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051.金庫からの脱出ゲーム

 【数陣問題の建造】


 この建造魔法はパズル構造のブロックを築き上げることで通常より強固な構造体を創出することができる。ということをザラメは学識で理解していた。


 純粋に強固なだけのブロック金庫より、あえて解き方を用意しておいた方が“制約”によってより強固に仕上がるというのは少し不思議なしくみだ。


 “強度”と“解きやすさ”が反比例するようになっている為、もっとも強固にするには「1+1=2」レベルのパズルを用意することになってしまうのが難点だ。


 しかしこれは逆手に取れば「1+1=2」という小学一年生レベルの問題であっても野生動物レベルの魔物には解くことができず、その低すぎる難易度のおかげでゾウに踏まれてもへっちゃらという強度を得ることができるといった使い方ができる。

 ――が、パズルを解くための問題はきっと外側にしかない。


 金庫のダイヤルは外側にしかない。パズルブロックを正規の解除はできないわけだ。

 そもそも真っ暗闇ではどうしようもない。


(これ、使えるかな……?)


 ザラメは、ホムンクルスの白い小狐のような幻獣態の額についている宝石のような結晶体を前足でさすさすとさわってみる。

 そして「むむむ……」と念じて意識を集中させると、ザラメの額の宝石がじんわりとろうそく程度の明かりを放ちはじめた。


「やった! 停電した時のパッドみたいに懐中電灯代わりになると思ったんですよね」


 光源を確保したザラメは、この閉鎖空間を再確認する。

 ここは貴重そうなアイテムを格納する戸棚を、ごく最小限の空間だけ残してブロックで囲んである閉鎖空間だ。

 一見してなにひとつ天井や床、壁に出入り口らしきものが見当たらない。


 開閉するときはブロックそのものが移動して閉鎖空間がまるっと消え失せるのだから、わざわざ扉や窓を必要とはしないのだろう。

 閉鎖空間内はとても狭く、どうみても子供一人分の大きさもない。


「であれば、糸口になりそうなのは戸棚のアイテムくらい、ですかね」


 そう都合よく解決法があるとは限らないが、確認もせずあきらめる理由もない。

 ダメ元でザラメは宝石の光源を向けて、あれこれとアイテムをチェックする。


「アイテムボックスに格納不能、もしくは飾っておきたいアイテム……なるほど」


 いかにも財宝という外観の、黄金製の古びた盃をまず見つけた。

 純金に宝石を散りばめた豪華絢爛なネックレスは丁寧に木製の台座にかけて飾ってある。

 これらの貴重品はコレクション気質を伺わせる。厳重に隠しておくよりも飾って楽しむことを優先しているわけだ。

 金銭的価値や美術的価値に重きを置くということは、多少なりとも話が通じる可能性が生じてきた。コレクション趣味は他人に自慢できてこそってところがある。


 ザラメだって小学生らしい収集物のひとつやふたつくらいある。

 しかし金庫を内側から破るような手段には使えそうもない。

 ひとつひとつを詳細に掘り下げてもキリがないので雑に流しつつ、ひらめきを待つ。


「それにしても凄い額面……。1000万DMくらい軽く越えてるんじゃ……」


 金銀財宝ここにあり。

 見掛け倒しのもの、額面こそ低いが見映えするものもありつつ、やはり宝飾品を中心として高額なアイテムが多い。しかし最上級のアイテム、というほどではない。


 例えば、純金製の玉がそこにある。

 鶏卵サイズの純金の玉でも庶民の給料数カ月分では足りないだろうが、ゲーム内でこれを入手するために十万円単位の課金が必要なわけではない。

 現実における金は地球上に存在する絶対量に限度があって希少性が生じる一方、ゲームでは希少といっても所詮はデータ、絶対量に限度がない。


 とくに金貨がわかりやすい。

 ドラマギの通貨はDMと表記され、冒険者は単なる数字をやりとりするが、設定上はちゃんと貨幣経済によって金貨や銀貨を前提としている。

 冒険の書のウォレット機能を使い、金貨や銀貨を収納しているに過ぎないのだ。


 異変前には百万人を越えるプレイヤーがいて、それらの大半が庶民より資産力のある冒険者であったのだから流通する金貨の量は凄まじいことになっている。

 そこかしこで金貨を見かけるのに純金の玉が凄まじい価格設定というのはおかしな話だ。


 それゆえか、純金の製品はプレイヤーにとって手軽でこそないが入手困難でもない高級品という位置づけであり、最高級の貴金属はまた他に設定されている。

 とはいえ、数十点の金の宝飾品だ。所持金が心許ないザラメとは天地の差だ。


「うーん、でも脱出の用途には……」


 金の特色は「不変の輝き」と「加工しやすさ」だ。錆びたり朽ちたりしづらく、鉄より柔らかい。宝飾品の素材にはうってつけだが、それだけ金以外のものに変化しない。

 そもそも錬金術とは、鉄や鉛のような卑金属を金のような貴金属にもし変化させることができたら、という発想からはじまったといわれている。


 現実の錬金術は言うまでもなく、純金を作り出すことには失敗している。

 ドラマギにおいても同じくして黄金の錬成は不可能とされ、錬金術師を名乗っているのに肝心の金を扱うのはダメダメなのである。


(どのみち今は錬金術を使える状況じゃないけど、金製品は今は意味がない……)


 探すべきは金製品以外だ。

 ザラメは額の宝石をアイテムに当てて、これでもない、これじゃない、と調べ回る。そしてようやくひとつ面白いものを見つけた。


 魔法の香木だ。

【敏捷の魔香木[大]】【効果:使うたびに敏捷の成長値を微弱にアップさせる(永続)】


 魔法の香木は希少なステータスアップ系アイテムであり、該当する能力を強化できる。

 しかも使い切るまで複数回の使用ができ、価格は他の金製品にもやや勝るはずだ。

 見てくれは単なる木片だからザラメの学識がなければ見落としかねなかった。


(……いや、今ステータスあげる意味あります?)


 ない。

 ないが、しかし香木は不変の金と異なる、変化しうる性質を有する。

 燃焼だ。


(確か、金製品の中に……あった)


 ザラメは金製品の中に黄金のライターを見つけた。

 ライターは発火石でオイルに点火する着火装置だ。外装を黄金で飾っていても性能は同じだ。きっとこれで葉巻煙草でも吸うと自慢になるのだろう。


(香木にライター、これで煙を発生させられる。あとは……どうやって着火するか)


 ザラメは熟考の末、ある可能性を試してみることにした。

毎度お読みいただきありがとうございます。

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