5話 騎士の求愛
「フィオナさん、今日も可愛いね。はい、これ。プレゼント」
「あ、ありがとうございます。ルーファウス様……」
今日も今日とて私の勤める薬局へとやって来た騎士のルーファウス。その彼の手元には、小さく可愛らしいブーケが一つ。それをニコニコと渡されれば、受け取るのを断れるわけがない。
(お花に罪はないんだし……)
そう内心言い訳をしつつ受け取れば、彼はいつものように嬉しそうに破顔した。
あの騎士達の思わぬ来訪から十日が経ち、その間にルーファウスは既に六度も店を訪れていた。
最初こそ固い態度だったものの、今はすっかり常連のような様子で寛いでいる。初日に名前を聞かれて答えれば、こちらも相手の名前を呼ぶことを求められた。今ではとても親し気に話しかけられ、その度に戸惑いながらなんとか応対しているような状況だ。
彼は最初に冗談で手を掴んだ時のことを謝り、償いだと称して花やお菓子をプレゼントしてくれた。なんて律義な人なのかと思ったが、それが何度も続くと流石に困ってしまう。
三度目くらいの時に申し訳なくて断りを入れたのだが、今度はこれが自分なりのアピールなのだと告げられ、何も言えなくなってしまっていた。
けれどそんな私の様子に気が付いたのだろう。花をじっと見つめる私にルーファウスは眉を下げて問いかけてきた。
「……もしかして迷惑だった……?」
「えっ?いえ……その、こんなにしてもらって申し訳ないなって……思ってしまって……私は何も返せていないですし……」
「そんなの君が笑顔になってくれるだけでいいんだよ……ってあー、やっぱり今の撤回する。できれば一緒に食事に行くの、今日こそ頷いてくれると嬉しい。そしたらプレゼント攻撃はちょっとだけ控えるから」
「ふふっ……ちょっとだけなんですか?控えるの」
おどけたようなその言い方が可笑しくてつい笑ってしまえば、ルーファウスもどこか照れ隠しのようにして頬を掻いている。
以前から食事には誘われていた。けれどどうしても一緒に行く勇気が出なくて、断っていたのだ。
元々、手の届かない憧れの存在であるルーファウス。そして彼は覚えていないだろうけど、あんなことが起こってしまった相手。一緒にいていいわけがないと、そう自分を戒めるも、彼の気持ちが嬉しいのも事実で……
「プレゼント攻撃が減るのなら……」
「ほんとに?!フィオナさん!ありがとう!」
「あ、えぇと……」
思わずつぶやいた言葉を拾われ、慌てて否定しようとするも、既に何故か了承した形になってしまっていた。
「じゃあ今日の夜にまた迎えに来る。早番だから、店が終わる前に来れるから」
「あ、でも……」
「やっぱりダメとか言わないで……ごめん、こう見えても必死なんだ」
そう言って真摯な眼差しで見つめられれば、断りの言葉は胸の奥に詰まってしまう。その真剣な表情に、嘘は一つも見えない。
いつも軽い冗談のように接してくるのは、彼なりの照れ隠しなのだろう。今は頬を少し赤らめてどこか気まずそうに眉を顰めている。
そんな彼が可愛らしく思えて、私はこくりと小さく頷いた。
どうしたってこの人に敵うわけがない。そう思い至れば、それまでつかえていた様々なことがどこかへ吹き飛んでいった心地がした。
「よかった……これ以上断られて迷惑がられるようだったら……流石にもうだめかと思ってたから……」
「ルーファウス様……」
「フィオナさん、ありがとう」
にこりと嬉しそうに笑う彼に、自然と頬に熱が集まった。顔が真っ赤になるのが恥ずかしくて手に持ったブーケで隠すも、彼からは丸見えだったようで、くすくすと頭上から笑い声が聞こえてくる。
「よかった。その様子だと、そこまで嫌われていないと思ってもいいのかな?」
「そ、そういうことを直接言ってくるのは、どうかと思います!」
「ははっ!ごめんごめん。じゃあ、これ以上邪魔してもいけないからもう行くよ。今夜、楽しみにしてるから」
そう言って楽し気に笑うと、ルーファウスは手を振りながら店を出て行った。