私の先輩。
【私の。】シリーズの1作目です。
私が私自身の異変に気づいたのは高校1年生の最後らへんだった。
「3年になったら、受験で忙しくなるなぁ。そしたら、今みたいにサキと遊べなくなるね」
私をサキと呼び、楽観的にぼやいたのは私の先輩だ。気が合うからか、彼女は後輩の私とよく遊びに行ったりしてくれる。決して彼女には同学年の友達が居ない訳ではない。それは私も同じだ。先輩は後輩の私を親友と呼んでくれる。私としては嬉しいのだが、後輩の立場として、どこか抵抗があったのか私は今でも先輩を名前で呼んだ事はない。
そして、先輩の言葉をキッカケに私は親友と呼ばれる事が次第に嫌になっていた。決して先輩の事が嫌いになった訳ではない。むしろ前より、もっと先輩の事が好きだ。だけど、その気持ちを伝えるには躊躇いがある。その気持ちを伝えたら私と先輩の関係は変わってしまう。良い方へ変わるかもしれないが、やはり、私が危惧してるのは悪い方へ変わってしまう事だ。
私には他にも心配事がある。それは性別だ。先輩は女性だ……そして、私も女性だ。私が抱いてる先輩への想いは“好き”の一言だが、それは“LIKE”ではなく“LOVE”なのだ。つまり、私は同性愛者だ。
そのことに気づいたのは先輩のぼやいた一言が大きい。その一言で私は先輩の卒業を意識する事になってしまったからだ。高校の卒業とは人生の大きな分岐点。卒業後は自分の人生の指針を明確に決めなければならない。就職すればプライベートで遊べる回数も減るだろう。先輩が進学したとしても今のように学校に行けばいつでも会える環境ではなくなる。
そんな悩みを抱え込み続け、想いが膨れ上がり、先輩への想いに気づいたのだ。
恥ずかしい話だが、その打ち明けれない想いを発散する為に自室にあるクマのぬいぐるみを先輩に見立てて抱き締めたり、キスしたりもした。小学生以来になるが添い寝もしてる。その一時だけは悩みを忘れる事が出来た。だが、その行為はいつでも出来る訳ではない。自室で一人きりという条件が必要なのだ。故に日常生活の半分近くは悩みと向き合う事になってしまう。
もちろん、悩んでる事を悟られない為に私はいつも通り、平常運転を演じていた。そんな高校2年生になったある日……
「ねぇ、最近、なに悩んでるの?」
「え!?」
突然、不意に日常会話の延長線上のように私が聞かれたくなかった言葉を先輩は投げかける。
「悩んでるでしょ?」
「ど、どうしてそう思うの?」
私は思わず聞き返した。それと同時に言葉の選択を間違えたかもしれないと後悔した。キッパリ否定するべきだったのではないかと
「サキ、最近のあんたボーッとしたと思ったら、急に深刻そうな顔してるのよ?」
「そ、そうかな?」
上手く振る舞っていたつもりだが、先輩にはそういう風に見えていたなんて気づかなかった。
「相談に乗るから話してみなさい」
「え、えと………わ、私も来年は受験だなぁと思って進路を考えるのが憂鬱で……えへへ」
私の想いを先輩に伝える訳にはいかない。だから、私はそれらしい話題で誤魔化す。
「うそ」
先輩は真っ直ぐ私の目を見つめ言った。先輩には私の嘘は通用しないと思った私は
「…………」
黙った。私はアクシデントへの対応力がないのだと自覚した。
「はぁ、なんで悩みを話してくれないの?」
「それは……話したら先輩は私の事を嫌いになるから」
言えるはずがない。同性の私が先輩の事を恋愛対象として見ているなんて
「なにそれ?サキは私を傷つけようとしてるの?」
「ちがう!」
「なら、嫌いになんてならないわよ」
「傷つけなくても嫌いになる事はあるよ……」
同性から向けられる愛を受け入れられる人は多くない。気持ち悪いと思う人だって居るだろう。今の時代は同性愛者に対して寛容になりつつある。芸能界でもカミングアウトする人も居る。だが、私の私見では寛容になりつつあると言っても受け入れてくれる人の割合が1%から5%になったくらいだ。だから、私は先輩に想いを伝えたくない、伝えられない。
「何に悩んでるかは知らないけど、何を話したとしても私はあんたの親友。それは変わらないわ」
