、冗談めかして笑った。叶わない希望を口にする恥ずかしさをごまかすかのように。


「だから思うんだよ。僅かでも裏市場で平民層に流通していれば、防げる悲劇と、救われる命があるかもってな」


 あの森で確認されているユニコーンは、あまり頭数が多くないそうだ。普通の家畜たちのように繁殖してくれれば平民階級にも流通するのだろうが、現状そうなってはいない。偶然に期待して魔物の領域深くへ分け入って彷徨うのも現実的ではない。


「……私たちが密猟をすることで、王族が必要としたときに薬が手に入らなくなる可能性は?」

「王侯貴族の間でどれぐらい流通してるかは知らないが、困るほど少なくなってるのなら、あの森のユニコーンの角はとっくに狩りつくされてるだろうよ」


 そのとおりだ。王族は狩猟場のユニコーンの生体としての角薬の貯蔵だけでなく、加工したそのものも十分に確保しているはずだ。


「たしかに俺たちは密猟をして金を手に入れる。だが、まだ一部の金持ちだけとはいえ、平民でも薬が買えるようになる。……これで決断はできたか?」


 ギードをただの無法者だと思っていたが、そうならざるを得ない辛い過去を持っていた。そしてその傷を利用し、まるで密猟の結果善いこともあるかのように嘯く強さもある。

 コルネリアはまた深くため息をつき、首を横に振った。


「いいえ……。本当は、もう、犯罪に手を染めると……、お金のためにそうすると、心の底では決まっていたのよ……」


 もう礼拝堂で衝動的に短剣を手にした時のように、自分で命を絶つ勇気はない。コルネリアはあれっきり、終ぞ死に損なったのだ。


「もちろん罪悪感でいっぱいで、気は重かったけれど。あなたから話を聞かなくても、私はきっと最後までやりきっていたわ」


 先日ギードに宿代のことで脅されてから痛感した。生きるには金がいる。自分の大事なものの、どこかを切り売りしなくてはならない。


「どうして他人の勝手な振る舞いのせいで、私が体を売ってまで生きなくてはならないのって、すごく理不尽に感じた。皆が私から正しくない手段で奪っていって、償いもしないままなのだから、私も……、犯罪であろうと、一度くらい許されていいはずだと。……回りまわって、私のこの身勝手が誰かを苦しめるのかもしれない。償わなくてはならない時がくるかもしれない。それでも……」


 うまく言葉にまとめられず、コルネリアは手を膝の上で握り合わせた。


「なんで打ち明けた。全部俺のせいにしときゃ楽なのに」


 自分の姑息で醜く生き汚い部分を認めるのは、辛いことだ。心の底で思っていても、口に出して認めなければ自分自身をも誤魔化し、言葉では高潔なことを言いながら利己的に生きていける。

 あえてそうしなかったコルネリアの告白を聞いて、ギードは不思議そうに首を捻った。

 だが、何を切り売りして生きていくか選べるように、手離してはならない部分も選べるはずだ。


「あなたの辛い話を、私が楽になるために利用するわけにはいかないわ」

「あんた真面目だなぁ」


 茶化されるのが嫌で、コルネリアは少し気になっていたことへ話を逸らすことにした。


「ご兄弟を探そうと思ったことはないの?」


 彼は死亡を確認していない。それならどこかで生きているのではないか。

 ところが、返ってきた言葉に、コルネリアは耳を疑った。


「ん? 俺の話だって言ったか? 全部嘘だぞ。作り話!」

「へっ?」


 先ほどの真剣な様子はどこへやら、ギードはあっけらかんと言い放った。


「あっはっは! よかったな! あんたが同情した気の毒な一家は存在しない!」

「……二度と話しかけないでくれる?」


 呆気に取られて素っ頓狂な声を上げたコルネリアが面白かったようで、ギードは馬車が揺れるほど笑い転げはじめた。

 ユニコーンの角は鋭くどんなものでも貫くという伝説がある。もちろん伝説なのだが、コルネリアは手に入れた後この男で試してみてもいいかもしれないと思った。暴力に訴えるという経験は全くないが、そう考えるほどには腹が立っている。


 本当に神経を逆なでしてくれる男だ。

 ただ、コルネリアは、彼と出会ってから自分が反論したり、文句を率直に言ったり、きちんと怒りを覚えるようになってきていると感じていた。ずっと神に祈って我慢してきたため知らなかったが、主張し負の感情を自分に許すこと自体は、あまり悪い気がしなかった。



 やがて到着した谷の入り口は、かなり特殊な地形をしていた。

 山同士が切り立った崖として間近に迫り、そうしてできた谷の道を塞ぐように門が築かれている。ここへ来る前は簡易な柵でも立ててある程度かと想像していたが、実際は石造りのアーチと頑丈そうな木の門を備えており、夜間に不寝番を置いて見張る必要はなさそうだ。まるで山を防御壁にした城か砦のようである。

 道は多少の傾斜はあるが、馬車や荷車でも通行できるほど整備されている。貴族の一行が遠回りを嫌がって通行することもあると、ギードが話していた。

 ただし、貴族であろうと不審な荷物は調べられ、何より処女の疑いがある若い女は通れない。


 門は開いているが、拒馬という木材でできた移動できる障害物で阻まれているので、無理矢理通ることはできない。きちんと検問を受ける必要がある。


「さて、いよいよだ。しっかりやれ」

「わ、わかっているわ」


 二人の乗る馬車が近づいていくと、門に併設された詰所からぞろぞろと見張りが出てきた。武装しており、通常の狩猟場を守るような軽装の森番とは違い、重要拠点を警備する衛兵にしか見えない。


