044.『死者蘇生の秘法《エリクサー》をさがして』 【第一章 完】
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観測者であるあなたに導かれて、黒騎士はザラメを迎えに疾走した。
ザラメの観測状態が非公開になったままだ。
重装備を脱ぎ捨て、兜を放り出して、ライカンの“獣形態”に変化して黒い狼になった黒騎士は全力疾走した。
「くそっ、“八”面倒くさいやつめ!!」
弱体化したオキノムラサに奥義、黒死無双でトドメを刺した勝利の余韻を味わう間もなく黒騎士はまっしぐらにザラメの元へ走った。
「あいつ、私に何も告げずにひとりで行ってただなんて! 無鉄砲がすぎる!!」
『 』
「わかってる!! 正しい状況判断だ! 単なる心配性で悪かったな!!」
船倉への出入り口階段にたどり着いた時、ザラメは――。
シオリンに抱き抱えられて、フラスコの中で眠っていた。
……つまり無事だ。
黒騎士はオオカミのくせに表情豊かに嬉しがり、尻尾を歓喜に震わせた。
いかにいつも鉄仮面でごまかしているかよくわかる。
「ああもう、心配させんじゃないわよ……」
▽「口調口調」
▽「黒騎士様がご乱心……!? え、どういうことですの!?」
▽「そもそもザラメちゃん疲れて寝ちゃったけど無事だって伝えたんだけどなぁ……。自分の目で確かめるまで安心できないってんだもんなぁ」
▽「黒騎士ママ」
あれこれ好き勝手にささやく小妖精にうんざりした様子を見せつつ、黒騎士はフラスコを狼の口にくわえるとまた素早く甲板へと走り去った。
「まだ安心はできない! こいつは呪力に汚染された黒い水を浴びたんだろう!?」
▽「墓守り薬虫ポーションの呪い抵抗強化でそれは無事に耐えきったんだって」
▽「つーかEP空っぽだけどHP八割以上残ってね?」
「知るか!! 神官にでも視せてみるまでは安心できるものか!!」
黒騎士は必死に吠える。走る。狼狽える。
こちらも緊張の糸がすっかり解けてしまったのだろうか。
フラスコの中で白い小狐姿の幻獣体のザラメがこっそり目覚めていることにも黒騎士が気づく様子はなかった。
ザラメは狸寝入りして、なんとも嬉しげにそわそわ尻尾をくねらせながら黒騎士があわてるさまを意地悪なことに堪能している。
ズルい白狐に化かされるとも知らず、黒狼は必死に奔走するのだった。
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事の顛末をまとめる。
風魔船は乗客と乗員の四割が死亡するという重大な損害を受けたものの航行継続は可能な為、第二帝都の港へこのまま向かうことに決定した。
大量の死体等についてNPCが以下に処理したかについては割愛する。
冒険者の死者はXシフターを除いて全五名。
戦闘不能ではなく死亡状態に陥った冒険者を蘇生する手段は今現在、発見されていない。そのすべての遺体がちゃんと船上に残されているのがせめてもの救いだった。
もし水中に引きずり込まれていれば、常に移動する船舶から下りて回収することは非常に困難を極め、より絶望的であったことだろう。
冒険者の死体は『亡骸の過保護』により保全されている。
これら五人の犠牲者の処遇を含めて、残る九名の冒険者は今後について話し合った。
ザラメ、黒騎士、ユキチ、ドワーフ夫妻、ネモフィラ、ガルグイユ、セフィー、ドット。
第二帝都到着までの数時間の話し合いの結果、当面この九人で活動することに決まった。
目的は『死者蘇生の秘法さがし』だ。
仲間の薬草師マルセーユを失ったネモフィラは自分の責任を強く感じている様子だった。
ザラメはその“弱み”につけいった。
「ネモフィラさん、わたし達の死者蘇生の秘法さがしを手伝ってくれませんか?」
一も二もなくネモフィラは協力を決断した。
察するにネモフィラにとってマルセーユは単なる仲間に過ぎないだろう。
それでも、良識的な現代人は単なる仲間だとしても、あるいは縁もゆかりもない通行人だとしても、そこにまだ助かる命があるなら多少なり尽力しようとするものだ。
救護義務という考えだ。
ネモフィラは早期脱出を狙っているが、観測登録者数の確保には良識に沿って活動することは必要最低限のことである。
