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【完結】囚われの王女は敵国の宰相にしあわせを所望する。  作者: 当麻リコ


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王都散策①

「なぜこんなことに……」


青空の下、げんなりした顔で呟く。

自分で言いだしたこととはいえ、あれは完全に冗談のつもりだったのに。


「なにをモタモタしているのです! さあ行きますわよ宰相様!」


やや興奮気味にアシュリーが言って、気の進まない俺の背をグイグイ押して無理やり歩かせようとする。

周りは人混みに囲まれていて、それがますます足を重くさせた。

今日は王都の目抜き通りで月一開催される大市場の日だ。国外からも商人や観光客が押し寄せて、城下はいつも以上に賑わっている。

その中を、アシュリーが好奇心いっぱいの目でキョロキョロとあたりを見回している。


「あれはなんですの? いい匂いがしますわ!」

「おいこら待て!」


そう言って今にも屋台の方に走っていきそうになるのを慌てて止める。


「もう! なんですの! 早く行かないとなくなってしまいますわ!」


むくれた顔でアシュリーが言って、次の瞬間には「あ、あっちは?」と別のものにソワソワと目移りしている。まるで子供だ。


「はあ……分かったから勝手に行くな」


ため息をこぼして、仕方なくアシュリーに付き添う形で歩き出す。

これは断じてデートではない。この女から情報を引き出すための拷問の一環だ。

二週間以上牢獄に閉じ込められ、まともに外の空気を吸うこともできなかった虜囚を外に連れ出し、懐柔させるための。

そう自分に言い聞かせるが、その間にもアシュリーは忙しなく動き回っている。


外に連れ出すにあたり、さすがに囚人服は着替えさせた。今アシュリーが身に着けているのは、平民向けの中でもいっそう地味で質素なワンピースだ。ロランがわざわざ部下に教会のバザーまで買いに行かせたらしい。妙な張り切りように腹が立つ。


もちろん囚人なので、完全に自由にさせているわけではない。

長い袖と裾に隠れているが、両手足には魔術式の組み込まれた枷がはまっている。

両手首間は十センチほど、両足首間は三十センチほどまでしか離れないようになっていて、鎖はなくとも走って逃げることができない仕様になっていた。


それでもアシュリーは嬉しそうにちょこまかと速足で露店を見て回っている。まるで小動物のようだ。その動きをうっかり可愛らしさを感じてしまい、慌てて首を振る。

アシュリーを見ていると、自分が今何をやっているのか本気で分からなくなってくる。

そんな気持ちも知らず、彼女は新しいものを見つけるたびにキラキラした目でこちらを振り返りいちいち報告してきた。


「宰相様! 見てくださいこのオモチャ! ここを押すと音を鳴らしてクルクル回るのですって!」


よくある幼児向けの魔法のオモチャだ。持つ者の魔力に応じて光ったり回ったりする。かなり簡易的だが、潜在魔力量を測るのに適しているので人気がある。

アシュリーはアストラリスでは珍しくもなんともないそれを、ねだるでもなく不思議そうに検分している。


「ふ、そんなものが珍しいのかおまえ」


そのあまりに無邪気なはしゃぎぶりに、思わず笑みが漏れてしまって慌てて表情を消す。

これは拷問。これは仕事。

常にそう言い聞かせていないと、すぐに気が緩んでしまいそうだ。


「きゃっ」


露店の商品に気を取られていたアシュリーが、同じくよそ見をしていた子供にぶつかられてよろけた。


「わっ、あ、ちょ」

「周りを見ろ馬鹿者」


呆れながらそのまま倒れそうになるアシュリーの身体を支える。手足が不自由な分、バランスをとるのが難しいのだろう。

思い切り寄りかかってきたその身体が、想像以上に軽くて眉根が寄る。


「ご、ごめんあそばせ」


慌てて体勢を立て直そうとするアシュリーが、再び拘束具に足を取られてよろけ俺の胸にどすんと顔をぶつけた。


「うぷっ」

「まったく落ち着きのない……子供と変わらんな」


赤くなった鼻を押さえ、恥ずかしそうにするアシュリーに苦笑する。


「……仕方がないでしょう、お祭りに参加するのは初めてなんだもの」


拗ねたように唇を尖らせて言うのが余計に子供のようで、思わず頭を撫でてしまいそうになるのをグッと堪えた。


「こんなものただの月一恒例行事だ。祭りならもっと盛大にやる」


釈然としない気持ちを誤魔化すように殊更ぶっきらぼうな口調で言って、アシュリーの身体をグイと押しやる。


「まあ、これ以上に……?」


その微妙な心情変化に気づくことなく、アシュリーが期待に満ちた目で言った。


「当然だ」


毎月恒例大市とは違い、年に一度の祭礼はアストラリスの権威を他国に示す意味もある。そのため、王都全体で様々な催し物が開催される予定だ。

ただ大通りに露店が増えるだけの市場とは規模も意義も違う。比べられては困るのだ。


「それはいつ開催されますの? わたくしの部屋から見られるかしら。音楽やダンスは?」


好奇心を隠しもせずに身を乗り出して、矢継ぎ早に聞いてくる。

その言動がますます子供のそれだ。


「来月だ。連れていってやるから少し落ち着け」


苦笑しながら宥めると、アシュリーは頬を上気させて「本当ですの!?」と上擦った声で言った。


「では来月の拷問のためにとっておきの秘密を用意しておきますわ!」


ふふん、と得意げな顔をするアシュリーにハッとする。


そうだ、拷問のため。そのために祭りに連れていく約束をした。

ただそれだけ。他に他意はない。

取ってつけたように心で呟いて、慌てて表情を引き締めた。

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