023. ぷるぷるプリン
◇
ルートリネ―港から第二帝都パインフラットへの移動手段は陸路と海路の二つがあった。
断然、早いのは海路だ。
陸路では中間点をいくつか経由しつつ四日かかり、海路ではほんの一日で直行できる。
「無駄に歩いて時間を浪費はできません。やはり海路しかないですよね、黒騎士さん」
「ああ、だがしかし……」
ザラメと黒騎士、動く死体のシオリンは波止場から海に浮かんだ船舶を確認する。
いずれも大なり小なり地震と津波によるトラブルの事後処理に追われていた。
港内には二つの船舶が津波に流されて衝突、二隻とも座礁して衝角やマストが海面に突き出しているさまがみてとれた。
とても通常通りの運行を期待できる状態には見えず、ザラメは疲労感にドッと襲われた。
「見るも無惨……昨日、確認済みとはいえ酷い有様です、本当に」
「……痛ましいな」
「運営側の意図したイベントだとしたらじつに手が込んでますよ、この災害」
ザラメは苛立たしげに獣耳をすりすりと指でこすりながら考える。
海路をあきらめて安全確実な陸路を選びつつどうにかペースアップを計るか。
はたまた海路にこだわってどうにか移動手段を確保するか。
これといって名案も閃かず、ここは小妖精――観測者に意見を求めることにした。
▽「ワープ魔法やファストトラベル機能ないの?」
「ない、はずです。快速船みたいに高速移動手段にお金かかるゲームですから、そゆとこ不便らしくて」
▽「空路はないの? ヘリコプターとかそらとぶモンスターとかさ」
「それはあるかもしれませんけど、はじまりの港にはなかったような……」
▽「個人用の飛行移動手段はあるらしいよ。一線級の高レベルPTがたまに所有してる」
▽「高そう」
▽「初心者エリアには売ってすらないっぽい」
▽「売ってても買えねーよ、ザラメちゃん所持金おこづかいレベルだぞ。本格的な飛行移動はリアルで新車を買えるくらいDMつっこまないと」
▽「3000万DMくらいかな」
「……さ、300万円!?」
ザラメは桁違いの高価格ぶりに青ざめる。
ついさっきまで【刀狩りのウォーターローブ[62,000DM]】を作って大喜びしてたが、DMを日本円に換算するとこれは課金購入すれば6200円分にすぎず、小学生には大金であってもいわゆる廃課金勢だとかトップ勢だとかの領域には遠く及ばないと痛感させられる。
▽「ドラマギは基本無料だし良心的なんだけど、代わりにガチ課金勢向けのスペシャルコンテンツとして土地や建物、乗り物、高級装備を売ってたからなぁ」
▽「アホくさ」
▽「うらやましいたけ」
▽「これも商売だもん仕方ぬえ」
▽「流石に飛行手段を錬金術で、ってのはダメそう?」
ザラメは首を静かに横に振って否定しておく。
「とくには何も思いつきません、すみません……」
▽「仕方ねーべ」
▽「課金チートがダメならNPC相手に情報収集してみたら? なにかあるかもよ」
▽「あーね、昔のRPGとかよくあったわ通行止めイベントでそういうの」
「……わかりました。ちょっと調べてみます」
NPC――、シンギュラリティ問題がついザラメは不安になる。
これまではどこか機械的で事務的だったNPCの反応や行動は、異変後はまるで息づいているかのように不気味なほど自然で人間じみたものに変化した。
ザラメはそれが怖くて不安でしょうがなかった。
「どうした? プッチンしたてのプリンみたいに震えているぞ」
「どこのおやつですか!?」
「とっとと行くぞ、ぷるぷるプリン」
「また変なあだ名をつけようとする!!」
黒騎士はザラメとシオリンの手を引いて、つかつかと早歩きで波止場を去ろうとする。
ちょっと強引なペースに軽く戸惑いつつも、ザラメは安心感をおぼえていた。
(……まぁ、黒騎士さん強いからいっしょならどうにかなりますかね)
客観的事実として昨日より戦力事情は大きく改善している。
けど、それだけではない心強さをザラメは感じていた。
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