法令遵守が求められるのが現代社会だ。
そして何より、犠牲者のために活動することは彼女らの贖罪意識につながるのだろう。
複数パーティを合同した集団をこのゲームでは『クラン』と称する。
「……つまり、俺にクランリーダーをやれと」
「最強戦力を金看板にしてクランを立ち上げます。不服ですか」
「いや、目的達成には理に適っている。クラン名はどうする?」
「じゃあ黒騎士さんの大好きな“冥想のブラックギルド”でひとつ」
「ごほっ! げほげほっ!! ふざけるな! 断固拒否する!」
色々気恥ずかしいらしく、会議中は兜をつけてなかった黒騎士はものの見事に赤面する。
ここからネモフィラがまた「じゃあ観測者さんに決めてもらいましょうよ!」なんて言い出すものだから今度は地獄のクラン名大喜利大会がはじまってしまった。
とりとめがつかないので詳細は省くが、ひどかった。
特に『黒の騎士団』は黒一色なのは黒騎士たったひとりだけだし『アガテール食堂』なんてドワーフ夫妻推しが強火すぎて完全に飲食店化している。
仕方なくあなたも助言をする。
『 』
「なるほど。名は体を表すといいますからね。目的をクラン名にするのはわかりやすい」
こうしてクラン名が決定した。
団長は漆黒の重騎士、副団長はユキチということになった。
ユキチはネモフィラ、ドット、セフィー、ガルグイユの五人と暫定的にBチームを結成する運びになり、別働隊のリーダーという位置づけだ。
ほぼ元ネモフィラPTなので彼女を副団長にする案もあったものの、当人が「あたしはリーダー失格よ。当分は補佐にまわらせて。リーダーシップはともかく、みんなへの気配りができるユキチが適任だと思うけど?」と他薦してこうなった。
「え、えーと、が、がんばります」
威厳も何もあったものではないが、ユキチの就任は大いに歓迎された。
その歓迎ぶりは観測者登録数が「3」から「33」に激増したくらいだ。
ユキチが役立たずのクズでないと多くの観測差がもう知っているのだ。
「……で、お前の役職はどうする?」
「わたし? 一番レベル低い下っ端ですけど」
「フィクサーだの黒幕だの陰の実力者だのを気取るつもりか? ちゃんと矢面に立て」
黒騎士にせっつかれて、ザラメは考える。
なおザラメ、黒騎士、ドワーフ夫妻の四人が編成都合上、主部隊扱いだというのにあまりもの詰め合わせセットになってしまっている。
▽「はいはーい! あたし生徒会長がいいとおもうよ!」
「……生徒会長? 冒険者クランに?」
▽「いいんじゃね? 似合うと思うぞ、ザラメ・トリスマギストス生徒会長」
▽「学校じゃねーし」
▽「いいんだよ、ザラメちゃん学生さんなんだから」
▽「生徒会長就任おめでとうございます! ザラメ生徒会長!」
悪ノリである。
完全に悪ノリである。
しかし「団長」と比べても「生徒会長」は遜色ない響きで結局どんな役職かなにもわからなくても気分が良くて責任がなさそうなのでザラメは採用することにした。
「というわけで生徒会長のザラメですよ、黒騎士さん」
「はっ、また六面倒なことを……」
こうして第二帝都到着前に生存者九名でクランを旗揚げ。
冒険写真広場に集合写真がアップされる。
ザラメは背が低すぎるのでシオリンともども黒騎士の腕に抱き抱えられて映っている。
さながら飼い主に抱かれてだらーんと垂れた犬猫のように宙吊りだ。
なんとも不本意そうな、しかし満更でもない微妙な表情である。
さて、クラン名は――。
『死者蘇生の秘法をさがして』
つづく。
第一章これにて完結です。
ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。
お楽しみいただけましたらぜひとも評価、ブックマーク、感想等よろしくお願い致します。
今後の連載については第二章以降も継続して、当初目的までは完遂したいとおもいます。
つまり、最初の新月の審判日までに死者蘇生の秘法を見つける、については確実にこなしたいと思います。(短くて第二章ラスト、長引いて第三章ラストになるかと)
それ以降については今後の反響次第といたします。
大きな犠牲を払いつつ、ザラメ達は新天地に降り立ちます。
今後もどうか、あなたが見守ってくださいますように。




