35.雷音の術式
◇
【ゴーストモニター[???DM]】
【分類:冒険道具類】【効果:半径100m以内の呪力の感知と分析ができる】
【品質:★☆☆☆☆】
【概要:亡霊の布を木板に貼りつけた呪具。画面に感知・分析した呪力情報を表示する。全体にマジッククロレラを塗布することで光合成により稼働コストをまかない、呪力感度を向上させている。発明者はザラメ・トリスマギストス】
会心の出来だ。
ザラメはここぞとばかりに「どうですか」と胸を張り、見せびらかす。
▽「渾身のどや顔」
▽「いやいや、そーはならんやろ」
▽「なってるんですよねー」
▽「藻、板、煮た、モニター? 有機ELディスプレイ的な発想?」
▽「わからん。全然わからん」
▽「使い物になるのかコレ? 見た目はゴミ同然なんだが」
観測者らが困惑している。
じつはザラメだって困惑している。でも閃いちゃったものは仕方ない。
「無理くりモニターに使えそうなものを考えてたらなんか思いついちゃって……。性質の七割くらいゴーストショールのおかげだと思います。亡霊の布切れに呪力の受け皿としての機能が元々あるんですよ、きっと」
ザラメは適当なことをフィーリングでぬかしつつ、早速ゴーストモニターを起動する。
要するに木製の電子パッドみたいなものだ。
しかし実際に試したところ、電波の調子が悪いスマホみたいな挙動をしてしまう。
「あ、あれ、おかしいですね」
▽「品質が★1だもん。不良品じゃね?」
▽「商品レビューに★1つけなきゃ」
▽「最悪の使い心地でした。もうトリスマギストス社の商品は二度と買いません」
「ぬがっ、いや、こんなはずじゃ……!」
窓辺に近づけて太陽光を浴びせてみるが、べつに動力不足でもないらしい。
ザラメが四苦八苦しても全然ちっともまともに動作しない。
すっかり落胆して困り果てていると見かねたユキチが「貸して」というので渡してみる。
すると驚いたことに、急にゴーストモニターは順調に作動しはじめたではないか。
「ああ、やっぱり」
「え!? どういうことです!?」
「これは“呪具”だもん。ザラメ、キミは道具を作ることができても、それを“使いこなせる”かは別問題なのさ。ウィジャ盤と同じでこれは僕じゃないとダメみたい」
ユキチはさらに操霊魔法を使い、ゴーストモニターを補強して使用する。
すると早速、詳細な呪力の検出結果を船体マップに重ね合わせることができた。
これでシーゴーストがどこに何体いるか、どう動いているか丸わかりだ。
「すごい……! すごいアイテムだよ、これ!」
「我ながら想定以上の結果です! わたし、天才では?」
「本当にそうだよ! これ、情報共有できないかな!?」
「そうですね、早速、妖精さんたちにおねがいして……」
ザラメは高揚した気分でそう言いかけるが、直感的に違和感をおぼえた。
「ダメです。秘密にしましょう」
「え、どうして?」
「わかりません。でも、なにか嫌な予感がして……」
▽「情報共有はやめて正解だとおもうよ、その呪具は敵にとって邪魔だろうから」
▽「そっか、バレたら集中的に狙われるのか」
▽「あっぶな、俺うっかり伝えに行くとこだったわ」
▽「黒騎士様にはお教えしてもいいのよね?」
▽「いいと思う。どのみちこの部屋にもうちょっとで帰ってくるはずだし」
「待って! まずい、こっちに敵がきてる! 一体だけど、呪力に反応したのかも!」
ユキチの警告に、ザラメは避けられない交戦を覚悟した。
二対一。
それでも絞め殺されかけた時の恐怖が蘇り、ザラメは身の毛がよだつ。
迎撃のために人間態に戻って、ザラメとユキチは戦闘準備を済ませる。
「5、4、3、2、1……来る!」
合図通りのタイミングで、扉をすりぬけてシーゴーストが強襲してくる。
あの時、ザラメは苦し紛れの一発を浴びせてひるませるのが精一杯だった。
ゴーストモニターを死守するには今度はふたりだけで撃破するしかない。
ユキチが前衛につき、ザラメが後衛に立つ。
『ウォロロロロロロロ……!』
猛然とゴーストモニターを目掛けて迫るシーゴーストとの間に、ユキチが割って入る。
抜剣した彼の両手にはシルバーソードが握られていた。
(あの武器は……!)
ザラメはトラウマを呼び起こされて首が痛むのを感じた。
何もできぬまま瞬時に喉笛を貫かれた凶器と同じ銀色の輝きに、ひやりとする。
「こ、このっ!」
横一文字に振るったユキチの剣撃は、しかし亡霊に当たるより先に部屋の壁に当たった。
弱い。
とんでもなく弱い。
室内の狭さを考慮できず、力任せに剣を振るおうとしたユキチは剣術のセンスがなさすぎるか、あっても完全に冷静な判断力に欠けていた。
「し、しまったっ! ぐあっ!」
(……ああ、これはまぁ、追放されても仕方ないかも)
ユキチはシルバーソートを壁から引き抜こうとした隙を突かれて、船幽霊の体当たりをもろに食らった。特技の【回避術A】はどこへいったのか。
しかしそれなりに打たれづよいのか、ふんばって弾き飛ばされはしなかった。
ユキチは懸命に戦い、ザラメの攻撃チャンスを稼いでくれたのだ。無駄にはできない。
杖の先端を亡霊に定めて、拳銃――いや、より強力な散弾銃をイメージする。
レベル4になった今、ザラメは新たな錬金術を会得している。それらを試す好機だ。
ザラメはEXSP【必殺魔法】を宣言しつつ、反動に備えてしっかりと踏ん張る。
「【雷音の術式】!!」
それは獅子が猛るが如く。
それは雷鳴が響くが如く。
一条の雷撃が炸裂、明滅と轟音、十数状の細やかな雷撃になって船幽霊を撃ち抜いた。
命中の直後、白い小さな閃光が無数の星々のように瞬く。
大成功《Critical》!
魔法によるクリティカルの演出だ。設定上どういう意味があるかは知らないが、ドラマギのクリティカルは重大だ。最低でも威力は1.5倍以上に飛躍する。
しかし格上を一撃では仕留めきれないはずだ。
たとえ、雷属性が船幽霊にとって弱点だとしても。
「くわっ!」
小火の術式より大きな威力と反動に、ザラメは大きくのけぞり、ベッドに倒れ込んだ。
(これは……闇雲には使えないやつかも)
あわてて後隙きに攻撃されないよう身を起こすが、ザラメへの反撃はなかった。
「……あれ」
計算外だった。
嬉しい誤算だ。
【必殺魔法】+【雷音の術式】+【弱点】+【クリティカル】という複数要因が絡んだ攻撃の結果は、一撃でギリギリ格上のシーゴーストを葬るということになった。
「あ、忘れてた」
「いてて……。え、もう倒せてる!?」
「ユキチくん、あなたのおかげですよ」
ザラメのローブに貼りつけられた呪符――【属性の護符:攻】の効力を失念していた。
戦闘に突入する直前、二種類の強化――いわゆるバフをつけておいてもらっていたのだ。結果的に【防御の護符】は効力を示さずに済んだが、保険として安心感はあった。
「ユキチくん、あなたウソつきですね」
「え? え? ボクなにかやらかした!? ウソって何のこと!?」
「ウソついたじゃないですか、自分は役立たずだって」
ザラメは勝利の余韻に浸り、少々得意げにそう言葉するのだった。
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