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021.ザラメ、はじめての装備品作り

 被災三日目の早朝、ザラメは5時に起床していた。

 にわとりだって『わたくしもまだ寝てる頃でございますよ!?』と驚きそうな早起きだ。

 ホムンクルスの種族特性もあるが、前日ぶっ倒されて寝てた分、早起きしてしまった。


(……黒騎士さん、寝相がまるまってて妙にかわいい)


 ライカンの種族特性なのか否か、パジャマ姿の黒騎士は「G」の字を描くような尻尾と鼻先がくっつきそうな丸まった寝方をしていた。

 イヌミミ尾男子がすぅすぅと寝息を立ててるさまはザラメの興味を大いに買った。

 会議中、人前だと“ガルト様”らしく寡黙で少し口の悪いイケメンを演じているが、それだけに無防備なさまはギャップの大きさが際立って愛くるしい。


(……撮影しとこ)


 プライベートで楽しむようにパシャっと一枚。

 冒険写真広場にアップはしない。ヒミツを守る約束だ。でもそれはそれ、これはこれ。


(あーもう、寝方が見事に女子なんですよね……)


 寝る直前、黒騎士はおもむろにヘアオイルつけて長い黒髪をゆるふわ三つ編みにして左右おだんごにまとめてから寝ていた。寝具と長髪が擦れてダメージを受けないようにするためのヘアケア方法だ。

 おそらくゲーム内では不要な美容法なのに現実での習慣でやってしまったのだろう。


 なお、黒騎士の隣にはシオリンの死体がある。ベッドで寝ていると死亡状態だと一見わからないのでちまっこいロリドワーフの寝顔と合わさってより見栄えがする。

 ちなみにザラメはフラスコの中で幻獣態で寝るので、ひとり机の上で寝ていたりする。


「……あとは寝息があればなぁ」


 微動する黒騎士、微動だにしないシオリン。

 死霊術札でキョンシーっぽく歩かせている時は意識せずに済むが、直視するとつらい。

 じわっと涙腺が熱くなるのをおぼえて、ザラメはあわてて顔を洗った。


「めそめそなんてしてられません……!」


 ザラメは朝食後の出立までにやれることをひとりで考えてみる。

 しかし良案が浮かばず、朝五時にも関わらず試しに観測者の公開設定をオンにした。


▽「うわ、早起きさんがおる」


「こけっこっこー。どもです。妖精さんこそお早いですね」


▽「こっちは夜勤明けでね、これから寝るとこ」


「夜勤……。お仕事おつかれさまです。気にせず寝てしまってもいいんですよ」


▽「寝落ちたらごめんね。それで今朝はなにしてんの?」


「昨日、第二帝都へ向かうことが決まった後、レベリングせずに強行軍でいくって話でまとまったんです。でも弱いなりにできる範囲での補強はしておきたくて、出立までになにかできることはないかなと」


▽「えらいね」


「少々迷惑かけるだけならまだしも無能のレッテル貼られたら悔しいじゃないですか」


▽「すごい負けず嫌い」


「たまに言われますね、それ」


 ザラメは白い獣耳の先端をすりすりと指で撫でつまみ、思索しながら宿屋の庭先に出る。

 秋口の夜明け前は、まだ暗く肌寒かった。

 薄っすらと白んだ暗闇の中に、ザラメは銀剣の暗殺者がもし潜んでいたらと想像する。


「もし、今ここで敵に襲われた時、わたしは無力です。為す術もないままに死にます」


▽「ふーむ……」


「別に、適材適所と割り切ってしまってもいいんです。黒騎士さんを盾にして、後ろから遠距離攻撃や支援をする。これが成立してる間はどうにかなります。でも、もしわたしが敵側だったら、まず脆弱で厄介な私を潰すか、わたしを守らせることで黒騎士さんを縛るか、いずれにせよ目に見えた弱点を賢い敵なら見逃さないはずです」


