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ドラコマギア・オンライン -天才錬金術師ザラメ・トリスマギストスを演じて-【祝!30000PV感謝!】  作者: シロクマ
第二章 第二帝都パインフラッド

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049.暗岩の入り江 【挿絵アリ】

 船舶にとって暗岩――海水の下に隠れた岩礁地帯は恐るべきものだ。


 草むらを走っている人間の足にトラバサミが食らいつき、鋼鉄の歯によって身動きができなくなったとしたらもうそれで一巻の終わりだ。

 巨大で重たい船体にとっては暗岩に乗り上げるのは自ら串刺しになるようなものだ。


 こうした岩礁地帯に近づけるのは小舟くらいだろう。

 ドラコマギアオンラインには冒険の舞台となる危険地帯が無数に存在している。


挿絵(By みてみん)


 この“暗岩の入り江”をすいすいと人魚は泳いでいた。

 ザラメはフラスコの中に閉ざされたまま、暗い岩場のゴツゴツとした凶器めいた岩肌がいつぶつかるのかと心配していた。


 ただ素手で触れただけでも薄っすらと血が滲みそうなささくれた水中の岩場を、人魚はものともせずに泳ぐ。

 不気味に蠢く海藻や水中生物は今にも襲ってくるのではないかと揺れ動いている。


 いや、ザラメには時折、月光に暴き出された蠢く影達が単なる背景や小道具ではなくて、ともすれば魔物として襲いかかってくる脅威もまぎれていると理解した。

 乱れた水流の中、暗い夜の岩礁地帯でそれらに襲われたらどうなることだろうか。


 水を蹴って泳ごうにも、その足に大顎が食らいついて離さず、より深くへと引きずり込んでくることを容易に想像できた。

 根本的に、陸上生物にとって水中生物と水場で渡り合おうというのが愚かしいことだ。

 海への根源的な恐怖があるからこそ、いつまでもサメ映画なんてものが巷には絶えない。


 暗岩の入り江は、そういうところだ。

 その奥へ奥へと人魚が進むにつれ、ザラメは絶望感に打ちのめされそうになった。


(こんな場所、だれも気づけない、助けにも来られない……)


 ひたすらに心細かった。

 観測者や黒騎士らと話している時は忘れることのできた孤独と恐怖が蘇る――。


 詩織は――。

 あの変異した弁慶カワウソに水中に引きずり込まれて、刺し違えになって死亡した。

 ザラメはもう絶命していることを薄々理解しつつ、日の沈んだ暗い清流の中からシオリン・タビノの死体を岸まで引っ張り上げた。


 必死だった。

 暗い川に潜ることの恐怖を、このまま親友の死体すら見失うのではという別の恐怖で押し殺して、ザラメは水中に適応するための簡易錬成を使用して、挑んだ。


 錬金術は四元素を基本とする。

 「火」「水」「風」「土」だ。

 もっとも古今東西、水に神秘を見出さない魔法など皆無に近いが。


(……機会さえあれば、水中洞窟でも脱出はできるかもしれない)


 ザラメは今現在、水の錬成術をほとんど使っていない。偶然に水属性が有効打となる敵が現れなかったことも一因だが、水流を自在に操るような強固なイメージを思い描こうとすると否応がなしに刻まれたトラウマが呼び起こされてしまう。


 そこは不安材料だが、必要とあらば四の五の言わずにザラメは水を操ると心に決めた。


(……そうだ、刀狩りのウォーターローブ。水中適応がついてるはず)


 皮肉にも、素材となった弁慶カワウソの特性を反映しての水中適応がこのタイミングで役立つことになるかもしれない。


 ザラメはそうやって有意義に己の恐怖心を正しく役立てようともがいていた。

 冷静であれ。

 生き残るために悪あがきを尽くせ。


(もし、誰もここへ助けに来られなくたって……)


 泣き叫んでも誰も助けてくれない、――なんてことはない。

 今のザラメには手を差し伸べてくれる人達がいる。

 それならば、もっと力強く泣き叫ぶべきだ。


(わたしが、助けてもらうことをあきらめたらダメなはずです……)


 きっと今、ザラメのことを仲間が探しているはずだ。

 希望的観測だとか、そう願っているという程度の根拠のない話だけれど。

 それなりに手を尽くしてくれた上でなら、最後に見捨てられたって仕方ないけれど。


(……確証なんて要らない)


 己に助けてもらえるだけの価値があるかだなんて、繊細に悩んでいられない。

 それは助ける側が決めることだ。


(いつでも救助される覚悟くらいしたっていいじゃないですか、生き残りたいんだから)


 暗い岩肌や海の魔物に怯えるのはやめだ。

 もし岩礁に粗雑にぶつけたり魚の餌にしたりする程度ならば、そもそも人魚はどうして大切じゃないフラスコを、ザラメを背嚢に強く紐で縛っておくというのか。

 冷静になって考えたら無闇に不安がることじゃなかった。


 確証を見つけた。

 ザラメが仲間に助けてもらえる価値に確証はなくても、人魚がザラメを必要とするその価値があることには確証を見出すことができた。


 そう考え至ることで、ザラメはもう岩礁地帯に無闇に怯えなくてもよくなった。

 問答無用で殺してしまおうという意図がない。むしろザラメは今、人魚に守られている。


(……うん。今のうちに、なにか創出錬成のレシピでも考えようかな)


 そう思考を切り替えると体感時間の経過は一気に早まった。

 やがて暗岩地帯を通り過ぎて、入り江の奥深くの水中洞窟へと進んでいく。

 その果てに、空洞になった鍾乳洞があった。


【第二帝都:魚の骨の迷宮】【推奨レベル:8】


 ザラメの卓越した知力と学識のおかげか、知識を修正補助が示してくる。


(……ここ知ってるんだ、わたし)


 ザラメ・トリスマギストスを演じる甘草 心桜は、ザラメのすべてをまだ知らない。

 いったい自分は何者なのか。

 それはある意味ザラメにとって、人魚の正体よりも重大なミステリーな気がした。

毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、いいね、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。


2024/01/29

複数の既存エピソードに挿絵追加 主にエネミーや消失錬成、ポーションの画像を追加しました。

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