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020.被災生活二日目終了

「第三回、死者蘇生の秘法GETだぜ会議をはじめたいとおもいます」


▽「わーぱちぱち」


▽「なお今のとこ成果なし」


▽「三人寄らばもんじゃの知恵」


 夕食を済ませて異変二日目の夜七時すぎ、ザラメは宿屋のベッドの上で会議を開く。

 参加者は少数の観測者、そして仲間になってすぐの黒騎士のみ。

 ちなみにザラメは携行アイテムのひとつとして所持する、装備アイテム「安眠のパジャマ」に着替えている。黒騎士も同じだ。

 つまりパジャマパーティーのような会議っぽさゼロの絵面になってしまっている。


▽「パジャマ会議」


▽「睡眠の回復ボーナスを増加させるから寝間着はガチプだぞ」


▽「うわ、調べたらこのゲーム鎧を着たまま寝たらペナルティあるって」


▽「パジャマ推奨だったのか……」


 早くも脱線する話題。

 黒騎士は寡黙に、ベッドの上に片膝を立てて座っている。傍らには剣を備え、引き締まった空気感を醸している。男物の黒地の寝巻きもなかなか決まっている。

 観測されている間はなるべくボロを出さないようカッコつけたいらしい。


「……で、死者蘇生の秘法とやらには一切の手掛かりがないそうだな。ザラメ、悪いが俺は武闘派だ。復活の魔法やアイテムの知識には縁遠い。武具や魔物はさておきな」


「でしょうね。そこは黒騎士さんじゃなくて私の担当です」


 ザラメは会議室によくあるホワイトボードを模した絵図を冒険の書によって出力して、図解を交えつつ過去二回の考察をまとめる。


「未帰還者は約1万2000人、そのうち観測登録下位1%が新月の夜に削除される――。120人、多いですよね。そして今回、あの殺人鬼や弁慶カワウソのような“Xシフター”の存在が報告されている、でしたよね……?」


 赤黒い光を纏って復活した弁慶カワウソ。

 黒い小妖精を伴った銀剣の殺人鬼。

 共通するのは冒険者を『死亡』させうること、『Lv.X』と名前やステータスの異常だ。


「Xシフター? 初めて聞くが、どういう意味だ」


「……えと、だれか解説おねがいします!」


▽「レベルがX表記だからってのはわかる」


▽「童話の赤ずきんに出てくる人食い狼みたいな怪物としての変身能力者のことをシェイプシフターというんだ。これが一番有力説」


▽「“篩”にかける役割だからシフターだって説もあるぞ」


「現状、このXシフターに戦闘不能にさせられると『死亡』状態になる場合がある、という注意喚起が出回ってるそうです」


▽「有志がまとめた情報では全体で五十人以上の犠牲者がいる、だって」


「……つまりXシフターは各地に複数いる、厄介だな」


「そして撃破報告はわずか。犠牲者はもっと増えると思われます」


 ザラメは淡々と言葉する。


 いちいち感情を高ぶらせていてはキリがない、役立ちもしない。冷静たらんとする。


「……もしXシフターに殺害されることがすぐさま削除を意味するとしたら。わざわざ【亡骸の過保護】で冒険者の死体を守ってくれるシステム上の意味がありません。死者を蘇らせる方法はきっとあるはずです。……でも、手掛かりはゼロですけど」


