34.ケモい。すごくケモい
◇
黒騎士の伝言を受け取ったザラメは冒険の書の自動描画機能を起動する。
描いたのはおおまかな船内の見取り図だ。
ザラメはこの魔風船の修理依頼をこなした際、当然その図面を目にしていた。観測者側でも作業中の動画が残っているので必要なら正確な本来の図面も用意できる。
「主戦場は甲板、私たちの現在地は客室です。動力は船体後方にある風力機関と、帆船ですから帆柱です。一番えらい人の船長は甲板上で守られてるそうですから、えーと」
ザラメはじっくりと船体構造を再確認する。
ユキチや小妖精らはその説明を聞き、まずザラメの話に耳を傾ける。
「この船を動かすのに重要なものは甲板上にすべて揃っているはずです。でも船幽霊の群れは分散して客室を狙いにきた。黒騎士さんが地道に倒してくれてますけど多勢に無勢。どんどん死人がでています。NPCですけど……。客室より下には貨物室、それに船底……。もし船底に容易く穴を開けられるなら船内に入らず海の中から破壊すればいいので目的に反するか、できないとして……。う、うーん。乗客や船員を殺害することだけが唯一の目的なのか、それとも……。わかりません」
ここでザラメの考察は手詰まりになった。
「手掛かりが足りない、って感じです。推理するにもヒントが不十分……」
▽「じゃあまずヒント探しの方法を考えるのは?」
▽「カツ丼用意しなきゃ」
▽「いつの刑事ドラマだよ」
▽「船幽霊の尋問は無理だろ。完全に殺しにきてる」
▽「ここは専門家に聞いてみよう」
「だそうですよ、専門家のユキチくん」
ユキチに注目が注がれるも、彼は冷や汗を流して「いや、そう言われても……」と困惑する。また無理だとか言い出しそうなのでザラメは青汁ポーションの瓶をチラつかせた。
「まずいですよ、まずーーーーーいですよ」
「やめてよ!? え、えと、だだ、だれかに操られてるかもって話だよね? じゃあ“命令する方法”があるはずなんだ。えと、つまりね」
ユキチも同じく冒険の書の自動描画を使って、わかりやすいイラストで表現する。
その画風はなんだか少し不気味な人形劇みたいだった。
「操霊術師にも亡霊を操る術はあるんだ。自分よりレベルが低いゴーストを少数だけ使役することなら僕にだってできる……」
そこでなにか思い出したのか、ユキチは大きくため息をつく。
聞いてほしそう、と察してザラメが「どうしたんですか?」とたずねると、その一言を待っていたのかユキチは陰鬱に語りだした。
「じつはね、僕、さっきパーティを追放されちゃったんだ……役立たずだからさ」
「追放」
ザラメは思わず復唱してしまった。
もろにどこかで聞き覚えのある話だったからだ。
「追放系主人公……?」
▽「冒険者パーティを追放されるやつ、すっかり定番だもんなぁ」
▽「若い頃めっちゃ読んだわ、なつい」
▽「リアルにあるんだな追放劇」
▽「単に無能だからじゃね? 今のとこ有能感あんまりだし」
「その、僕より強そうな人を加入させたいからごめんけど抜けてね、て言われちゃって……。格上のレベル6の剣士だったか何も言い返せなかったんだ……」
ユキチはどんよりと憂鬱な空気だけでなく冷たい冷気を纏っている。
暗くて寒い。最悪だ。
「あの、クソ寒いですユキチくん」
「あ! ご、ごめん! 感情が昂ぶると冷気がつい……! 秋口に寒いんだよってすごい怒られてたのに、種族特徴だから制御が難しくって……」
「じゃあ、仕方ありませんね」
ザラメはベッドの毛布にくるまって、もっこもこになり防寒対策する。
さらに人間形態への擬態を変化させ、着ぐるみじみてケモケモもふもふした幻獣態に近いマスコット的なアニマル化する。
くりくりおめめににゅーんと突き出たマズルが愛くるしい神造形。
