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32.羊皮紙とコックリさん

 ザラメの特技取得候補は以下の八種類。


【軽装防具A】【常在:Aランクの軽装防具を装備可能になり、防御力が上昇する】

【魔術武具A】【常在:Aランクの魔術武具を装備可能になり、魔力が上昇する】


【物品作成A】【常在:アイテム作成に関わる行動判定を強化する】

【属性強化】【常在:属性値を常に増大させて適応できる。物理系属性には適応不可】


【防御術A】 【常在:防御力が上昇する。ガード成功しやすくなる】

【必殺魔法】【宣言:EXSP。クリティカル率上昇&成功率上昇】


【二連詠唱】【宣言:EXSP。限定的に魔法を連続使用できる】

【範囲除外】【宣言:EXSP。広範囲に及ぶ魔法の効果から任意の三体までを除外する】


 このうち【必殺魔法】【二連詠唱】【範囲除外】はEXSPという宣言コマンド効果の分類で一言でいえば“必殺技”の類いだと言っていい。

 もしEXSPを二種類おぼえても、同時には片方しか使えないという制限がある。

 また【軽装防具A】などは将来的に【S】を追加取得することを視野に入れて取得するものである。なお各種【S】はレベル6まで取得不可となっている。


「どれも魅力的で選べなくて……」


「わかる、こういうの悩むよね……」


 ザラメの苦悩に同調するユキチ。

 いずれも一長一短で唯一無二の正解というものがないのが困るところだ。


「副技能との兼ね合いもありますしね……。かつ丼にコーラとポテトはセットでいかがですか? と言われても困るじゃないですか」


 ザラメは牛丼屋の定員になりきったつもりでそう言ってみる。


▽「それは重すぎる」


▽「無能店員」


▽「そっか? 意外といけるんじゃね?」


▽「ハンバーガーにみそ汁と納豆つけられてみ」


▽「ギリいける」


「とまぁ、そういう感じで複合的に組み合わせて選ぶ必要があって……ううーん」


 ザラメにとっては生死を左右する選択だ。

 ついつい長引きやすいオシャレ服選びよりも断然重い。


「打たれ弱さで迷惑かけてる自覚もありますし、アイテム作りも役立ちそうですし、EXSPどれも強そうだし、耐久、火力、作成、うう……」


「ザラメ……。あ、なんか僕まで今の構成でいいのか不安になってきたかも」


 いかにも優柔不断そうなユキチも巻き込んで、長考と議論がはじまった。

 そして十数分後……。


「もうサイコロで運任せに決めるしか……!」


▽「ザラメちゃん目が狂気に渦巻いてる」


▽「いいんじゃね? サイコロで決めても」


▽「いや慎重に決めるって話だろ、明らかに要らないのあるし」


「……明らかに要らない? どれです?」


▽「防御術Aと軽装防具Aはいらない。焼け石に水だ。打たれ弱さはあきらめよう」


「で、でも……」


▽「横からだけどよ、刀狩りのウォーターローブはBランク防具だから今Aランク防具取得しても着るもんねーべよ? 欲しくなったらあとで取ればいいんでね?」


▽「失敗を気にしすぎて迷走するのよくあるよくある」


「う、ぐぐ……わかりました」


 指摘には納得感がある。

 ザラメ自身、内心どこかで非効率的だという気はしてた。そもそも後衛魔法職が何度も殴られまくる状況に陥っている時点で手遅れ感がある。


▽「魔術武具Aもいらねーなコレ。後回し確定」


▽「物品作成も優先度が低いかな、現状べつに作成失敗あんまりしないし」


▽「それな」


▽「じゃあ属性強化もかな。火属性しか使ってるの見たことないし」


「うわうあう……!」


 物凄い勢いで選択肢が消去されていく。

 どれもザラメなりに「これができたら面白そう」という期待感があったが仕方ない。


▽「スキルを捨てられないJSザラメちゃん」


▽「不用品って他人はポイポイ捨てられるけど当人はついとっておきたくなるよね」


▽「ドドンマイ」


 気づけば残るは三種のEXSPのみ。

 いずれも甲乙つけがたい戦闘に役立つ必殺技だ。ザラメはめちゃくちゃ悩む。


「集団戦では範囲除外できると前衛の位置を気にせず範囲焼きできる……。わたしの主力技の“火竜の挨拶”が一番扱いやすいのはコレ。でも手数を増やせる二重詠唱もできることが増えそうだし、シンプルな火力向上も……」


 白い獣耳をぐにぐにと指でさすって、ザラメは思い悩むがやはり決めきれない。

 極端な話、どれを選んでも一長一短でしかない。どうせ後々「今ここであれを覚えてたら」と後悔するタイミングは発生する。


「こうなったらコックリさんにおたずねして……!」


▽「夜中の小学校でやるやつ」


▽「お前がきつね定期」


▽「亡霊に襲われてる船内で狐の霊を呼び出すの危なすぎる」


▽「あたしの叔父さんに有名ホテルで働いてる料理人がいるの! 電話してみる!」


▽「コックさんじゃねーか!!」


「……やってみよっか、コックリさん」


 不意に神妙な声色でつぶやいたユキチは真剣な目つきでそう述べ、呪具を取り出す。

 ――ウィジャ盤。

 文字と数字の刻まれた木製の文字盤に、文字を指し示すプランシェットという道具がついている。これがコックリさんの十円玉の代わりだ。


 心霊が実在するこの世界において、明確な呪具である操霊術師のウィジャ盤は明らかに異様な雰囲気を放っており、ザラメは恐ろしげな呪力の威圧感さえおぼえていた。


「これ、本物の……」


「僕の特技【降霊術】は霊的存在に呼びかけて回答を得ることができるんだ。もちろん回答者の意図を無視して鵜呑みにはできないから過信はできないけど……。実質的に、ゲームを管理するAIに回答を問うことになる。この先その特技が役立ちやすいか、それをゲームマスターに聞くことができる、かもしれない」