「おーい、若い女は通れないぞ」


 歩いてくる兵士はコルネリアの姿を見て、そう声をかけてきた。


「ここへ来る途中に山を迂回する道が――」

「いいえ。ここを通るわ。照合を」


 馬車の傍に立ち別の道を説明し始めた兵士に、コルネリアはまるで貴婦人への挨拶を求めるかのように手の甲を差し出した。

 その薬指には指輪が嵌められている。ただ、結婚指輪ではない。装飾どころかろくに光沢もない、鉛に似た鈍く光る銀色の指輪だ。


「……お待ちを」


 粗悪品にも見えかねないそれに、兵士は覚えがあったようだ。息を飲み、しかしコルネリアたちの格好や馬車を見て、怪訝な顔をしながら詰所へ戻っていった。

 残された他の兵士たちは首をかしげてコルネリアたちをじろじろ見ている。


「貴族か」

「本当に?」


 コルネリアの指輪は、貴族が身分を証明するためのものだ。

 特別な魔力を帯びた鉱石で作られており、指輪の持ち主本人が専用の水晶球に指輪を嵌めた手をかざすと、指輪の製作時に刻み込んだ紋章が浮かび上がる。指輪の本来の持ち主でなければ、手をかざしても何も起きない。

 そうして浮かび上がった紋章と、こうした場所に備え置かれた王国の紋章記録の写しと照合して、身分を証明するのだ。


 詰所に引っ込んだ兵士が持ってきた水晶球に、コルネリアが手をかざす。すると水晶球がぼんやりと光り、紋章が浮かんだ。


「シュトラウベ家の頁を」


 台帳を繰る兵士にそう告げると、彼は目当ての紋章を探し出せたようだ。


「ああはい、えーと、マティアス・シュトラウベ様の奥方の、コルネリア様……と。確かに」

「では荷台だけ確認させていただきます」


 無事貴族の既婚者だと証明できたため、通行が許された。荷台に狩猟に使えるような大がかりな武器などがないかだけ確認されるので、その間馬車を下りて待つ。

 荷台は狭く、二人しか乗れない小さな馬車だ。兵士は大勢は必要ない。


「マティアス・シュトラウベ……って、あの?」

「クリスティアーネ様の騎士の」


 暇になった残りの見張りたちは、聞こえていないとでも思っているのか、下世話な話を始めた。


「てことは、あれが噂の奥方か」

「横恋慕してせっかく結婚したら、石女だったんだろ?」


 王都であれだけ騒がれた話だ。この国のどこまで広がっているのだろうと、コルネリアは遠くを眺めて耐えた。


「おい滅多なこと言うな。貴族相手だぞ」

「俺じゃないぜ。吟遊詩人が歌ってたんだ」

「いやあの格好見てみろよ。供はあんなごろつき一人だ。実家からも追い出されたんだよ」

「どうせ強引に結婚したからだろ。それであんなことになれば、そりゃ追い出されるさ」

「勘当された貴族の娘が、まだ貴族の一員だって主張の方が無理がないか?」


 法的には貴族として扱われるが、彼らがどう思うかは勝手だ。


「なんだ、この棒……筒か?」

「知らねえ。ついでに荷運びして小銭稼ぎだよ」


 荷台を確認していた兵士が、細長い棒を出してきてギードに見せる。コルネリアにはわからないが、ギードが自分のものとして積んだ何かだ。

 だが堂々と嘘をついたギードは、そのついでに噂好きな兵士たちに向け声を張った。


「おいあんた方、気をつけた方がいいぞ。なぜなら王都でこの人への侮辱罪が認められて、今は逃げた奴から賠償金を取り立てに行く真っ最中だからな」


 矛先が自分に変わってはたまらないと、男たちは途端に口を噤んだ。

 よくそんな嘘をとっさにつけるものだと、コルネリアはギードの髭面をまじまじと見つめた。


「ちなみに俺は、賠償金が払えなくて用心棒で返済中だ」


 ギードの嘘のおかげで静かになり、動きも良くなった兵士たちに見送られ、二人は門を通って先へ進むことができた。


 助けられた気がして、コルネリアは落ち着かず、我慢できずに尋ねた。


「言わせておけばいいのに、どうして嘘をついてまで庇ったの」


 馬車に揺られながら、ギードはこともなげに言う。


「鼻を膨らませて好き勝手ピーピー言ってたあいつらが、急に黙り込んで気まずそうにするアホ面が見たかったんだよ。面白かっただろ?」

「……見てなかったわ」

「なんだ。もったいない」


 ちょっとした、何でもないことのような口ぶりだった。

 ただ、これが呼び水になったようで、ギードはマティアスのことを聞いてきた。もしかするとずっと興味はあったけれど、控えていたのかもしれない。


「あんた、噂を否定しないのか。旦那に嵌められたって」

「……そうね。ああ言われて、すごく傷つくし、私は世間が噂するような非はないって腹も立つわ。でも、そう主張すれば、『それならどうして夫はそんなことをしたのか?』と質問が返ってくることもあるでしょう。私はその答えを、わかっている。わかってはいるけれど、口にするのは、辛い」


