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022. 【刀狩りのウォーターローブ[61000DM]】を作成しました!

 七時半過ぎ、黒騎士が起床してきた頃にはもうザラメの装備品作成は大詰めだった。

 寝起きの黒騎士はむにゃむにゃとあくびを噛みつつ、客室の窓辺に腰掛けて。


「ふわ……、朝から精が出るわねザラメ」


 と、うにゃーっと背伸びしながら言葉する。


(わね、て……)


 明らかにガルト・シュヴァルツヴァルトのイメージとズレた言動になってしまっているが、寝ぼけていると素が出るのだろうか。

 中性的な美男子というルックスに加えて、パジャマ着、ヘアケア対策で長髪をおだんごにまとめてるものだから今の黒騎士はボーイッシュなお姉さんくらいに視えてしまう。

 朝日を浴びて、手入れのされた黒髪は艷やかに輝いてみえた。


(なんか、変な気分にさせられます……めんどい)


「黒騎士さん! ボロ、出てますよ」


「んぐっ、けほけほ。悪ぃ、気をつける。で、そいつは一体何やってやがるんだ?」


「【創出錬成】ですよ。この防具を作ります」


 データを投げて寄越すと黒騎士もやはり驚いた様子だった。


「刀狩りのウォーターローブ……? 作る、だと?」


 困惑する黒騎士をよそにザラメは杖をかざして、調合素材の調合という工程を繰り返す。

 採取した草花をマテリアルカードに還元して調合を行い、錬金繊維を作成、それを複数回やって量を集めてマジッククロースを作成、それを複数回また繰り返して――。都度二十回以上の工程を重ねて、目標に近づけていく。


 途中、何度か失敗して「調合ゴミ」をアイテムBOXに積んでいるが、着実に蓄積し。

 採取とあわせて約二時間かけて、あと一歩というところまできていた。


「なんかひらめいちゃったので! よし、この水の中和剤の品質ならいけそう……」


「……おい、同じシリンダーが何本もあるんだが」


 ザラメはローブのホルダーに何本も同じ色のシリンダーを並べていることを黒騎士に問われて、調合作業を実演しながら説明する。


「高純度の水を中心にして、同じ水の属性値が高い素材をぶちこみます。今回は河原で拾ってた【すべすべ水浸石】と森で集めた【青雫草】がちょうどよかったので、これらの水属性エッセンスを抽出したものが水の中和剤です。錬金術の基本は属性値の蓄積なので、こうやって良質な中和剤をまず量産します」


「それ、かなりEP使うだろ? よく継続できるな……」


「打たれ弱い分、魔力は豊富なんですよ。中和剤作成くらいは消費も極小ですし」


 連続調合のために、宿屋の庭先に錬成陣を杖の先で刻んである。

 円形に正三角の錬成陣に三種類のアイテムをセットして創出錬成すれば素材を消費して中央に調合結果となるアイテムが出現する。


 ちなみにアイテムカード化しての錬金術は、この錬成陣を割愛できるというメリット、カード側に簡易錬成陣の役割があることで消費がやや増えるというデメリットがある。

 じっくりやるなら錬成陣方式、すばやくやるならアイテムカード方式と使い分ける。


「この五枚目のウォータークロースを作成すれば、準備完了――」


「五枚!? 待て、一枚あたり何回錬成してる?」


「錬金繊維と中和剤をウォータークロース一枚につき複数消費するので、失敗分も含めると十二回くらいですかね……。少しずつ精度が上がってるので、もう初歩レベルの失敗はありませんので、まだ六十回くらいかと」


「なっ」


 黒騎士が驚嘆している。

 ザラメはちょっと得意げにフフッと笑い、五枚目のウォータークロースを完成させる。


 疲労感はある。

 しかし心地の良い消耗度合いだ。

 錬成をやるたびに、ザラメは着実に手応えを感じていた。


「これ、楽しいですよ。知識でしかなかった錬金レシピが、現実に形を得るんですから」


「……終わったらゆっくり休めよ、ぶっ倒れられたら迷惑だ」


「やさしいんですね、黒騎士さん」


「ふんっ、きっと“ガルト様“ならこう言うからな」


 黒騎士の見守る中、最後の工程を実行する。

 これまでより複雑な錬成陣にウォータークロースを五つ、破損した初心のマジックローブ、魔法針、弁慶カワウソの希少素材、一番良くできた中和剤などを配置してゆく。

 さらに成功率を上げるために、錬成陣に指示語となる魔法言語を書き足しておく。


「我が希望を紡績せよ! 縦糸、横糸、交えて紡げ! 練りて金糸の螺旋を紡げ!」


 天に杖をかざして、ザラメは叫ぶ。

 夜明け前からつづけた作業の集大成。力いっぱいに叫ぶ。錬金術には気合も必要だ。


「調合錬金! 【創出錬成クリエイトアルケミー】!!」


 錬成陣が激しく明滅する。

 やがて錬成陣は水属性のエッセンスが解放され、水飛沫を渦巻かせてうねりをあげた。


 轟音をあげる大渦。

 その荒々しさの中、ローブや魔法針、クロースなど素材が霧散して解けてゆく。

 それは次第に静かに浮遊する水の大玉にまとまって、パシャンと弾けた。

 シャボン玉の泡が幻想的に舞う中、ついにソレは完成する。


【刀狩りのウォーターローブ[61000DM]】


【分類:軽装非金属。防御力:中 斬撃耐性:大。水氷耐性:大。火炎弱点:小。魔法耐性:小。魔法強化:小。水中適性:中】


【品質:★★★★☆】


 ザラメはひと目見た瞬間、想定を上回る出来栄えと達成感に打ち震えた。


「よし、完成! しかも高品質ですよ!!」


「最高品質でこそないが、これは……」


 黒騎士が驚くのも無理はない。

 一部のアイテムには☆1~☆5まで【品質】が設定されている。例えば同じ品種のニンジンであっても見比べると最低品質と最高品質では味や風味、見た目、栄養価が違ってくる。それに伴い、価格だって変わってくる。


 最初にザラメが提示したデータのウォーターローブは標準品質☆3、完成したのは高品質☆4なので参考価格が一回り高くなっている。


「やったーやったーでっきましたー!」


 ザラメはウォーターローブを抱えて、くるくると完成の舞を踊ってしまう。


▽「完成おめでとー」


▽「狂喜乱舞しとる」


「ありがとうございます! みなさんのおかげです! うえへへへへ」


 ザラメは上機嫌なあまりに完成品をぎゅっと抱きかかえて頬ずりしてしまう。

 その様を見届けてフッと笑うと、黒騎士は出立の支度をはじめた。


「準備はもういいか? そろそろ行くぞ、第二帝都へ」


「……はい!」


 ザラメは力強く返答する。

 被災生活三日目、ザラメの気分は上々だった。

毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。

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