 ザラメは驚嘆した。

 それまでのユキチの印象とは全く異なる、末恐ろしいことを言い出したからだ。


 ――危険すぎる。

 そう判断するより先に、ザラメは「使える」と閃いてしまった。


 死者蘇生の秘法をさがすにあたって、その【降霊術】は大きな探索手段になりうる。

 それは多少のリスクを加味しても、宛てのない現状では希少な光明だった。

 そのためにまず実際に降霊術がいかなるものか、一度試すべきだ。


「ユキチくん、やりましょう」


「……いいんだね?」


「武士に二言はありません」


▽「いつから武士に」


▽「不安すごい……黒騎士さんに連絡しとくね」


 不気味に黒ずんだウィジャ盤を使って、ザラメとユキチは儀式をはじめた。

 手順は簡略だ。

 だれかが質問を行い、二人以上が手を添えたプランシェットが文字盤の上を動くことで回答する。これを繰り返すだけだ。

 ザラメは息を呑み、ユキチと呪具に手を添えた。


「いくよ」


「……はい」


 ユキチの横顔はなんだか涼やかだった。これまでで一番、落ち着いてみえた。


「あなたはだれですか?」


 文字盤上をプランシェットが動く。ザラメもユキチも意図的に動かしてはいないはずだ。

 プランシェットが示した文字は『D』『R』『A』『C』『O』つまり『Draco』だ。


(……竜? ドラマギの、ドラ……)


「どうかこの少女に相応しい特技を一つ、この三種から教えてください」


『C』

『R』

『T』


「ユキチくん、この意味は……?」


「クリティカルの略称でいいはず。必殺魔法を選ぶべきだ、という回答かな」


「コックリさん、ありがとうございます」


 ザラメは早速、特技欄に【SP4:必殺魔法】と記載した。

 答えさせた以上、それ以外を書けば回答者の機嫌を損ねかねないと考えてのことだ。


「コックリさん、いえ、Dracoさん。死者蘇生の秘法について、ご存知ありませんか?」


「ザラメ、今何て……!」


 ユキチが困惑を示す中、ウィジャ盤は『YES』を示す。

 コックリさんの原理的に、これはザラメの願望が反映されただけかもしれない。それでも『NO』を示されるよりは望ましい結果だ。


「そのヒントは第二帝都にありますか?」


『YES』


「……ありがとうございました。ユキチくん、今回はこれで」


「わ、わかったよ」


 ユキチは自ら動かして『END』を示し、降霊術の儀式を終了する。

 ザラメは緊張の糸が切れて、ぷはぁと息を吐いてだらんと脱力する。


「あ、と、手を、どけてくれないかな……」


「ああ、失礼」


 ユキチはまたこれまで通りのように、初心でシャイな少年の顔をみせた。

 儀式の最中には欠片も意識してなかったのに、今は手が触れることに大げさに照れているのは不思議だ。


 ちょっとした別人感。

 とはいえ人間だれしもいろんな側面を持っている。真剣な儀式に真剣そうに臨むくらいのことは不思議がるほどのことじゃないとザラメは思い直した。


「特技を決めたら後は副技能ですけど、これはもう決めました」


「は、早いね。どうするの?」


「短所を切り捨てて長所を伸ばすことにします。ですので」


 副技能。

 主技能より1レベル低い段階まで、他の技能を取得できる仕様だ。

 ザラメは元々『錬金術師』を主技能にして『学者』を第一副技能としている。

 ドラマギには『魔法戦士』という主技能は存在せず、上級職の概念もない。そうしたものを目指すには『魔法系技能』と『戦士系技能』を組み合わせて構築するのだ。


 一例としてユキチの構成は『操霊術師lv5』『軽戦士lv4』『学者lv3』である。

 現在のザラメは『錬金術師lv3』と『学者lv2』のみ。

 ずっと悩んでいたのは『軽戦士』を取得して接近戦での自衛手段を獲得するかだったが、そこはもう割り切った。


(苦手なところは他人任せでもいい。わたしに必要なのは……)


 ザラメは羊皮紙に筆を走らせる。


 『錬金術師lv4』

 『学者lv3』

 『神官lv2』


 親友、シオリンと同じ『神官』。

 冒険が終わるその時まで、彼女といっしょに冒険する日は訪れない。回復という役割の重複は気にするまでもないことだった。


 それに今しがた、神職を嗜むいいきっかけがあった。

 もしかしたらザラメは『神の声』を聞いたかもしれないのだから。

毎度お読みいただきありがとうございます。

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