 夫に利用されていて、愛されてなどいなかったと。


「私、きっとまだ夫を愛していた心の、整理を終えていないのよ。マティアスのことを考えると頭の中がめちゃくちゃになって、幸せだった思い出ばかりよみがえってしまう。優しくしてくれたの、彼だけだったから……」

「あー……、めそめそすんのやめてくれるか? まぁ死んだばっかだもんな。でもやめろ」

「慰めてほしいわけじゃないから、放っておいてくれるかしら」

「そのうちまた優しくていい男捕まえられるって」


 励ましているのではなく単純に泣いているのが鬱陶しいだけのようだが、人間関係も含めてすべて失ったのだから、彼の言うようにまた恋愛に限らない新しい出会いもあるだろう。いつか再び誰かと信じあえる関係を結びたい。

 とはいえ最も信頼し愛していた夫から裏切られた直後のため、コルネリアは今のところ誰の優しさも信じたくない。

 そういうわけでギードによる、ユニコーンを密猟するという目的のための、打算的できっちり貸しとして念押しされる形の親切は非常に安心感があった。


 谷を抜けると、山々に囲まれた低地に入った。段々木が密集してきて、道が森へ入っていく。

 ギードによると、道があるのは森の浅いところで、ここから深くへ逸れないとユニコーンには会えないらしい。だからただ通りたいだけの領民は安心して通行できているということだ。


「この森のどこにユニコーンがいるか、目星はついているの?」

「当たり前だ。俺は例のユニコーンを捕まえた記録をもとに、入念な準備を進めてきたんだぞ」

「でも最後になってから、囮がいないと気づいたんでしょう?」

「うるせぇ」


 馬車の車輪の跡が目立ちにくいところから道を外れ、森の奥へ進んでいく。ギードは懐に入れていた自作の地図を頼りに、下調べで見つけた場所を目指しているようだ。


 途中で馬車と馬を置いて、残りは歩いて到着したのは、小さな泉のある開けた場所だった。


「雄のユニコーンがこの泉の周りを縄張りにしてる。そいつを狙うぞ」


 そういえばこの男の本職は何なのだろうかと疑問に感じる手際の良さで、ギードは密猟の準備を進めていく。 

 広げた手荷物の中に、先ほど検問で話題にされていた細長い筒を見つけて、コルネリアは指さした。


「それ、さっきの筒よね」

「ああ。吹き矢だ。これでユニコーンに痺れ毒をぶち込む」


 ギードはしっかり密封された怪しげな包みを取り出した。

 針に風受けの羽根をつけた矢を筒に装填し、息を吹き込んで射出するのだ。あまり一般的な道具ではなく、コルネリアは初めて知った。今朝からずっと何の棒だろうと思っていた。包みの中身は矢だそうだ。


「ユニコーンに弓矢は効かない。奴ら平時は常に気を張ってるのか、筋肉が硬くて皮より深く矢じりが刺さらないんだ。剣や斧もかすり傷程度で終わる。そこでこいつの出番さ」


 このあたりも先人の記録に試行錯誤の結果が記されているそうだ。記録があるということは、矢を弾かれた先人は無事に逃げ帰れたのだろう。あるいは射手を置いて逃げたか。


「基本的に矢が刺さらないのは弓と同じだが、こいつはユニコーンが最も油断している時ならしっかり刺さって毒が効く。それは筋肉が緩んでるからで、なら弓矢も刺さるはずなんだが弓は音がでかすぎる。矢が届く前に気づかれて、筋肉の収縮の防御が間に合っちまう。弾かれるか、刺さりが浅い」


 浅い刺さりに気づかず、痺れ毒の効きが不十分なままユニコーンに接近してしまった例もあるらしい。まだ動けるユニコーンに近付いてどうなったのかは言うまでもないだろう。

 ギードの手に入れた先人の記録が思った以上に大勢の血で書かれていそうで、コルネリアはなんだか怖くなった。


「その点、吹き矢は音が小さい。惚けて油断していた奴が我に返るのは、自分に深々と毒矢が刺さった後だ」

「それで、私はどうすればいいの」

「ここで大人しく座っておくだけだ」


 その油断を誘う方法が、処女を囮にすることなのだろう。

 具体的な手順を確認しようとしたが、コルネリアがすべきことは特になかった。


「本当に、大丈夫なのよね……?」


 以前からコルネリアは、魔物が人間の処女に魅了されて膝で眠るなんて胡散臭いにもほどがあると思っていた。処女の血肉を好むから寄って来て頭からバリバリ食らう、とかであれば何となく納得できるが、凶暴な魔物がただ膝で眠るという生ぬるさに違和感があるのだ。

 しかしギードは過去の記録を信じて疑っていない様子だし、一緒に手に入れたユニコーンの角薬は本物だったという。偽りの記録にわざわざ希少な角薬を僅かにでも添えるとは考えづらい。


