私は865歳
ときは30世紀過ぎ。
人間は木星第二衛星エウロパなど、地球によく似た環境の星に、
脳以外は人工のレプリカントとして、不老不死の生活をしていた。
そんな中、以前と変わらない地球に憧れ、
法を犯し、地球に渡って生身の人間に戻る人たちも増えた。
900年近く生きたレプリカントのノボルとヒミコには、
生身の人間に戻った地球でやりたいことがあった。
それは、自分たちの系譜を確認することだった。
生まれた木星の第二衛星エウロパでは、
子孫・祖先に会うことは禁じられていた。
ヒミコはすでに痴呆が始まっていた。
ノボルは痴呆のヒミコを抱えながらの、ルーツ探しとなった。
まずすることは、
「探偵」
を雇うことだった。
これは
ボタンひとつで何でもわかった
エウロパでは考えられないことだった。
同じような考えの人が多いのか、
「探偵」
はいっぱいいた。
ヒミコとともに探偵事務所に行った。
「ノボルさん、どこか旅行するの?」
ヒミコは旅行代理店に来ていると思っているらしい。
愛おしい。
これは生身の人間でしか感じないことではないだろうか?
「う~~~ん、どこ行こうか?」
痴呆の人への対応の仕方、
そんな情報はエウロパにはなかった。
地球に来てから、
というか、ノボルには自然に備わっていた。
探偵はすぐに情報を持って来た。
それはヒミコの祖先の情報だった。
ヒミコの祖先は、
田園の広がる田舎に住んでいた。
そこに行ってみた。
レンゲの匂いのする静かな場所だった。
「あら~住谷さんとこの人かえ~」
腰の曲がったおばあさんに、
そう声を掛けられた。
「え?」
おばあさん、続けて
「似とるで~」
そうか!似てるんだ。
「住谷、住谷」
その名前の家を探した。
「あった!」
ノボルは思わず叫んでしまった。
その声に驚いたヒミコは、
「何かいいもの見つけたの?」
ノボルは思わずヒミコを抱きしめていた。
「愛」
それはいったい何だろう?