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048.ネモフィラの探索技能 【挿絵アリ】

 ザラメ・トリスマギストス失踪に風魔船は騒然としていた。


 観測者であるあなたは失踪直前までのやりとりをおぼえている。

 これといって不自然な様子もなく、食堂での食事後、甲板から客室へと移動したところまでは確認されており、以降の消息が途絶えてしまっている。


 第二帝都にもうすぐ到着するので起こしにきた弓使いのセフィーが目撃したのは、なぜか点々と濡れた床と寝室から消えてしまったザラメだった。

 異常事態だと認識したセフィーは観測者を通じてザラメの行方不明を連絡、全員で手分けして捜索するものの船内では見つけることができなかった。


「ダメ、全然匂いで辿れない! どうなってるの!」


 ネモフィラは【五感強化】のSPを取得してライカンの嗅覚を鋭敏化させているが、ザラメは密閉容器であるフラスコに自身を格納しているので匂いが辿りづらかった。

 逆に濡れた痕跡を辿ってみても、それが室外へと続いていなかった。


挿絵(By みてみん)


 ネモフィラは瑠璃唐草という植物に由来する名であり、その青い澄んだ花と同じく青い瞳――サファイアブルーのシャムを元にして快活で洒落た華やかなルックスだ。

 服装は東南アジア風のアオザイ、あるいはチャイナドレスに似た青いワンピースドレスに似る。

 シャム猫ながら犬のように低姿勢で這いつくばって匂いを辿るネモフィラは最終的に手をひらひらさせ音を上げる。


「あたし今とっても犬仕草してるわーネコなのに」


「……悪いな、探索系の特技をおぼえてなくて」


 黒騎士は本気で気にしている素振りだ。

 SPの取得を戦闘に特化させてしまっている黒騎士は戦闘以外ではやれることが少ない。


 いかに強くても、なんでもできるわけではないのは仕方ない。

 それでも目を離した間にザラメが行方不明とあっては不可抗力だとしても責任をおぼえてしまうのが彼女だろう。


「ねー観測者のみんな! これどう思う?」


▽「あざとねこ」


▽「黒騎士様から離れて! この泥棒ネコ!」


▽「マジレスすると海かな。窓、不自然に開きっぱなしだし、そのへんも濡れてるし」


▽「ネモフィラちゃん、匂いの痕跡じゃなくて特徴わかる?」


「ん、んー。うまく説明できないけど、どこかで嗅いだことある気がする……」


▽「もしかしてマーメイドじゃないかな? スノーマンも雪が解けたら水が残るけど、ユキチくんは心当たりなさそうだし」


「あ! そうかも! お魚っぽい匂い!」


 ニャーとコミカルな猫顔で答えるネモフィラ。

 黒騎士はすぐに「乗船者リストNPC含めてマーメイドなんて……」と答えるが、斥候担当のセフィーは「密航者……かな」と神妙な面持ちで言葉した。

 典型的な弓使いの金髪エルフという造形のセフィーは沈着冷静そうに答える。


「もしマーメイドの場合、船外から移動する風魔船に入ってくるのは難しくてもあらかじめ船内に潜伏してれば船外に移動するのは難しくない」


▽「NPCか? 冒険者はこの九人だけのはずじゃ……」


「それは……」


▽「密航するならずっと非公開状態にしときゃいい。そうすりゃ運賃がごまかせるし、乗客の所持品を盗むのにも都合がいい」


▽「あ! 宝石とか盗まれた形跡があるって報告あったなそーいや」


▽「金になるアイテムを盗んで入港前にあばよってわけか! 薄汚えな!」


▽「もしかしてローグライターじゃないかな、そいつ」


「なにそれなにそれ! ネモフィラちゃんに教えて!」


 あざとく二回繰り返すネモフィラ。

 これはこれで愛嬌はあるが、少々余裕のない黒騎士は顔を少し背けた。苛立ちはしたが、ここで怒鳴っても単なる八つ当たりだとはよくわかってるらしい。


 なにより今一番捜索に貢献しているのは探索特技の差でネモフィラの方だ。


▽「ローグライターはこの場合、盗賊ローグのようなプレイを好む人のことだよ。無法者アウトローでもいいかな。ドラマギの基本は“良いやつ”を前提にしているけど、別に“悪いやつ”を演じちゃいけないわけじゃない。軽戦士と斥候をまぜこぜにした盗賊ローグ技能をわざわざ用意してあるし」


▽「NPC相手にはリスクあるけど殺したり盗んだりできるからな……。リアル15歳以下は盗賊ローグは取得不可だっけ」


 黒騎士は「……そのリスクはつまり、他のプレイヤーに悪者として狙われる、等か」と心当たりがあるような口ぶりをする。

 あなたがそれについて問うと「当然、戦ったことはある。ゲームの遊び方として否定はしない。十人十色だ」と黒騎士は答えた。


「……ホムンクルスは希少種族だ。金になる。それは設定上に過ぎながったが、もし異変後のシンギュラリティを起こしたNPC相手ならプレイヤーに対する“誘拐”と“人身売買”が成立したとしても不思議じゃない。そういうことか」


 黒騎士は目に見えて苛立ち、焦っていたが怒声を張ったりはしなかった。

 彼女なりに、旗揚げして数時間とはいえクランの団長として求められる役割をこなし、ザラメを救出するという大きな目的のために冷静であろうとしているのだ。


「黒騎士、だいじょうぶ……?」


「大丈夫だ、問題ない」


 黒騎士は額に手を当てて、頭痛でもしてるのかという仕草でゆっくり言葉する。


「観測者にはザラメの捜索願いを第二帝都の各クランに届けてほしい。情報をまとめた文面をこちらで用意する。捜索チームと待機チームを作り、到着後は滞在先を確保しつつ連れ去られたと推定されるザラメを捜索する。……これがクランの初仕事だ。どうか、よろしく頼む」


 黒騎士が軽く頭を下げると、一も二もなくネモフィラは快活に「オッケー! 仕事もなにも仲間かっぱらわれて黙っちゃらんないし!」と答えて、セフィーも「……ついさっき命を救われて、断る理由なんてないです」と承諾する。


 観測者であるあなたは捜索文の作成を手伝い、それを各クランやパーティに届けることを他の観測者といっしょに尽力した。


『うちのザラメを知りませんか?』


 なんて、それは迷子のペット探しのポスター張りをすこし彷彿とさせた。

 ああいうのは果たして本当に、ペットは見つかっているのだろうか。


 ……第二帝都には今現在、死亡状態でもないまま失踪状態のプレイヤーが確認されるだけで十三名捜索リストに名が載っているそうだ。

毎度お読みいただきありがとうございます。

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