「まぁ相手も生き物だ。暴れたりして刺激すれば不測の事態もあるかもしれないな。だからとにかく大人しくしておけ。刺激しなけりゃ攻撃されない」

「……わ、わかったわ」


 横を通り過ぎざまにギードが肩を叩いていく。コルネリアは不安を無理矢理抑え込んで、自分を鼓舞するために深く頷いた。


「……………………攻撃は、な」


 その時、ギードが何かをぼそりと呟いた気がして、コルネリアは振り返った。だが彼は、隠れる予定の木の方へどんどん歩いていっている。

 空耳かと納得して、コルネリアは池のほとりに座り直した。

 しかしコルネリアは、ここでこの男を追及しておくべきだったと後悔することになる。



 日差しはあまり強くないため、日なたではあるが帽子は必要なさそうだ。むしろ、ボンネットの広いつばが視野を狭くして善くないかもしれない。

 そう思ったコルネリアは、顎の下の紐をほどきかけて、やはり止めた。上げた手をごまかすように、うなじを触って襟足が出ていないか触って確かめる。


 そうしてコルネリアが深呼吸をしながら待っていると、草を踏む音が耳に入ってきた。

 体を固くして目だけ動かせば、池の反対側に大柄な白馬が佇んでいた。


「……っ!」


 馬にしては大きすぎる体と、額に聳える螺旋模様の角。間違いなく、書物や伝聞でしか知らなかった本物のユニコーンだ。まるで水中にいるように、たてがみがゆらゆらと揺らめいている。


 紺色の瞳がコルネリアを捉えているのかはわからない。ぴんと立った両耳はこちらを向いてる。

 この状況は問題ないのかギードの潜む方向を盗み見るが、彼が登って隠れている木は静かなままだ。今は動けないはず。先ほど言われたとおり、大人しくしているしかない。


 目線を戻すと、ユニコーンはその長い四つ足を優雅に動かして歩き出した。池を回り込んで、コルネリアの座っている方へ近づいてくる。

 獰猛で人間と見るや襲い掛かってくる、と言われているほどの凶暴さだ。コルネリアがすぐさま蹴り殺されていないのだから、処女の若い女で大人しくさせられるという話はきっと本当だ。

 手のひらを汗ごとぎゅっと握り込む。緊張で、自分の心臓の鼓動を感じる。


(落ち着いて、落ち着いて……!)


 一馬身もない距離で止まったユニコーンの鼻息が、威嚇のように聞こえる。においを嗅いでいるのかもしれない。

 普通の馬でも十分大きいのに、それを上回る巨体を、こちらは座って見上げている。コルネリアは自分がひどく小さくなってしまった気分だ。蟻のように踏み潰されないかと背筋が冷える。


 ユニコーンはなぜか尻尾を上に立て、次は前足で地面をかくように軽く叩き始めた。

 襲い掛かってこないのだからもう懐柔できているのではと期待したが、これは威嚇や警戒の仕草なのかもしれない。だからギードはまだ動かないのだろう。


 もう一歩進み、間近に立ったユニコーンが、首を下げてコルネリアに顔を近づけた。鼻息が直接顔にかかり、顔を背けそうになる。

 ブルルと鼻を鳴らしたユニコーンは、突然ニッと笑った。正しくは、まるで笑っているかのように歯を剥き出しにした。


「う……っ」


 噛みつかれそうな気がして仰け反ったコルネリアの顔を、ユニコーンは追いかけはしない。代わりに、更に首を下げながらにおいを嗅いでいった。

 胴体を通り、検分が膝のあたりで止まる。


「なに……?」


 なぜか膝の上を、鼻先を行き来させている。これが犬猫であればそこから食べ物のにおいでもするのだろうかと考えるが、魔獣であるユニコーンが人間の食べ物に興味を示すかは謎である。

 ユニコーンがもう魅了されているのか、それともその前段階なのか。ただ、ギードの方に動きはない。


「危ない……」


 ユニコーンが頭を動かし、角が顔に当たりそうになる。

 後退って避けるために膝を立てたところで、角がぐっと近づいた。


「あっ!」


 慌てて背中から倒れたので角に接触することはなかった。相手も当てる気はないのだろう。ゆっくりした動きだ。

 そうして体を起こした時、ユニコーンの鼻先がスカートの裾をくぐり、立てた膝の間に入り込んだ。


「もう……、え?」


 膝のにおいを嗅ぐうちに引っかかってしまったのだろう。動物の不測の動きだ。

 そう思ってスカートを押さえようとしたコルネリアは、突如違和感を覚えた。


 脚を引き寄せてスカートを直そうとしているのに、ユニコーンの鼻先がそのままついてくる。

 スカートの中の膝や腿に、生き物のぬるい鼻息がかかる。


 言いようのない反射的な不快感で思わず後退るが、ユニコーンは逃さずそのままついてきた。

 偶然ではなく、明らかに意識的にこうしている。


「いやっ!」


 不快感がおぞましさとなって肌を這いのぼる。最初の意気込みが頭から抜けてコルネリアは悲鳴を上げた。

 その間にもユニコーンは頭をぐいぐいと進め、スカートの更に奥へ鼻先を押し込む。じめっとした鼻先が強引に腿の内側へ割って入ってきた。必死に逃れようとする獲物の脚の間を、執拗に嗅いでいる。


「ひ……っ!」


 味わったことのない恐怖心と危機感に、コルネリアの体はいよいよ硬直し、悲鳴も引きつった。

 もうわかってしまっている。『ユニコーンが処女に魅了される』ことの意味を。


「――!」


 とその時、恐ろしい速さでユニコーンが頭を上げた。

 解放され腰を抜かしまま後退るコルネリアを意に介さず、素早く振り返る。

 その腰のあたりに白い羽根の何かが刺さっている。ギードの吹き矢だ。


 耳に残る不快な嘶きを繰り返しながら、その場で跳ねるように地面を蹴る。まるで地団太を踏んでいるかのようだ。気づかないうちに矢が刺さったことで、混乱しているのかもしれない。

