074.時短クエスト
◇
季節は秋、紅葉彩る森を一望するには高いがぴったりだ。
それは塔の上か、山の上か。
いや、今回は竜の上で空の上だった。
「写しますよ、ほらユキチくんも笑ってくださいってば」
「しょんにゃこといはれても~!」
被災生活四日目、第二帝都パインフラッド近郊の山の裾野の上空50mほど。
騎竜化の呪いで変身したガルグイユに乗って、ザラメとクラン第二隊は目的地へと空中を移動していた。
騎竜ガルグイユは虎に翼が生えたような体型でその背中に五人が乗っても平気な小舟サイズの大きな鞍があり、振り落とされないよう命綱を各自つけて着席している。
風に乗るだけでなく、後方へ火炎を噴射して推進するロケットエンジン方式はまさに火竜ならでは。通常巡航速度でも、それはもう時速100kmはゆうに越えていそうだ。
目立った難点といえば、少々熱いことか。
「その"黒き水鏡のウォータークロース”があれば火耐性は心配ないはずでは?」
「熱さはね!? 高さと速さは!?」
「リニアレールよりは遅いですし、ジェットコースター程度では?」
「それが怖いんだってばぁ~っ!!」
「いいから撮りますよ」
パシャパシャと写真を数枚撮って、ザラメは冒険者広場へ投稿する。
宇治抹茶ユキチくんのつぎはブルーハワイユキチくん、撮影のし甲斐があって面白い。
火に弱い、弱すぎるユキチくん。
その弱点を補える程度には着せてあげた【黒き水鏡のウォータークロース】は役立っているようで作った甲斐があったというものだ。
「うう、あ、安全運転でおねがいしますガルグイユさん……」
「はっはっはっ! 副団長ともあろうものが情けないことだ! そんなに怖ければこの連携技を考えなければよかっただろうに」
「い、いや、時短は必須事項だし……、lv6のSPで【騎竜化の呪い】を取得して移動の迅速化と活動領域の拡大はクラン全体の戦略を考えるとどうしても……」
ユキチは青ざめながら小難しいことをつぶやく。
本来そこは聞き流てもいいわけだが、ザラメは耳が良くて知力が高いので反応する。
「乗り物の購入、レンタルは高くつくそうですしのんびり徒歩の旅はできませんからね。……あ、騎竜化の呪いって対象はガルグイユさん以外でもいいんですか?」
修正補助とSP【学識A】のおかげでザラメは初見のはずの魔法も詳細がわかる。さすが天才錬金術師のキャラビルドだけはある。
「う、うん。えと、【火】【水】【土】【風】の四大精霊の眷属種族【サラマンドール】【マーメイド】【ドワーフ】【エルフ】はそれぞれ対応してる、はず」
「……なるほど、確かにそうなりますね」
「待て、エルフも……? 私も……?」
寝耳に水の【種族:エルフ】の弓兵セフィーが困惑している。
金色の長い髪を秋風になびかせ、そのいかにもエルフですという優美な姿かたちをして「エルフがドラゴンになるなんて初耳だけど」と言いたくなるのもごもっともだ。
「単純に【火の民】や【風の民】といった種族特徴を対象とするSPだからでは?」
「それは仕様。気になるのは由来や設定」
「ゆ、由来……」
ゲーム外知識もいいところ。ザラメの修正補助は、ゲーム外の事柄には非対応だ。
▽「土に竜は“土竜”だね、ドワーフは連想しやすい」
▽「火竜は言うまでもねーけど、水竜はマーメイドつーか鯉の滝登りつってまんま魚が竜になる伝承よくあるしなぁ」
▽「あたし閃いた! 風といえば竜巻あるじゃん!」
ここぞとばかりに観測者のコメントが光る。
ザラメは初耳のことが多くて「へぇ」を繰り返すハメになり、つい勢いで。
「あー、"風流なお店”とか言いますよね!」
とこぼして▽「惜しい」▽「残念かわいい」▽「やっぱ小学生なんだよなぁー」とくやしさに顔が赤いきつねになるのだった。
▽「ドラマギの世界観設定だとまず風の精霊シルフがあって、森の妖精エルフはその眷属設定として再構築されているってガイドブックには書いてあるね」
「あの、森と風って微妙にちがいません……?」
▽「植物は葉っぱが風にそよぎ、花粉や種子が風に運ばれ、光合成することで酸素も作り出すんだよ。四大元素論だと植物は風に、逆に火水木金土の五行説だと木に風を含むんだ。ここテストに出ます」
「あー、なるほど……わたしだって風媒花や光合成ならわかりますよ、なんとなく」
▽「いやーなんとなくメジャー種族に緑のイメージカラー組み合わせただけじゃね?」
▽「ありうる」
▽「ゲームなんてそんなもん」
「大雑把ですねエルフ!?」
「大雑把なんだ、私……」
セフィー、ションボリエルフ。
目的地のもみじ村に到着した直後、ネモフィラは電光石火の勢いで奔走した。
「なる早でクエストこなしてくる!」
とキャットの勢いで村長宅、酒場、鍛冶屋と三軒をまわって数分とせず戻ってきた。
その間、クエスト達成通知が1分刻みでザラメを除く四人に届く。
「おまたせ! 依頼三件こなして二件詳細を聞いてきたわ!」
「は、早すぎる……! 一体なにが……?」
ネモフィラは迅速な足取りでまた騎竜に飛び乗って、ザラメを引っ張り上げながらせっかちに話す。
ザラメのもみじ村の滞在時間、およそ五分。
名物のもみじクッキーさえ見ていない。
「早いも何も、三件はアイテム納品依頼よ。いわゆる“お使い”ね、紅蓮メープル代わりに採取してくれ的な。だからパインフラッドで他の冒険者から買って届けたのよ」
「……え?! いや、それ森でとってこいって話では!?」
「いい? ゲーム制作者の意図なんて穴を見つけるためにあるのよ。……ま、あたしの観測者さんたちの入れ知恵なんだけどね?」
ネモフィラはそう述べると「ありがとー! みんな大好き!」と調子のいいことを言って小妖精らに愛想を振りまき、上機嫌に振る舞う。
少々あきれるが、この要領の良さは見習う点がなきにしもあらずだ。
「いきなりだけど次もうBOSS戦だから準備してね生徒会長!」
「はいっ!? 道中の雑魚戦は!?」
「省く!」
「せ、せめてクエストの経緯や詳細は……!?」
「省く!」
「ま、まだわたしレベルアップ処理が終わってないんですけど……!!」
「省く!!」
「えええーーーー!?」
「ガルグイユ! 全速前進よ!」
ネモフィラの勢い任せな指示にユキチまで「……え?」と凍りつく、が――。
『ギュオオオオオンッ!!』
火竜が轟き、アフターバーナーが点火され、急加速した。
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