「うわ、なに!? き、キツネ……?」
「きちゅねです。さぁどうぞ憂鬱になってください。これなら寒くないですから」
「え、えぇ……」
困惑するユキチをよそに、ザラメはあったかな自分の白毛を堪能する。
▽「ケモい。すごくケモい」
▽「保存しました」
▽「もどして」
▽「あたしんちの犬にそっくり! お手! ほらお手!」
▽「冒険者パーティを追放された死霊術師の俺、ロリケモJS錬金術師をもふもふする」
▽「観測登録しました」
ザラメがさっと確認すると【観測登録:24】に増えている。
「いつの間にか昨日の二倍に……。いや、よろこんでる場合じゃないですね。ええと、あ! 亡霊に命令する方法についてです! 追放やケモの話題に盛り上がってる場合じゃありません! そういうのは後回しです!」
「軽く流された!? えと、命令する方法だけど、幽霊の代わりにドローンを思い浮かべてみてほしいんだ。ドローンを操作する時、僕らはプログラムをあらかじめ組んで自律行動させるか、コントローラーで遠隔操作するよね。シーゴーストが大きく行動を変化させたってことはどの方式でも、命令を送信する必要があるはずなんだ。ということは電波か、電波の代わりになるゲーム上のなにかで通信してる……ってことにならないかな」
「……なるほど。ドローンなら図工の時間に組み立てて遊んだことあります」
ザラメはすこし遠い目をして、ちらりと隣のベッドのシオリンを見つめる。
小学校での出来事を振り返ると、いつでもそこに詩織がいたのだから仕方ない。
ちなみに正月には凧揚げの代わりにドローン揚げするのが昨今の小学生の定番だ。
「もし操霊術と同系統の技術なら呪力を媒介にしてる、はず」
「……呪力ってこの場合、なんです?」
「呪い属性の魔力、かな。問題は測定方法だけど、流石に心当たりは……」
「じゃあ作りましょう」
「え!? 作る!?」
「呪力測定器をアイテム作成する。それで解決です。今レシピを考えます」
ザラメはアイディアを口にするや否や、熟考に入った。
毛布に包まったマスコットアニマルじみたいでたちで突拍子もないことをザラメに言われて、ユキチは呆然とさせられている。
▽「今更だけど、なんか偶に本来の錬金術と違うことやってない?」
▽「そう? ウォーターローブ作りはあんなもんだろ」
▽「異変後の仕様変化はまるで検証されてねーからなぁ、錬金術師以外も以前なかったものが増えてる。降霊術とかも異変前には情報なかったし」
ザラメは錬成陣を客室の床に描きつけて、アイテムの用意をはじめる。
コケのような瓶詰めの緑の何か。
廃材らしき板切れ。
そして簡易料理キットを使い、さっと鍋に湯を沸かして。
コケと板をお湯で煮はじめた。
「これで準備よし」
▽「ごめん。全然わかんない」
▽「コケ? 木? は?」
▽「出たな、デタラメ錬金!」
▽「ラベルに“クロレラ”と書いてある。藻の一種、だね」
▽「藻と板……? 茹でる? さっぱりわからん」
最後にザラメは予備のゴーストクロースを一つ、錬成陣に配置して。
「此方は“亡霊の布”、彼方は“藻と板を煮たるもの”。縦糸、横糸、交えて紡げ! 練りて金糸の螺旋を紡げ! 調合錬金!! 創出錬成!!」
紫電が迸る。
摩訶不思議なる錬金術の結晶が激しい明滅と共に新たに創出される。
それはザラメ以外の全員の想像を絶する産物だった。
毎度お読みいただきありがとうございます。
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つい筆者のケモ趣味が前に出て……こほん
きちゅねいいよね
さて次回どんなアイテムが出来上がるのでしょう? 待て次回!