 コルネリアはとにかく怖くて、いつの間にか近くの木の根元に背中がぶつかるまで後退っていた。


 暴れていたユニコーンの動きはやがてぎこちなくなっていき、コルネリアが緊張の面持ちで見守る中、ついにその場へ勢いよく倒れ込んだ。


「…………はぁ」


 途端に静かになった森の中で、コルネリアは浅くなっていた息を、ようやく深く吐いた。

 終わったのだ。


 呆然としていると、さくさくと草を踏む音が近づいてきた。


「よぉ。うまくいったな!」


 吹き矢の筒を片手に携えたギードは、放心するコルネリアとは対照的に飛び跳ねそうなほど上機嫌だ。


「おっと、早いとこ拘束しないとな。あんたはどうせ不器用だろうから座ってろ」


 なぜさりげなく貶されたのかはわからないが、まだ返事もできないコルネリアを放置し、ギードはてきぱきと動いた。

 生活用品の布包みに偽装し馬車へ積んできた、大量の縄でユニコーンの首や胴、脚の付け根を縛っていく。それを周囲の木に繋ぎ、連れてきた馬にも途中で手伝わせつつユニコーンを仰向けにひっくり返し、それをまた木に結んだ縄で保持して完成だ。


「これでこいつは痺れ毒が抜けても身動きできない」


 暴れて逃れようにも力はすべて宙に浮き、空を蹴るしかできないユニコーンはじっとギードを目で追っている。その目つきはぞっとするほど恨めしげで憤怒に満ちていた。

 しかし額の汗を拭うギードはそんなことも気に留めず、満足げだ。


「さーて、いよいよ角をいただ――」

「――ねえ」


 ユニコーンの拘束を終えたことで一旦時間に余裕ができたところで、既にある程度回復してじっと黙って待っていたコルネリアは、低い声でギードに呼びかけた。


「ん? なんだ」


 糸鋸を取り出したギードは、コルネリアの考えていることはわかっていなさそうだ。能天気ですらある。あるいは、わかった上で、意に介していないのか。


「あなたの手に入れたユニコーンの狩りの記録、随分詳しく書いてあるみたいね」

「おう」


 コルネリアはふらりと立ち上がり、ギードの前まで進み出た。


「それなら、囮がユニコーンに何をされるのかも、最初から知っていたんじゃないの……?」

「ああ。どういうわけかユニコーンの雄は、人間の処女に性的に興奮して犯そうとするんだとさ。全部書いてあった」

「そういうことは! 先に言って!!」


 遠くで鳥が飛び立つ音がする。

 間違いなくコルネリアの人生で一番の大声だ。


 全力の怒りに対し、ギードは少し驚いたように眉を上げただけである。


「先に教えて余計なことされても困る。それ以前に、知ってたとしてもユニコーンが現れればどうせ怖がって動けないだろうし。言っても言わなくても同じさ」

「同じじゃないの! 気持ちの問題なの!」


 せめて心の準備をしておきたかった。あの鼻息と鼻先の感触は忘れられそうにない。


「この計画はあなたの方が取り分が多いのよ。ならせめて、気持ちの面でぐらい配慮してくれてもいいじゃない!」


 取り分の割合が少なくても、十分な額だった。また、危険とはいえ囮になるだけで、ギードの方が負担が多いと思ったからそれを受け入れたのだ。


「俺の取り分が多いのは、俺の伝手がなけりゃ密猟した角を捌けないからだろ」

「相手がいなければ計画が成り立たないのはお互い様でしょう!」

「はぁ……。だいたいなぁ、俺たちが稼ごうとしてる金はそんな生半可な額か?」


 まるで駄々っ子を相手にしているかのような素振りだ。悪びれないのが余計に腹立たしい。


「わかってるわよ! これぐらいのことをしなければ、大金なんて手に入らないって言うんでしょう!」

「おっ、よくわかってるな。じゃ、切るぞー」


 そう言って切り替えたギードは、早速糸鋸でユニコーンの角を切り落としにかかるのであった。


 その単調な動きを眺めていると、コルネリアは少し落ち着いてきた。

 反対にユニコーンは痺れ毒が切れ、身じろぎし始めている。拘束は完璧なようで、縄や繋いだ木々がぎしぎしと軋むだけで緩みはしない。

 この完璧な手順を確立するまで、記録をつけた先人はどれほどの試行錯誤を繰り返したのだろうと、コルネリアは遠くに思いを馳せた。


「家畜みたく人の手で殖やせればなぁ」


 惜しそうなギードの呟きを受けて、ユニコーン牧場を作るのは可能なのだろうかと想像をしてみる。だが難しそうだ。


「どうしてユニコーンは数が増えづらいのかしら」

「さあな。雄が人間の若い処女に興奮する変態だからじゃねぇか? サカるなら同族の雌にしとけと思うが、人間に興奮するからこそ俺たちはこうして角を手に入れられてるわけだ」


