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029.まずい! もう一杯! 【挿絵アリ】

 船幽霊の群れの襲撃がつづく中、ザラメはいかに生き延びるかできることを試みた。

 まず回復だ。

 今朝の森での採取の間に、初歩的な回復用ポーションの素材を集めて調合済みだ。


【青汁薬草ポーション[30DM]】

【分類:消費/飲料/回復アイテム】【効果:HPをゆっくりと少量回復する。食欲減退。病気属性への抵抗を一日、すこし強化する】

【品質:★★☆☆☆】


【補足:HPは定量+αで回復する。+αは使用者の知力や技能を基準に加算される。回復は三分間ゆるやかに発揮される。効果時間中に他の回復ポーションと併用、重複可】


挿絵(By みてみん)


 ザラメは低品質で安価な、そして味見した結果とてもまずいことが判明済みの、緑のどろっとした野草のきつさが鼻につくポーションをじっと睨む。

 背に腹は代えられない。

 飲むことは決定事項だ。でもすこしは心の準備が必要な代物だった。


▽「味覚カット今はできないんだっけ、南無三」


▽「まずい、絶対まずい」


▽「うちのおばあちゃんが飲んでる健康食品かな」


▽「ラムネクターとは雲泥の差」


 乗船前に飲んだ美味しくて効力抜群のつぶつぶピーチ味の炭酸甘々ポーションを思い浮かべると、自分で調合したとはいえ、これから苦くてイマイチなのを飲むのがつらい。


 しかしザラメは意を決して、シリンダーをぐいっと傾けた。

 こくこくと喉へ強引に流し込む、緑の液体。


 ピーマン苦手なこどもに呑ませたら一生トラウマになりそうな味だ。

 うぞぞぞと背筋を這い上がってくる寒気と、飲み切ってもまだ舌に残るエグみ。

 ほんのり爽やかと言えなくもない薬草の濃厚な薫りが、臓腑から湧き上がってくる。


「ま、まずい……! もう一杯……っ!」


 そう、これで終わりではない。


【墓守り薬虫ポーション[20DM]】

【分類:消費/飲料/回復アイテム】【効果:HPをゆっくりと少量回復する。食欲減退。呪い属性への抵抗を一日、すこし強化する】

【品質:★★★★★】


 ザラメはこの虫を素材にして調合したポーションを極力、飲みたくはなかった。

 自分で素材として集めておいてなんだが、ムカデに似た虫を「こいつ薬になります」と余計な知識を教えてくれる修正補助機能がなければ気づかずに済んだものを。


 漢方薬には昔から虫を素材にするものがある。

 抵抗感はすごいが薬効があることを充実したザラメ・トリスマギストスの知識が把握している。しかもなぜか出来が良いものが仕上がってしまった。


▽「カワウソス」


▽「贅沢は言ってらんない、がんばって」


▽「罰ゲームすぎる……」


 ザラメは「生きねば」と言い残して、墓守り薬虫ポーションを一気に飲んだ。

 そしてまた叫ぶ。


「まずい!! もうイヤだ!!」


 笑い事ではない。

 安くて手軽に作れて効果もよし、急速にHPが回復していくのはわかる。

 今ザラメの体内ではにがにがゲロマズな薬草とグロい薬虫が消化されているのだ。


「これで効かなきゃ詐欺ですよ! うう、訴えてやるぅ」


▽「うん、作ったのザラメちゃんだね」

▽「着実にHP増えてる、今後もお世話になりそう」


「次はもっと良いのを作りますからね!!」


 水で口をゆすいで、ザラメは次に重要な襲撃への備えにとりかかることにした。


「で、議論の進捗のほどは?」


▽「幽霊を遠ざける手段だけど、定番はお清めの塩みたいな魔除けグッズかな」


▽「聖水とかないの?」


「聖水は……シオリンの所持品にはあったんですけど、ね」


 ザラメはベッドに横たわるシオリンの死体を見やる。

 シオリンは神官だ。回復魔法だけでなく対アンデッドの魔法も使えれば、技能用アイテムとして聖水も持っていた。回復だって、まずいポーションを呑まずとも手軽に迅速に行うことができていた。

 ザラメにアイテム作成の能力があるとはいえ、それは万能を意味しないのは重々承知だ。


▽「日本古来の船幽霊撃退法だと、底の抜けた柄杓を渡すってのがあるね」


「……ヒシャクってなんでしたっけ」


▽「神社の手水屋に置いてあるのを見たことない? 木製の水をすくう道具だよ」


「……ああ、アレがヒシャクですか」


▽「船幽霊は柄杓で水を汲んで船を沈めようとするから、底の抜けた柄杓をあげれば無駄な行動を繰り返してそのうちあきらめちゃうってわけだね」


「……でも直接、首を締められましたけど?」


▽「ダメだった」


▽「必要なのは撃退法じゃなくて遭遇しない方法だぞ」


▽「餅は餅屋だ。専門家にきいてみたら?」


▽「え? 観測者ん中に専門家いるの?」


▽「あ! あたしのおばあちゃん和菓子屋さんでパートしてるんだけど! おばあちゃんに聞けばいいかな!?」


▽「餅の専門家じゃねーか!!」


▽「もちがえた」


▽「そーじゃなくて、ほら、そいつ、操霊術師でしょ」


 そう指摘されて、ザラメをはじめ一同の注目が謎の少年へと集まった。

 青髪に白い肌、魔法職らしい装い。

 雪人――スノーマンの少年は涙ぐんだ瞳でザラメのことを見つめ返してくる。


(……シローくんにちょっと似てる)


 同じ種族の、同じ年頃の少年。それだけに過ぎないのだけれども。

 ついついザラメは雰囲気がまるで異なるというのに、彼に友達の姿を重ね観ていた。


毎度お読みいただきありがとうございます。

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