先輩は私を気遣ってくれてる。それはとても嬉しい………でも、先輩は私が言って欲しくない言葉を口にしてしまった。私の心はその言葉に掻き乱され……
「私は!先輩の親友じゃなくて恋人になりたいんです!!でも、こんな事を言ったら先輩は私を気持ち悪く思うでしょ?だから、私はずっと、この想いを隠していたのになんで聞いちゃうんですか!!」
想いが爆発してしまった。『私はあんたの親友。それは変わらないわ』、この言葉が私を追い込んだ。もう後戻りは出来ない。
「そっか………ごめん」
その謝罪はなに? ううん、その返事の意味は間違いなく私にとって最悪の返事だろう。
「私の恋愛対象は男なんだよね」
やはり、そうだ。私の恋は見事に惨敗だ。もともと勝機なんてほぼ無かった。想いを伝えられただけマシなのかもしれない。
「うぅ…ううぅ」
私は泣き出していた。それは失恋の涙なのか、それとも親友と呼んでくれる先輩を失う悲しみなのか、どちらにしても同じ事かもしれない。
「いっぱい、泣きな」
泣き続ける私を先輩は抱き締める。この人はどういうつもりなのだろう。振った相手を抱き締めて、こんなんじゃ期待しちゃうじゃないか。
「私はサキの親友だよ。あんたの告白を断ったけど、あんたの親友」
淡い期待も親友という言葉で否定された。短い時間で二度も振られた気分だ。この後の事はほとんど記憶にない。気づけば自宅に居た。その日を境にクマのぬいぐるみの居場所は定位置の私のベッドから、どこでもない、そこら辺になっていた。
そして、私が振られた次の日の昼休み。
「はぁ、私、なんでここに来ちゃったんだろう……」
私が居るのは体育館の裏。そこは毎日、先輩と昼休みを過ごす場所だ。
「移動しよ」
正直、気まずいから先輩はこっちに来ないと思うけど、ここには先輩とのくだらない思い出がいっぱいある。ここに居るだけで泣き出してしまうかもしれない。だから、私は別の場所に移動しようとしたら
「あ……」
「よっ!サキ、一緒に昼ごはん食べよう♪」
なんでこの人は何事も無かったかのように接するのだろう。私にはそんな事できない。私は先輩から逃げるように背を向け歩き出す。
「待ちなよ」
先輩に腕を掴まれた。その手を振り払いたいが、いま感情的になったら、感情と一緒に涙が出てしまいそう。いや、確実に出る。私は仕方なくいつも座るちょうどいい高さの段差に腰を下ろす。
「サキ、これ新商品なんだって~♪」
先輩はお菓子を取り出した。
「昼ごはん食べるんじゃないんですか?」
一秒でも早くこの場から離れたい私は弁当を開ける。
「いいじゃん、いいじゃん♪美味しいよ♪」
先輩はスティック状のお菓子で私の頬をつつく。無神経だ。
「あむ」
面倒になった私はそのお菓子を一口食べる。
「……美味しい」
「だしょー」
「くっ……ふふふ、何ですか?『だしょー』って?」
「『だよね』って言おうか『でしょー』って言おうか迷ってたら合体しちゃったんだよ」
「ふふ、ふふふ♪」
「笑いすぎ~」
先輩の照れた顔を見てまた笑いが込み上げてくる。今までと変わらない態度のおかげで私はまた先輩との関係を続ける事が出来た。
そして、先輩は高校を卒業し大学へ進学。私もその一年後に卒業し大学へ進学。先輩とは別の大学だが、今でも定期的に会ったりしてる。
そんなある日……
「ねぇ、サキ、なに悩んでるの?」
「え!?」
この人は……ホント、不意を突くのが上手い。あの日のように先輩は私が何か悩んでる事に気づいたらしい。
「えーと………あっ!あの………」
「誤魔化さなくていいから」
誤魔化そうとしたのも見透かされた。
「………好きな人……できた」
「ふぅん、それで告白できなくて悩んでるのね?」
「……はい」
そう、私は新しい恋をしていた。
「どんな人なの?」
「んーと、髪は短くて、性格はサバサバしてる……かな?」
「女の人よね?」
「悪い……ですか?」
今でも私は世の中が私のような人種を受け入れてくれないと思っている。そのせいか、少し反抗的に聞き返す。
「ごめん、私の聞き方が悪かったわ。その人とはどこで出会ったの?」
「喫茶店です」
「へぇ、話はしたの?」