 たしかに、ユニコーンの雄がそういう意味で正常であれば、こうして捕獲は叶わず、コルネリアはあの嵐の日の礼拝堂で自決していただろう。

 コルネリアは世の中の不思議に感謝しかけて、しかし先ほどの気持ち悪さを思い出してやっぱりやめた。



「よし切れた!」


 いつの間にやら身じろぎするユニコーンの頭を足蹴にして固定しながら角を切っていたギードは、取れたものを誇らしげに掲げた。

 螺旋模様の鋭く滑らかな角。これがあれば、きっとお互い納得のいく十分な金が手に入る。


 コルネリアは角を切っていた場所の下に敷いていた布をそっと広い、角の削り屑を集めて袋状にまとめた。この屑も大事な角の一部だ。


「早く行きましょう。森を抜けるのに時間がかかって、後から怪しまれたくないわ」

「そうだな。だが――」


 角と糸鋸を手におもむろに歩き出したギードは、それをしまう馬車の方ではなく、ユニコーンの拘束を手伝わせてそのまま近くに繋いでいた馬の方へ向かった。


「俺は先に行かせてもらうぜ」


 コルネリアは、ギードの言っていることがよくわからなかった。なぜ別々で行く必要があるのか。


「どういうこと? 馬車を置いてはいけないわ」


 この後また二人で馬車に乗って、何事もなかったかのように森を抜け、谷間の道を通ってプレイユヒアの街へ行く。そこで早々に角を換金し、すぐ解散。そういう話のはずだ。


 ところが、ギードは突然喉を鳴らして笑い始めた。面白おかしいというより、馬鹿にしたように。


「察しが悪いなぁあんた。これを見ろよ。俺は角を持ってる。で、馬の傍に立ってる。俺たちの、一頭しかいない馬だ」


 ここまで言われてようやく、コルネリアは嫌な予感がした。


「この角は俺がいただく。あんたはその削りカスで我慢しておけ!」

「そんな……!」

「誰があんたみたいな馬鹿に分け前をやるかよ。教えておいてやる。もしあんたが大金を手にしても、安泰に暮らすどころか金目当ての連中が寄って来て、今回みたいに騙されてすぐにまた一文無し、それどころか口封じに殺されるぜ。そんな勿体ないことになるぐらいなら、俺が全部使ってやるよ。まぁこの忠告の勉強料とでも思いな」

「騙したのね!」


 最初からそのつもりだったのだ。

 コルネリアの非難を、ギードは鼻で笑い飛ばす。


「文句言えるほど何かしたか? 下調べ、準備、あんたをここまで連れてくる手間、実際にユニコーンを捕まえて角を切る、あと街で足がつかないようにこれを捌く。全部俺だ! あんたはただノコノコついてきただけ!」


 そんなことはない。囮としての役目を全うした。囮としてかなりおぞましい目にあったし、運が悪ければ蹴られて死んでいた。彼と同じく命を懸けたのだから、分け前をもらう権利がある。

 怒りに震えながらも、それをしっかり主張しようと考えた。だが、ギードの手は、もう馬を木に繋いでいる手綱に伸びている。


(話し合いには応じない。それなら飛びついて止める? かなうわけがないわ)


「なら――」


 それなら、この男にこのまま逃げてはまずいと思わせればいい。


「――そのまま行ってみればどう?」


 まるで、とてつもなく愚かなことをしようとしている相手に告げるように、冷たく。


 ギードの動きが、止まった。


「随分余裕じゃねぇか。まあ、あんたの足でも日没までには森を出られるだろうから、そう困りはしねぇか」


 探ろうと会話を続けるギードを前に、コルネリアは温存しておいた手札のことを頭に思い浮かべ、自分を奮い立たせる。

 夫のマティアスにされたように、また誰かに利用されて捨てられるのは、絶対に嫌だ。


「それは困るけれど、あなたの比ではないと思うわ」

「俺がどう困るってんだ? ……ああ! あんたは知らないだろうが、俺は鞍や鐙が無くても馬に乗れるんだ。驚いたか」


 わざとらしく大げさな身振り。コルネリアの戯言を、無視できずに探っている。

 絶対に、利用されたままで終わってなるものか。


 ギードを見習って、コルネリアは精一杯の強気な笑みを形作った。


「そんなこと疑っていないわ。あなたは私を置いて、一人で難無く谷の出口までたどり着くでしょうね。……遠回しなことせずに、聞けばいいじゃない」


 挑戦的な物言いに、ギードが目を細める。苛立っているのだ。騙せる馬鹿な相手だと思っていたコルネリアの反応に。


「そうだな。じゃあ教えてくれよ。俺をどうやって困らせてくれるつもりなんだ?」

「聞かないで試しに置いて行ってくれてもかまわないけれど、そこまで言うなら教えてあげるわ」


 ここでついに、コルネリアはギードを睨みつけた。騙そうとした彼への正当な怒り込めて。


「手前の町で雇った住民に、山道からプレイユヒアの街へ先回りして、あなたが私を無傷で森から連れて出てこなければ憲兵に通報するよう頼んであるのよ!」


 まだ余裕を見せていたギードの目が、かっと見開かれる。

 つまり、コルネリアを置いていけば、ギードは詰みだ。


 少しの間固まっていたギードの顔が、いつもにやにやと笑っていたギードが、怒りで歪んだ。


「……やりやがったなクソアマ!」


 コルネリアはびくりと肩を跳ねさせ身をすくめた。怒鳴られる心積もりぐらいはあったが、やはり男の本気の怒りは恐ろしい。


「俺が拾ってやらなきゃあそこでつまらねぇ死に方してたくせによぉ! 寝食を恵んでやった恩を仇で返しやがって!」


 ギードは糸鋸を投げ捨て、腰に下げていたナイフを抜き放った。コルネリアの方は丸腰だ。


「あ、あ……」


 怯え、震え、足が竦む。凶器を突きつけられたぐらいで、既に後悔が頭を過ぎる。なにせ少し前までは、誰にも文句を言えない気弱な女だったのだから。


(どうしてこんなことになってしまったの……!)