▽「ザラメちゃんは初心者で小学生なんだよね? じゃあ仕方なくない?」


「……でも、仕方なくても、できる範囲でいいから少しでも補いたくて、こうしてます」


▽「ふーむ……いかん、コーヒー飲んで目ェ覚ますか」


「あっ、す、すみません!」


 ザラメは観測者の分身である小妖精にぺこっと謝る。夜勤明け午前五時にする相談には確かにちょっと重すぎた。

 しばらく待つと缶コーヒーでも飲んできたらしい観測者はこう答えてくれた。


▽「このゲームのこと詳しくないんだけどもさ、ここから出発までの待ち時間にできるのはなにかの練習か、出立の準備くらいじゃないかな? 実戦はダメ」


「……ですよね」


▽「防具が破損状態のままだしね。あさイチで買い替えにいく予定?」


「黒騎士さんの所持金頼みになっちゃいますけど、はじまりの港でまだ売ってる防具の中でマシなものをさがす予定になってます、ね」


▽「じゃあその破損した防具、捨てる?」


「安値で売却はできます。雀の涙くらいにしかなりませんけど……」


▽「じゃあそれ、実験素材にしちゃったら?」


「……はい?」


▽「防具を錬成しちゃダメなの? いや、素人考えなんだけども」


「装備品を、錬成……?」


 ザラメは紫色のランドセルを開いて、携行アイテムボックス内に格納された傷んだ防具と素材になりそうなアイテムを再確認してみる。

 これまで着用していたのは、


【初心のマジックローブ[520DM]】


【分類:軽装非金属。防御力:低 物理耐性:微小。魔法耐性:微小。魔法強化:微小】


 というはじまりの港で調達できる中では手頃で役立つおまけ効果のある布製防具だ。

 防御力は物理・魔法など総合的なダメージを軽減する防具本体の基本性能を示し、◯◯耐性は個別に軽減してくれる防具本体の特性を示している。


 『防御力:低』『火炎耐性:大』

 といった風に、基本性能が低くても特定の耐性がとても高いなんて場合もあるわけだ。


 初心のマジックローブはその点なんのかたよりもなく、まんべんなく微弱に補っている。

 レベル3まではこれで事足りる想定だったが、同程度の代替品では心許ないのは確かだ。


「装備品の錬成……できる、のかな」


▽「なにか問題でも?」


「本来、防具は錬金術師の作成できるアイテムじゃないはずです。錬金術師はアイテムを生産できる技能のひとつですけど、世界観としては武器は武器職人、防具は防具職人がいるわけですからして。専門分野の技能をそっちのけで防具作りなんて……」


▽「そーなんだ。残念だね」


「できるわけ……ない、のに」


 ザラメは我が目を疑った。


【刀狩りのウォーターローブ[56000DM]】


【分類:軽装非金属。防御力:中 斬撃耐性:大。水氷耐性:大。火炎弱点:小。魔法耐性:小。魔法強化:小。水中適性:中】


 調合レシピを、閃いてしまった。


 ザラメに働く錬金術師としての“修正補助”がデータを掲示する。

 現在装備の100倍もする高価な防具をアイテム作成できるかもしれないというのだ。


「これ、課金アイテム……!? なんで!?」


▽「え、なに、どしたの?」


「あの、作れるかもしれないんです。課金アイテム。超高い防具」


▽「なにそれすごそう」


「刀狩りのウォーターローブといって……これ、データです」


▽「絶対つよい」


「素材の大半、弁慶カワウソと盗賊カワウソのドロップで揃ってる……。少しだけ素材が足りないけど、その足りない素材を錬成すればいいんだ……!」


▽「え、素材アイテムの錬成?」


「お弁当作りをイメージしてください! ごはんやシャケをひとつずつ丁寧に作って、箱に飾りつけて完成させるんです! 錬金糸、水の中和剤、魔法針をまず錬成して、ウォータークロースと初心のマジックローブをパッチワークしてカワウソ素材を融合させちゃえばできる、はずです。だからまず錬金糸の素材を……ちょっと森で採取してきます!」


▽「ひとりで!? 今から!?」


「宿屋の裏手の森で草むしってくるだけですから! それくらい朝飯前です!」


▽「ホントに朝飯前にやるひと久々にみた」


 ザラメは意気揚々と森へ突撃していった。


 自信はある。

 このはじまりの港にあるちいさな森はチュートリアルとしてシオリン、シロー、ミオと四人で採取クエストをやらされた思い出の場所だったからだ。

 ちいさな森は異変後も地震の影響はほとんどなく、どんなところになんの素材アイテムが自生するかもザラメはよくおぼえていた。


『かったるいよなー薬草集めだなんてよ』


『ぶつくさ言わないのシロー、千里の道もローマからよ』


『ミオちゃん、ローマは一日にしてならず、とごっちゃになってるよ?』


『あっ!』


『草』


『よーし一発ぶんなぐるわ薬草こんだけあるもんね』


『がんばってシローくん、回復魔法の準備してあげるね』


『いや殴るの止めろよシオリン!?』


 他愛無い仲間とのじゃれあいが今はもう遠い出来事のようだ。


「バカばっかりですね」


 ふふっ、とあの時どんなことを自分が言ったか思い出し笑いしながらつぶやく。


 夜明け前の暗い森の中だというのに、ザラメの素材集めは順調に進んだ。

 まるで四人で手分けして探しているかのように順調にだ。

毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。

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