「はい!その喫茶店はお客さんがほとんど居なくて落ち着いた店なんですけど、私がボーッとしながらコーヒーを飲んでいたら話しかけて来たんです!なんか、店長さんはパチンコに行くからって店番をミチルさんに任せてて……あ、ミチルさんって人がいま私が好きな人で、ミチルさんはその店でバイトしてて………ごめんなさい」
気がつけば私は興奮気味に喋っていた。途中で先輩との温度差に気づき思わず謝ってしまった。
「へぇ、そんなに好きなんだ~」
「……はい」
顔が暑い。すごく恥ずかしい。
「告白しないの?」
「でも、振られるかも」
「私はあんたの親友よ!振られたら泣き止むまで抱き締めてあげるし、成功したら祝福してあげる!だから、気持ちを伝えてみたら?」
先輩は親友というポジションを変える気はないらしい。そのおかげで私は他の人には話せない悩みを相談できる。決して私の恋人にはなってくれないが、先輩は私の親友でいてくれる。それが、私の背中を押してくれた。
先輩との恋愛相談から一年近く経った。
「ねぇ、この道で合ってる?ねぇ、聞いてる?」
車を運転している女性が助手席に座る私に話しかける。
「え?あ、うん。合ってるよ」
私達はある場所に向かっている。ちなみに車を運転している女性は私のパートナーだ。仕事上のではなく人生のパートナーだ。いや、まだ結婚はしてないから、そうなる予定の人だ。そして、その女性の名前はミチル。そう、私は告白に成功したのだ。
「あ!こっちのアパート!」
「え!?ちょっとぉ、そういうのは手前で言ってよね」
少し考え事をしてたせいでミチルを困らせてしまった。
「車どこに停めればいい?」
「んー、空いてるトコでいいんじゃない?」
私は無責任に答える。マナー違反なのはわかってるけど、止められそうな場所がないんだから仕方ないと内心、開き直った。
「途中でコインパーキング見掛けたから、そこに停めてくる」
「ま~じめ~」
「降りろ」
「え?」
「降ーりーろ!」
私は追い出されるように車の外へ。
「そこで待ってろ!」
そう言い残しミチルは車を移動させる。アパートの前で私は一人でミチルを待つ事になった。でも、私は知っている。ミチルのあの態度はイジワルなどではない。車を停めて、そこからまたここまで歩く労力を使わせないためだ。私としては歩くのは苦にならないし、むしろ一緒に歩くのは大歓迎だ。でも、その気遣いに気づいた上でミチルを待つのも悪くない。私は初デートのような浮かれた気分でミチルを待つ。
「おーそーい!」
待っていた時間は5分程度だが、徒歩で戻ってきたミチルに私はわざとふざける。
「やっぱ帰る」
「あー、ごめん!冗談だから」
私はミチルの腕を掴み引っ張る。
「こっちも冗談♪」
ミチルの無邪気な笑顔に私はキュンとする。
「サキ?」
「え?」
「行かないの?私、部屋わからないよ」
「そうだね、行こ♪」
ミチルの笑顔のせいで目的を見失う所だった。私はミチルの手を握り歩き出す。
「緊張してる?」
「そりゃあ、多少はするよ」
「大丈夫だよ!私達の関係を知ってるし、それに私達の恋のキューピットなんだから」
ちょうど、目的地の部屋の前に着いた。私はインターホンを押す。少しするとガチャッとドアが開き、現れたのは……
「一週間ぶりね、サキ」
「一週間ぶりですね、先輩♪」
その部屋の住人は先輩だ。私は先輩に会いに来たのだ。いや、他にも目的はある。
「その人が?」
先輩はミチルを見て私に尋ねる。
「はい♪」
「んーと、彼女さん?彼氏さん?」
「先輩、そういうのセクハラ、モラハラですよ」
先輩に悪気はない、悪意もない。それはわかっているが、とりあえず、注意する。
「恋人です!」
ミチルはハッキリと断言した。
「今日は私の親友とその親友の大切な人が来るって聞いてたから、曖昧に答えてたら追い返してた所よ。どうぞ、歓迎するわ」
先輩は私とミチルを歓迎してくれた。
「勝手に寛いでぇ」
私とミチルは床に腰を下ろす。テーブルの上には細かいお菓子が置いてある。
「私、ブラックだけど、ミルクと砂糖いる?」
「私はブラックで大丈夫です」
ミチルは先輩の問いに答えたが、私は何も答えない。なぜなら……
「はい、これはサキ、あんたのよ」
