25話 フィオナの決意
ルーファウスと話し終えた私は、部屋の外でやきもきしていた教授のサミュエルに、簡単に彼との関係を説明して、二人の間にあったわだかまりが無くなったことを伝えた。
するとサミュエルはどこか嬉しそうに「よかったね」といつもの拙い私の母国語で伝えてくれたのだ。そしてルーファウスに対しては──
「いいかい?彼女は僕の大切な仕事上のパートナーだから、彼女のお腹の子供も僕の子供同然だ。君がもし今後、彼女を傷つけようものなら、僕が黙っていないということを覚えていなさい」
そう言ってルーファウスに釘を刺したのだ。仕事上のパートナーと言って、しっかり誤解を解いてくれているところが実にサミュエルらしい。
そんなサミュエルに対してルーファウスも──
「勿論です。彼女を守ってくださってありがとうございました。もし今後、僕が彼女を傷つけてしまった時は、遠慮なく愚かな僕を殴ってください」
と、驚くようなことを返したのだ。これにはサミュエルも「騎士を殴るとか無理ぃ」と眉をさげて、皆の笑いを誘ったが。
そうして私はルーファウスと再会し、彼に全てを伝えることができた。二人の間にあった誤解やわだかまりは解け、再び共に歩む未来が見えたような気がした。けれど──
「あの……ルーファウス様……」
「なんだい?フィオナ」
「私……正直に言うと、もう祖国に戻るつもりはないんです」
「……それは……。どうしてか聞いてもいい?」
「はい……」
私は意を決してそのことを伝えた。これまでは流されるままに人生を歩んできた。けれど私は母親になるのだ。これまでと同じような弱い自分ではいられない──いてはいけない。
流されるまま決めるのではなく、今度こそ自分の意志でしっかりと自分の人生を歩んでいきたいのだ。そう決心して真っすぐに彼を見つめた。
「……サミュエル教授に拾ってもらって、薬師としてもっと広い世界があるんだって、教えてもらったんです。ここでは私の力を必要としている人がいて……私の力が世の中の為になっていくんだって思ったら…………」
ルーファウスがこの国まで私を探しに来てくれたのに、こんなことを言うなんて……そんな思いで言葉に詰まる。けれどそれが私の本心だった。
「うん………続けたいんだね?ここの仕事を……」
「……はいっ……だから……貴方と一緒に、祖国に戻ることは……でき、ません……」
言ってしまった──決めていたこととはいえ、胸の奥がヒュッと寒くなる。けれどそんな私の不安を包み込むように、ルーファウスは大きな掌で私の肩を抱いた。
「いいんだ、フィオナ。君の好きなようにして。元々、君の無事を確かめる為にやって来たから、君を無理やり連れ戻そうとかは思っていないよ」
「でも……申し訳なくて……」
「うん…………君がそう思って悩む性格だってのもわかってる。でも大丈夫。僕の覚悟はそんなことで君を嫌いになるようなちっぽけなもんじゃないから」
そう言ってルーファウスはどこか楽し気に微笑んだ。まるで、さぁ見てろよ?とでも言うように。
「でも僕が君の側にいることは許してほしい。例え国と国が違って離れてしまっても……君を守るのは僕の役目だから」
「ルーファウス様……」
彼の言葉が嬉しくて、涙が溢れそうになりながら私は頷いた。彼の逞しい腕が私を優しく抱きしめる。その温かさに、私は安堵の息を漏らしたのだった。




