表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/116

024. 冒険者ギルドにて

 港町であれこれ聞き込みしてみてわかったことがある。


 ザラメの問いかけには「さぁ知らねぇーなー、この大変な時に構ってらんねぇや」とぞんざいに扱ってくるNPCが黒騎士の同じ問いかけには「は、はい! 俺の知ってることなら喜んでお教えしますぜ!」と全然異なる対応をしてくるのだ。


(……レベル差かな?)


 同じ冒険者でもレベル9とレベル3では扱いが異なるのか。いや、しかしNPCどころかプレイヤーさえ非開示情報に設定している黒騎士のレベルは“見破る”必要がある。


 つまりNPCはステータスデータを閲覧して恐縮するのではなくて、シンプルに黒騎士のいかにも強そうな重装備の剣士という外見を元に判断しているのではないか。


(……あれ? じゃあわたし外見で舐められてるってこと?)


 少々イラッとした一方、これはちいさな発見だとザラメは気づく。


「黒騎士さん、もしかして異変後のドラマギには隠しステータスとして、こう、外見値みたいなもの

が追加されているのでは?」


「外見値……?」


「単に“人は見た目で判断しがち”という話ですよ。で、船便はどうです?」


「ダメだ。第二帝都へは定期便がある、しかしまだ帝都側からソレが帰ってきていない。帝都側の港でも同じ災害があったとすれば、いつになるか見通せないぞ」


「ううーん……、これは困りました」


▽「八方塞がりザラメちゃん」


▽「RPGあるある、情報不足で手詰まる」


「片っ端からだれかに聞いて回るわけにも……、うぐぐぐ」


▽「イベントマーカーとかないもんね」


▽「リアルさと不親切さが隣り合わせなんだよなぁー」


▽「冒険者ギルドに寄ってみたら? まだ弁慶カワウソの討伐報告してないでしょ」


「……あっ!?」


 完全に忘れていた。

 ザラメは冒険者ギルドで依頼を受けて、それを二日前にシオリンら四人組でクリア済み。

 しかし港町があまりにひどい有様すぎて冒険者ギルドや依頼のことを忘れきっていた。


「ありがとうございます皆さん! 黒騎士さん行きましょう!」


「ドわすれぎつね」


「おこごとおおかみ!」


 皮肉る黒騎士に言い返しつつ、ザラメは冒険者ギルドへと一路急いだ。


 到着してみれば、冒険者ギルドはまだ店内が散らばっているものの営業を再開していた。

 この災害時だからこそ舞い込む依頼は数多く、緊急時に労働力を適切に分配して情報を集約する拠点としてフル稼働しているといった様子だ。


 そこには当然NPCだけでなく他の冒険者――つまり同じ未帰還者の人もいて、それぞれが忙しそうに自分のできることをやろうと頑張り、助け合っている様子だった。


「瓦礫に埋もれてた怪我人が救出されたんだが癒やし手が足りない。だれかいないか!」


「東門側に盗賊カワウソの目撃報告がきてる! 対処してくれ!」


「作業完了しました! 次なにやればいいですか!」


 ザラメには少々まばゆい光景だ。

 未帰還者にとっては仮想世界に閉じ込められてしまった絶望的状況下にありながら、同じ初心者プレイヤーである彼らは率先して助け合いに尽力している。


 被災したNPCの苦境、はじまりの港の惨状を目の当たりにして、それを“単なるゲームだ”と切り捨てることなく同じ人間かのように助力する。

 その傍らには小妖精――観測者の姿が多数あり、物理的にもまばゆく見えていた。


(……わたし、冷たいのかな)


 ザラメは自分と詩織のことを考えるだけで精一杯なことに後ろめたさがあった。

 見知らぬだれかを守ろうとする彼らは強く、やさしく、たくましい。


「話を聞いてくる。ついてこい」


 黒騎士はザラメをその大きな体躯で行き交う人々の騒々しさから守りつつ窓口へ進んだ。


(……この人も、そう)


