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16話 暴かれるのは突然で


「お前やっぱりここにいたか!ヘンリー!」


「んげ!兄貴!なんでここにいんだよ!」


「お前を探してたからだよ!!」



 ずんずんと大股で近づいてくるその男性は、険しい表情をしていた。どうやらヘンリーに対し怒っている様子だ。



「ミスラさんの店に言ったら、お前が女性連れで来たっていうじゃないか!しかも妊婦向けのメニューを頼んだとかで、お前がいつの間にか子供を作ってるって!ついこないだ王都に戻ってきたばかりだってのに、一体どういうことなんだ!?ヘンリー!いつの間にそんなことになった?!」


「ちょ、兄貴、声でかい!落ち着いて……」


「これが落ち着いていられるかっ!折角地方から戻って見習いからちゃんとした医師になれたってんで、良家のお嬢さんとお見合いでもと話をつけようと思ってたのに、お前ってやつはっ……!」


「いや、そういうのいらないって言ったはずだけど?医者になるんだから、手に職があるわけだし、わざわざ爵位持ちの家に婿入りする必要なんてないって何度も──」


「そういう問題じゃない!だいたいお前は父さんたちがいいって言うのに甘えて、やれ学会だ、やれ研究だと、社交どころか碌に家に顔も出さないじゃないか!」


「それはしょうがないだろ?医者は忙しいんだよ。勉強も続けなきゃだし、患者さんはたくさんいるし」


「それでも少しは家の為にとは思わないのか?!地方の医局で修行を積むとか言うから黙っていたようなものの、結婚もしないで女を孕まようなどと、そんなこと許した覚えはないぞ!!」



 ものすごい剣幕でまくしたてる兄の様子に、ヘンリーも若干引き気味だ。誤解だとくちばしをはさむ暇もない。



「それでこちらの女性なんだな?!お前が孕ませたのは!ちゃんとけじめをつける気はあるんだろうな?!」


「いや、そういうんじゃなくて……」


「子供を作ったくせに、結婚する気がないだと?!ヘンリー!お前ってやつは……っ!親の前でも同じことが言えるのか?!ここじゃ話にならん!行くぞ!!」


「いてっ!ちょ、耳引っ張るなって!」


「へ、ヘンリー」



 怒り心頭でヘンリーの耳を引っ張り連れて行こうとするヘンリーの兄。どうすればいいかわからずに戸惑っていれば、ヘンリーが助けを求めるようにして私の腕を掴んだ。



「フィオナ!ごめん!取りあえず一緒に──」


「……その必要はない」


「っ──!」



 ヘンリーに引っ張られそうになる私の腕を横から掴む者がいた。低く怒りに満ちたその声の主は、険しい表情のルーファウスだった。



「……彼女は私との用事があるから、そちらはそちらで話をつけるといい」



 感情を失くした声。けれどそこに静かな怒りが隠されているのが分かる。その冷ややかな声音に思わずぶるりと体が震えた。



「る、ルーファウス様……」


「フィオナ──彼らとの話は後にしてもらおう。行くぞ」


「あっ……」



 手首を強く握られ、強引に引っ張られる。いつもは優しくこちらを気遣って歩いてくれるのに、今はまるで罪人を連行するかのようだ。


 そんな私たちの背に、同じく兄に連れていかれようとしているヘンリーが声を上げた。



「ごめんっ!フィオナ……ごめん!こんなつもりじゃ……!」


「っ……!」



 ヘンリーからの謝罪の言葉が聞こえてくる度に、強まる手首の締め付け。そこから伝わってくるのは、ルーファウスの凄絶な怒りと悲しみだった。


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