 だがどれだけ恐ろしくとも、自分で立ち向かい、どうにかしなくてはならない。


「だっ、騙すつもりだった男に責められる筋合いはないわ!」


 ギード相手に何度か言い返せてきたではないか。

 あれだけ理不尽を強いてきた、実父や養母ら家族。コルネリアを利用し泥をかぶせたマティアス。それを鵜呑みにして傷つけてきた義母たち。彼らには何も言わないままここまで来てしまった。

 けれど、ギードには、不満をぶつけ、非難し、強く感情をぶつけることに成功した。これがコルネリアの生き直す人生の、第一歩のはずだ。


「二人きりで私の方が弱いのに、予防策を立てるとは考えなかったのかしら。でもあなたは実際、考えなかった。私がそこまで頭が回らないと見くびっていたのよ!」


 マティアスも、コルネリアのことをきっと馬鹿だと思っていただろう。自分でもそう思う。


「雇った住民には、私に何かあった時にと封書を預けたわ。そこにはあなたに脅されてユニコーンの密猟に手を貸すと書いておいた。私を置いていくのなら、その罪も一人で被ることになるわよ」


 険しい顔でコルネリアを睨んでいたギードは、突然ふっと表情を緩めた。


「いいや、こっちも冷静になってきた。あんたのそれはハッタリだろ」


 ぎゅっと手を握りしめたのが、見抜かれているかもしれない。

 やれやれと肩をすくめながら、ギードは朗々と続ける。


「いったいどこの誰が、わざわざそんな面倒な頼みを聞いてくれる? あんた、自分が無一文で追い出されたのを忘れたか?」


 そのとおりだ。礼拝堂でギードに出会った時、コルネリアは全く金銭を持っていなかった。宿代どころかパンの一つも買えない。

 だがこの事実の指摘こそが、コルネリアの唯一の手札を切る勝機なのだ。


「忘れているのはあなた自身の言葉よ。あなたが言うとおり、私にはまだ切り売りできるものがあった。道徳心の他にもね!」


 コルネリアは、顎の下の結び目を解き、被っていたボンネットを取り払った。

 ギードの目が驚愕で見開かれる。


 押さえ込まれていたコルネリアの白金色の髪が、風に吹かれてさらりと揺れる。ギードと出会った当初はまとめて結い上げられていた長い髪は、肩口で短く切り揃えられていた。


 身分の上も下もなく、女は通常髪を伸ばす。こうして短くするのは、修道院へ入る時か、その毛髪を売って金に換える時だけだ。

 ギードの頭の中には、宿で見かけた、女から髪を買い取る行商人が思い出されていることだろう。


「こうして作ったお金で前金を支払って、無事に森から出てくれば私が残りを、出てこなければ犯罪者を捕まえた報奨金が役人から手に入る。どちらへ転んでも、森の出口を見張りさえすればいいから、すぐに引き受けてもらえたわ」


 しばらく驚愕で固定されていたギードの顔が、やがてゆっくりといつもの――しかしまだ若干不機嫌そうな――軽薄な表情に戻っていった。


「……いいだろう。ついこの間までめそめそ泣いてたお貴族サマの成長祝いとして、お前を裸にひん剥いて金がいくら残っているかは確かめないでやるよ」


 ギードは気がついている。だがそれをわかったうえで、ここは白旗を上げてくれている。

 ならばコルネリアもこれで納得を――しなかった。


「それだけかしら」

「アァ?」


 つんと、今だけは高慢な女のつもりで、それ以上を求める。


「騙しておいて、言うことはそれだけなのかしら」

「この……っ」


 怒鳴りそうになったギードは、表情をくるくると変えながら、恐らく自分の中で自分を宥め、最後にしぶしぶ溜息をついた。


「……わかったよ。騙そうとした詫びにお前の取り分を四割にしてやる」


 きっと、これがギードなりの誠意の示し方なのだろう。貸し借りを意識しているから、金で解決しようとしている。

 しかしコルネリアは首を横に振った。


「……それは結構よ。代わりに、謝って」


 そんなものはいらないのだ。


「誰にも、きちんと謝ってもらったことが、ないから……」


 高飛車な女の演技の残り時間が切れてしまったらしく、コルネリアは胸がぎゅっと苦しくなり、言葉も尻すぼみになっていく。


「悪かった。お前を馬鹿だと決めつけて、利用して。対等な人間として扱わなかった。……もうしない」


 まためそめそとし始めたコルネリアに、ギードは疲れ切ったように、それでいて少し優しげに、そう謝ったのだった。



 その後二人は、無事にプレイユヒアの街へ到着した。途中危なげなこともなく、順調だった。

 そして街で、ギードの伝手を使ってさっさとユニコーンの角を金貨に換え、約束した割合でキッチリ分け合った。


「あんたはこれからどうするんだ」


 別れ際、ギードはコルネリアに問いかけた。ユニコーンの姿を積極的に確認しに行く人間はなかなかいないが、いつあの後解放した角が根元から切られた個体が目撃されるかわからない。ここで解散し、別々に逃げるのが妥当だ。

