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【完結】囚われの王女は敵国の宰相にしあわせを所望する。  作者: 当麻リコ


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捕虜による拷問②

長い葛藤の末、アシュリーがため息をついた。


「……王女に二言はありません。それはジゼル、あなたのものよ」


そう言って拷問のやり直し要求を取り下げる。

幸せになる権利を一回分パスしてでもジゼルの喜びを優先したいらしい。


「では、これはサービスですわよ? ――年の離れた腹違いの弟は天使のように可愛い」

「心底どうでもいい」


観念したかと思いきや、またしてもしょぼい情報を寄こすアシュリーに間髪入れず返す。

まるで重大機密のような深刻な表情で、百歩どころか一万歩くらい譲ったかのようだ。

その横で「ありがとうございます」を連呼するジゼルに、ロランが「良かったですね」と言いながら丁寧に化粧品を紙袋に詰め直してやっている。


「今年七歳でね、入ってはダメだと言われているのにこっそりわたくしの部屋にくるんですの」

「何事もなく続けるな。その情報はいらないんだ」

「それで少し前までは『おねーたま』って舌っ足らずに呼んでたのにもうすっかり『お姉さま』って発音できるように」


何度制止してもアシュリーは止まらず、いかに弟が可愛くて優秀かを語り続けている。

本当にどうでもいい。


「……分かった。俺の拷問が悪かった。出直すから落ち着け」


無限に続きそうなことにうんざりして慌てて阻止すると、アシュリーがようやく喋るのをやめた。


「一晩中語り明かせますのに」


不服そうに唇を尖らせてアシュリーが言う。


「まったく。普通ならジゼルのように大喜びするというのに」


この拷問が不発に終わるだろうことは想定済みだったが、予想を上回るしょうもなさに怒るより苦笑してしまう。


「あら、わたくしはカラプタリアの王女ですのよ? 普通の範疇に収まる女ではございませんわ」


お高く止まってアシュリーが言う。

ドレスも貴金属も喜ばなかった女だ。化粧品も似たような反応を示すだろうとは思っていた。

そんなことは分かりきっていて、だからロランも何も言わなかったのだろう。

上司の考えることなどお見通しなのだ。


そう、こんなのはただの先延ばしでしかない。

本当に情報を搾り取りたいなら、もっと分かりやすく待遇を上げればいいだけのこと。

それが分からないほど愚かではないつもりだ。

国王陛下を支える宰相として、国益を第一に考えるべきなのに。


「次の拷問までに情報を温めておけよ」


罪悪感を覚えながら、取り繕うように言う。


「ねえ、わたくしばかり秘密を話して、不公平だと思いませんこと?」


今日の拷問はもうおしまいだとお茶で一服し始めたタイミングで、アシュリーが不満そうに言う。

不公平も何も、捕虜と拷問官なのだから公平であるはずもない。


「ここまでふてぶてしい捕虜は初めて見るな」


呆れて言うと、褒められたと勘違いしたのかアシュリーがふふんと得意げに笑った。


「王族というものは敵中に囚われても誇りを失わないものですわ!」

「おまえはもう少し謙虚さというものを覚えるべきだ」


アシュリーに茶を淹れながらジゼルがクスクス笑っている。

火傷の一件以来、この二人はさらに仲が良くなっているらしい。


「……だがそうだな、秘密を知りたいならおまえもこの俺を拷問してみるがいい」

「よろしいのですか!?」


挑発するように言えば、アシュリーが今までで一番と言えるほどに目を輝かせた。


「少しお待ちになってね。うーん、拷問、拷問……」

「いやそんな真剣に考えるようなことでは……」


真剣に考え始めるのを見て、冗談だと言いづらくなってしまった。

面倒なことになったなと思いつつ、腕組みをして考え込むアシュリーを眺める。

いつも余裕の笑みを浮かべてばかりの彼女がそういう表情をしているのが新鮮で興味深かったのだ。


「……案外難しいものですわね」


ふ、と息を吐き出して、諦めたように腕組みを解く。


「俺の苦労が分かっただろう」

「不慣れなだけですわ」


いい拷問が思いつけなかったのが悔しいのだろう。眉間にシワを寄せて、アシュリーが唇を尖らせる。

子供っぽい仕草だ。とても王族の端くれとは思えない。

だがそういう仕草にこそ心を惹かれるのはなぜだろう。

彼女の言動のひとつひとつに仕事の疲れが癒えていく気がして、気分が良かった。


「これを機に俺への態度を改めるといい」

「まあ! いつもきちんと感謝していましてよ?」

「捕虜が拷問官に感謝するな」


アシュリーのズレた反応に思わず笑う。

彼女が来てから、つられるように自分も表情が増えたように思う。ここにくると自然と笑顔になるのだ。

これまで何度もアシュリーの幸せレートが低すぎると思っていたが、人のこと言えないなと自分に呆れる。


「閣下はアシュリー様の拷問に屈されたようですよ」

「ゴホッ」


ロランがいい笑顔で言って、思わずむせる。

まるで見透かしたようなタイミングだ。


「え?」


咳込む俺と満面の笑みを浮かべるロランを見比べながら、アシュリーが不思議そうに首を傾げる。


「わたくしまだなんの拷問もしていませんわ」


訳が分からないという顔のアシュリーと、同じような表情のジゼルが顔を見合わせている。

なんとかしろという圧をかけながらギロリと睨むが、ロランは腹立たしいほどに涼しい顔をしていた。

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