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【完結】囚われの王女は敵国の宰相にしあわせを所望する。  作者: 当麻リコ


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捕虜による拷問③

説明を求めるアシュリーの視線に居た堪れなくなって目を逸らす。


「減給するぞ」

「閣下は激務でお疲れなのです。アシュリー様とのんびりお過ごしの間に癒やされたんですよ」


直接的な脅しにあっさりと手のひらを返したロランがフォローを入れた。

だがそれもギリギリのところを攻めるスタイルのせいで、どんな顔をしていいのか分からない。


「まあ、そうですの……では今日はわたくしがなかなか屈さなかったということで、しばらくここでゆっくりなさるといいわ」


ロランの言葉をそのまま受け取ったらしいアシュリーが気の毒そうな顔になる。


「ああ、助かる……」


上手く勘違いしてくれたことにホッとしながらボソボソと話を合わせる。

もう一度ロランを睨むと、なぜか褒めてほしそうな顔をされた。

誰のせいだと思っているのか。


「なんでしたら膝枕もお付けいたしましょうか?」

「ゲホッ!……ごほ、ンンッ」


予想外の言葉に今度は盛大にむせる。


「過剰な拷問は死期を早めますので」


咳が止まらなくなった俺の背をさすりながら、気遣わし気にロランが言う。

こいつ完全に面白がってやがる。

恨みがましい視線を送るが、堪えた様子はない。


「はあ……癒やしの拷問なのに……?」


まったく分かっていない顔のアシュリーが、納得のいかない顔で言う。


「まあともかく、わたくしの勝ちということでよろしいですわね?」


気を取り直すようにウキウキで問われて気が抜けた。


「勝手にしろ」


ようやく落ち着いたところで、その嬉しそうな顔に笑ってしまう。

拷問官の真似事が楽しいのだろう。


「といっても、おまえが喜ぶような情報は持っていないぞ?」


水を差すようで申し訳ないと思いつつも正直に言う。

国家機密を話したところでアシュリーはアストラリスに囚われているのだし、そもそもそんなものを知りたがっているようにも見えない。

かといって女性が喜ぶような情報は持ち合わせていないし、後ろ暗い過去もないのだ。


「わたくしが知りたいことはひとつだけ」


ピッと人差し指を立てて、アシュリーが真剣な顔になる。


「なぜあなたは悪虐宰相なんて大それた二つ名になったんです?」


思いがけない質問に目を瞬かせる。


「そんなことが知りたいのか」


隣で噴き出すのを堪えているロランの足を、視線もやらずに蹴飛ばしながら問う。


「私も気になります……」


アシュリーの斜め後ろにおとなしく控えていたジゼルが遠慮がちに言う。

国内の人間といえど、噂の出処を知る者は少ない。

大抵の国民は自国の宰相が血も涙もない恐ろしい人間だと信じているので、もしかしたらジゼルも最初の頃は恐れていたのだろうか。


「わたくしが囚われてからずっと、一度も本当の意味での拷問なんてされてないでしょう?」

「いやそれはおまえがそう望んだんだろ」


厚かましくも痛い拷問は嫌だの幸せにしろだの言ってきた張本人が何を言うのか。


「それはそうですが、噂通りの悪逆宰相ならそんなとんでもない望みを叶えてくれるわけもありません」


その自覚はあったのか。

ぶっとんだ要求をするわりに、案外常識はあるらしい。


「本性を隠しているだけだとは思わないのか」

「一ヶ月以上もお話してきましたけど、残虐性のカケラも見えませんでしたわ」


ジゼルが同意するようにコクコクと頷く。


「一生懸命威圧的に見せようとしているようですけど、人柄の良さが滲み出ていますもの」


言われてむっつりと黙り込む。

見た目のおかげでずいぶんと恐れられてきたという自負がある。初対面で怖がられるのは慣れていたし、立場上それを得だと感じることの方が多かった。むしろ武器だとさえ思っていた。

なのにそれを一生懸命と言われるとなんだか恥ずかしい。

隣でロランが堪えきれずに噴き出した。

何度足を踏んでも効果はないらしい。


「閣下。もったいぶると余計話しづらくなると思いますが」


話すのを渋る俺に、ロランが笑いを滲ませながら助言してくる。

確かに大した話でもないことを隠そうとすれば、無駄に期待値を上げてしまうことになるだろう。


「……分かった。すごくくだらない話だがいいか」

「くだらない話こそ聞きたいですわ!」


その前置きに、なぜだか俄然興味が湧いたらしくアシュリーの目が輝き出した。

俺は観念して失笑される覚悟で悪逆宰相と呼ばれるに至る経緯を説明し始めた。


「そう呼ばれるようになったのは誤解が原因だ」


自分で言っていて少し恥ずかしい。

最近は見た目を噂に寄せているが、本来であればただの地味で目つきが悪いだけの人間なのだ。


「誤解?」

「ああ。あれはカラプタリアとの戦争がまだ激しかった頃のことだ」


記憶を探るように目を閉じる。

あの頃はまだ若くて、仕事に不慣れな上に戦争に翻弄された。たくさんの人死にが出て、精神的にかなり参っていたのだ。

自分だけ王宮という安全圏にいることに罪悪感を覚えながら、それでもすべきことを全力で成した。

少しでも前線の兵士たちの命を繋げるよう物資を確保し、補給路を死守するために情報をかき集めた。

そんな中、カラプタリアの捕虜十数名を連れて負傷兵たちが帰還した。

医療施設のベッドはその時点でほぼ満員で、捕虜も怪我をしていたが自国の兵優先で彼らは施設外の臨時テントに収容されることとなった。


「俺が治癒魔法を使えるのは覚えているだろう」

「ええもちろん。お世話になりましたもの」


つるりとした腕を見せながらアシュリーが頷く。


治療時彼女が言っていたように、治癒魔法の使い手は世界的に見ても希少で、その施設にも当時は一人しかいなかった。

その一人の魔力で収容された全員を治せるわけもなく、命に関わる重傷の場合のみ治癒魔法士が宛がわれるため、医療施設は常に怪我人でいっぱいだった。


「それでとうとう俺が駆り出されることになってな」

「他のお仕事でお忙しいのに……」


ジゼルが気の毒そうに言う。


「有能な人間に大量に仕事が回ってくるのは世の常ですね」


ロランがため息交じりに言って肩を竦める。


「まあ国に貢献できるのは誇らしいことだから構わん。それに身体を張ってくれる兵士たちに少しでも報いたかったからな」


前線に立つことのできない後ろめたさを埋め合わせるためにも、その命令に一も二もなく従った。

もとより自分の力を国のために存分に役立てたいと思っていた。

時間が足りなくて物理的に無理だったが、何度自分が二人いればと歯噛みしたことだろう。

その時点で睡眠時間は平均二時間を切っていたが、不思議と身体は軽かった。

たぶん色々と麻痺していたのだと思う。

俺は意気揚々と医療施設に出向き、重傷患者を一室に集め、治療を開始した。


「お待ちになって。献身的で素晴らしいお話ですが、それが悪名轟くお話にどう繋がりますの?」


アシュリーが首を傾げる。

もちろんまだ続きはある。これだけではただの苦労自慢だ。


俺はため息をついて、渋々続きを話し始めた。

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