 ザラメはどさっとベッドに背を預けて、ごろごろと悔しさともどかしさに寝転がる。


「うーーーーーーぐーーーーーにゃーーーーー!!」


▽「珍獣がおる」


▽「八方塞がりザラメちゃん」


「わたしの知識も全然ダメ! “修正補助”に引っかかりません! あーもう!」


 ザラメは白い獣耳を苛立たしげにくりくりとイジる。

 黒騎士にも妙案はないらしく沈黙を続けるが、ふと何かに気づいた様子で。


「……そうか、ザラメ、お前が弱いせいもあるのか」


 と暴言を吐かれた。

 一瞬ムッとさせられるが、しかしすぐに真意がわかるとザラメは納得させられた。

 盲点だった。


「それ、まだ“知力”が目標値に届いてないってこと!?」


「お前、たったレベル3だぞ? 新米冒険者が死者蘇生の秘法なんて貴重な情報をあらかじめ知って

いる方がおかしい。なにか特別な理由でもなきゃありえない」


「うぐぐ……。特別な理由なんて何も……」


 低レベルによる知力判定の失敗。

 そう言われたって急速にレベリングはできかねる。たった二週間では無理がある。

 ザラメは非常な現実を突きつけられてしまっただけかと落胆するも。


▽「……特別な理由、あるのでは?」


 と観測者のひとりが発言した。

 詳しく! とザラメが催促すると▽『だってザラメちゃん、人造生命体のホムンクルスだって種族設定だよね?』と指摘された。


 またもや盲点だった。

 灯台下暗しもいいところ。

 ザラメは雑に『魔法がすごいケモミミかわいい』くらいの理由でシオリンにおすすめされた種族なものだから、ホムンクルスとは何か、と深く考えたことがなかった。


 錬金術の産物、人造生命体。

 生命の禁忌に触れる種族ならば、なにか、それをヒントに死者蘇生の秘法につながったとしてもおかしくはない。


▽「……もしかしてアレか? 賢者の石?」


▽「エリキシルだっけ、錬金術にそういうのあったよね」


▽「いや死者は蘇らんだろ」


▽「しかし不老長寿の霊薬とかで名前は上がるぞ、エリクサー。有名な薬だろ?」


▽「いや、エリクサーはもう名前は出てるんだよ。でも心当たりなさそうだった」


▽「うーん、知力ステ不足ってことかな……」


 議論が活発化する中、ザラメはなにか閃くかに集中する。

 自分の内側に眠っている知識が、なにかの拍子に呼び起こされるかもしれない。


(そっか、ザラメ・トリスマギストスは“わたし”であって“わたし”じゃない……)


 フラスコの小人。

 錬金術の創造物。

 自分ではない自分に戸惑いつつ、ザラメは真剣に内なる知識へ向き合った。

 観測者らの、小妖精の言葉にじっと耳を傾ける。


▽「ザラメちゃん出身地どこ? 家族とかいないの?」


▽「いやいや、ゲームの自キャラだぞ? んなもんあるわけ……」


 出身地――家族――。

 ザラメは、いや、心桜はまず自分本来の家族について思い描いてしまった。

 けれど今はホームシックになっている場合ではないと一旦忘れることにして。


 現実世界を生きる自分としてではなく、この竜と魔法の大地に生きる一人のホムンクルスとして自分を定義づけ、じっと意識を集中する――。


 自らの創造した仮想世界の分身、天才錬金術師ザラメ・トリスマギストスを演じること。

 そうせねば、この世界の真理の一端に触れることはできないだろう。


(わたしはなる。演じる。それが詩織との約束を果たすために必要だから――)


 断片的に、見たこともない記憶の景色が垣間見える。

 アルバムの写真を切り刻んで、パッと紙吹雪のように舞い上げたように。

 ひらひらと記憶の断片が降ってくる――。


(集中して。もっと、深く潜らなきゃ……)


 少しずつ、スローモーションになっていく記憶写真の紙吹雪。


 心に咲く、桜吹雪。

 不明瞭なソレが、やがてひとつの写真となって“修正補助”を機能させる。


【出身地:第二帝都 パインフラット】


【家 族:シロップ・トリスマギストス、キャンディス・トリスマギストス】


 そこに写っていたのは、存在しないはずの記憶――。

 見知らぬ都市、見知らぬ家、見知らぬ家族、見知らぬ錬金術。


 プレイヤーが知る由もなく、けれどプレイキャラクターは知っている己の出自。

 不確かながら、それは迷い人を導く北極星のように夜暗に煌々と輝いてみえた。


「帝都へ。第二帝都へ! そこにわたしの“家族”がいます!」


 ザラメの突拍子もない一言。

 一時の静寂。

 そして投じられたきっかけを頼りに観測者らの議論が一気に進展した。


▽「え? なんで家族とかいるの? 3日前に作ったキャラだよなぁ?」


▽「設定上ドラマギの冒険者はいきなり無から生まれたわけじゃないぞ」


▽「ある種の自動生成かな。ドラマリオネット機能はドラマギの特徴のひとつだし」


▽「第二帝都はすこし遠いけど次の目的地にはちょうどいいかもね」


▽「推奨7レベルの中級エリアはきついぞ」


▽「レベリングと装備の見直しやんないとか?」


▽「時間ない。黒騎士はレベル9だし強行軍すべき」


▽「パインフラットの様子ちょっと調べてくる」


 活路が開けたかもしれない。

 ザラメが黒騎士を見やると、彼は「……行こう、お前は俺が守ればいい」と答えた。


 こうして被災二日目の夜が過ぎていく――。

 希望の灯火は、まだ弱くとも燃え続けている。


 快適な宿屋のおかげか、否か。

 その一夜ザラメは昨日よりずっと、すこやかに眠ることができた気がした。

毎度お読みいただきありがとうございます。

お楽しみいただけましたら、感想、評価、ブックマーク等格別のお引き立てをお願い申し上げます。

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