先輩が私に渡したマグカップの中のコーヒーは茶色だった。すでに私用に味は調整されてるのだ。
「これはミチルさんの」
先輩はミチルにマグカップを渡す。ミチルはそれを両手で受け取る。
「………」
「………」
「………ズズーッ」
先輩とミチルは緊張してるのか無言。私はそれを横目にわざとコーヒーを音を立てて啜る。
「あの!初めまして!私はミチルって言います!」
私の行為がなんらかのプレッシャーになったのか、ミチルは自己紹介をした。
「うん、サキからいろいろ聞いてるわ」
「いろいろって?」
「いろいろはいろいろよ。ファーストキスの話とか、苦手な物とか、他にも……」
「あーーー、いいです!言わなくていいです!」
この会話をキッカケに先輩とミチルは打ち解けた。我ながらナイスアシストだと思いながらコーヒーを飲む。
「でね、サキったら、また同じ失敗をするの」
「わかります!私も似たような光景を見ました」
二人は私の失敗談で盛り上がってる。正直、悔しいけど嬉しい。
「ふぅ、恋人相手にも同じような事やってるのね。サキ」
「え?えへへ」
「それで?今日は私に恋人を紹介しに来ただけじゃないんでしょ?」
相変わらず、この人は鋭い。
「え!?そうなの?」
ミチルは驚く。私の真の目的はミチルにも話してない。
「うん、まずは先輩に見せなきゃいけないから……とりあえず、ミチル。こっち見て目を瞑って」
「う、うん」
戸惑いつつも私の方へ体を向け目を瞑るミチル。今から私がミチルにする事は特別な事。特別だけど、ミチルに対して毎日のようにしてる事。人前ではあまりしない国民性のせいか二人きりの時しかしない。だけど、それを先輩の目の前で行う。
「ん!んんん!?」
ミチルは唇が塞がれうまく声が出せない。ミチルの唇を塞いでるのは私の唇だ。私は先輩の前で女性であるミチルとキスをしたのだ。
「ちょ、サキ!どうし……んんん」
ミチルに咄嗟に私を突き離す。だが、まだ足りない。私は両腕でミチルを抱き締め再び唇と唇を密着させる。そして、抱き締めながら、逃げられないようにミチルの後頭部を手で私の方へ押しつける。
「んん……ふー、ふー…んんん」
強引なキスのせいでミチルの鼻息が荒い。これくらいでいいだろう。私は腕の力を緩め自分の唇をミチルの唇から離す。ミチルの顔は真っ赤で目は潤んでいる。その表情を見たら、今すぐ押し倒したくなる。ミチルと付き合ってから気づいたけど、私はSっ気があるらしい。今の強引なキスだって、すごく興奮した。
誤解しないで欲しいのだが、今のキスは欲求が抑えきれなくなった訳ではない。先輩に見せつける為だ。これも誤解しないで欲しいのだが、過去、私を振った先輩に対しての嫌がらせとかでもない。
私が同性を恋愛対象として見ている事は言葉では先輩に伝えてはいるが、実際に行動で見せた事はない。だから、女性であるミチルとキスする事で証明した。
「どうですか?先輩」
「なにが?」
「私は女性であるミチルが好きです。愛してます!」
もし、先輩が望むなら私はミチルとキス以上の事をやる覚悟は出来ている。ミチルには悪いけど、その行為に付き合ってもらうつもりだ。
「知ってるわよ!今更、疑ってなんかないわ」
「じゃあ、先輩にとって私は何ですか?」
私と先輩の関係性をハッキリさせる。これが私の真の目的。
「私はあんたの“親友”。あんたの好きな人が変わっても私はあんたの“親友”よ」
この言葉を待っていた。私の初めての告白で一切変化がなかった言葉。私にとっては私の想いを拒絶する最悪の言葉。私が先輩と距離を置こうとしても変わらなかった言葉。会う頻度が減っても変わらなかった言葉。
私が同性愛者である事を見せつけても変わらなかった言葉。
私の想いを受け入れてくれなかった言葉は私の在り方を受け入れる言葉だ。
この先、私とミチルは普通の人では経験しないような苦難が待ち受けているだろう。だけど、先輩は親友でいてくれる。だから、私はミチルと先に進む事が出来る。
あの頃は忌々しいとまで思っていた言葉は今では最高に勇気が出る言葉だ。
最後まで読んでいただき感謝です(о´∀`о) 初めて企画用に書いてみました!