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【完結】囚われの王女は敵国の宰相にしあわせを所望する。  作者: 当麻リコ


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仮初めの恋人①

目を覚ますと、困惑顔のアシュリーと目が合った。


「……おはよう」

「おっ、はよう……ござい、ます……」


尻すぼみになっていく声はひどく掠れていて、目元を染めながらアシュリーが咳ばらいをした。


「あの、これは一体、どういう……」

「質問の前に喉を治してやろうか?」


ガサガサする声に苦笑しながら細い首筋に触れる。

アシュリーが少し考えたあとで首を横に振った。


「いいえ、この痛みは覚えていたいので」


それからはにかむように笑って、そっと喉元にある俺の手に自分の手を重ねた。

どこか吹っ切れた顔をしている。


「そうか」


その顔が眩しくて、慈しみを込めて額に口づける。

アシュリーの身体が石のように固くなった。


「それであの、この状況は」

「拷問は丸一日の約束だっただろう」


赤くなりながらも動揺を隠そうとするアシュリーに笑いながら答える。

彼女はハッとした顔をしたあとで、なるほど、とこの世の終わりのような顔で呟いた。


「自業自得というわけですわね……?」

「アシュリーが終了というならそうするが」


頬にかかる髪を掬い上げながら言う。

できることなら一生こうしていたいけれど、アシュリーが望まないなら意味がない。


「いえ……では、このまま続行ということで」


目元を赤く染め、アシュリーがまぶたを伏せる。

中断を言い渡されなかったことに嬉しくなり、もう一度額に口づける。

アシュリーがぎゅっと目をつぶった。

それを愛しく思いながら、泣きはらして腫れぼったくなっている目元にもくちびるでそっと触れた。


「……昨晩は醜態をお見せして恥ずかしいですわ」


泣いたことを揶揄していると思ったのか、アシュリーが拗ねた口調で言う。

だがあれを醜態だなんて一瞬たりとも思わなかった。

今までずっと耐えてきたのだと思うと、ただひたすらに胸が痛かった。


「恋人なら本心を打ち明け合うものだろう」

「あら、少しくらい秘密があった方が長続きすると聞いたことがありますわ」


クスクス笑ってアシュリーが言う。

屈託のない笑顔だ。

愛しさが溢れて、気づけば彼女を抱きしめていた。

嫌がられたらすぐに離れよう。そう思っていた俺の背に、そっとアシュリーの手が添えられる。


「……ふふ、恋人同士の朝というのは幸せなものですのね」


腕の中でアシュリーがくすぐったそうに笑う。


「そうだな」


素直に同意すると、アシュリーが抱き返す腕に力を込めた。


「これから一体どうなりますの?」


抽象的な聞き方だが、何を聞きたいのかはすぐに分かった。


「すでに動き始めている。今日もこれから会議だ」


枕元の時計を見れば、すでに時間はギリギリだった。思わず舌打ちをしたくなる。

いつもなら覚醒と同時にベッドを抜け出すが、今は一日中だってこうしていたかった。


「そう……ではわたくしは部屋に戻りますわね」

「いや、ゆっくりしていけ。ジゼルに朝食を運ばせるように言っておいた」

「よろしいのですか? 捕虜を自室に置き去りだなんて」


アシュリーが揶揄うように笑う。


「今は捕虜でなく恋人だろう。寂しい思いをさせてすまないな」


気障ったらしく言うと、アシュリーが頬を赤らめた。


「……イヤですわ。あなたいつからそんな軽薄なセリフを言えるようになりましたの?」


アシュリーがじとりと睨むが、頬が赤いままなので迫力はない。

確かに女性の扱いは苦手だが、身近にいる女たらしを思い浮かべて真似れば案外できるものらしい。

今のをロランが聞いたら、見たこともないほどに大笑いしそうだが。


「さて、そろそろ本当に行かねばならん。朝食後は好きなタイミングで戻るといい」


渋々アシュリーから離れ、起き上がる。


「ふふん、寂しいのはあなたの方ではなくて?」

「ああそうだな。離れがたいよ」

「……っ!」


本心を告げれば、意趣返しとばかりに笑っていたアシュリーが一瞬で真っ赤になった。


「ふ。振り回す側になるのも楽しいな」


ニヤリと笑って言えば、アシュリーが悔しそうに「早くお行きなさい!」と俺の胸元を叩いた。


「ああ、行ってくる」

「……いってらっしゃいまし」


笑いながらつむじにキスを落とすと、彼女はムスッとした後で苦笑で送り出してくれた。


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