 黒騎士は元々、異変直後から善意の救助活動に尽力していたらしい。

 曰く「ガルト様なら当然そうする」の一言。


 窓口の受付嬢はまっさきに「黒騎士様、お礼の品を数点預かっています」とアイテムを渡し、黒騎士も鉄仮面で表情を隠したままだが怪我人の容態を尋ねていた。

 観測者に説得されて仲間になっていなければ、黒騎士はこのままはじまりの港で人助けをしていたことだろう。


 ザラメはそうまでしても、他のだれより親友を助けたかったのだから後悔はしない。

 しないが、割り切れず、ついつい後ろめたさに心苦しさをおぼえていた。


「トリスマギストス様、弁慶カワウソを討伐してくださったと報告が届いていますよ」


「え、あ、はい」


「こちら報酬の12000DMです。依頼人から感謝の手紙も預かっています、どうぞ」


「わ……!」


 どさ、とたっぷりめな銀貨袋が手渡される。所持金が一気に十倍近くになった。


【冒険者レベル4の“成長の鍵”を獲得しました】


 冒険の書が告げたのはレベルアップの解禁だ。ドラマギのレベルは基礎経験値の積み重ねだけでは増加せず、【成長の鍵】と呼ばれる特別な経験を得ることで次のレベルへ上昇させる機能――レベルアップがアンロックされる。


 しかし【成長の鍵】はなにがきっかけになるかはプレイヤー自身にはわからない。

 ドラマギの成長システムは、この【成長の鍵】をいかに得るかを依頼や探索をこなして暗中模索するものであって単純作業じみた雑魚モンスター討伐などの反復では基礎経験値やお金、素材の積み増しにしかならない。


 とかく、これでザラメはレベルアップ機能でいつでもレベル4に成長できるわけだ。


▽「ザラメちゃんおめでとー!」


▽「成長の鍵GETおめ」


▽「パチパチパチ」


▽「ザラメ は レベル 4 に なった !」


▽「んえ!? 皿洗いさせられてる間に見逃した! ログ見返さなきゃ!」


▽「なんだか知らんがめでたい」


 ザラメ以外の居合わせた冒険者に随伴する観測者にもイベント通知が飛んだ結果、さらに他の冒険者までその場の流れで拍手をはじめてしまった。

 で、冒険者らが拍手しちゃうと空気に呑まれてレベルアップという事象をよくわかっていないギルド屋内の一般NPCや受付嬢までも拍手の輪を広げてしまう。


 結果、あたかも街中で「結婚してください!」とサプライズプロポーズされた恋仲のふたりみたいな「よくわからんが祝っとけ」な祝福ムードにザラメは包まれてしまった。


「なにこの公開処刑……!」


 かぁぁぁと顔を赤らめて、ザラメは思わず黒騎士のでかい図体の後ろに隠れた。

 結果、過半数は“だれがザラメなのか”もわかってないので黒騎士が拍手の的になる。


「凄い魔物でも退治したのか? お見事!」


「なんだにーちゃん結婚でもすんのか? おめでとう!」


「え、子供が産まれるんじゃないの? まぁとにかくよかったね!」


「……七面倒くさい!」


(ああ、恐ろしきシンギュラリティAI……)


 黒騎士は受付嬢から依頼書らしきものを奪うとあわてて冒険者ギルドを脱出した。

 赤面して顔を伏せたままザラメも黒騎士に外へ連れ出される。


(あー死ぬかと。にしてもこの人、すぐ手を握ってくる……篭手が冷たいです)


 鉄仮面を着けたままの黒騎士は表情が読めない。

 けれど素顔をもう知っているザラメには、なんとなく想像ができてしまうのだった。


毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。


余談ですが、ドラマギのレベルアップは即時に反映されるわけではありません。

まず【成長の鍵】というアンロック条件と【基礎経験値】の二要素が必要となります。

その後、冒険の書のステータス管理画面にてレベルアップ処理を行います。

レベルアップ処理ではどのように成長させるかをじっくり戦略的に考えることが求められます。

ですので、レベルアップ可能になったとしてもまずは慎重に考えるか、あらかじめ決めておくかのどちらかで闇雲にレベルアップはしないのが基本です。

ただし、ある程度のやりなおしはできるので、ノリと勢いで即断即決する人もいます。(少々のコストがかかります)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