 それに、二人はこの密猟をするために手を組んだ――宿屋で脅されはしたが結局協力したし分け前も受け取った――のだ。終わったからにはもう一緒に居る理由はない。


「そうね……。どこかの商会で雇ってもらうわ。断られるでしょうけど、このお金の一部を賄賂にしてでも、どうにかする」


 コルネリアは実家でぞんざいに扱われてはいたが、いつか嫁いだ時のためにひととおりのことは家庭教師に教わっていた。その中には、貴族の妻としての社交等だけでなく、夫の不在、死亡時のための財産管理や領地運営についての知識もあった。

 だから手近なところでは、商会の手伝いあたりができるかもしれないと考えたのだ。後ろ盾のない女は普通は雇ってもらえないだろうが、そこは金の力を借りる。そしていずれ自分の店などを持ってある程度安定した暮らしが送れるようになったら、残った分け前と店の利益で弱者の支援をし、今回の罪滅ぼしをしたいと思っている。


「あなたは?」

「俺は当然遊んで暮らす」


 らしさはあるが軽率な答えに、コルネリアはがっくりと肩を落とす。


「おかしなことをして捕まらないでちょうだいね。お金の出所を辿って私まで捕まりたくないから」

「うるせえな」


 文句を言いながらも、ギードは楽しそうに笑った。懐が重いので機嫌もいいのだろう。

 最後に、コルネリアは気になっていたことを尋ねた。


「どうして私の嘘を暴かなかったの。気づいていたんでしょう」


 それは、コルネリアが逃げようとするギードについた嘘だ。

 コルネリアは手前の町で人を雇い、ギードに裏切られた場合の保険などというものは、全くかけていなかった。あれは、ギードの言うとおり全部はったりだった。置いて行かれそうになって、とっさに考えたのだ。


「まあ九割がたな。あんたは髪を売って金は作ってたが、プレイユヒアまでの道には明るくなかった。森に着くまでの道中で俺が説明してようやく、慣れた人間なら山道から先回りできると知った様子だった。それなのに手前の町で人に頼んでおくなんてできっこない」


 やはり、しっかり見抜いていた。


「そのとおりよ。お金は元々、宿であなたに脅されたあと、自由になるお金を持っておかなければまたいいように使われると思ったから、こっそり髪を売ったの」


 古着屋で一人にされた隙に、店主に髪を切ってもらい、短くなった髪を購入したボンネットで隠した。そして宿で行商人に声をかけ、買い取ってもらった。そうやって秘密の金を作った。

 もし先ほどその場でギードに脅されて身体検査をされていたら、保険のために前金として半分払ったはずなのにそっくりそのまま残っている髪の売却代金が出てきて、嘘は証拠をもって暴かれただろう。

 そこまでギードは考えた上で、しかしやらなかった。


「俺があそこで退いたのは、あの土壇場で口から出まかせを言ってみせただけじゃなく、俺から隠して温存しておいた手札を使って、本当にそうかもしれないと一瞬でも怯ませたあんたへの――、そうだな、敬意ってやつさ」


 その言葉を使うのが少し気恥ずかしかったのだろう。ギードはそのまま背を向け、そのまま旅立った。


 騙され利用されたが、他の人たちから向けられなかった何かを、ギードただ一人からはもらえたような気がした。

 それに対する感謝を込めて、コルネリアは彼の背中が街の雑踏の中に見えなくなるまで静かに見送るのであった。


お読みくださいましてありがとうございました。

よければ評価、感想等いただけると嬉しいです。


(追記)

 なお、この世界観で、後ろ盾のない元貴族の女性が、家を追い出されてすぐ自活したりまともなところで雇ってもらえたりするよりは、悪人に売り飛ばされるか犯罪に利用される方が現実的かなと思い密猟させましたが、現実での密猟は言うまでもなく犯罪です。(作中でもですが)

 作中ではかわいそうなので、密猟の結果誰かの暮らしが脅かされたり、気持ち悪いユニコーンを含む生き物が死んだりはしませんでしたが、現実ではそうはいきません。

 その辺りに自生してる、たくさんいるように見えても、生産者さんなどが育て管理してと人の手が加わっている場合がほとんどです。その方たちの苦労の結晶であり、生活の糧です。また、取りすぎてなくなってしまったり、生態系が崩れる可能性もあると思います。

 わかりやすい生き物系だけでなく、ちょっと山に入ったら見つけたキノコや山菜などにも同じことが言えます。許可なく勝手に取ってはいけません。基本的に誰か他人の所有物です。犯罪です。

 作者はこのように認識しておりますので、この作品は、話の都合上密猟は完遂するものの、犯罪行為を容認、推奨するものではありません。どうぞご承知おきください。

(メッセージをくださった方、ありがとうございます)

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― 新着の感想 ―
家族や夫に虐げられ、軽んじられても何も言えなかったコルネリアが、ギードに反発する形で意見を言えるようになり、ギードも悪い噂から彼女を庇ったりなど、二人の関係がどう進展していくのかを楽しみに読み進めまし…
[良い点] 泥臭くて身勝手な人らの生き生きとした姿が面白かったです 主人公も口で綺麗事言うだけで本質は自己中心的なのが透けて見えて扱い悪くても後味悪くはなく、でも哀れ高ら今後に救いが有るバランスが良い…
[良い点] ユニコーン密猟を本筋としてコルネリアさんが自尊心を回復していく話だと思いました。ギードさんとの関係を楽しむこともできますが、私には貴族育ちの気弱な美女が涙したり、弱ったり、愛されていないこ…
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